Fate/VR   作:ヴィヴィオ

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第2話

 

 

 二体の人形はオルタちゃんに槍で胴体を貫かれ、ジャックによって短剣で関節を斬られて倒れていた。ジャックは直に俺に抱き着いてきた。

 

「おかーさん、おかーさん。褒めて、褒めて」

「よしよし、よくやった」

 

 口から男の声ではなく、少女の声が出る。そのまま、小さな手でジャックの頭を撫でる。肌ざわりの良い髪の毛の感触が最高だ。それにジャックから漂ってくるいい匂い。

 

「ちょっとっ、何時までしてるの……してるのですか。トナカイさん、さっさと私も撫で……」

「これにて初期説明は果たした」

「……」

 

 オルタちゃんは神父をうらめしそうな目で睨み付ける。

 

「どうしたのだね、幼女よ?」

「幼女じゃないです」

「えてして子供はそう言う者だ。それより、もうすぐ変身が切れるのではないかね?」

「あ」

 

 魔力が切れて俺の姿も男性へと変わった。すると、身体の中からアーチャーのクラスカードが出て来た。

 

「男に戻りましたね」

「おー」

「魔力切れだ。サーヴァントを召喚している間はその分最大値が減っている。まあ、後の詳しい事は自分で調べるがいい。そこまで面倒は見切れん。さて、これにて基本説明は終わりだ」

 

 そう言いながら、神父はリュックサックを取り出してくる。

 

「この中には三日分の食料と方位磁石。救急治療セットが入っている。これを持って、森を出れば街道に到着する。そのどちらかに進むと村がある。先ずはそこを目指すといい」

「え、これで終わり?」

「不親切ですね」

「そ~なの?」

「そうですよ」

「そ~なんだ」

 

 可愛いな。まるで姉妹みたいだ。オルタちゃんがお姉さんで、ジャックが妹かな?

 

「ログアウトは専用の魔術道具による結界の中か、村や街の中でしかできない。スマホを無くせば二度と現世に戻る事は叶わぬと思え」

 

 これはやばい。基本的にログアウトはスマホからか。まてよ?

 

「電池はどうなるんだ?」

「知らん。どうにかしろ」

「っ⁉」

 

 俺は慌てて電源を切る。ステータスを見るのもスマホを使うのに、それすら電池の節約が居るとか不親切にもほどがあるじゃねえか。

 

「例えば、別のプレイヤーのスマホを奪ってログアウトする事は?」

「良い質問だ。それはもちろん可能だ」

 

 プレイヤーによる殺し合いも想定されているのか。まあ、フェイト=聖杯戦争だから、ある意味では当然か。プレイヤーキラー、PKには気を付けないといけないな。いや、ジャックが居る時点で、むしろプレイヤーキラーになるべきか?

 

「質問は以上か?」

「いや、街道に出てからどちらに進めば村は近い?」

「東だ。東は三日で着く。西は一週間かかる」

 

 これは聞いておいて正解だったな。しかし、そうなるとバイトもあるし、時間も聞いておいた方がいいな。

 

「この世界と現実世界での時間の流れは?」

「同一である」

「バイト先に連絡を入れたいんですが……」

「スマホから普通に繋がるはずだ」

「マジで!?」

「うむ。ああ、しかしこのゲームの事をプレイヤー以外に漏らす事は止めておけ」

 

 まあ、誰も信じないだろうけどな。

 

「ペナルティが与えられる事になる。それによく考えるのだ。サーヴァント及びクラスカードはその側面に関しては一体だけだ」

 

 なるほど。オルタちゃんことジャンヌ・ダルク・オルタ・サンタ・リリィは一人しかいない。だけど、ジャンヌ・ダルク・オルタとジャンヌ・ダルクは手に入れられるという事か。

 

「アルトリアだと、オルタとアルトリアが可能という事でいいんですよね?」

「そうだ。水着も可能だ。FGOのパーティーと同じだ。同一サーヴァントは編成できない。それが全サーバー、全プレイヤーに適応されていると思えばいい」

「なるほど」

 

 これはつまり、これから起こる事として確実なのはクラスカードの取り合いだ。無限にあるのではなく、クラスカードは基本的に一つの側面に対して一つだけという事だ。

 

「もしかして、あんなに星5が出なかったのは……」

「既に回収されているからだろう」

「何人プレイしているかは……」

「秘匿事項だ。さて、私は行かせてもらう。次のプレイヤーが現れたようなのでな」

 

 後ろを振り向くと、光の粒子が集まってきている。

 

「さっさと行け。それとも、早速殺し合いを始めるかね?」

「行かせて頂きます。お世話になりました」

「うむ。期待している」

 

 神父が手を振ると、森が別れて道が出来た。どうやら、ここを下りれば街道に出るようだ。

 

「行こうか、オルタちゃん、ジャック」

 

 リュックサックを背負って、二人に手を差し出す。

 

「うん♪」

 

 ジャックは楽しそうに小さな手で握り返してくれる。

 

「いいでしょう。トナカイさんにエスコートされてあげます」

 

 オルタちゃんはそっぽを向きながら、顔を少し赤らめて手を握ってくる。二人と一緒に新たな旅路へと向かう。

 

「どうでもいいのだが、その状態で襲われたら対応できるのかね?」

「あっ」

「……無理ね。無能じゃない、このトナカイ」

「えっと、わたしたちとオルタちゃんでおかーさんを守るよ」

「助かる。じゃあ、一人はアタッカーで一人は護衛を頼む。基本的にはアサシンのジャックが先行して偵察。その間、オルタちゃんが俺の護衛。戦闘時はオルタちゃんが前に出て、ジャックが護衛。隙があれば遊撃。こんな感じか?」

「基本的にはそれでいいでしょう」

「やだ」

「ジャック?」

「やだやだ! それだったら、わたしたちがおかーさんと一緒にいれないもん!」

 

 涙目でぎゅっと手を握りしめてくるジャック。

 

「じゃあ、二人で護衛してくれ」

「効率悪っ」

「泣く子には勝てない」

「はぁ、仕方ないわね。気配察知くらいはできるでしょ」

「獲物を探して襲うのは得意だよ?」

「なら、それでいいですね」

「そうだな。神父様、ありがとうございました」

「ああ、さっさと行け。そして、無様な姿を晒して来い」

「それは遠慮したいです」

「べ~だ」

「お断りね」

 

 可愛い二人の少女と一緒に森を抜けていく。その途中でバイト先の店長や先輩にメールを出しておく。これでシフトは大丈夫だ。しかし、生死を賭けたデスゲーム。無事に生き残れる事は出来るのかね? 

 どちらにしても、出来るだけ悔いの残らないように過ごさないとな。可愛い娘達と共に。

 

 

 

 

 


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