ジムから帰ってたヴィヴィオと一緒に食事を取る。いつも通り談笑をしながら自分の作った料理を口に運ぶ。
すると、不意にヴィヴィオがこんな質問をしてきた。
「ママの理想の旦那さんってどんな人?」
「へ?」
思わず変な声が出てしまった。それと同時にあたふたとし始める。理想の旦那さんと言う考えもしなかった質問、しかしヴィヴィオからするとママがいてパパがいないのはおかしな事だ。真っ当な質問と言える。別の意図があるかもしれないので一応理由を聞いておく。
「ど、どうしてそんな事聞くの?」
「あのね、今日学校でお友達がね理想の人のお話をしてたの。イケメンの白馬の王子様みたいのな人が良いって言ってたから気になっちゃって」
小さい頃によくある夢見がちな答えだ。私には分からないが、恋をすれば本当にその人が白馬の王子様なのかもしれない。一生縁のなさそうな話だが。
考え始めて、更に沼へと嵌る。ずっと悩んでいるわけにもいかないので、困っていると救いの手が現れた。
ドアを開けて我が家に帰ってきた救世主を迎えにいく。
「ただいまー」
「おかえり、フェイトちゃん」
「おかえりなさい、フェイトママ」
フェイトちゃんの持っている荷物を預かって部屋に戻る。ソファーに荷物を置いて、再び食事に戻る。けど、その前にフェイトちゃんの夕食を用意してからにする。
フェイトちゃんが帰ってきた事でヴィヴィオも先ほどの質問を忘れたのか追求することも無かった。なんとか有耶無耶にしてこの場を逃げる事に成功した。
☆ ☆ ☆
ゆっくりと湯船に浸かる。1日の疲れを癒すように脱力しながらボーっとしていると再び不意にヴィヴィオの質問が頭の中を過ぎていく。
理想の旦那さん、フェイトちゃんとヴィヴィオと3人で暮らしている私には無縁で考えた事も無かった事だ。
「理想か……」
ボーっとしている頭で思い浮かべる。理想の旦那さんとやらを。どのような人かというのが色々と浮かび上がってくる。
強くて、優しくて、カッコよくて、いつも一緒にいてくれて、それでいて……
「って、それは旦那さんじゃないよ」
首を横に振って、頭からさっきの思い浮かんだ人を振り払う。その人は決して離れることなく一緒にいてくて、強くて、優しくて、カッコいい人である事は間違え無かった。でも、その人は旦那さんではなく親友だ。
そう、艶やかな黄金の髪の毛と私をしっかりと見据えてくれるあの紅色の瞳。私よりも豊かな胸部、しっかりと引き締まった腰に色気のある臀部。彼女の姿が頭から離れなくなっていく。むしろ鮮明になっていく。
「なのは、お邪魔するね」
「あ、うん」
鈍感だけど、でも、気にならないほど愛おしくて可愛らしい彼女。親友だと言い聞かせて心を偽ったいた大好きな彼女。そう、目の前でシャワーを浴びている彼女のようで……
「!?」
「どうしたの?」
「にゃははは、なんでも無いよ。ちょっと滑っちゃっただけ」
驚きで声にならない叫び声をあげる。いつの間にか目の前で裸体を晒してシャワーを浴びているフェイトちゃん。いや、シャワーを浴びるのだから裸体なのは当たり前なのだが、2人きりだからなのかタオルも巻かずにいる。
手早くシャワーを済ませてお風呂に入ってくる。肌と肌が触れ合うかどうかのギリギリの距離。離れたくないけど、離れないと鼓動が伝わりそうなこの感じはいつになっても慣れやしない。
「…やっぱり。今日、なのはの様子おかしいよ」
「そ、そんな事無いよ」
「だっていつもならお風呂に一緒に入る位じゃ焦ってないもん」
その言葉に体がビクンと反応してしまう。確かにそういう意味では普段とは絶対に違うだろう。ヴィヴィオの単なる好奇心がまさかここまで響くとは誰が予想しただろうか。しかも今日に限ってこういう大胆な行動をしてくるフェイトちゃん。もう図っているようにしか思えない。
「何かあったの?大丈夫?怪我したりしてない?」
「だ、大丈夫だから!別にそういう事じゃないから」
「それじゃあどうしたの?」
狭い浴槽の中で詰め寄ってくる。おかけで余計に動揺してあたふたしてしまう。お風呂の温度と緊張とで顔が赤面してるのがすぐに分かる。
今の格好は私が下で浴槽に押し付けられ、フェイトちゃんが肩を抑えるように手を当てて私に跨っている。大変危険な状態だ。
「言わなきゃダメ?」
「ダメ。普段ならいいけど、今日のなのははおかしいからダメ」
「うぅ…ホントにダメ?」
「ダメ。絶対ダメ」
固唾を呑む。覚悟を決めるしかなく、もう言ってしまうしかない。私は貴女が好きで、大好きで堪らないと。そして、貴女が理想の旦那さんだと。
乗っかるようにいるフェイトちゃんの首に手を回して顔を近づける。抱き合うようにして、耳元で囁く。
「フェイトちゃんは私の大好きな人で理想の旦那さんなんだ」
スルッと首にある手を解いてゆっくり湯船に戻る。フェイトちゃんは腕や顔は固まったままだが、まっすぐ前を向くように湯船に浸かる。
時差ボケならぬ時差羞恥でどんどんと顔が赤くなっていく。生憎この場にいられるほどのメンタルがすり減っていて、留まる事ができそうになかった。
「さ、さ、先に出てるね」
足早に湯船から出て、ベッドへと向かう。
完全に乾いていない髪の毛と着崩れしたパジャマのまま布団へと潜り込む。バクバクと鼓動は鳴り止まず、むしろ加速していく。自分にしては大胆な行動をしたと思う。
今まで胸にあったモヤモヤ感は完全に消えた。しかし別のものがそこに入り込んできた。不安という気持ちが遠慮なく割り込んできた。嫌われたらとかそんな事しか考えれない。
寝ようにも寝れず困っているところ、扉が開いてフェイトちゃんが入ってきた。思わず狸寝入りしてしまう。
「なのは、起きてる?」
「……」
「…じゃあこれは私の独り言だね」
そう言うと、私と間にいるヴィヴィオとを抱くようにして喋り始めた。
「私ね、嬉しかったよ。なのはに好きって言ってもらえて。あれは多分、友達としてとかじゃなくて女の子として…だよね。だからね、私、決めたよ」
ヴィヴィオと私を包んだ手を強く抱きしめる。苦しくならないように、優しく、強く、温もりを感じさせてくれる。
「なのは、好きだよ。私、理想の旦那さんになれるか分からないけど、なのはの旦那さんとして頑張るね」
私は、かつてない程に熱くて熱くて眠れない夜になった。意識が薄れはじめたのは日が昇る頃だった。
☆ ☆ ☆
「うーん…」
眩しい光が差し込んでくる。鳥のさえずりは聞こえず、目覚ましの音も聞こえない。横を向いても誰もいない。仕方なくリビングへと出ると、衝撃の事実と向き合うことになった。
「もう11時」
そんな訳でヴィヴィオの姿は無かった。フェイトちゃんは玄関に靴があったのでどこかにいるはずなのだが、寝ぼけているのか動く気になれない。
「朝ごはん、どうしたんだろう」
気になりキッチンのシンクを見ると、2人分食べ終わった食器が入っている。ということは、ヴィヴィオもフェイトちゃんも済ませてあるということだ。
「あ、起きてたんだなのは。おはよう」
「あー、おはようフェイトちゃん」
「待っててね、朝ごはん作るから。洗濯とかはもうしておいたよ」
「ありがとう」
昨夜乾かし忘れたので髪の毛はボサボサで、着崩れた状態で寝たため凄い事になってるのに気づく。急いで直して座る。
フェイトちゃんの用意してくれた今日の朝ごはんは、目玉焼きにソーセージ、サラダとトーストという定番の朝ごはん。けど、普通のよりも何倍も美味しく感じた。
食べ終わって、ゆっくりしているとフェイトちゃんが真正面から真横に移動してきた。
「なのは、左手出して」
首を傾げながら左手を差し出すと何かを薬指に付けたのが分かった。ゆっくりとフェイトちゃんの手がどけられると、そこには銀色の指輪があった。
「私、旦那さんになるって決めたから。その証だよ」
「でも…」
「いいの!なのはが私の奥さんなの。だからね」
しゃがんでいたフェイトちゃんは立ち上がって、私もそれに合わせて立ち上がる。
「私と結婚してください」
差し出された手を掴むようにして、微笑む。
「喜んで」
こうしてフェイトちゃんは私の旦那さんとなった。
お題の旦那さんという事でなのフェイの結婚までのお話しにさせていただきました。お題が旦那さんという事なので、理想の旦那さんがフェイトちゃんななのはを書きました。やっぱりなのフェイは最高ですね。それにヴィヴィオも追加されたんじゃ何も敵いませんよ
毎日ではないですが、短編書いてるので良かったら他の作品もいかがでしょうか。読んでいただけると嬉しいです