Fate/VR   作:ヴィヴィオ

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第8話

 

 

 

 さて、目の前の少女も落ち着いたようなので、俺達も食事を取った。

 

「じー」

「欲しいのか?」

「ん」

「ほら、あ~ん」

「あ~ん」

 

 どうやら、まだ足りないようなので、持っていた肉を口元にやると、嬉しそうに食べだした。

 

「おかーさん、わたしたちも!」

「私も、お願いします」

 

 ジャックとジャンヌちゃんまで求めてくるので、頑張って食べさせていく。

 食事が終わったので、これからの事を話しあう事にする。

 

「さて、話をしようか。まずは自己紹介からだ。俺は桜坂幸田。こっちは俺のサーヴァントのジャックとジャンヌちゃん」

「ジャックだよ、よろしくね!」

「ジャンヌです」

「私は立華かなで」

「立華さんか」

「かなででいい。それで、願いは何? 助けたお礼になんでも言う事を聞く」

「エッチな事も?」

「そっ、それ……も、一回なら……」

 

 顔を真っ赤にしながら答えるかなで。どうやら、エロい事もオッケーらしい。

 

「で、でも、クラスカードを渡せというのは出来れば無しでお願い」

「どうしてだ? 理由を聞いてもいいか?」

「私は心臓に病があり、余命宣告を受けているの。ドナーを探しているけれど、見つかっていないから……」

「それは……」

 

 助かる見込みが無いという事か。でも、それがなんでクラスカードと関係あるんだ?

 

「両親も死んで家族も居ないけれど、施設の人達が良くしてくれているから大丈夫。それに余命の分、自由にさせて貰っているの。それで、このゲームを見つけて、どうせ直ぐに無くなる命だから、死んでも構わないと思って参加した。どうせなら、施設の皆に残せる物を欲しいから」

「なるほど。でも、それだと……」

「なんでも言う事を聞くというのが、自暴自棄だとしてもおかしくありませんか?」

「そうだよね。後が無いんだったら、別に構わないと思うよ?」

「それは……」

「クラスカードで希望が出来たんだろう」

 

 おそらく、治療系のスキルか、治癒系のクラスカードが手に入ったんだろう。かなでの言葉から考えて、おそらくクラスカードだろう。それも思い浮かべるのが一つある。

 

「そう。手に入ったのはこれ」

 

 そう言って、かなでが取り出したのは金色に輝く剣士の絵が描かれたクラスカード。

 

「うわぁ、やぱりか……」

 

 見せてくれたクラスカードにはアルトリア・ペンドラゴンの文字がしっかりと刻まれている。

 

「信じられないかも知れないけど、彼女がかのアーサー王みたい」

「そうだな……って、FATEのゲームを知らないのか?」

「? これ以外あるの?」

「知らないのか。ああ、あるんだ」

 

 ゲームの事を話していく。

 

「主人公が召喚したサーヴァント……」

「そうだ。そのカードという事は、もしかしなくても鞘持ちなんだよな?」

「そう。鞘も持ってる」

 

 かなでが鞘を見せてくれる。全て遠き理想郷(アヴァロン)はアルトリア・ペンドラゴンの持つ約束された勝利の剣(エクスカリバー)の鞘だ。持ち主の魔力に呼応し、持ち主に不老不死と無限の治癒能力をもたらす。この治癒力によって、かなでの心臓は回復しているのだろう。

 

「これがあれば生きられるから、絶対に渡せない。渡せというなら……悲しいけど、渡す……約束だから……」

 

 涙目でそんな事を言われたら、返すしかない。

 

「ありがとう」

「さて、どんな願いにするべきか……」

 

 外道な事なら思い付くが、二人の前では教育上よくない。いや、悪い事もするんだけどね。

 

「トナカイさん、トナカイさん」

「なんだ?」

「トナカイさんにお願いがないなら、私達に選ばせてください」

「わたしたちはとっておきのお願いがあるの」

「いいぞ」

「……私にできる事なら……」

 

 二人に任せてしまおう。それよりも食料の心配をしないといけないな。暴食はアルトリア・ペンドラゴンのせいかも知れないし。

 

「えっとね、わたしたちのお願いは……」

「私達のお願いはトナカイさんの……」

「おかーさんの奴隷になって」

「そうそう、お嫁さんに……って、奴隷ってなんですか!」

「え? 黒髭のおじさんが、男の人は可愛い女の子の奴隷が欲しいって……」

「アイツ、なんて事を教えてやがるんだっ!」

 

 黒髭……エドワード・ティーチ。全方位オタクで聖杯への願いもハーレム作りたーい。同時に美少女は辱めてナンボという海賊らしい価値観も持っている。

 

「というか、どこで会ったんだ?」

「森に出て来たよ? 気持ち悪かったらから、解体したけど」

「ジャック……」

「いくらなんでも、気持ち悪いという理由で殺すのはどうかと……」

「裸で飛びかかってきたから……わたしたち、悪い事をしたの?」

「いいや、そんな事はないぞ!」

「ん」

「はい、ギルティです。抹殺して問題ありません!」

「そう、よかった」

 

 ジャックを抱きしめて撫でてあげると、指で涙を拭きながら嬉しそう笑うジャック。

 

「それで……私は奴隷になればいいの? それとも妻になればいいの? でも、これって……」

「永続だよ!」

「一回のお願いではありますが……」

「無茶いうなよ。別の願いで……」

「ううん、別にいい」

「いいのかよ!?」

「ん。だって、奴隷だと衣食住は主人が保障してくれるのよね? お嫁さんでも、夫の稼ぎで食べられるから……孤児の私には助かる。食費、いっぱい掛かるから……」

 

 確かに食費が凄い事になりそうだ。数十人分の食事を一瞬で食べるんだからな。

 

「助けてくれて、養ってくれるなら、大丈夫。それに三人で交代しながらなら、負担は少ない。女の子に生まれたから、結婚して子供も作ってみたいし……夢が叶う」

「ですよね。結婚は女の子の夢です!」

 

 男にとっては人生の墓場らしいけどな。

 

「……というか、結婚できるのか?」

「18歳。問題無い」

「そうか……それで、ジャックとジャンヌちゃんはどういうつもりなんだ?」

「それはジャックに言われました。あちらの世界でもトナカイさんの支えになる味方が必要だと」

「そうだよ。わたしたちはあちらの世界にはまだ、出れないから……もしも、あっちで襲われたら大変な事になっちゃう」

「リアル割れの場合の対策か。でも、向こうでは皆、一般人だろう」

「違うよ?」

「違いますね。この世界のステータスが反映されます。つまり、ステータスによりますが、かなり高くなります」

「じゃあ、俺も?」

「トナカイさんはほぼ魔力極ぶりですからね」

「おかーさん、魔術の知識ある?」

「ないな……」

 

 つまり、俺は宝の持ち腐れという事になる。なるほど、明らかに前衛である彼女を嫁として俺の護衛にするつもりなのか。嫁にする事で常に一緒に居ても問題ないという事だな。護衛して貰う代わりにこちらは食費などを支払うと。男にとってはかなり美味しい話だが、問題は食費だ。食費! 衛宮は化け物なのか。

 

「えっと、出来れば別の願いに……」

「既に受託したから、変更は無理。よろしく、ご主人様」

「しかも奴隷の方かよ!」

「両方?」

 

 小首を可愛らしく傾げるかなで。逃がすつもりはないようだ。

 

「それでいいのかよ……」

「生と死の狭間に居るのに、贅沢は言ってられない。このままだと、現実でも飢え死にするから」

「ごもっとも……って、あちらでも使えるのか?」

「私には同調のスキルがあるから、それでクラスカードを完全に取り込めば大丈夫と言われた」

「まだ取り込んでないんだよな?」

「今は半分だけ。魔力がもっと必要。でも、半分だけでもすごい空腹感に襲われる」

「だったら、トナカイさんから貰えば問題ありませんね。大量に持ってますから。食事はどうしようもないですが……」

「本当?」

「確かにあるが、ほとんどを二人に使っているからな。まあ、それなら魔力を融通しよう。どうせ、あっちで持っていても意味ないしな」

「ありがとう。嬉しい」

 

 無表情だったかなでが、微笑むとかなりの破壊力がある。

 

「とっ、取り敢えず、今日は寝るか。明日、街に着くはずだしな」

「おかーさん、照れてる~」

「そういう悪い子は抱き枕の刑だっ!」

「きゃ~」

 

 ジャックを抱きしめて、そのままゴロリと転がる。

 

「ずるいです!」

「これはお仕置きだからずるくないもんね~」

「むぅ~」

「……なら、私はここ」

「あっ⁉」

 

 俺の隣に寝転んで来たかなでが、抱き着いてくる。

 

「えっと……」

「あったかい」

「まあ、冬だからな」

 

 普通なら野宿したら凍死しそうだが、俺達には強い味方であるジャンヌちゃんが居る。彼女が火を焚いてくれるので問題無い。一応、防寒着もリュックサックには入っていた。というか、昨日は麻婆を食べたお蔭か、身体が暖かかったが……今は冷えてきている。もしかして、アレが寒さから身を守る為のアイテムだったのかも知れないな。流石はマジカル八極拳の麻婆神父がくれた料理なだけあるという事だろう。

 

 

 

 

 翌日。無事に目が覚めた。俺達は少し狩りをして食料を確保した。かなでの食事の為に沢山いる。アヴァロンを常に起動していないといけないみたいなので、大量の魔力を使うようだ。その魔力を補うために大量の食事が必要という事だな。

 

「さて、毎回、こんな量の食事は作れない訳だが……」

「それなら、トナカイさんが魔力を与えれば解決ですね」

「ちゅ~だね!」

「キスすればいいの?」

「俺は構わないが……」

「お願い」

「よし、今度しよう。街についてからだな」

「逃げたね」

「逃げましたね」

「五月蠅い」

 

 ジャックの時は強引にされたので後はなしくずしてきに出来たが、自分からするとなると勇気がいる。ましてや、相手は年下の美少女なのだから。

 

「ほら、進むぞ」

「は~い」

 

 四人で進んでいくと、五時間ほどで丘に到着し、更に登っていく。丘の頂上に到着するとその先にある街が見えた。この世界にやって来て、始めて目にした街は……崩壊した廃墟だった。倒れているビルやガラスが割れ、草木によって覆われている住宅など。そこはまるで数百年の時を超えた現実世界のようだった。

 

「人類は滅亡しました」

「いきなりなんだ?」

「言いたくなった」

 

 かなでがある意味では的確な言葉を告げてくれた。確かにその通りだ。人類は滅亡した! 妖精さんをさがさなければ!

 

「というか、そのアニメを知っているのか」

「病室で見てた」

「なるほど」

「ねぇ、ねぇ、はやくいこ~よ!」

「そうですよ、急ぎましょう!」

 

 既に丘を降りて先に進んでいる二人。

 

「行くか」

「ん」

 

 手を差し出すと握り返してくれた。そのまま俺達も手を繋いで降りていく。次第にプレイヤーの数も増えてくる。中には遠巻きながらこちらを見て来るプレイヤーも居る。そいつらの視線の多くはジャックとジャンヌちゃんに注がれている。

 

「不快です」

「だね。隠れよう!」

「そうしましょう」

 

 二人は俺達の後ろに隠れてしまった。更に視線が集まる。怨嗟の声が聞こえてきたりもしたが、気にせずに進む。

 

 

 

 そして、大きな門のある外壁に到着した。門の前ではドラム缶の機械が立っていた。そう、立っていた。足があるのだ。

 

「ヨウコソ、来訪者ヨ。貴方達ハ、七二人目と七三人目ノオ客様デス。ココハ、始マリノ街、ウィンターウッド。住民登録ヲ御願イシマス」

 

 ドラム缶の腹が開いて、掌のマークが出てきた。手を置くと、スキャンされていった。続いてかなでも行う。

 

「登録完了。桜坂幸田様、立華カナデ様、ヨウコソ」

「わたしたちもするよ」

「そうですね」

「サーヴァントハ必要有リマセン。全テノ責任ハマスターニ取ッテイタダキマスノデ。ソレデハドウゾ、オ進ミクダサイ」

 

 大きな門が開き、中には廃墟を利用して作られた家々があった。

 

「むぅ~」

「したかったです」

「まあ、また今度な。とりあえず、宿の確保が必要だ」

「ログアウトするの?」

「そうだな。準備はしないといけないな」

「ん、わかったわ」

「了解だよ」

「はい。では、あちらですね。まずはお金を作らないといけません」

 

 とりあえずショップでエネミーの素材を売って、お金を貰う。それから、宿屋で部屋を一つ取る。二つ取るつもりが一つになった。お金の関係もあるが、守る為にも一つの部屋だ。

 

「完全に取り込んで同調するわ。魔力を頂戴」

「わかった。でも、どうやるんだ?」

「エッチだよ」

「えっ、えっちです」

「っ⁉」

 

 真っ赤になるかなで。FATEはエロゲーである。そして、大量の魔力を供給する方法は……性行為なのだった。

 

「わくわく、わくわく」

「ジャック、行きますよ。私達にはまだ早いです」

「え~わたしたちもおかーさんとしようと思ったのに!」

「だ・め・で・す!」

「う~」

 

 そして、ジャックがジャンヌちゃんに連れて行かれた。残ったのは妙な雰囲気の俺達だけだ。とりあえず、かなでの肩に手を置いてみる。すると、ビクッと身体を震わせて、不安そうな目でこちらを見上げてくる。

 

「本当にいいのか? 今からならまだ……」

「いいの。このまま死んだら、孤児院の皆に迷惑をかけただけだから……お願い。私を貴方のモノに……」

「わかった」

 

 ゆっくりと顔を近づけ、キスをする。そのまま、最後まで……なんて事はせずに抱き合いながら長時間ディープなキスをして魔力を供給した。まあ、身体を触らせて貰ったりはしたが。婚前交渉はいけません。それに扉の外で聞き耳を立てている二人がいるからな。

 

 

 

 次の日。ジャック達と一緒に眠りから覚めると、現実世界に戻る事を告げると、ジャックとジャンヌちゃんは悲しそうな顔をした。

 

「すまないな」

「大丈夫だよ」

「私達は端末の中にいりゅ……居ますから」

「直ぐに戻る」

「生活の基盤をこちらに移す?」

「そうだな。まあ、どちらにしろ向こうで働かないといけないけどな」

「ん」

「ああ、電話番号とか住所とかも交換しておくか」

「わかったわ」

 

 かなでと交換してから、スマホにあるアプリからログアウトを選択する。直にスマホから光が出てきて、俺の視界はホワイトアウトした。次の瞬間には自宅に居たのだった。

 

 

 

 

 


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