ドラコ達をからかった後、私は深くローブを被りロンとハーマイオニーと移動する。
私がもしグリフィンドールならば、きっと仲間を助けることに優越感を感じる彼らは見て見ぬフリをするだろう。
でも、私はスリザリンである。
優しいハッフルパフならば見守り、記憶と矛盾した光景を見たレイブンクローなら見間違いだと判断するだろう。
スリザリンは保守的なので汚点となることは隠蔽するが、グリフィンドールはチャンスとばかりに吹聴することだろう。
だから、グリフィンドール生に見つからないように移動しないといけないのだ。
「その忍びの地図は先生に渡すべきよ」
「ついでに、透明マントも渡さないといけなくなるね」
「追加で罰則も加わるかも」
ハーマイオニーの案はロンと私によって却下された。
先生はみんな贔屓する傾向が強い、だがこれはマグルの世界で考えると大学みたいな場所だから仕方ないのだ。
努力しない生徒に根気よく教えるというよりは、学ぶ意思のある者だけに教えるというスタンス。
授業の邪魔をするなら減点という抑止力で黙らせる、また競争させることでより努力をさせようとする。
自分の寮を勝たせたいならドンドン加点してドンドン他を減点していけばいい。
たぶん、一日どのくらい減ったかなどを確認しながら点数を付けている。
そういうシステムを採用しているから、他の生徒が真似して欲しくない行為にはここぞとばかりに減点することだろう。
自分の寮の先生がすると禍根が残るから他の先生がやるとか、そんな感じだ。
よく、ハーマイオニーはセブルスに減点されるというがそれはハーマイオニーの成長を思ってだ。
教科書を丸暗記して解答してもイチャモンを付けられるのは、教科書を丸暗記では無く内容を理解して欲しいからという考えなんだと思う。
板書の内容は教科書とは違うし、ハーマイオニーに教科書は絶対ではないということを教えたいのだ。
つまり、ハーマイオニーに対するセブルスの態度のように私はマクゴナガルに減点されまくるだろうということだ。
見つかったらばの話だけどね。
「あっ、ハグリッドだ」
「マクゴナガル先生もいるわ」
三人で歩いていると、大衆パブの前に見知った人物がいた。
その二人の後ろには魔法省の大臣ファッジの姿も見える。
一体、どうしてここにいるんだろうか?
「やぁ、調子はどうだい」
「これはこれは大臣、大繁盛ですよ。貴方が吸魂鬼なんて連れてきたせいで、みんなすっかり怖がってパブに来なくなったわ」
「仕方ないのだ、シリウスブラックが脱走したから」
「シリウスブラックがホグワーツとなんの関係があるんですって」
「奴はハリエット・ポッターを狙っている」
「ハリエット・ポッター!」
「静かに!ここではなんだ、詳しい話は店でしよう」
漏れ聞こえてきたのはファッジとパブの店主の会話だった。
シリウスブラック、それは私を狙っている脱獄犯の名前だ。
どうする、いや透明マントが今はある。
「あっ、どこに行くの!」
「パブに行くつもりだ」
追いかけてくる二人を余所に私は透明マントを被ってパブの中へと入っていった。
階段を上り、息を殺して忍び込む。
ゆっくりとドアを開けると大臣がウイスキーを入れている最中だった。
「それじゃあ話して貰いましょうかね」
「その昔、ハリーの両親が命を狙われたことはご存知でしょう。彼らは秘密の守人によって隠されていました」
「だが奴は例のあの人に屈したのだ。そして親友を売った、ブラックが殺したに違いない」
「そうです。ブラックは居場所を教え、友人も殺したのです」
「友人?」
「そうだ、奴を止めようとした友人のピーターペティグリューを殺した。ブラックはペティグリューを殺すだけでなく粉々にした!残ったのは指一本!」
「あぁ、いつも一緒にいた気の弱そうなあの子、そう、そうだったの」
私はその話を聞いて、秘密の守人について思い出した。
忠誠の術の力を用いて秘密を守ることになった魔女や魔法使いのことであり、この場合、秘密は魂の奥深くに刻み込まれる。一度秘密の守人が選ばれれば、彼らに秘密を教えた人物は再びその情報を口にすることはできなくなり、秘密の守人のみが情報を口頭あるいは筆記で他者に伝えることができるようになる。秘密の守人は誰にでも情報を教えることができるが、秘密は自主的に明かされねばならず、恐喝や魔法、拷問で引き出すことはできない。
もしも居場所を教えることが出来たとしたら、それは秘密の守人だけしか出来ないのだ。
「それだけではございません。奴は悲しいことに名付け親なのです」
「それは、一体誰の?」
「親友を裏切った奴は、ハリエット・ポッターの名付け親だったのだ」
「親友に裏切られたと知って死んだことを思うと私は無念でなりません」
「だからこそ、魔法省は奴を捕まえるために全力を尽くさなければならない。分かるね?」
頭の中が真っ白になるとはこの事か。
私はその場からどうやったのか移動していた。
誰かにぶつかったりした記憶もある、転んだような気もする。
気付けば自分は叫びの屋敷の前で蹲っていた。
自分の顔からは止めで無く涙が流れており、嫌な想像が駆け巡る。
私をハーマイオニーやロンが売った、そしてヴォルデモートが命を奪いに来る。
あり得ない、信じられない想像だ。
それが現実となった瞬間、両親はどんな気持ちだったのか。
実際に起きた時、何を思って私を守って死んだのか。
酷く憂鬱で、まるで吸魂鬼に会った時のようであった。
「だ、大丈夫?」
「僕達もパブに入ろうとしたら未成年だからダメだってよ。頭でっかちだよなアイツら」
「ロン、ちょっと空気読んで!」
「うっ、分かったよ……」
膝を折って目線を合わせてくるハーマイオニーが心配そうに此方を見つめる。
ロンは元気つけようとして失敗し、居心地が悪そうにしていた。
そんな様子にクスッと笑いながら私はハーマイオニーを押し倒した。
「わっ、冷たッ!なになに!?」
「ごめん、私最低だ」
「えっ、何がどういう、もう濡れちゃったわよ!雪でビショビショ」
「えへへ」
頬を膨らませて怒っているハーマイオニーを見ながら、一瞬でも彼女達が私を裏切るところを想像して後悔した。
そんなことはあり得ないし、あり得てはならないことだ。
そんな彼女達を笑っている私を見かねてハーマイオニーが詰め寄る。
「えへへじゃないわよ!ばっかじゃ無いの!バーカバーカ!」
「確かに優等生の君から見たらみんな馬鹿だけどさ。ハリエットが可哀想だろ」
「そういう事じゃ無いのよ!アンタも馬鹿ねロン!だから、ロンはロンなのよ!」
「おい、僕の名前を悪口みたいに使うなよ!」
何よ、何だよ、と口喧嘩を始める二人に私は涙が出てくるくらい笑った。
そして、思ったのだ。
シリウスブラックだけは許さないと、こんな幸福に満ちた光景を壊した奴を許さないとだ。
「友達だったのに……友達だったのに裏切ったんだ……」
「ハリエット、何か言った?」
「ううん、何でもない。それより、痴話喧嘩はいいの?冬なのに暑くなっちゃった」
「ち、違うもん!そ、そんなんじゃないんだからっ!」
「君、耳真っ赤だよ」
「うるさい!ロンの馬鹿!アンタが悪いんだから!」
照れて慌てるハーマイオニーをからかいながら、ホグワーツ城に戻る。
ただ、そんな私の心の中に仄かで薄暗い気持ちが芽生えていた。
それは漆黒のような深い闇の底で燃え滾る、確固たる意志だった。
……来るなら来なさいよ、仇を、シリウスブラックを殺してやるわ。
マクゴナガル「酒ッ、飲まずにはいられない!」
ファッジ「奴は、ゲロ以下の匂いがプンプンするぜッ!」
ハリエット「名付け親?な、ナンダッテー!」
ロン「女子がくんずほくれず……うっ」
ハーマイオニー「濡れるッ!」
ロン「ふぅ……争いは同じレベルの者しか起こさない」
※後書きと本編は別物ですよ。
変更点
ハリエット、殺意マシマシ。
友達の前で取り乱さない。
シリウスブラックに死亡フラグが建った。