ドビーによって汽車に乗れない、などという状況は今年は起きなかった。
無事、汽車に乗ることが出来た私はコンパ―メントで本を読んでいた。
それにしても、この怪物的な怪物の本って生物なのだろうか本なのだろうか。
それと、エロいエロ本とかファッショナブルなファッション誌とかあるのだろうか。
「ぐぬぬぬ」
「あら、ここにいたのね」
「あっ、ハーマイオニー」
私が本と格闘していると、待ち人がやってきた。
彼女はその手に猫を持って、コンパ―メントに入ってくる。
あれ、猫なんて飼っていただろうか?
「良く気付いたわね。紹介するわ、私の新しい家族クルックシャンクスよ」
「く、くるきゅ、クルックシャクッ、クルック」
「無理して呼ばなくても……」
「私には難しいようだ」
ハーマイオニーのネーミングセンスは難解だ。
私だったらマカロンとかクッキーと名付けるのにだ。
「それで、例の物は」
「それはホグワーツで手に入る手はずに成ってるわ。じゃーん、時間割を考えてきたわ」
「凄い、この時間割一コマに授業が二つ以上入ってるぞ」
「大丈夫よ、同時に私達は存在できるんですもの」
「でも、疲れると思うから自由時間と昼寝タイムを入れようよ」
「何言ってるの、勉強してるだけなのに疲れるわけ無いでしょ」
それはどうでしょう、見解の相違ではないでしょうか。
どうやらハーマイオニーに取って授業とはエネルギードリンクのような物らしい。
休日に仕事する社畜のようだぜ、流石に連続11時間以上の授業は疲れる。
何とか交渉の末に、必要の部屋の存在と引き替えに昼寝タイムを設けた。
なお、ハーマイオニーは私が昼寝している間、研究や修行を必要の部屋で行うことにしたらしい。
流石ハーマイオニーさん、パネェッす。
「あっ、でも恐ろしい事に気付いたわ」
「何?」
「使った分だけ私達って歳を取るでしょ。そうなると、ネビル達と違って老けるわ」
「……若返り薬って無かったかしら?」
私達は今後逆転時計についてどう使うか協議するのだった。
逆転時計を分解してその逆転出来る時間操作の魔法について調べたい、それは借り物だから分解なんてとんでもない、ならば魔法で複製を作るとか、いやきっと複製防止の魔法が掛かっている、などと白熱する議論をしていた私達は異変に気付いた。
最初に気付いたのはハーマイオニーだった。
「変ね?」
「どうしたのハーマイオニー」
「汽車が止まってるわ、それに何だか薄暗い、照明が切れてる?」
「おい、おいおいおい!な、なんだこれは!?」
私はある物に気付き、驚きの声を上げる。
それは、窓ガラスに霜が発生していると言う事態だ。
触れてみれば冷たく、コンパートメントを開ければ冬のような寒さが襲いかかってくる。
吐く息は白く、いきなり温度が下がったようだった。
「キャア!?」
「ど、どうしたのハーマイオニー!」
「窓に!窓に!」
そんな、まるでSAN値の減りそうなことを言ってるハーマイオニーの言葉に従い窓の外を見る。
腰を抜かして、窓を指さすハーマイオニーが見た物はそこにはいない。
だが、見間違いや幻覚じゃ無いかなどとB級映画のような反応はしない。
ハーマイオニーは『ナニカ』得体の知れない『ナニカ』を見たのは確実なのだ。
「来る、ナニカが来る!」
「杖を!」
私達は得体の知れない『ナニカ』がやってくる予感を感じ、杖を持って構える。
背筋を凍らせるというか、冷たい手が背中から撫でてくるような感覚を浴びながら私達はコンパートメントを出た。
そして、その悪寒の正体である『ナニカ』を見た。
「ディメンター!」
「吸魂鬼!」
それは黒い煙、墨汁を撒き散らしたように揺れ動く影、マントのような物を纏ったその姿を形容するのは難しい。
闇を具現化したような灰色の肉体と覗うことの出来ない布に覆われたような靄の掛かった顔、地上を浮遊する3メートルの存在だ。
それを見た私達は瞬時に頭の中の記録から、それが何なのか特定していた。
「ダモクレス・ロウルが起用したアズカバンの看守よ!」
「なんでここに、守護霊の呪文なんか習ってないよ!」
私達の声に、吸魂鬼は素早い動きで此方を向いた。
そして、私達の方をボーッと暫く見ると勢いよく近づいてきた。
「何か呪文を!」
「ルーマスレクタ!」
「何それ凄い!」
私の杖から直線的な光が飛び出した。
そう、それはまさにレーザー、それが吸魂鬼を貫いた。
吸魂鬼の身体には大きな穴が開き、一瞬だけ効いたかと感じた。
しかし、それはすぐに修復され吸魂鬼の迫る速度が明らかに速くなった。
やばい、怒ってる。
「ダメじゃん!」
「あぁ、どうしよう」
「エクスペクトパトローナム!ダメだ、やっぱ出来ないわ」
もうダメだ、そう判断した私はハーマイオニーを突き飛ばした。
そして、迫り来る吸魂鬼から彼女を守るように立ちはだかった。
吸魂鬼は私の前まで来ると、その骨のように薄気味悪い手で顔を掴んでくる。
独りでに顔を覆うローブが捲れた、ミイラのような皮膚、何も映さない空洞の目と口、それが見えた途端に景色が変る。
「ダメ、逃げてハリエット!」
世界から光が、希望が失われていく。
何かが抜けるような引っ張られる苦しみを抱く。
同時に、周囲の光景が恐ろしい物に感じる。
女性や男性の悲鳴が聞こえた、誰かの哄笑や嗚咽の音が聞こえた。
周囲が暗くなり、何もかもが嫌になる。
自分が世界で一番不幸なんだ、何より弱い自分が嫌になる。
もう、だったらいっそ死んでしまった方が楽かも知れない。
「その子から離れろ、エクスペクト・パトローナム」
白い煙が、白銀の光が、横合いから吸魂鬼に噛みついた。
それは犬にも見えるが形が崩れていて判別は出来ない。
声にならない絶叫を上げながら暴れ狂って吸魂鬼が窓から外に逃げていく。
「ハリエット!ハリエット!」
温かい手が私の頬を摩る。
理解するまでに時間が掛かったが私は抱きかかえられていた。
私の名前を連呼するハーマイオニーが、私の身体を揺さぶっていたのだ。
全身の感覚が鈍いというか生きる気力が湧いてこない。
このまま眠って仕舞いたくなるが、そうしたら取り返しの付かないことになる予感がしてならなかった。
私は、力の入らない身体でギュッとハーマイオニーを抱きしめる。
すごく、今は何かに縋りたかったからだ。
「良かった、大丈夫そうだ」
「大丈夫!?助けて貰ったのはありがたいけど、この状態がそう見えるの!」
「大丈夫、彼女は死んでいない。さぁ、チョコレートを食べるんだ、元気になる」
私がその言葉に従うように口を開けると、そっとチョコレートを押し込まれる。
口の中に甘さが広がり、指先が熱を帯びていく。
まるで寒い夜に湯船に浸かった時のように、ジワリとした熱だ。
「ハァハァハァ……もう、大丈夫、そうよ」
水面から飛び出したように、身体は急に酸素を求めた。
自分が今まで呼吸を忘れていたことを思い出したようだった。
私は涙を浮かべて鼻水も出すという乙女として最悪の顔で、助けてくれた恩人を見た。
何というか、オンボロの服を着た見窄らしい人物であった。
いや、逆にこういう仙人ぽい感じ、凄い人なのかも知れない。
「汽車に乗っていたって事は、先生ですか?」
「よく分かったね。これから闇の魔術に対する防衛術を教えることになっている」
「えぇ!?」
「そ、そんなに驚くことかな」
その反応は、たぶん直前に闇の魔術に対する防衛術の先生は地雷しかいないな、呪われた学科って噂だから今年もヤバい先生に違いない、と話していたからだと思う。
ハーマイオニーの反応は、普通の人に見えたからの反応だと思う。
冷静に、状況を判断できるくらいには私は回復していたようだ。
「リーマス・ルーピンだよろしく」
「なんでアズカバンの看守がいたんでしょうか」
「それについてはダンブルドアが説明してくれるだろう」
そう言って、リーマスは他の生徒が無事か見回りに行くのだった。
「取りあえず、着替えましょうか」
「えっ?」
「下着、換えた方がいいわ」
「えっ、濡れ……ッ!?」
私は顔を羞恥に染めながら、吸魂鬼の根絶を誓った。
絶対に許さない、絶対に絶対にだ!
ハーマイオニー「言えてない」
ハリエット「言えない」
猫「おう、よろしくな」
吸魂鬼「おにゃのこ、ハァハァ」
吸魂鬼「ぬわぁぁぁぁ!」
ハリエット「効いてない!」
吸魂鬼「ねぇ、今どんな気持ち?どんな気持ち?」
ハリエット「鬱だ死のう」
リーマス「あっ……」
ハーマイオニー「そっとしておこう」
ハリエット「くっ、殺せ!」
※後書きは本編と関係ない、ないったらないのだ。
変更点
ロンがいない。
ネズミについて喧嘩しない。
パンツ、犠牲になる。