あの時こうしていれば、そう思う瞬間を人間は何度遭遇するのだろうか。
早く犯人を捕まえなくては、グリフィンドールの中に継承者はいるのだとそう言えば良かったのに私は後悔していた。
それは新たな犠牲者として、ハーマイオニーとゴーストが石になったからだ。
「こんなことって……」
「やぁ、ハリエット!どうしたんだい?」
「ドラコ……随分と嬉しそうね」
「そりゃそうだ、忌々しい問題がなくなったからね。それで、この間の返事を聞かせてくれないか?」
何の事だと一瞬怪訝な顔を浮かべ、ドラコの発言の意味不明さに苛立ちを覚える。
それに、忌々しい問題がなくなったと晴れやかに嬉しそうな顔にもだ。
また新たな犠牲者が出たのにどうして……そう、そういうこと。
「何のことだか覚えてないわ」
「はっ?おいおい、冗談だろ?」
「でも、これが返事よ!」
そう言って、私は思いきり手を振り上げドラコの横っ面をビンタする。
乾いた音が寮に響き、顔を真っ赤にして呆然とするドラコ。
そして、それを見ていた寮生達が固まっていた。
そんな彼らに言い聞かせるように私は声を張り上げる。
「自分より優秀なハーマイオニーが被害に遭って、忌々しい問題がなくなったですって?蹴落とすことでしか自分の地位を守れない低脳ども!これで分かったでしょ、私は継承者じゃないわ。でも残念だわ、私が継承者なら純血主義者を根絶やしにしているところよ!」
「ま、待ってくれ!まるで意味が分からないぞ!」
「貴方には私がどうして怒っているか、どうせ理解できないでしょうね。純血じゃない者がどうなろうと知ったこっちゃないものね」
呆然とするドラコを押し退け、居心地の悪いスリザリン寮から退出する。
私の心の中には、早く犯人を突き止めなくてはという思いが一杯だった。
だが、そんな私を監督生が道を塞ぐようにして制止した。
「待て、ここから先には行かせない」
「邪魔……しないでよ……」
「新たな校則で出入りは禁じられている。寮の減点に繋がる行為は監督生として見過ごせない。それに、これ以上君の立場も悪くなる」
「だから何よ」
「賢明な君なら勿論分かるよな?それに君はスリザリンだ」
その後の言葉を聞いた瞬間、私は無意識に杖を抜き放っていた。
「自分が襲われまいか不安なのだろう?だがスリザリンなら大丈夫だ。たかが穢れた血が一人死んだところで、気にする必要はな――」
「セクタムセンプラ!」
杖先から光が放たれ、当たった監督生の服を裂く。
だが、それはディフィンドのように切り傷を作る程度では終わらない。
その呪文は当たった対象を切り裂き続けるのだ。
小さかった傷は私が込めた魔法力の分だけ広がっていく。
まるで、紙を左右から引っ張ったように、傷口が自分から開いていくのだ。
リクタスセンプラを研究していた際に発見した呪文。
セクタムは切り裂き、センプラの部分が継続を表している。
笑い続けるがリクタスセンプラの効果ならば、これは差し詰め切り裂き続けよという呪文だ。
「ぐあぁぁぁ!?な、なんだその呪文は……」
「邪魔よ」
「ガッ!?」
ぱっくり避けた右手を左手で押さえた立ち塞がる障害を、私は蹴り飛ばすことで排除して寮を今度こそ退出する。
人に使う気はなかった呪文だったが、邪魔をするならしょうがない。
「ごめんなさい、でも私ってばスリザリンらしいから」
「貴様ぁぁぁ!」
「手段は選ばないの」
自分が落とした杖を監督生が左手で拾おうとしたので、それを思い切り踏みつけて阻止する。
そして、その杖を拾い上げて両手で真っ二つに折ってやった。
「新しい杖が必要ね」
「そ、そんな……僕の杖が……」
「だ、誰か!スネイプ先生を!先生がいないと保健室に連れてけない、校則違反になっちゃう!」
後ろで騒ぎ立てる誰かの声を聴きながら、私は現場検証に向かうのだった。
廊下にはゴーストが同じ体勢のまま浮いていた。
ハーマイオニーは保健室に運ばれているが、ゴーストは放置らしい。
どちらかに用があったので実際には好都合ではあった。
「フィニート・インカンターテム」
呪文を終わらせる魔法は、当たってもゴーストの首なしニックを元に戻しはしない。
失敗ではない、効果がないのだ。
つまり、人が使った呪文ではない。
怪物は、石化する能力を持っている。
「ハリエット!そうだ、ハリエットがいた!」
廊下に佇むゴーストを見ていたら、大きな声を響かせて誰かが走ってきた。
振り返り、その正体を見ればロンとネビルの二人組だ。
「分かったんだ!怪物の正体が、分かった!」
「そうなんだ!でも、ハグリッドが大変なんだ」
私の両腕を片方ずつ逃がさないように掴んで、必死に彼らが喋り続ける。
おそらく、ハーマイオニーが何か証拠でも掴んだんだと私は確信して彼らの言葉を待った。
「か、怪物はハグリッドの蜘蛛だったんだ。ハグリッドが蜘蛛を追いかけろって」
「それでパパのボスが来て、僕達は追い出された。多分、子供に聞かせられないことを話す気なんだ。アズカバン送りとか」
「ちょっと待って」
私は彼らの言葉を制止して、私が怪物について訂正する。
「いい、怪物は石化の能力がある蛇語を使う奴なの。蜘蛛じゃないわ、バジリスクかメドゥーサよ」
「で、でも、だって日記で」
「日記?ネビル、貴方日記って言った?それはどこに」
「えっ?」
詰め寄る私にネビルが逃げ出そうとする。
そんな彼を追い詰めるように壁に手を突き、逃げ道を塞ぐ。
「継承者はグリフィンドールにいるのよ。そして、日記を使って操っている。その日記を持ってる人が継承者よ」
「そんな、あの日記はトムリドルと喋れるだけの日記だよ」
「待てネビル、だから部屋が荒らされたんだ。合言葉もグリフィンドール生なら分かるぞ」
これは拙いことになった。
そう頭を抱える事態に、悩まされる。
いや、待てハグリッドの蜘蛛?
「蜘蛛をハグリッドは追いかけろって言ったの?それが怪物のヒントになるって?」
「そ、そうだよ。でも、蜘蛛は怪物じゃないんだろ?」
「ハグリッドは化け物の専門家よ。怪物の正体に気付いていたのかも……蜘蛛……そうか!」
蜘蛛と聞いてある一文を思い出す。
蜘蛛が逃げ出す、それはその怪物の前触れである。
その記述がある怪物とは……私は大きな声で言った。
「バジリスク!蜘蛛がヒントならきっとバジリスクだ」
「は、早く先生に伝えようよ」
ネビルが怯えた声を上げたタイミングで、行内にアナウンスが響き渡った。
『生徒は全員直ちに寮に戻りなさい。先生方は至急2階の廊下にお集まりください』
「た、大変だ!きっと新たな犠牲者だ」
「行こう、先生に怪物の正体を伝えるんだ」
ネビルの提案で、私達は2階の廊下に向かって移動する。
そこには先生達が集まって話し合っている。
「生徒の一人が攫われました」
「すみませんウトウトしていて、それで誰でしたっけ?」
「ジニーウィーズリーです」
「僕の妹だ!」
盗み聞いているとロンが大きな声を上げた。
そのせいで、視線が此方に集まり誰だ出て来いと追及の声が上がる。
仕方なく、私達は先生の元に出ていく。
「ハリエットポッター!貴方、寮で騒ぎを起こしましたね」
「先生、それには訳が!」
「言い訳は結構!スリザリンを減点したいところですが、この件は今はいないセブルスに一任しています。さぁ、寮に帰りなさい」
「そんなことよりも」
「教師の指示をそんなことですか?」
私の発言にマクゴナガルが静かな怒りを燃やして問い掛けてくる。
スリザリンだからって聞く耳持たない先生だなぁ、もう!
そう煮え湯を飲まされて苛立つ私の横で、ネビルが叫んだ。
「バジリスクです!怪物は、バジリスク!僕達は、先生達にはやく伝えないといけないと思って!」
「それは、本当ですか?ネビル・ロングボトム」
「何だって!?おっと、急用を思い出しました。彼女にはお悔やみ申し上げます!それでは」
「待てよ!ナメクジ食らえ!」
ロックハートが後ろを向いた瞬間、ロンが杖から呪文を放った。
まさかの光景に私とネビル、他の先生達も固まる。
呪文は命中、ロックハートが自称ハンサムな顔を歪めながら振り返る。
「何を、うおぇぇぇぇ!?」
「僕の妹は死んでない、取り消せ!」
「彼女の白骨は、永遠に秘密の部屋に、そう書いてうおぇぇぇぇ!」
「何をしているのです!やめなさい!」
「離せ、離せって言ってんだよ!」
「どうやら、彼は錯乱しているようだ。うおぇぇぇぇ!」
ナメクジを垂らしながら笑うロックハートと先生に取り押さえられるロンの姿がそこにはあった。
なんだこの状況、そう思っていたらネビルが私の手を取って廊下を走り出した。
「えっ?」
「あぁ!貴方達、一体どこへ!」
「助けるんだ。ジニーを、助けなきゃ」
静かにそう行って私を牽引する彼の横顔は、静かな闘志が燃えているような男の顔だった。
ドラコ「えっ、フラれた?」
監督生「やーらーれーたー」
ネビル「どうしよう、頼れる人がいない」
ロン「ハーマイオニーがいなければ僕達は無力だ」
ネビル・ロン「「ハリーがいたか!」」
ネビル「そんな、僕のせいだ」
ロン「壁ドンだ!ネビルが壁ドンされた!」
ロン「腰抜けが、呪ってやる!」
ネビル「僕が、責任を取るんだ!」
ハリエット「私の知ってるネビルじゃない」
※こんなことを思ってたり無かったり、でも本編とは関係ないです。
変更点
バジリスク特定しますた。
透明マントがないので追い出される。
蜘蛛を追いかけようとするがネビルがビビって反対。
ハリエットを入れて再挑戦かと思いきや、特定したのでアラゴクキャンセル。
ナメクジ喰らえ、成功する。
ロックハート、嘔く。