屋敷しもべの忠告
信頼とは得るのは難しく失うのは容易い。
故に人脈を大切にするスリザリン生にとって約束とは何よりも重い物……のはずだった。
しかしながら、我がダーズリー家に手紙は来なかった。
「事件だわ!どうして手紙が来ないのよ!」
これは何者かの介入を疑わざるを得ない事案だった。
だって、ドラコはまだしもセブルスが手紙を寄越さないなんておかしいからだ。
「誰がお前の友達になるって?」
「まぁ、ダドリー女の子の部屋に入るときはノックが必要って知らない訳?」
「お前の鳥がうるさいから文句を言いに来たんだ」
「ノックしない理由になってないわよ。それと、ヘドウィグは窮屈だから一時間でも放してあげられたら静かになるわ」
「パパが許してくれたらな」
ダドリーはそう捨て台詞を残すと笑いながら階段を下りて行った。
もし魔法が使えるなら、音でも消して部屋で自由にさせてあげられるのに、魔法使いなのに魔法省のせいで魔法が使えない。
未成年は『臭い』とかいうプライバシーのへったくれもない魔法のせいで感知されてしまうからだ。
その魔法が開発された理由が何なのか、少なくとも魔法使いを守る法というよりはマグルのための魔法に思えてならない。
こういうのが嫌でグリンデルバルドみたいな人が生まれたのかもしれない。
「今日は大事な商談よ、ねっ良い子だから静かにして」
「…………」
「ありがとう。お礼に冷凍ウズラあげるね」
あんまりの扱いに文句を言いたいところだが、フクロウの餌代を出して貰ってる手前、バーノン叔父さんに文句は言えない。
取りあえず、ベッドの上で魔法について勉強するしかなかった。
「あの……」
「……えっ、屋敷しもべ?」
読書に勤しんでいると、申し訳なさそうに話し掛けられる。
遂に幻聴が聞こえるまで寂しかったのかと本から顔を上げれば、そこには屋敷しもべがいたのだった。
びっくりしながら、私はどうしてこんな所に屋敷しもべがいるのだろうと疑問を抱く。
「ハリー・ポッター……なんていう光栄でしょう」
「ハリエットよ。ハリーなんてハグリッドぐらいしか言わないわ。お名前を伺っても?」
「ドビーでございます。屋敷しもべのドビーです。お名前は、よく聞いていたので間違えてしまいました」
「ドビー?あぁ、なるほど!貴方、手紙が送れなくなったからマルフォイ家から直接伝言を教えに来てくれたのでしょ!ねっ、正解?」
ドビーはその言葉に気まずそうな反応でソワソワする。
なんだ、違うのねって言えば、小さくはいと答えるくらいだ。
「ごめんなさい。今はお茶すら出せないわ、取りあえず座って頂戴」
「うっ……うぅ、ぐすっ」
「えっ、急にどうしたの?お腹が痛いの?大丈夫?」
突然その大きな瞳から涙を零し始めた様子に引きながら、私は心配する。
すると、ドビーは泣きながら答えた。
「ただの一度も主人から座ってといわれたことなど有りません物で」
「そう、それで泣いてたのね」
「ハッ、悪いことを言ってしまった」
マルフォイ家は厳格なんだな、でもちょっと意地悪だなんて感想を抱いていたらドビーが急に暴れ出す。
具体的には壁に対して何度も頭を叩きつけたのだ。
「ス、ストップ!ドビーが悪い子なのは分かったから!」
「ドビーは悪い子!ドビーは悪い子!」
「ねぇ、聞いて!ストップ、ストップって言ってるでしょ、ポンコツが!」
「ドビーは悪い子!ドビーは悪い子!」
「聞いてないよね!やめろって、言ってるでしょうが!」
やめろと言ったら今度は壁ではなく家具に頭をぶつけるドビー。
違うそうじゃない、壁を気にして言ってるわけではないと説得しながら、諦めて力尽くで制圧することに移行した。
具体的に服を引っ張って家具から離す感じだ。
「どうしてこんなことするの、頭大丈夫?脳が溶けてるんじゃない?」
「自分をお仕置きしたのです……お仕えしている魔法使いのご家族の悪口を言いかけたので……」
「お、おう。凄い社畜精神ね。でも、やるなら自分の拳で腹パンにしてくれる、汚れるから」
「ドビーめは一生一つの家にお仕えするのです。もしここに来たことが知れたら大変です……でも、ドビーめはハリエット・ポッターをお守りするために参りました」
「ナチュラルに続けるのね、私びっくりだわ」
ドビーは話を聞かない奴だったよ。
そんな言葉を今度ドラコに言ってやろうと決意した瞬間であった。
しかし、どうやらドビーは無断欠勤をしてきたらしくビクビクしているみたいだった。
そこまでして私を守るためにやってきたってどういうことだろう?
「警告でございます。いいですか、今年ホグワーツ魔法魔術学校に戻ってはいけません。罠です。世にも恐ろしい罠が仕掛けられているのでございます」
「なるほど」
取りあえず、うんうんと頷いてドビーの反応を考える。
怒られると承知しながらも、彼は私の家にやって来た。
そんな無茶なと思わずにはいられないが、それを言ったら最後、彼は意地でも私を行かせまいとするんじゃないのかと思った。
じゃあ、取りあえず形だけ行かないって言っておこう。
「じゃあ来年はいいのね?」
「えっ、あっ、恐らくは……」
「分かったわ。今年は部屋に引き籠もることにするわね」
「ほ、本当でございますか?」
「もちのロンよ!あっ、これ友達の持ちネタね。笑っても良いのよ……笑いなさいよ」
「ド、ドビーは……その……」
ドビーは申し訳なさそうに、一瞬で消え去った。
どうやら姿現しで逃げたらしく、そんなに面白くなかったのかと人知れず落ち込んだ。
数日後、久しぶりに私宛の手紙が来た。
私命名、手紙発狂症候群を患っているバーノン叔父さんは信号の代わりになれるんじゃないかと思えるくらい顔が真っ赤になった。
何故なら、宛先が忌々しいアルバスダンブルドアだったからだ、入学通知の悲劇を思い出したのだろう。
「普通に入学前の教材について手紙が来てるし……」
やっぱり、友達の手紙は妨害されていたなんてのは私の都合のいい妄想だったのだろうか。
私、スリザリンでドラコを除いたらボッチだった。
なんだ、当たり前の事実じゃないか。
「別に手紙なんてなくても生きていけるし、うぅ~」
少し悲しくなりながら、セブルスと行った時のように漏れ鍋に行くことにした。
お金を貰って漏れ鍋まで行き、やり方が分からなくて店主に泣きついて壁を叩いて貰うなど障害もあったがなんとかダイアゴン横丁にやって来た私は銀行でお金を卸して教材を買い漁るつもりだった。
「あれ、何か薄暗いしちょっと怖いかも」
「お嬢ちゃん、迷子かね?」
「そうなんです。ここってダイアゴン横丁ですよね?」
「いいや、ノクターン横丁さ。ヒヒッ、道案内してあげよう」
「まぁ、御親切にありがとうございます」
小汚い婆さんだなぁ……と思ったら、見た目の割にいい人で自分を恥じながら後を付いていこうと私は動く。
しかし、そんな私を制止するように誰かが私を掴んだ。
振り返った私はその人物を見て、大きな声を上げた。
「ひげもじゃ!?」
「こんな所で何してる!」
「間違えた、ハグリッド!」
慌てて言い直すとハグリッドはお婆さんから引き離すように私を身に寄せ、しっしっと動物を追い払うかのように手で仕草する。
それから、こんな所にいると悪巧みをしていると思われるぞと忠告する始末だった。
後から聞いた話だが、あれは危ない場面だったらしい。
でもそれはハグリッドの推測で、お婆さんに対する『偏見』だと思う。
べ、別に危ないところだったって気付いてなかった訳じゃないし!
疑うより人を信じる的なアレだし、私に問題はないのである。
「ここまでくれば大丈夫だろ?本屋には行けるか」
「大丈夫、行ったことあるもの」
「その方向じゃないぞ」
「……わざとよ!」
ドラコ 「ハリーから手紙が来ない……」
セブルス 「ハリエットから手紙が来ない……」
ハリエット「友達から手紙が来ない……」
ドビー「手紙重すぎ……」
ハリエット「枕カバー?ちょっと臭い」
ドビー「行かない?本当に行かない?」
ダンブルドア「儂は送れたぞい!」
ハリエット「えっ、あか、開かない!」
ハグリッド「ひげ……ひげか」
※本編と後書きは関係あると思った?残念、関係ないよ。まさに外道!
変更点
聞いたふりにより、ケーキぶちまけない。
ロン達は平気でも親がダメだったので、空飛ぶ車なんてなかった。
でも方向音痴なので、結局ノクターン横丁に行く。
怪しい店でマルフォイ達を目撃しなくなった。
煤だらけにはならなかった。