不思議な男、セブルス・スネイプが来てから私の日常は一変した。
まるで逃げるように引っ越しを続ける日々が始まったのだ。
男は教えてもいない引っ越し先に何度もやって来ては叔母さんだけでなく叔父さんとも口論する。
その必死さから本当に不味いことになるというのは分かったが、それでも頑なにまるで意地にでもなったかのように彼の説得は無為にされていた。
遂には絶海の孤島という、どこの不動産屋に紹介されたんだという場所にまでやって来ていた。
この頃になると、叔母家族は精神的に追い詰められていた。
叔父さんなんかショットガンを構えて四六時中ドアを見張る始末だ。
絶対に奴も来れないと宣いながら、来ると確信してドアを見張る。
もはやそれが矛盾した行動だとすら理解できない精神状態だ。
「叔母さん、私」
「ハリエット、絶対に連れて行かせやしないわ」
「でも、迷惑だわ。それに、私が居なくても困りはしないわ」
「そんなことを言わないでハリエット、貴方は血がつながってなくても私の娘よ」
セブルスの行為による精神的な蝕みは、叔母さんが取り繕うことも出来なくなるくらい深刻な物だった。
叔父さんの前ですら、ダドリーのように私に関わろうとしている。
遂には反感を買って殴ろうとした叔父さんから私を守ろうとするくらい錯乱している。
そんな叔母さんの行為に、少しだけ嬉しく思ってしまうことはとても不義理なことだと思った。
そうこうしているうちに、嵐の中でノックの場違いな音が聞こえた。
「吾輩だ」
「貴様!こっちには銃があるんだ、二度と来るなと何度も言っただろ!」
「私も、次こそが最後だと言った。強硬手段を取らざるを得ないともな」
そう言って、彼はドアを開けてしまった。
ダメ、という制止の声も聴かずに叔父さんはショットガンを発砲する。
「何の対策もせず、吾輩が入るとでも?」
「馬鹿な……確かに撃ったぞ!なんだこれは」
思わず目を瞑った私がおずおずと開いてみれば、そこには無傷のセブルスが杖を持って立っていた。
セブルスは杖を振ることで、銃を取り上げて見せた。
そう、それは初めて目撃する魔法だった。
「今日こそは彼女と話をさせてもらう、ペトリフィカス・トタルス」
「うっ……」
杖から光が飛び立ち、叔母さん家族にぶつかった。
すると、まるで石になったかのように硬直してしまった。
「安心したまえ、すこし動けなくしただけだ。さて、今日という素晴らしい日に怖がらせてすまない」
「どうして、私に関わるんですか。こんなことをしてまで、私は行かないといけないのですか?その、ホ、ホなんとかに」
「ホグワーツ」
ぴしゃりと指摘されて、思わず顔が熱くなる。
とにかく、その学校に行かなくちゃいけない理由を聞きださないといけないと気を取り直す。
「マグルとして生きれたなら無用な心配だろう。あぁ、マグルとは非魔法使い族、つまりペチュニアのような者達のことだ」
「じゃあ、関係ないじゃない」
「君が、真に彼女達を大切にしているならホグワーツに来なくてはならない。何故なら、いつか彼女達を巻き込むかもしれないからだ」
どういうことだ、と聞き返すが彼は答えてはくれなかった。
言わないというより言えないという感じである。
彼はそれから、魔法を学ばなかった場合の話をしてくれた。
例えばある日悪い魔法使いがやってきてしまうことや、自分の魔法力というのが暴走して町を滅茶苦茶にすることなどだ。
さらに、両親の事や母の昔のことも教えてくれるとも言った。
「ハリエット、どうか吾輩と来てほしい。奴は、本当に恐ろしい者なのだ」
「少し、叔母さんと話をさせてください」
「……良いだろう」
セブルスが杖を一振りすると、ペチュニアがゆっくりと起き上がりハリエットに縋りついた。
ちょっとした拘束にしては、疲労困憊しているようにも見える。
「叔母さん、私」
「ダメよ!」
「聞いて、このままじゃダメなの。彼だって、セブルスだってそう言ってるわ」
「それでも、ダメな物はダメよ!」
「叔母さんが私をお母さんと重ねてるのは知ってる。でも、大丈夫よ。だって、私はお母さんじゃないから」
その言葉に、叔母さんは黙りこくってしまった。
自分でも、妹と私を重ねていたと自覚したのだろう。
「でも、ダメなのよ……本当にダメなの……」
「休みの時は戻ってくるわ。叔母さんは、ダドリーと叔父さんと一緒に三人で暮らすの。大丈夫、いつも通りの日常よ。私はいてもいなくても一緒だわ」
「そんなことないわ、そんなこと……」
「私、行かなきゃ」
そう言って私はセブルスを見た。
セブルスは、いいのかと確認するように聞いてそれに頷くと私を抱きしめた。
「うぇ!?」
「魔法を使う、しっかり捕まっていなさい。それと、酔うかもしれない」
「あ、あぁ、魔法……そっか、魔法か」
急にびっくりするじゃないと思いながら、叔母さんの方を見る。
心ここに在らずな状態でブツブツと譫言をいう叔母さんに小さく行ってきますと言った。
それが私の最後に見た光景だった。
何をしたのか分からないが、景色は捻じ曲がっていつの間にか私は小屋の中にいた。
私の腰に手を回すセブルスを見て、ここはどこと聞いてみる。
それに帰ってきた言葉は漏れ鍋と呼ばれる場所らしい。
「これから学校の準備をしなくてはいけない。あぁ、そうだ」
「な、何を!?何で杖!」
「オクルスレパロ」
視界が急に歪み思わず目を擦ってしまう。
そんな手をセブルスは止めて、私の眼鏡を取り上げた。
思わず返してと眼鏡を取ろうとして、私は思わず惚ける。
優しそうな眼をしたセブルスの顔がはっきり見えたからだ。
「えっ、見える?」
「吾輩からのプレゼントだ」
「魔法って……すごいのね」
そんな感想しか出てこなかった。
学校で必要な物を準備するため、私たちはダイアゴン横丁という魔法使いの商店街というべき場所に来ていた。
最初に銀行でお金を下ろし、両親がろくでなしと言われた理由は魔法界のお金はあってもイギリス通貨は持ってなかったからだなと納得した。
それくらい、魔法界のお金は大量にあった。その労力の半分をイギリス社会の方でも使えば少なくとも失業手当をもらっている屑とバーノン叔父さんには言われなかっただろう。
「ねぇ、セブルス。どうして、最初から買ってこなかったの?だって、迷惑を掛けてないかしら?後からお金だけ払えば一緒に回る必要はないわ」
「それは……そう、杖や制服など君がいないと選べないからだ」
「本当に?今の間は何?」
セブルスは話は終わりだと言って、お店の前に止まった。
ここはと聞けば、誰もが杖を買うオリバンダーの店とのことだった。
店内は靴屋のように箱がたくさん敷き詰められており、この一つ一つに杖があるとのことだった。
店主の老人は色々な杖を試させてくれた、結果的に店は滅茶苦茶だったがセブルスも店主のオリバンダーも真顔だったのでよくあることのようだった。
「柊と不死鳥の羽根。二十八センチ、良質でしなやか」
「あっ、なんか良い。しっくりくる、気がする」
振れば何の問題もなく使えたことでようやくこれが正解ということだった。
しかし、問題があるのかオリバンダーは難しい顔をしている。
「ポッターさん、その杖に使われておる不死鳥の羽根じゃが……実はもう一本だけ他の杖にも、その尾羽が使われておるのですじゃ」
「オリバンダー、もう終わりだ」
「……おぉ、申し訳ない。歳を取ると、昔のことを思い出してしまう」
セブルスの言葉が不自然に彼の話を遮り、終わらせてしまった。
そのままセブルスは不機嫌そうに私の手を取って漏れ鍋に戻った。
ペットには白いフクロウを、これはハグリッドという人からの誕生日プレゼントとのことだった。
まぁ、それは置いといて彼が隠そうとしていることを聞き出さないといけないなと思った。
セブルス「強硬手段は、私の評価に響くからな」
ハグリッド「誕生日ケーキだ」
セブルス「なんてことだ誕生日プレゼントなんて買ってないぞ!」
ハグリッド「魔法でも見せてやれば」
セブルス「それだ!」
※登場する人物の会話は本編とは全く関係ありません。
変更点
ダードリー、豚にはならなかった。
目が裸眼でも見えるようになる。