Fate/VR   作:ヴィヴィオ

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月曜日までのカウントダウン!



第3話

 

 

 太陽は既に落ち、回りは暗く月明かりと微かに光る蛍が道を照らしている。左右に沢山の生い茂った木々の中に作られた道を外れると、もう灯りは見えなくなる。空は木々の葉っぱに遮られながらも見れる満天の星空。明らかに都心じゃない。こんな事なら、やる時間を朝にしておけばよかった。だが、そうすると……

 

「わ~蛍さんだ~」

「余り離れるんじゃありませんよ」

「は~い、お姉ちゃん」

「誰がお姉ちゃんでしゅ……ですか」

 

 顔を赤らめながら答えるオルタちゃん。どことなく嬉しそうだ。やはり、今初めて正解だった。確かに朝からなら楽にここを通り抜けられただろう。だけど、そうなると二人と出会えなかった可能性がでかい。オルタちゃんとジャックはどちらかというと夜の側の住人だ。オルタちゃんはサンタだなので、夜に活動する。ジャックはアサシンなので夜の方がいいのかも知れない。予想だけど。つまり、ガチャで出ない可能性もあった。というか、それを考えるとガヴェインを引いたらやばいんだろうな~。

 

「どうしたの、おかーさん?」

「ああ、そろそろ野宿を考えないといけないだろうなと思ってな」

「駄目よ。絶対に駄目よ、トナカイさん。ここで泊まるのだけは許容できないわ」

 

 俺の言葉に全力で否定するオルタちゃん。何か理由があるのだろう。

 

「ジャックはどうだ?」

「わたしたちはおかーさんに従うよ。でも、ここでは止めた方がいいかな~」

「なら、このまま進もう」

 

 俺が判断するより、英霊である彼女達に任せた方がいい。そもそも、素人である俺よりも専門家ではないが、人を殺しているジャックとフランスの聖女の贋作のロリ化したオルタちゃんなら、俺よりも格段に優れている。英霊である彼女達に任せる方が理にかなっている。

 

「それで、理由だけは教えてくれるか? 森なら潜められそうだが……」

「駄目よ、トナカイさん。ここに居たら、降りてきた他のマスター連中に鉢合わせする可能性が高いのよ。現状、私達の能力が落ちている上にトナカイさんというお荷物を抱えているのよ。安全を優先するなら、出来る限り、初期位置から離れた方がいいわ」

 

 毒舌を吐きながらも、俺の事を考えてくれているオルタちゃん、マジ天使。

 

「そうなの?」

「ジャックは違うの?」

「ん~ここ、道から外れたら襲われるよ?」

「それってエネミーか?」

「多分、そうだよ。さっきから、スケルトンがこっちに近寄ってきては離れていってるし」

「それを早く言いなさい!」

「え~だって、聞かれなかったし」

「偵察はアンタの役目でしょうが!」

「ぶ~」

「ジャック。頼む。これからは敵性体が接近してきたら教えてくれ。後、何か見つけたりしてもな」

「は~い。おかーさんがそういうなら」

 

 快く引き受けてくれたジャックの頭を撫でると、猫のように身体を擦りつけてくる。

 

「納得いかない!」

 

 地団駄を踏むオルタちゃんの頭を撫でる。

 

「色々とありがとう。助かってるよ。だから、これからはちゃんと口に出して遣って欲しい事を伝えよう。俺達は言葉にしないと伝わらないからな」

「ふん。仕方ないわね。じゃあ、ジャック。次、敵が来たらちょっと狩って来なさい」

「ふぇ? おかーさんの護衛はど~するの?」

 

 オルタちゃんの言葉に小首を傾げるジャック。

 

「私が護衛するわ。貴女は敵の強さと素材を回収してきなさい。倒したら戻ってくるの。その次は私が行くから、貴女が護衛ね」

「?」

「つまり、現状の身体に成れるという事だろう」

「そっか。流石はおねーちゃん!」

「ふん、それほどでもありゅ……あります」

「だけど、森の中で槍を振り回すのか? ジャックの短剣なら分かるが……」

「あっ」

「おねーちゃん、ドジっ子だね!」

「うるしゃいうるしゃいっ!」

 

 オルタちゃんがジャックを叩こうとぽかぽかと手を振りながら、走っていく。しかし、それをあっさりと回避して俺を盾にして回りを走っていく。二人の幼女がくるくると回っていく。しかし、少ししてジャックは直に森の中へと入っていった。オルタちゃんは涙目になりながらも、しっかりと槍を構えてジャックが入っていった森を警戒している。

 

「出て来たら、刺してやるわ」

「どっちを!?」

「さぁ? それよりも進みますよ、トナカイさん」

「ジャックを置いていくのか?」

「問題ありません。私達はトナカイさんと繋がっています。ラインを通じて場所もわかりますから、追って来るでしょう。それよりも、少しでも森から離れます」

「おい、もしかしてジャックを囮にしてないか?」

「……問題ありません。仮にもアサシンですから。それにいざとなれば令呪を使えば……」

「それな……あればよかったんだけどな」

 

 生憎、サーヴァントに対する絶対命令権である令呪は俺の身体には存在しない。

 

「え? ないの?」

「無い」

「……それもそうね。普通の方法と違って、私達は召喚魔術で呼び出されているし、他のマスターはクラスカードから宝具を呼び出したり、自分の身体に同一化して戦うのよね?」

「そうだな。だからこそ、令呪が無いのかも知れない」

「まあ、手に入れる方法もあるでしょう」

「だろうな。たぶん、イベントとかで手に入るんだろうな」

 

 流石にフェイトのゲームで令呪が無いのは……可能性もありそうだが、ないと願いたい。

 

「どちらにしても、進みましょう」

「ああ、そうだな」

 

 オルタちゃんと一緒に進んでいく。

 

 

 

 

 しばらくして、森の出口に到着した。ジャックはまだ帰って来て居ない。だが、招かれざる客が現れた。

 

「オルタちゃん」

「招かれじゃる客ね……」

「言えてない」

「うるしゃい!」

 

 森の出口には、薙刀を持った男性が黒い影で出来た槍を持った人型と戦闘を行っている。あれの正体は分かる。FGOで何度も出てきた奴だ。

 

「トナカイさん」

「ああ、シャドウサーヴァントだな。アレも出るのか」

「むしろ、アレと戦うのがメインではないですか?」

「そうだろうな。クラスカードを手に入れる手段かも知れない」

「そうですね。それよりも、私はあのシャドウサーヴァントに見覚えがあるのですが……」

「そうだな。ああ、俺もある」

 

 ショートカットのシャドウサーヴァントは槍を巧みに使って戦っている。それどころか、魔法であろう無数の槍を地面から生み出して薙刀を持つ奴に攻撃を仕掛けている。

 

「なあ、あの戦い方は……」

「ええ、ええ、トナカイさんの言いたい事はわかりましっ……わかります。恐らく、彼女はあの似非神父が課した試練なのでしょう。でなければ、あの醜い()()がここに都合よく存在しているはずはありません」

「だろうな。だが、戦っているアイツは……」

「おそらく、私達の試練の相手を掠め取ろうとしているのでしょう。この森に道が出来たという事は、マスターが降りて来る事もわかるでしょうから、森を張っていればいいのですし」

「手間が掛かるが……クラスカードが手に入ると思えば有りか」

「ですね。さあ、トナカイさん。どうしますか?」

 

 オルタちゃんが言ってきているのは、助けに入って一緒に戦うか、このまま逃げるか、それとも――

 

「生憎、俺は正義の味方じゃないんでな。戦闘の準備をして、どちらかが力尽きた所を強襲する」

「合格です、トナカイさん。それでこそ、私達のマスターに相応しいです。正々堂々真正面から? はっ、馬鹿じゃないの。そんな無駄な事をするぐらいなら、横合いから全てをかっさりゃうのです」

「ぶっ」

「笑うなぁぁっ!」

 

 カッコイイ台詞を言っていたのに、最後で噛んで台無しだ。だけど、笑ったのは不味かった。顔を真っ赤にしたオルタちゃんが、殴りかかってきた。取り敢えず、手で頭を押さえて攻撃がこないようにする。

 

「う~~」

 

 涙目になりだしたので、抱き寄せてお姫様抱っこをする。

 

「ちょっ⁉ にゃ、にゃにしてりゅの!」

「それで、準備は何をしたらいい?」

「……す、既に布石は打ってるわ……あっ、あとトナカイさんの魔力、次第です……」

「そうか」

 

 オルタちゃんと見つめ合っていると、後ろから物凄く嫌な気配というか、寒気がして慌てて振り返る。しかし、ただの森が広がっているだけで何も無い。

 

「貴様等っ、ささっとこっちに来て手伝えっ!」

 

 オルタちゃんといちゃらぶしていると、向こうから男性の怒声が届いた。

 

「さてさて、どうするかね?」

「要望に従って、遠くから攻撃してあげたらどうですか? その手段があるでしょう」

「あ~弓か」

「ええ、練習には丁度いいのでは?」

「それもそうだな」

 

 懐からアーチャーのカードを取り出して、インクルードを発動する。すると、両手が赤色と金色で出来たガントレットに包まれ、同時に外装が赤色で、金色文様が施された弓が現れる。弓を握りながら、ステータスを確認する。

 

 

 マスター:桜坂幸田

   筋力:1

   耐久:60

   敏捷:1

   魔力:100(1600)

   幸運:1

   SP:0

  スキル:召喚魔術(C2/2)

 

  クラス:アサシン(限定召喚800/1000)

   真名:ジャック・ザ・リッパー

   筋力:E

   耐久:E

   敏捷:C

   魔力:E

   幸運:E

   宝具:使用不可

  スキル:気配遮断(C+)、情報抹消(D)

 

  クラス:ランサー(限定召喚800/1000)

   真名:ジャンヌ・ダルク・オルタ・サンタ・リリィ

   筋力:D

   耐久:E

   敏捷:E

   魔力:D

   幸運:E

   宝具:使用不可

  スキル:自己改造(EX)、かりちゅま(E)

 

 

 魔力の1600は召喚に使用しているから、上限値が削られている。そして、肝心のサーヴァントの二人だが、実際のデータよりも2ランクはダウンしている。それにスキルも持っていないのが多い。後は宝具が使用不可だ。これはおそらく、召喚用の魔力が足りないので限定召喚の弊害だろう。スキルが足りないのもそういう事だろう。しかし、オルタちゃんのかりちゅまには突っ込まないぞ。

 さて、俺の魔力は上限100だが、インクルードをしたのに減っていない。ステータスでは自分の現在の魔力量がわからないのだろう。不親切だが、成長する為には仕方ない事だろう。

 

「さて、やるか」

「ええ、どちらに当たっても構いませんからね」

「ああ、気兼ねなくやる」

 

 弓を構えて、弦を引くと魔力によって矢が生成される。インクルードをしたおかげか、使い方は頭に入ってきた。なので激しく動く、男性とシャドウサーヴァントへと向けて放つ。矢は予定していた軌道をずれて失速しながら飛んでいく。即座にシャドウサーヴァントが腰に下げていた剣を引き抜いて切り払われる。

 

「どんどん行きましょう」

「そうだな。外れても言い訳だし」

 

 気兼ねなく矢を放っていく。それで分かった事だが、インクルードすると魔力が10分間に1消費される事。矢は魔力1で100本作れるという事だ。もしかしたら、魔力1が魔術回路の数なのか? それだと恐ろしい数になるな。1700本という事になるのだし。あっ、男の腕に当たって、シャドウサーヴァントに吹き飛ばされた。

 

「この下手糞がぁぁぁぁぁぁっ!!」

「オルタちゃん、応援してあげてよ」

「……えー」

「嫌そうな顔しないで」

「ガンバレー、そして死ね」

「あはははは」

「貴様等ぁぁぁぁっ!」

「あ~別に逃げてもいいですよ。俺達が対処しますので」

「ふざけんなっ! これは俺の獲物だ!」

「じゃあ、頑張ってください。よっと」

 

 俺は地面に胡坐をかいて座って、隣のオルタちゃんを引き寄せてすっぽりと収める。弓は消してカードに戻しておく。

 

「何するのですか?」

「魔力の回復。リラックスした方が回復が速そうだし」

「まあ、いいでしょう。トナカイに頭を撫でる権利を差し上げます。光栄に思ってください」

「ありがとうございます、姫様」

「ふん」

 

 そっぽを向きながら、嬉しそうにしているオルタちゃんとまったっりとするときおり、森の方から視線を感じるが、そちらに顔を向けようとするとオルタちゃんが催促してくるので撫でる事に集中する。

 

 

 

 

 

 

 

 




???「いいな、いいな~」
森の中から、指をくわえて羨ましそうにみている少女が居た。

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