全員の視線があたしに向くのを確認しながら、あたしはスキャバーズが変身解除した男に話しかけた。
「あなたがピーター・ペティグリューでいいんだよね?やっぱり、入学前のスキャバーズ人間説は正しかったわけだ」
「ああ、こいつがワームテール……ピーター・ペティグリューさ、リアス」
シリウスが笑いかけてくる。
「さて、色々とハリーたちは驚いているだろうから最初から説明させてもらおう。まず、私は無実の罪で投獄された。より正確に言えば冤罪だね。なぜ誰も疑問に思わなかったのか。人を魔法で殺すのなら、爆発させるよりももっと確実な方法があるのに、なぜ爆死させたのか。まあ、それは些細なことだ。
私はジェームズに頼んで、〈忠誠の術〉と言う古い契約呪文をかけさせた。誰かの体内に秘密を仕込み、その秘密の守人が口外しない限りは誰にもその秘密は明らかにできない呪文だ。最初、ジェームズは守人として私を選んだ。でも、私はそれを断った。ジェームズの無二の親友として知られていたからね、私は。『闇の帝王』が狙ってくるのは私だろうと踏んで、別の人間を守人にしてもらった。ああ、誰も思いもしなかっただろうね、あの弱気で簡単に口を割りそうなピーターが秘密の守人だったなんて」
シリウスが一気に喋り、ピーターを睨みつける。彼は後ずさるが、すぐに壁にぶつかった。
「その結果がこのザマだ。ジェームズとリリーは死に、ポッター夫妻の一人息子のハリーはマグルの元へ。聞いたよ、酷いマグルたちなんだろう?リリーの妹だったか姉だったか忘れたが、慈愛に満ち溢れたリリーとは真反対なんだとか。
ともかく、私はピーターを追いかけた。そして、忘れもしない十二年前のあの日、私はこいつを追い詰めた。ああ、頭に血が上っていて冷静じゃなかったんだろうね、その時の私は。マグルの街のど真ん中でピーターを追い詰めるだなんて。そして、ピーターは自爆し、自ら指を切り落として逃げ去り、置き土産に私を犯人とするようなセリフを爆破前に言い放った。あとは知っての通り、私は拘束されアズカバンに連れていかれた。その時はピーターへの怒りとジェームズたちへの悔恨、ハリーの心配で頭がいっぱいだった。だから、吸魂鬼たちの中でも無事だったんだろう。
転機が訪れたのは夏、ウィーズリー一家がエジプト旅行へ行ったという記事だ。そこで、スキャバーズ──ワームテールを見つけた。あとは犬に変身して脱獄、泳いで海を渡ったというわけだ」
「そのあと犬に食われてたけどね」
シリウスのセリフの合間に、あたしのセリフを挟む。シリウスはバツの悪い顔になった。
「そのことは触れないでくれ。さすがにトラウマ気味なんだ」
「いいじゃん。なかなかないことだよ、神話の生き物に丸呑みされるだなんて」
「あー、リアス、パッドフットに何があったんだい?」
「ケルト神話の生物の一種、狗頭の海獣コインヘンに丸呑みされました。その少し後にあたしとママがコインヘンと会って、吐き出されたシリウスを回収したの。あと、去年ロックハートを再起不能にしたのもコインヘンだったよ」
うなだれるシリウスと唖然とするシリウス以外の一同。ほんと、丸呑みされてよく生きてたよね。
「それで、うちで匿ってたのよ。ママに協力してやってって言われたしね」
「本当、エリザには感謝しかないよ」
「な、リアスはエリザの娘だったのかい?ファミリーネームが同じだけかと思ってたよ……エリザは誰と結婚したんだい?」
「ママは独身であたしは養子」
ママの知り合いに会うたびにこのやり取りをしてる気がする。あとピーターは追い詰められてるって自覚ある?
「……あとはまあ、この屋敷を拠点としてピーターを探し回っていたというわけだ。ハリー、君が箒で飛ぶのも見てたよ。ああ、本当にジェームズそっくりだった。ファイアボルトの調子はどうだい?使いやすいだろう?」
「え……まさか、マクゴナガル先生もシリウス・ブラックが無罪だってことを知ってるの?」
シリウスのセリフから、ハーマイオニーが核心に近づく質問を出す。頭がいいね、本当に。
「それどころかダンブルドアも知っているさ。最近になって、ハグリッドやフリットウィック、それにファッジも知ったようだけどね」
「そういえば、三本の箒での先生たちの会話、途中から聞きづらくなったけれど、まさかそのことを話していたのかしら」
ハーマイオニーがズバズバと真実を導き出していく。正直言って怖い。
「さて、話すことも話した。私としては今すぐにでもこいつを殺りたいところだが、ハリー、君は私のことを信じてくれるかい?いや、多分信じてくれないだろうね」
「……ブラックが──シリウスが無罪だって証拠は、ピーター以外には……?」
「ああ、ファーストネームで呼んでくれるだなんて──そうだね、私とピーターに強力な
「なら、殺しちゃいけない。信頼できる全員の前でこいつ自身に話させるべきだ」
シリウスとルーピン先生は目を見開いてハリーを見つめた。
「しかし、こいつは君の両親を──」
「それでもだよ。いや、それだからこそなんだ。僕の父さんは親友には犯罪者になって欲しくないはずだ。たとえそれが、自分の仇打ちだったとしても」
「追加でこんな証拠もとっておこうか」
あたしは懐からカメラを取り出し、パシャリと一枚写真を撮った。え、なんでカメラを持ってるのかって?気にしたら負けだよ。
「さすがだ、リアス。グリフィンドールに十点あげたいところだね。ついでにセブルスも起こそうか。気絶にも効くといいんだけどね。〈
端っこの方で血を流して倒れていたスネイプ先生の体が一瞬痙攣し、ゆっくりとだけど立ち上がる。シリウスの方を見て身構えたけど、ピーターを確認すると何かを言おうとしていた口が動かなくなった。
「さてセブルス。ピーター・ペティグリューは生きていた。シリウスは無罪だった。帰り着いたら真実薬を二人に頼むよ。とびきり不味いのをね」
「……ちっ。納得はしていないが、だいたいの状況は掴めた。だが、このまま外に出ていいのかねリーマス。本日分の脱狼薬を飲んでいないだろうが。我輩の心遣いを無駄にするつもりですかな?」
「よし、すまなかった。誰か私を失神させてくれるかい?」
「ええ、そうさせていただくとしよう。〈
スネイプ先生が杖を手に取り、ルーピン先生を失神させる。なにこの状況。
「えっとね、リアス。ルーピン先生は
……よし、納得した。
「ムーニーは私が運ぼう。すまないが誰か、ピーターを縛ってくれ。呪文はわかるね?」
「大丈夫だよ。〈
杖をピーターに向け、ロープで縛り上げる。
「逃げようだなんて思わないでね」
隙をみて逃げ出そうとしてるかのように、少しの間キョロキョロとしてたけど、諦めたのかがっくりとピーターはうなだれた。
「〈
シリウスの声とともに、スネイプ先生を一番最後に、ハリーを一番前にして屋敷の抜け道へと移動し始めた。
カメラに関してはヨハンナが持たせてたってことでどうか一つ……