では、良いお年をお過ごし下さい。
三日後 横須賀鎮守府 正門前
鎮守府を高雄さん達に任せて、自分を含めた十二名の艦娘と共に横須賀鎮守府に訪れた。
加賀さんは外見が変わっているので少し残念そうな表情をしていた。自分は出発する前に買っていた花束を手に持ち、あの時の出来事が蘇る。
「遅くなったね……」
「司令官、何か言いましたか?」
心の声が出ていたらしく、大鳳に指摘された。自分は平然を装って「何でもないよ」と言う。
すると、あの時自分を気絶させてくれた長良さんが正門前に来てくれた。
「どうも、横浜鎮守府の材原です。前回は失礼しました」
「いえ、材原さんもお辛い経験をされたのですから……」
加賀さん以外は首を傾げる。自分は「気にしないで」と言うと歩き出す。そして、修復された玄関横に置かれている花束に気付き、自分も持っていた花束を置いた。
「ごめん、先に行ってて。すぐに追いつくから」
皆にはそう言い、行かせると一人しゃがみ手をそっと合わせた。
「(加賀さん。遅くなってごめんね……)」
運命の因果なのかは解らないけど、今、こうして自分が生きているのは加賀さんのおかげであるのは事実であり、同時に感謝もしている。
「(ありがとう……。忘れないよ、永遠に……)」
「あの、もしもし?」
不意に後ろから声をかけられて士官拳銃である二十六年式拳銃をクイックドロウする。
「お、落ち着いて下さい!」
「あ…、失礼。いきなり声をかけられたのでつい……」
急いでホルスターに仕舞う。すると、凬森提督が入口から出てきた。
「あれ?明斗君。まだ入ってなかったのかい?」
「え、えぇ」
自分はそう答える。すると、相手から「知り合いですかね?」と尋ねる。
「今回の日米英の艦娘交流会にて護衛をさせて頂く材原明斗少佐です」
凬森さんが答える前にハッキリと言った自分。身元も知れぬ相手にあまり情報を与えたくないのも理由の一つだけど……。
「これはこれは…。お初お目にかかえります。私はイギリス海軍中将でありますジャック・ノエルと申します」
四十代前半だと思われる彼。物腰が良さそうな感じを出してはいるが、何処か食えない雰囲気を出す。
「そして、今回誕生した艦娘のウォースパイトとシリアスだ」
一人目は色白で碧眼、髪は肩より少し下まで伸びたセミロングの金髪で、両側頭の一部を三つ編みとし、その毛先を後頭部で結ぶティアラにしている女性だった。
「我が名は、Queen Elizabeth class Battleship Warspite!…よろしく、頼むわね」
彼女の挨拶が終わると、もう一人が輝きを放つ銀髪の少女。天龍さんとよく似た機械を付け、髪は肩より少し伸びたセミロング。左の髪の毛を三つ編みにし、その毛先を右の肩にむけている。そしてなにより、左目を眼帯で隠しているのが個人的に気になった。
「シリアスです。お見知りおきを」
「こちらこそ、三日間よろしくです」
イギリス海軍の三人に挨拶を終えると自分も凬森提督の案内で横須賀鎮守府を歩く。十年前に半壊したのもあり、自分が覚えている廊下も無く、少し寂しい気持ちになるが、今はそんな気持ちになっている暇はない。
「こちらです」
会議室と書かれた部屋に案内される。そこにはアメリカ海軍の関係者と凬森提督の秘書艦、そして横浜鎮守府の面々だ。
「遅かったではないかね?」
態度がデカイアメリカ海軍に疑問を抱くが何も言わずに自分の席に座る。
「今回、日本に訪れて下さったアメリカ海軍少将マイケル・アレキサンダー氏。戦艦アイオワ、軽巡洋艦オハマ。イギリス海軍中将ジャック・ノエル氏。戦艦ウォースパイト、防空巡洋艦シリアスの皆さんが我が横須賀鎮守府に来て頂いたことを感謝します。私がこの横須賀鎮守府の提督であります凬森と申します。そして彼が、今回の交流会で警護及び横浜鎮守府の提督の」
「材原明斗少佐です。わざわざお越し頂きありがとうございます」
とりあえず、歓迎の言葉を話し、提督と艦娘達と分かれることになった。
テートクと別れて、艦娘達だけの交流会になりましたネ。
「姉様、少々居心地が悪いです……」
「比叡、我慢デース。テートクも少しでも回復して欲しくて連れてきてくれたのデース」
比叡にはそうは言ったけれど、正直な話。私自身もあのテートクを全部は信じきれてはいない。でも、そんな彼は私の気持ちも知った上で優しく話してくれる。
「アラ?もしかして金剛?」
声をかけられた。後ろを振り返ればそこにはウォースパイトがいた。
「ohー!お久しぶりネー!!」
「久しいわね、金剛、比叡!」
ウォースパイトに会えて私と比叡は大喜びで、最近の近況を互いに話しながら昔を懐かしんだ。
「加賀さん、一つ聞いてもよろしいですか?」
食事を食べている途中で、一緒に来た大鳳と大和さんが話しかけてきた。
「私で答えられる範囲であれば」
私は二人にそう答え、何を尋ねるのかと思うと。
「提督……、明斗(さん)は何かを企んでいます」
二人から言われた言葉。私はそれを聞いた途端に、
「大鳳はともかく、大和さん。貴方は鏡子提督を知っているはず?彼を信用できないと……?」
「ち、違うわ。信用しているわ。ただ……ここ最近狙撃銃や回転式拳銃を執務室で手入れしているのを目撃して……」
確かに、前に触っていたのを第六駆逐隊に見られて私の方から厳重注意したから誰もいない時に手入れをしていたのでしょう……。
「大丈夫よ、ただ前に私が注意してから誰もいない時にそうしているだけよ」
「なら……、良いんですけど」
二人との会話が終わってまた食べ始めた。でも、確かに明斗が不審な行動をしている時が多々ある……。
信用したいけど、信用ができない。一番、辛い思いをしている彼を支えないといけないのに、私が信じなきゃいけないのに……。
「駄目ですね……。私は」
「駄目じゃないですよ」
横を見ると赤城さんが大量の料理をのせたお皿を持って立っていた。
「加賀さんは提督のことで不安に感じている。だったら、本人に聞けば良いんですよ。貴方なら提督は信じて下さると思いますから」
赤城さんに言われた私は微笑み、「ありがとう赤城さん。少しだけ、安心しました」と言った。
「加賀さんはクールさも大事ですけど、愛する人に対する好意も大事ですよ?」
赤城さんに指摘されて私は顔を真っ赤にして顔を伏せた。