ダードリーの誕生日
そこは閑散とした森の中だった。
鬱蒼と茂る木々は陰鬱さを醸しだし、あまり心地良いと言えない場所であった。
不気味と形容されるそこで、男が一人立っている。
『お前はどう思う?』
「しかし、その考えは……」
掠れるような声に向かって男は話しかける。
しかし、森の中に姿はなく一見独り言のようにも思える。
『お前はマグルについて詳しい。ならば、いかに脅威かも理解しているだろう』
「確かに、あぁそうだ、確かにそうなのだ。マグルは危険だ」
『優れた者が世界を支配しないといけない、ならばこそ純血こそが尊いのだ』
話の続きは遠のくことで聞こえなくなった。
世界が薄れていき終わりを告げる段階になって彼女はこれが夢だと自覚した。
そして、イギリスのプリベット通り四番地のとある家で彼女は目覚めた。
疾走した後のように荒い息遣いをいつの間にかしていた。
ズキリと焼けるような痛みが額に走り、また変わった夢かと苦痛に顔を歪めながら一人泣きそうになる。
一人にしては大きな部屋のベッドの上で、酷く寂しい気持ちになった。
「うっ……」
寝ようと思っても寝れる状況ではなかった為に水を飲むために立ち上がり、眼鏡を掛け忘れていたために物に躓き転んでしまう。
今月に入って通算15回目の転倒であった。
「ぐすっ……」
なんでこんな所に枕があるんだよと思いながら、彼女は階段を降りてリビングに向かった。
リビングには彼女の叔母家族が既に食事をしており、一人分の食事がポツンと置いてあった。
「あっ……おはようございます。えっと、朝食頂きます」
「よく食べるんだぞ、今日は忙しいからな」
「動物園、楽しみだね」
「かわいいダドちゃん、お口が汚れているわよ」
用意されている食事を食べながら、三人の会話に頷いたり笑ったりする。
会話に入ってるわけではないけど、こうすれば何を笑っていると反応してくれるからだ。
この生活が悲惨な物かと言われれば、世の中全体で見ればそこまででないのかもしれない。
少なくとも、実の子が扱われる対応の中ではマシな方だ。
子供の養育費用を考えれば、一人でも養って貰うことがどれだけの負担か分かる。
自分の両親が事故で亡くしたとは言え、孤児院ではなく預かってくれているのはありがたいことだ。
例え、自分がいないものとして扱われていてもだ。
更に言えば、自分の両親は本当にろくでなしでお父さんとバーノン叔父さんは大喧嘩したこともあるくらいで嫌っているらしい。
嫌っている男の娘を預かっているのは偏に叔父さんが寛大だからだろう。
叔母さんは、そんな叔父さんの手前では話しかけてくれないが二人きりの時は母親のように接してくれる。
時折、どこか後悔したような悲しい目をするがそれが私に対する罪悪感なのかそれとも他の何かなのかは分からない。
そういえば、と今日がダドリーの誕生日だったことを思い出した。
一度、誕生日プレゼントに手編みのセーターをこっそり机の上に置いといたら翌日ゴミ箱に捨てられてからあまり意識していなかった。
いや、意識的に忘れようとしていた。
「ペチュニア、本当に来なくて良いのか?」
「えぇ、だって例のあの子が何かするかもしれないでしょ?」
「フン、忌々しい奴だ。まったく、両親に似て忌々しい」
バーノン叔父さんから叱責するような視線を向けられる。
物を盗むんじゃないぞと言い含める視線だ。
そんな叔父さんをダドリーが急かし、一緒に動物園に向かった。
そして、ようやくペチュニア叔母さんが話しかけてくれた。
「おはよう、ハリエット」
「あっ……」
不意に抱きしめられて、思わず困惑の声が漏れる。
まるで何かを予期するかのようにペチュニア叔母さんは抱きしめることが多くなった。
そして決まってこう言うのだ。
「貴方はどこにも行かないでね」
「……はい」
いつも悲しそうにその言葉を聞いて、もしや母に対して何か思うことがあったのではないかと感じる。
ペチュニア叔母さんの話ではボリュームのある髪も、深みがかった赤毛も、アーモンド型の緑色の瞳も母そっくりなそうだ。
だから、よりいっそうに彼女が母と私を重ねていると感じるのだ。
しばらく抱きしめられていると、ドアベルが鳴った。
誰かが来た、その事を理由に私は叔母さんの拘束を解いて玄関へと移動する。
そして、開け放って私は固まってしまった。
玄関の外には、全身を黒で塗り固めたような男がいたのだ。
海産物のような髪の毛、大きな鉤鼻、顔色はちょっと悪い男性だ。
「あ、あの……」
「…………」
「バーノン叔父さんは所用で出掛けておりまして……」
「失礼、ペチュニア婦人は在宅かな?」
ドアを開け放ったハリエットを凝視した男性は視線を外して叔母の名前を挙げた。
その段階で彼が叔母の知り合いだと、安心する。
ちょっと、見た目が怖かったからだ。
「セブルス……」
「久しぶりだな、ペチュニア」
どうしてここにと驚くような顔で叔母さんが固まっていた。
突然の訪問に驚くと言うよりは、来るはずのない人物に会ってしまったという感じだ。
叔母さんはセブルスと呼ばれる男と私に視線を合わせ、部屋に行くように指示を出す。
「でも、そうだ。お客様に、紅茶を」
「ハリエット!私は部屋に行けと言ったのよ!」
「は、はい!」
ペチュニア叔母さんがヒステリックに叫び声を上げ、急いで部屋へと逃げる。
あんな叔母さんは初めてだと思いながら、その原因である男を部屋に入ってからこっそりドアを開けて覗いた。
叔母さんは男に対して怒鳴り散らし、早く出てけと取りつく島もない。
「ペチュニア、これは決まったことだ。それに彼女はマグルではない」
「そうやって、お前はまた!私から大事な物を奪うのか!」
「お前は、まだ昔のことを……良いかね、抑圧された魔法使いは周囲を危険に晒すのだ」
盗み聞きした内容は、穏やかな物ではなかった。
ただ、叔母さんが男から何かを奪われたことだけは理解できた。
「彼女はホグワーツに入学しなければならない。偉大な母親も魔法使いだった」
「嫌よ、そうやってリリーと同じ道をお前達は歩ませるのだろう。あの子を、そうやって殺させやしない」
「……ッ!勝手に言うが良い、彼女は吾輩が連れて行く」
男が苦虫を潰したような表情になった後、すっと無表情になって覗き見していた私の方を向いた。
目と目が合い、思わず私はドアに隠れた。
そんな私の場所まで、上がってくる足音と叔母さんの怒鳴り声が続く。
「ハリエット、話は聞いていたのだろう」
「ハリエット、耳を貸すんじゃありません!」
ドア越しに話しかけられて、私はどうしたらいいか固まる。
そして、そのままゆっくりと開かれるドアに対して振り返りドアを開けた男性を見上げる。
「吾輩の名前は、セブルス・スネイプ。ホグワーツと呼ばれる学校で教鞭を取っている。君の母親とは……友人であった」
「母を……知っている?」
「君は自身の周りで不思議な事が起きたことがあるかい?」
その問いに、ドキリと私はした。
私の秘密が、私がまともじゃないことをこの人は知っていたのだ。
「ど、どうしてそれを……」
「君は、両親と同じ魔法使いなんだ」
「セブルス警察を呼ぶわ!それ以上、喋らないで頂戴」
「貴様が如何に隠そうともダンブルドアは、闇の帝王は彼女を見逃しはしない!」
「ハリエット、こっちに来なさい!その男から離れるのよ!」
叔母さんは必死にそういうが、私の頭の中はそれどころじゃなかった。
叔母さんの語りたがらない母を知っている、叔母さんに迷惑を掛けている不思議なことの正体を知っている。
「私を、私をまた置いていくの!」
だが、その言葉を聞いて叔母さんとの約束を思い出した。
「吾輩と来たまえ、君のいる場所は……」
「私、貴方と一緒には行けません」
「何故だ!ペチュニア、貴様!」
「もう帰ってください、私と叔母さんに関わらないで!」
自分でも信じられないような大きな声が出た。
そのせいかは知らないが、男は信じられない物を見たような顔を隠すように階段を下りていく。
「今日は失礼する。せっかく忌々しい森番から勝ち取ったのだ。吾輩は何度でも来るぞ」
「何度来たってあの子は渡さないわ」
「君は知らないのだ、その結果彼女と君の周囲を危険に晒すことを」
その言葉を最後に男は玄関から立ち去っていた。
私は無言で玄関を睨みつける叔母さんを見ながら、ひとり呆然とした。
ダンブルドア「ハリエットちゃんの案内をして貰いたいと思う」
セブルス「はいはいはい!」
ダンブルドア「ハグリッド、頼めるかな」
ハグリッド「セブルスが手を挙げてるので彼に聞いてあげてください」
ダンブルドア「じゃあセブルスで」
こんなやり取りがあったらいいなと思います。
変更点
他人を拒絶することがハリーより少なくて、寝ているときにお辞儀様とシンクロ。
ハリーの見た目が妹に似ているのでペチュニア叔母さんとの仲が良くなる。
ハリーの性別が女性になったのでセブルスがハグリッドとチェンジ。