──夢を見た
──この世全ての光を見た
──この世全ての闇を見た
──我らは溶かした
──彼の力を溶かし、魔力とした
──彼の象徴を溶かし、魂の支えとした
──ならばこそ、我らに責任があるのだろう
──彼女が特異な力を得てしまった責任は
──だが
──彼女がその力を喜ぶのなら
──彼を苦しめ、我々を苦しめたその力の片鱗を愛し、愛されるために使うのなら
──それもまた一興である
──我らは歌を編もう
──代表として名乗る
──我が名はナ────
少しして行き逢ったスフィンクスの
そして、百メートルほど先にとうとう優勝杯が見えた。そして、セドリックがそれに向かって走っているのと、左の生け垣の上に、巨大な蜘蛛──アクロマンチュラには届かないようだけど、それでもホグワーツの一年生ぐらいはある大きさの蜘蛛がセドリックめがけて走っているのを見た。セドリックは、それに気づいていない。
「セドリック!左を見て!」
セドリックが蜘蛛に気づいて、避ける。けど、足がもつれて転び、杖を手放してしまった。蜘蛛はセドリックにのしかかろうとしている。
「〈
蜘蛛の胴体に呪文を直撃させる。けれど、あまり効果はなかった。それこそ小石をぶつけたぐらいにしか。
ただ、それでも蜘蛛の獲物が僕に変わるには十分だったようだ。
「〈
呪文をいくらぶつけても意味がなく、とうとう噛まれてしまった。激痛が足に走る。
がむしゃらに、僕は一つの呪文を唱えた。僕が最も信頼している呪文の一つを。
「〈
この呪文は有効だったようで、蜘蛛は僕を取り落とし、間髪入れずに、再び失神呪文を使った。ただし、今度はセドリックも同時に。
さすがに同一呪文の重ねがけには耐えることはできなかったようで、蜘蛛はズシンと大きな音を立てて倒れた。
「ハリー、大丈夫か?」
セドリックが駆け寄ってくる。大丈夫だ、と笑おうとして、足から血が出てることに気がついた。歩くのに支障が出るか出ないか、そのぐらいの傷だ。でも、走ることは確実に無理だろう。
「セドリック、君が優勝だよ」
セドリックが目を丸くして、僕を見つめる。
「僕よりも先に君が到着したんだし、僕はこうして、走ることが困難だ。今から走っても、君には勝てない」
「いやだ」
セドリックが子供のように答える。
「僕は君に二回も救われた。優勝すべきなのは僕じゃない、君なんだ、ハリー」
「そんなルールじゃない」
「それでも、だ。ああ、ついでに、君には第一課題のことを教えてもらった。ドラゴンだと知らなければ、僕は第一課題で落伍していたさ」
「あれは、僕も人から教えてもらったんだ。それに、セドリックには卵のことで助けてもらった」
「僕も卵のことははじめから人に助けてもらったんだ」
セドリックは優勝杯から離れて、杖を出した。
「ああ、僕は君に優勝してもらいたいと思っているんだ、ハリー。でも、君がそれを拒むなら──対等にしてしまえばいい。〈
杖を怪我に向け、応急処置の呪文を唱えるセドリック。十分に足は治り、走ることもできるようになった。
セドリックは立ち上がった僕の隣に立ち、優勝杯に向き直った。
「二人一緒に走り出す。それで、決着をつけよう」
どうしても、セドリックは公平にしたいらしい。何百年とハッフルパフが手にしてこなかった栄光を放り投げることになっても。
そして、僕たちは走り始めた。たった百メートルの道が長く感じた。光輝く杯に手を伸ばす。そして、同時に取っ手を掴んだ。
次の瞬間、優勝杯に引っ張られた。まるで、
目を開けると、そこは、どこかの墓場だった。綺麗な星々が見える、暗い墓場だ。どうやら、拉致されてしまったらしい。