「いやぁ、面白かったね!」
あたしたちはスタジアムからキャンプ場へ向かっている。つい先ほど、試合が終了したんだ。勝ったのはアイルランドだけど、スニッチを獲ったのはクラム──ブルガリアだった。終了直後に、フレッドとジョージがとてもいい笑顔でバグマンさんに手を突き出してたから、多分、賭けがドンピシャだったんだろう。
アイルランド勢はお祝い騒ぎ、ブルガリア勢も別ベクトルでのお祝い騒ぎだ。ブルガリアは試合には負けたけど勝負には勝ったって感じだから。
あたしはテントに戻り、試合の余韻に浸りながらペットたちに囲まれて眠りについた。
突然、大きな音がした。爆音と──悲鳴。何事かと思っていると、ママが飛び込んできた。
「起きてる?よし、みんなを家に送還して、すぐに逃げなさい。闇の魔法使いたちが襲撃してきたわ。──多分、すぐに鎮静するでしょうけど」
心配そうな顔をするペットたちを家に戻す間、時々外を見て見たけど、仮面の魔法使いがロバーツさんその他数名を浮かばせていたり、魔法を逃げ惑う人たちに使っていたりしていた。そして、どこからか飛んできた朱槍に仮面の人たちが数名吹き飛ばされてた。
ペットたちを送還し終えて、森の中へと入る。すぐ近くに赤い光が見える──燃えている?
「森に火がつけられてる?」
まだ被害は少ないけど、このままだと森の生き物たちに被害が出てしまう。なんとかして鎮火させないと……!
「水、水を出さないと……!呪文じゃ量が少ないし、水を大量に出せる生き物……あ」
気づいた。そうだ、水で消すんじゃなくて、燃えてる木を壊してそれ以上燃え広がらないようにすることもできるじゃん。
「〈
杖の光からグレイル──グラップホーンが出てきて燃えてる木に突進し、その鋭い角で壊していく。何度か火の粉が当たってるけど、さすがはドラゴンよりも強靭な皮。まったく火傷していない。
少しして、燃えていた木は全て壊され、さらに踏みつけられることで完全に火も消えた。
「【お疲れ様、グレイル】〈
グレイルも家に帰し、森の奥へ進もうと思った時、じーっと狼がこちらを向いているのを見た。この前見た三尾のシュヴォルフだ。その子はトテトテとこちらに近づいてきて、あたしの前で座り込んだ。まるで、指示を待つかのように。
「えーと、これは……認められ、た?」
こんなタイミングで、シュヴォルフに懐かれてしまったみたいだ。嬉しいけど、なんか複雑。
ドンッと音がして近くに何か落ちてくる。──仮面の魔法使いだ。気絶してる。一体、キャンプ場の方では何が起こってるんだろう。あたしはキノ──今名付けたシュヴォルフ(女の子)の名前だ──とともに、さらに森の奥へと入っていった。
一方その頃キャンプ場では
「ワシらの酒盛りの邪魔をしたのだ、慈悲はないぞ!」
「そこの黒タイツに同意するわ。闇の魔法使いだかなんだか知らないけど、巫女をなめないでよね」
「リナリーに怪我があったらどうしてくれるんだー!いっけぇコムリンmarkⅡー!」
「やれやれ、キャスパリーグがどうしてるのか気になったりしてこちらに出てきて、ついでにスポーツ観戦に来たらどうしてこうなるんだろうね」
死喰い人たちはガクブルしていた。
グラップホーン
M.O.M.分類XXXX
ヨーロッパの山岳地帯に生息する。大型で灰色がかった紫色をしていて、背中にはコブが一つあり、長く鋭い角を持つ。極めて攻撃的で、時々山トロールが飼い慣らそうとしているが逆に攻撃される。角の粉末は魔法薬に使われるが非常に高価。また、皮はドラゴンよりも強靭で、ほとんどの魔法を跳ね返す。
シュヴォルフ
前々話で説明。懐いた理由は火消しを見てたから。一目惚れに近い。キノと名付けられた。名前の由来は電撃文庫の『キノの旅』より。