Fate/VR   作:ヴィヴィオ

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第20話 二人はおるおる?

 

 

 美遊、ジャック、ジャンヌちゃん、シータ、かなで、俺の五人でスノーウッドの街を歩いていく。新年だからか、ゲームだからかは知らないが、既に空いている店もあった。もっとも、滅びかけている廃墟の街なので、そこまで人はいない。

 

「あっ、タコ焼きだ~」

 

 しかし、プレイヤーは別だ。プレイヤーなら、あちらの世界から食糧も持ってこれる。いや、道具すら持ってこれるのだから、店ごとは無理でも屋台やそれに伴う道具は持ってこれるかも知れない。

 

「おかーさん、買って買って!」

「わかった。三人前……六人前、買っておいで」

「わ~い」

「私達も手伝いましょう」

「うん」

 

 ジャックにお金を渡して勝って来てもらう。六人前にしたのは簡単だ。どうせ、残ったらかなでが全部食べてくれるからだ。

 さて、ジャック達三人は、お金を受け取って屋台のお兄さんの所まで駆けて行った。

 

「おじさん、タコ焼き六個ちょ~だい!」

「あいよ。三千円だよ」

「三千円って、どれかな?」

「これじゃないですか?」

「違います。これです。買い物をした事はないんですか?」

「ないよ~。わたしたちは産まれる事が出来なかったから……」

「え?」

 

 美遊は混乱している。まあ、普通はそうなるよな。彼女達は過去の英雄達だ。現代に生きている訳ではない。

 

「わたしたちは過去に死んだ存在なんだよ。それをおかーさんが呼び出してくれたの!」

「あ……サーヴァントだから……ごめんなさい」

「だいじょーぶ。わたしたちはおかーさんと出会って幸せだから!」

「そうなんだ……よかった」

「二人共、出来たみたいですよ」

 

 話し込んでいる二人をよそに、ジャンヌちゃんがタコ焼きを受け取ったようだ。

 

「美遊、何処か食べる所はあるか?」

「それなら……」

 

 美遊の案内で近くにある公園へと移動した。公園には屋根のある休憩スペースが有った。そこに皆で入る。俺は兎の皮を取り出して、敷物にして女の子達を座らせる。湯気を出すタコ焼き興味津々なご様子なので、さっさと食べさせてあげよう。

 

「熱いから気を付けて食べるんだぞ」

「は~い!」

「あの、どうやって食べるんですか?」

「この爪楊枝で刺してだ。ほら、あ~ん」

 

 食べ方を聞いてきたので、爪楊枝でタコ焼きの一つを刺してジャンヌちゃんに差し出してあげる。

 

「あっ、あ~ん」

 

 ぱくっと齧りついた瞬間、はふはふしながら一生懸命、口を動かして冷やしながら美味しそうに食べていく。

 

「おか~さん、わたしたちも食べさせて~」

「いいぞ。でも、熱いぞ」

「ジャックにはこの暑さは無理ですよ」

「そんな事ないもん!」

 

 ジャックが口を開けてくるので、外側を冷やして食べさせてやる。

 

「っ⁉ あちゅいぃいいいいいいいいいぃぃぃぃっ⁉」

 

 椅子から落ちて、床を転げまわるジャックを慌てて抱き寄せる。

 

「あちゅいっ、あちゅいよぉぉぉっ、たしゅけてっ」

「これ、水です」

「ありがとう。飲めるか?」

「んゅ~!」

 

 ペットボトルをジャックの口元にやるが、暴れて殆ど零してしまう。仕方ないので、水を口に含んで口移しで強制的に飲ませる。

 

「んっ、んんっ! じゅるっ、ごくっ」

 

 タコ焼き味だった。まあ、無理矢理飲ませた。しかし、ジャックは猫舌なんだろうな。何度か飲ませると、ようやく落ち着いてきたようだ。しばらくしてジャックが舌を入れて絡めて来た。魔力を吸われていく。治癒力でもあげているのかも知れない。

 

「っ……」

「むぅ~」

 

 美遊とジャンヌちゃんは真っ赤になって、こちらを見ている。シータは追加の水を取り出していた。かなでは雪を取ってきてくれた。

 

「これ、入れておく」

「ひゃ~い」

 

 雪で舌を冷やして、ジャックはようやくましになったようだ。タコ焼きの中は物凄く熱いからな。それにしても、サーヴァントといえども内部からの攻撃には弱いのかも知れないな。ジャックが猫舌というのもあるのかも知れないが。いや、もしかして……マスターから与えられたから防御力が働かなかったのかも知れない。

 

「ジャック、大丈夫? アヴァロン、要る?」

「うん、大丈夫だよ~アヴァロンは……ちょっと欲しいよ~」

「ん、わかった」

「便利だな、おい」

「ん、優秀」

 

 ジャックに鞘を持たせる。すると、直ぐに治ったようだ。しかし、タコ焼きを前に唸って止まっている。

 

「中を割って、冷やしてから食べたらいいぞ」

「なるほど、そうすればいいんだね!」

 

 ジャックにタコ焼きを割ってから、ふーふーして冷やして食べさせてやる。すると、嬉しそうに食べていく。俺はかなでと一緒にそれを見ながら、俺達も食べる事にする。

 

「ジャンヌ、ジャックもその、あの夜みたいな事をしているの?」

「キスまでですね。でも……興味はあるので、時間の問題かと思います。前も止めるのを苦労しました」

「確かにそうだね……私も、お兄ちゃんとなら……」

「駄目ですからね。兄弟となんて、いけません」

「それは……」

「それに士郎さんは……その、美遊の事を妹としかみてないですよね……」

「うっ……そうなの。何度か、下着姿で迫ったのに……」

 

 ジャンヌちゃんは美遊と話しつつ、BBの依頼を達成するために頑張ってくれている。

 

「マスター、何かが来ます」

「ん?」

 

 シータの声に空を見上げると、空からトナカイに引かれたソリが降りて来ている。その背にはあのお方がいらっしゃった。そのお方はソリから袋を持って飛び降りてきた。

 

「メリークリスマス」

「なっ、なんでここに居るんですか!」

「なに? もう過ぎているだと? 今回はそこな小娘にサンタを譲ったから仕方なく、良い子にお年玉を配りに来たのだ」

 

 ジャンヌちゃんの言葉に堂々と返事をするアルトリア・ペンドラゴン・サンタ・オルタ。サンタ衣装のセイバー・オルタだ。

 

「お年玉っ!? くれるの!」

「ああ、いい子にはあげよう。そちらの小娘もな」

「いいんですか?」

「うむ。しかし、欲しければ力強くで奪うがいい。特にそこのお前は我が力を持つに相応しいか為さねばならん」

 

 そう言いながら、袋と黒い聖剣を構えるサンタオルタ。

 

「ひぃ~怖いです、無理っ、無理ですトナカイさんっ!」

 

 ジャンヌちゃんは俺に抱き着いて、隠れてしまった。

 

「ええい、貴様はそれでも二代目サンタか! どうやらここで鍛え直さねばならぬようだ」

「え!?」

「我が呼び声に答えよ、我が分身よ!」

 

 サンタオルタが聖剣を掲げると、空からもう一人のオルタが降ってきた。こちらは黒い鎧にバイザーという完全装備。

 

「増えました! 増えましたよ!」

「わ~凄い~」

「ふははは、貴様の相手は……」

「かなで、サンタじゃない方を頼む」

 

 サンタオルタが話している最中に、俺の指示でかなでが飛び出してセイバー・オルタと互いの聖剣を激突させる。

 

「この人は引き受ける」

「ほぅ、紛い物風情がこの私とやり合うつもりか。いいだろう、身の程を教えてやる」

「ああ、教えて貰え。かなで、そいつはアルトリア・ペンドラゴンの闇落ちバージョンだ。戦い方を覚えるには持って来いの相手だ」

「うん、教えて貰う。お願いします」

「む? 貴様、私を教材にするつもりか。いいだろう、ついて来い」

「ありがとう」

 

 二人は離れた位置に走って行き、そこで剣戟を交え始める。やはり、かなでの方が押されているが、段々と追いついていく。すると、更にセイバー・オルタが力を入れていく。律儀に引き上げていくつもりのようだ。

 

「さて、我等も始めるとしようか。先ずは前哨戦だ」

 

 サンタオルタが指を鳴らすと、二足歩行の剣を持ったトナカイが多数現れた。

 

「剣とか殺意高いです!」

「この程度……」

「シータ、頼む」

「はい、マスターの御心のままに」

「む」

 

 シータが一瞬で炎を纏った矢を放て、トナカイ達を撃ち滅ぼしていく。

 

「なかなかやるではないか。どれ、私自らが相手をしてやろう」

 

 魔力放出を使って、地面にクレーターを作るような爆発を起こして加速してくる。更に袋も剣も魔力でコーティングして殴り、斬りかかってくる。俺はジャンヌちゃんを守る為に影を操って壁を作る。

 

「温いわ!」

 

 たったひと振りで斬り裂かれ、粉砕される。時間稼ぎにすらならない。

 

「っ⁉」

「まずは一人だ」

 

 袋で思いっきり殴り飛ばされ、吹き飛ばされる。ゲームを始める前の元の身体なら、間違いなく即死だっただろう一撃を受けて意識が飛びかける。

 

「トナカイさんっ!?」

「ほら、戦わねばトドメを刺すぞ。いや、その前にもう二人要るか」

「わたしたちを忘れるな~」

 

 ジャックが飛び込んで、解体しようとするが近付く事も出来ずに剣で捌かれ、袋で弾き飛ばされる。

 

「ジャック!? なんで、ライダーじゃないんですか!」

「貴様はお頭まで悪いのか? アサシンが正面から襲い掛かってきて、騎士王の英霊たるこの私に勝てるとでも、本当に思っているのか? ああ、奇襲しようとしても無駄だ。私の直感は全てを見通す」

 

 にやりと笑うサンタオルタ。つまり、昼間の現状では幸運判定が行われるはずのものを……直感で乗り切るのだろう。ジャックの解体聖母が封じられている。普通のゲームだったら、こうはならないが……これはVR。現実の戦闘と同じだ。弱点は補えるのだろう。そもそも、当たらなければ意味が無いのだから。

 

「うぅ……」

「ジャンヌ……」

「仕方ない」

 

 サンタオルタの瞳が美遊を捕らえる。慌てて走る。しかし、その前にサンタオルタが到着するのが速く、美遊に黒い聖剣が振り下ろされる。

 

「ひっ!?」

 

 虚数魔術を使って、影を操って聖剣を受け止める。直ぐに破壊されるが、微かな時間が稼げた。その間に身体を潜り込ませて、美遊を抱きしめながら押し倒して盾になる。直ぐに背中に熱い感覚がしてきて、激痛に苛まれる。

 

「おっ、お兄さんっ‼‼」

「トナカイさんっ!」

「だい、じょうぶだ……必ず守るから……ジャンヌちゃんも……」

「ほう、我が聖剣を受けて汚染され……既に汚染されているではないか!」

 

 胸から出ている聖剣をしっかりと腕で掴む。

 

「むっ。無駄な抵抗を……」

「無駄じゃ、ないです……」

「そうだ、無駄じゃない。ジャンヌちゃん!」

「はいっ!」

 

 ジャンヌちゃんがサンタオルタに向かって槍を振るう。サンタオルタはがっちりと虚数魔術まで使って抑え込んでいる聖剣を手放し、袋だけで対応する。

 

「トナカイさんを傷つけた貴方は許しませんっ!」

「サンタを満足にできもしない小娘が、吼えるな!」

「私はジャンヌ・ダルク・オルタ・サンタ・リリィ! 二代目サンタです! だから、初代である貴方を超えてみせます!」

「よろしい、ならば戦争だ!」

「っ!? せっ、戦争っ!? だ、駄目です! 負けません!」

「そうだよ!」

 

 ジャックがサンタオルタの背後から接近する。それに対して、袋を地面に振るって周りを陥没させる事で発生する余波で、二人の攻撃を防ぐ。ジャンヌちゃんとジャックは吹き飛ばされ、サンタオルタが追撃を掛けようとするが、そこに赤と黒の矢が降ってきて、一気に炎を膨張させて周りを灼熱の地獄へと変化させる。内部は一瞬で結晶化するほどの高温となり、生物が住んでいられないようになる。

 

「くっ……マスター……」

 

 視線をシータの方に向けると、シータが地面に倒れていく。弓も消えて、動かなくなった。生きている事はラインから確認できるので、魔力切れのようだ。

 

「だ、大丈夫……?」

「ああ、俺もシータもなんとかな……美遊は苦しくないか?」

「だ、大丈夫……でも、それ……」

「ああ、これだな」

 

 美遊に手伝って貰って起き上がり、突き刺さったままの聖剣を影の中に取り込む。どうせなら、貰ってしまおう。開いた傷口からは血がドバドバと出ているが、呼び出した泥を使って塞ぐ。同じ属性の物だからか、傷口にもピッタリとあった。これがかなでの持っている聖剣だったら話は違っただろう。かなでの方を見ると黒い聖剣と金色の聖剣が激しくぶつかりあっている。シータの看病もしないといけない。

 

「トナカイさんっ!」

「おかーさん!」

 

 心配そうに駆け寄ってくるジャンヌちゃんとジャック。

 

「こっちは大丈夫だ。それよりも……」

「流石に倒せましたよね? でも、これだとお年玉が……」

「問題ない」

「「「え?」」」

 

 灼熱の地獄から、()()()()()()()のサンタオルタが出てくる。その手には白い袋の代わりに()()()が握られていた。

 

「アヴァロンが無ければ即死だったな」

「流石はアヴァロン、汚い!」

「反則だよ!」

「何を言っている。あっちも持っているではないか」

「まあ、そうなんだけどな」

 

 ジャンヌちゃんとジャックが俺達の前に出て、構える。二人は決意したような表情で、サンタオルタの隙を探している。

 

「だが……ごふっ」

 

 口元に手をやりながら、血を吐くサンタオルタ。

 

「ここまでのようだ。私にアヴァロンを使わせたのだから、此度は貴様等の勝ちとしてやろう」

「本当!?」

「じゃ、じゃあ……」

「うむ。二代目サンタとして赤点は勘弁してやろう」

「よ、よかったです……」

「さて、お年玉をあげようと思ったのだが……全て燃えてしまった」

「あっ……」

「そんなっ!?」

 

 子供達の視線がシータへと向かうが、こればかりは仕方ない。むしろ、ファインプレーだろう。後でご褒美を上げないといけない。

 

「仕方ない。ここは……」

「貴様の聖剣でいいだろう」

「む」

 

 セイバー・オルタがかなでを引き釣りながら戻って来た。そのまま、かなでを片手だけで放り投げてくるので、慌てて抱きとめる。そのままの勢いで尻餅をついてしまった。腕の中に居るかなでは多数の怪我をして気絶しているが、それらは直ぐに治っていっている。

 

「奪われたのは貴様の落ち度だ」

「まあ、よかろう」

「わたしたちには~?」

「……おい、何かもっていないか、セイバー」

「私が渡すのか?」

「後で奢るから、寄越せ」

「仕方あるまい。魔力放出と直感だ。小娘共、どれがいい?」

「私は直感でお願いします」

「わたしたちは魔力放出で~」

 

 二人は嬉しそうに貰ったスキルカードを掲げて走っている。まさに子供だ。そして、サンタオルタが美遊に近付いてくる。

 

「お前は幸薄そうだから、これをやろう」

「え?」

 

 黒い鞘を美遊の身体に突き刺し、そのまま入れてしまった。

 

「これでそう簡単に死ぬ事はなかろう」

「あ、ありがとう……」

「ふん。不甲斐なければ返して貰う」

「かなでと言ったか、その小娘に伝えておけ。次は容赦せぬと」

 

 そう言って、二人のアルトリア・オルタは降りて来たソリに乗っていく。

 

「では、我等は次の良い子の所に向かうとしよう。そうだ、来訪者のマスターよ。商店街で福袋ガチャをやっている。行ってみるがいい」

「さらばだ」

 

 空へと上がって去っていく二人。後にはデコボコの公園だった何かの空間があった。まさに災害である。その後、街中で悲鳴や爆音が木霊した。俺達は治療の為にゆっくりとしてから散策に戻る事になった。シータには魔力をたっぷりと混ぜた唾液を口移しで飲ませて、動けるくらいには魔力を供給しておいた。夜には本格的に補給をしないと不味いだろう。

 

 

 

 

 




サンタオルタとセイバー・オルタでした。二人は来訪者にも公平に高価なお年玉というプレゼントをくれます。 勝つか認められたら ですが。
比較的、簡単な攻略方法……対界宝具か対軍宝具を用意しましょう。単体宝具は駄目です。避けられます。ゲイ・ボルクなどならば可能ですが。


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