ハリエット・ポッター物語   作:nyasu

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閉心術

それからのことである。

私の生活は多忙を極める事となる。

なんと言っても週二回は、夜間に寮を抜け出さなければならないからだ。

一つはクィレルとの闇の魔術、もう一つはセブルスとの閉心術の訓練だ。

地下牢を下りると彼の研究室がある。そこには様々な薬品が置いてある。

彼は机を挟んで私と向き合うと閉心術について教えてくれた。

 

「まず閉心術だが、これは開心術と対をなす魔法だ。とても難しいが、才能がなくとも訓練である程度なら会得できる。もし才能があるとするなら、それは辛い記憶を持っているかだ」

「辛い記憶?」

「そうだ。心を覗かれたくないという強い意志、記憶を見られたくないという拒絶、そう言った物が必要になってくる」

「じゃあ開心術は?」

 

私の質問に、セブルスは顎に手を置いて少し考えながら言葉を口にした。

 

「開心術の使い手は、私見ではあるが多くが他の者と違う。それは偉大であったり、あるいは劣等生であったり、人ではない人狼であったり、人よりモテる自覚があったり、特異な立場の者が多い。恐らく、自分が他人とは違うという自覚が必要なのだ。人の心を見て、それが自分なのかそれとも相手なのか区別が出来る。出来ないことは危険だから、どこかで人は抑えてしまう。一種のストッパーのような物が、特異な立場の者にはなく、だからこそ開心術で心の奥底まで覗き見ることが出来るのだろう」

「特別って意識が必要なの?」

「然様、だがこれは吾輩の私見であり一つの意見に過ぎない。斯様に人の心とは難しく、そして分かり易い物だからだ」

 

話は終わりだと、セブルスは杖を構えた。

その様子に私は対面で少し緊張する。

これから私は魔法を掛ける、全力で抵抗しなさいとセブルスは言う。

とても嫌な事だ、だから吾輩を拒絶しろとも言っていた。

 

「開心術は往々にして目を合わせることが重要である。いいね、私を見つめろ」

「はい、セブルス」

「ここでは先生と呼ぶように、では……」

 

セブルスは自分の頭に杖を押し当て、暫くしてからそれを抜いた。

杖の先には銀色の糸があり、それを水盆に落とすと慎重にしまった。

今のは、必要な行動なのかしら?

 

「さぁ、準備は整った。杖を持て、持つんだポッター!」

「は、はい!」

 

まるで憎い誰かを見るために、セブルスが私を睨み付ける。

こ、これは演技よ、私に嫌われるための演技……なはず。

分かってはいるが、堪える物でもあるのか自然と涙が出てきそうになる。

零れそうな涙を我慢して、私は立ち上がり指示に従った。

 

「何をしてもいい、防衛しろ!レジリメンス!」

 

杖先が光ると同時に、世界がグシャグシャになっていく。

回転する研究室、映画の場面が変わるように景色が入れ替わり立ち替わり、別の場所を映し出す。

五歳だった。ダードリーが自転車を貰ったのを見て、羨ましいと心が張り裂けそうだった場面。

九歳、犬に追いかけられて気付いたらぐったりしている犬と青い顔をしたダードリーに化物を見るような目で見られて泣いた場面。

組み分け帽子、これは最近のことだ。

ベッド、スリザリン生に――ダメ――虐められて毛布に隠れながら泣いている様子。

夜、クィレルと――見せない、セブルスにだけは見せられない――部屋で闇の魔術を教えて――ダメ!

 

気付けば私は冷たい床に倒れていた。

場所はセブルスの研究室に戻っており、見れば床には血が落ちている。

血痕?誰の……まさか!?

 

「セ、セブルス……?」

「くっ……」

「ち、違う!私、違うのよ、そんなつもりじゃ……」

「気にするな。この程度の擦り傷、学生時代に呪文を探求する上で作り慣れている」

 

今、私は何をした?

無意識に私はディフィンドを、セブルスに掛けたの?

私が、彼を傷つけた……

急に杖が恐ろしくなり、思わず投げ捨てるように杖を手から離す。

そして、自分自身を守るように自分の身体を抱きしめ、そしていつの間にか震えていることに気付いた。

 

「立て!立つんだポッター!杖を拾え、貴様に呪いを掛けられるのはこれが初めてではないぞ!」

「い、嫌よ。それに、人違いだわ。私は、貴方に」

「では身に覚えのない事に対して拒絶しろ!吾輩を撥ねつけろ、レジリメンス!」

 

また、世界が歪む。

ユニコーンが横たわっている。

目の前が緑色に光っている、これはどこ。

激しい音共に誰かが倒れる、それを私は泣きながら見ている。

そして、誰かが入ってきて口にする瞬間、女の人が私を抱える。

アバダ――。

 

「いやぁぁぁぁぁ!」

 

頭の中から脳を引っ張り出されるような、頭痛がした。

 

「アレは……」

 

困惑とも悲壮的にも取れる声がセブルスから漏れる。

知らなかった私の記憶、忘れられていたはずの記憶を見たからだ。

 

「もう、もうやめてセブルス。お願い、何でもするから……」

 

自分でも心の制御が出来ていないという自覚があった。

訳も分からず何を口走っているのかも理解していない。

あるのは、この場にいたくないという嫌悪感だけだ。

どうしてこんな酷いことをするのと、理由を知っているのにセブルスを責められずにいられない自分の醜い感情が、私を酷く情けなくさせた。

 

「今日はもうよそう、来週同じ時間に……」

「うっ、ぐすっ……」

「それと、クィレルに近づくな。闇の魔術に傾倒すると大事な物を失う、あぁ……いや、これは言うまい」

「ごめんなさい、セブルス……」

「いい。元々必要とはいえ無理をさせた。今日は心が弱っている、寝る前にココアでも飲んで、それから出来るだけ心を無にしなさい。何も考えず、闇の帝王から侵入されないように気をつけて」

 

さぁ、もう行きなさいとセブルスは私を立ち上がらせる。

体力を消耗したのかフラフラする私を支えるように、腰に手を置いてドアまでゆっくりと歩いてくれた。

それから、私の額に軽くキスをするとおやすみと悲しそうな顔で頭を撫でながら言い、部屋から退出させた。

 

どうやって帰ったのか、気付けば私はスリザリンの寮にいた。

みんな寝ているのか、誰一人いない談話室が地下牢も相まって冷たく薄気味悪かった。

 

「ハリー?泣いているのかい?」

「その声は……ドラコ?」

 

誰もいないと思っていた暗い談話室から、ドラコの声がしたことに私は驚く。

だが、そんな暇すら与えないかのようにドラコが私を抱きしめる。

 

「大丈夫か、また抜け出して一人で泣いていたのか」

「わ、私泣いてないわ。それに、ち、近い……」

「嘘を吐くな。目だって腫れてるし、君が一人で泣いていることは……女子がよく噂している」

 

最後の言葉は随分と言いにくそうにドラコは言った。

そして、暫く固まり急に私を突き放した。

な、なんなの!いきなり抱きついたり、押し飛ばしたり!

 

「あぁ!ごめん、そんなつもりじゃ!いや思わず、思わずじゃないよ!」

「ドラコ、もう夜は遅いの、静かにして」

「ご、ごめんハリエット……」

「さっき、ハリーって言ってなかった?」

「あっ、い、言ってない!」

 

聞き間違いかしら、と首を傾げているとドラコは思い出したかのように紅茶でも淹れようと言いだした。

家ではドビーという屋敷しもべ妖精がやっているので、自分で淹れたこともないから自信もないけどと私に気を使っている様子になんだかほっこりとする。

意外な優しい一面って奴だった。

 

「ありがとう、でもココアが良いわ」

「ココア、ココアだって?えっと、ミルクを温めればいいのか?」

「もう、私がやるわよ」

 

仕方ないなぁ、と自分で用意する。

ついでに、ドラコの分もと杖を振って用意した。

 

「ご、ごめん。何か力になりたかったんだが、どうにも」

「気持ちだけ貰っておくわ」

「でも……」

 

申し訳なさそうに謝るドラコに、私は顔を向けながら言った。

 

「ありがとう、ドラコ」

「そんな、お礼を言われるようなこと……僕、ダメダメだ」

「すごーく楽になったのよ。本当に、ありがとう」

 

何でもないことのようだが、その不器用な優しさが酷く疲れ切った心には温かかった。




セブルス「頷くところ可愛い」
セブルス「そんな吾輩の寮で虐め……」
セブルス「痛っ!忌々しいポッターめ!いや、この子は違った」
セブルス「寝取られた好きな子が死んだ……鬱だ」
セブルス「今、何でもって言った?」
セブルス「ダンブルドアのせいだ、クソッたれェ……」
ドラコ「や、やっちまったぁぁぁぁ」
ドラコ「家庭的でいいなぁ」
ドラコ「畜生、格好悪いフォイ!」

※後書きでふざけるのを強いられてるんだ!つまり、本編とは関係ない。

変更点
閉心術を早めにやる。
女子なのでメンタルが弱い(偏見)
か弱いところにキュンとなる、しかしセブルスの好感度はカンストしている。
嫌われたかと凹んでダンブルドアのヘイト値が貯まった。
弱ったところにドラコ、流石スリザリン汚い、やることが汚い!
家庭的な一面にキュンとする、ドラコは自分の気持ちに困惑している。
可愛いところがあるなと、ドラコの評価が上がる。

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