「愛のため! 友のため! 世界のため! いつでもどこでもあなたのお悩み解決します! よろず相談魔法少女、スノーホワイト!」
「見参!
「チーム・トップスピード所属! 初代総長トップスピード!
「闇に生き、闇に死すが外道の
ツンデレ。
「私はいいと思う」
床に、女性が仰向けに横たわっていた。マタニティドレスを着ていて、お腹が膨らんでいる。妊婦だ。年齢は、十代後半ぐらいだろうか。髪は、三つ編みにしてまとめてあった。
そこには、相棒がいるはずだった。『御意見無用』のコートを布団代わりに躰にかけ、横たわった相棒がいるはずだった。
肩口から胸にかけて、大きな傷があった。斬られていた。血が
床に膝を突き、女性の手を握った。冷たい。脈もない。なんの反応も、なかった。
最低でも、あと半年は生き延びなきゃいけないんだ。相棒が言っていたその言葉が、頭に浮かんだ。
なんで、なんで、なんで、なんでなんでなんで――。
なにに対するものかわからない、ただ、そんな言葉だけが、頭を埋め尽くしていた。
ひとつだけ、わかることがあった。
たったひとりだけの、大切な友だちを失った。
そこで、眼が
***
幼稚園から中学生のころまでは、理不尽に対しては暴力で反抗する、というスタンスで大抵の問題を解決してきたのだが、高校生ともなるとそうはいかない。
母親が連れてきた、五人目の自称義父に尻を撫でられ、その屈辱を拳で返し、荷物をまとめて家を出た。狭いアパートで、ひとり暮らしのはじまりである。生活のため、将来のため、バイトをクビになるわけにはいかないのだ。暴力沙汰などもってのほかである。
求めたのは、学校なりバイト先なりで嫌な思いをした時の気晴らし、ストレス解消の手段だった。そこで手を出したのが、『魔法少女育成計画』だった。
趣味に金をかけるのは愚か者のすることだ、というのが華乃の持論だ。ただでさえ高校生のひとり暮らしである華乃の生活は苦しく、あらゆる出費を切り詰める必要があるのだ。完全無課金のソーシャルゲーム『魔法少女育成計画』は、華乃の求めるものとしてピッタリだった。それまで持っていた二つの趣味、漫画の立ち読みと、図書館で読書に、新たな趣味が加わった瞬間である。スマートフォンは低価格化に成功し、携帯電話業界を席捲しているため、スマフォを対象にしたソーシャルゲームの数は非常に多いが、言葉通りの完全無課金など、これぐらいのものだった。
ゲーム経験はまったくなく、これがはじめてプレイするゲームとなったわけだが、なかなか面白いものだった。学校でゲームの話をする男子などを内心で小馬鹿にしていた華乃も、認識を改めたぐらいだ。もっとも、これ以外のゲームに手を出したことはないため、ほかのゲームも同じように面白いかどうかは知らないが。
家にテレビがあった、幼いころを思い出す時もあった。記憶の中の華乃は、テレビの中の魔法少女と一緒に笑っていて、そういえば自分にも、魔法少女が大好きだった時期があったんだなあ、と
他人との対戦や協力プレイは、面倒くさいという思いや
一日三十分という制約を自分につけているため、ゲームの進行自体はかなり遅いが、楽しんでプレイしていた。変化があったのは、はじめてから一週間が経ったころだった。画面内でフワフワ動くだけだったはずのマスコットキャラ『ファヴ』に、話しかけられた。
なにかのイベントでも起こるのかとボタンを連打していたら、
『魔法少女育成計画』で設定していたアバターである、忍者っぽい外見だった。和服と水着を足して二で割ったようなコスチュームに、それに似合うように設定した、黒い髪、切れ長の目、薄い眉。こうして実際に魔法少女になってみると、魔法少女としては地味だなと思った。
忍者としてはお約束の赤い
最初に変身した時は、姿見の前でポーズなどもとってみた。ニッコリと笑顔を浮かべたり、チュッと投げキッスをしたり、いろいろとやってみたが、どれもそれなりにさまになっているような気がした。少なくとも、本来の姿である『細波華乃』としての姿では似合いそうにないポーズも、似合っているように思えた。華乃は同年代の女子の中ではかなり体格がよく、それどころか男性の平均よりも身長が三センチほど高い。躰もがっちりしている。『リップル』の姿は、身長、体重、体格、どれもが女性的なものになっていた。
『リップル』という名前は、苗字である『細波』を英訳してつけたものだった。ゲームでやっている時は特に気にならなかったが、実際にその姿になってみると、和風の姿に洋風の名前で、いささかチグハグな印象を受けた。アバターの変更は可能かとファヴに訊いてみたが、魔法少女になれるようになってからは不可能と言われた。なんとも言えない気持ちになった。
魔法少女として選ばれた者には、人助けをして欲しいのだと言われた。人助けには特に興味はなかったが、この魔法少女としての美しい外見や、人並み外れた力、行使できるだろう魔法には、強い魅力を感じた。
すぐに魔法少女としての活動がはじまるかと思ったら、そうではなかった。まずは、先輩魔法少女からレクチャーを受けなければならなかった。人間関係というものが面倒くさく鬱陶しいから、『魔法少女育成計画』に手を出したというのに、その『魔法少女育成計画』でも人間関係に悩まされるのかと、
ともあれ、その先輩魔法少女が、トップスピードだった。リップルのトップスピードに対する第一印象は、馬鹿っぽい、だった。
一見すると魔女っぽい外見、はいいとして、『御意見無用』と背中に刺繍されたコートに、バイクのような風防やハンドル、マフラーやブースターが取り付けられた箒を見ては、ああ、馬鹿なんだな、と思うしかなかった。想定していた先輩魔法少女のランクを一段階下げたものだった。一人称が『俺』で、馬鹿笑いを上げるという最初の挨拶で、ランクはさらに下がった。
諸々の説明が終わり、トップスピードが箒に跨って夜空に消えたあと、舌打ちをしてからファヴを呼び出した。
ああいった説明役は誰が決めてるの、と訊くと、親切な魔法少女が自主的に行なっているとの答えが返ってきた。トップスピードの説明はほかの魔法少女の三倍時間がかかるけど、それだけ丁寧に教えてくれるものだという言葉を聞き、押しつけがましい親切だったということと、必要以上に長かったという説明に、リップルは舌打ちをした。トップスピードの評価は、『馬鹿っぽい先輩』から、『先輩っぽい馬鹿』に変更された。
なぜかその後も、トップスピードはちょくちょくリップルのところに来た。舌打ちをくれたり、もう来なくていいと直接告げても、ツンデレだね、で片付けられた。話が通じない相手だと認識し、ほとんど相手をしないようにしたが、それでもトップスピードは気にせずリップルのもとに来て、話すだけ話して帰っていく。いつのころからか、タッパーに料理を入れてやってくるようになった。意外なことに、料理はかなり美味かった。
そんなこんなで魔法少女として活動していたら、いつの間にかトップスピードとコンビを組んでいることになっていた。
黒いな。新たに生まれたという十六人目の魔法少女を見た時、最初にリップルが思ったのは、そんなことだった。
エプロンドレスというのか、そんな感じの衣装を身に纏っており、白い兎のぬいぐるみを抱いている。なんとなく、童話『不思議の国のアリス』の主人公、『アリス』を思い出した。もっとも、配色はほぼ黒一色で、無表情にこちらを見つめるその姿からはどうにも辛気臭さが拭えない。また、魔法少女の例に漏れず美少女ではあるのだが、ほかの魔法少女に比べて肉付きがやや悪く感じ、猫背気味で、眼の下には濃い
そこまで見てとったあと、露出度に関してはともかく、配色に関しては自分もそう大差ないことに思い至った。なにに対するものかわからない舌打ちを、リップルは心の中でした。
トップスピードが箒の高度を下げ、地上に降り立った。
リップルは箒から降りると、十六人目の魔法少女に近づき、むかい合った。トップスピードは、リップルたちからちょっと離れた位置で、こちらを見守るように
なんの因果か、リップルが彼女の教育係をすることになってしまったのだ。いや、なんの因果もなにも、リップルの相棒、いや自称相棒が勝手に決めてしまったのだが。
十六人目の魔法少女とお互いに見つめ合ったまま、少しばかり時間が経った。
「なあ、あんたら、そろそろどっちか喋ろうぜ?」
トップスピードが、呆れたように言った。誰のせいでこんなことになったと思っている、と横目で彼女を見て、リップルは舌打ちしそうになった。
心の中でトップスピードにむけて舌打ちすると、目の前の魔法少女に視線を戻した。
「私は、リップル」
「ハードゴア・アリスです」
十六人目、ハードゴア・アリスが静かに言った。
それで、お互いに言葉が止まった。そのまま数秒経ったところで、トップスピードが呆れた様子で口を開いた。
「ようやく口を開いたと思ったら、それで終わりかよ、あんたら。ったくもう、ほら、リップル。魔法少女の先輩として、教えなきゃならねえことがあるだろ?」
「わかってる」
舌打ちこそしないように気をつけてはいるが、声の不機嫌な感じは隠しきれなかった。しかしハードゴア・アリスは、特に気にした様子もなくリップルの顔を見つめている。
トップスピードにむけて軽く指差すと、ハードゴア・アリスが彼女に視線をむけた。
「とりあえず、あっちの魔女っぽいのは、トップスピード」
「はい」
「魔女っぽいって」
トップスピードがどこか複雑そうに言ったが、リップルは構わなかった。ハードゴア・アリスも気にせず頷いていた。
手を下ろしたところで、ハードゴア・アリスがリップルに顔をむけた。再びお互いに顔を見合う。
「魔法少女の仕事は、人助け。人助けをして、マジカルキャンディーを増やす」
「はい」
ハードゴア・アリスが頷いた。なんとなくだが、さっきより反応が強かった気がした。魔法少女としての人助けに興味があるのだろうか。そんなことを考えるも、必要以上に干渉する気はなかった。
前にトップスピードから教わったことを思い出す。トップスピードの説明は、ほかの魔法少女の三倍ほど時間がかかったがその分、丁寧に教えるものだったという。
リップルとしては、ほかの魔法少女と同じぐらいの時間で説明を終えたいところであるが、そんな説明をすると、トップスピードにいろいろ口出しされるような気がしたので、結局彼女と同じような説明をすることにした。
まずは、
ハードゴア・アリスに、パーソナルデータを開いて確認させてみる。なんとなく、画面を見てちょっと落ちこんだように見えたが、リップルは特になにも言わなかった。リップルも、パーソナルデータで確認した自分の性格に、『人間嫌いで暴力的』などと書かれてあって、自覚はあるが腹が立ったものだった。
「魔法は、ゲームとは違って、ひとりにつきひとつだけ。増えたりすることはないらしいけど、額面通りの効果しか発揮されないというわけじゃないらしい」
「はい」
ハードゴア・アリスが頷いた。多分、相槌を打ったような感じなのだろうと思った。自分が言えたことではないが、口下手なのだろう。複雑ではあるが、心のどこかに親近感のようなものがあった。
リップルの魔法は、『手裏剣を投げれば百発百中だよ』というもので、それは能力や魔法というより技術の類ではないのか、と思えるものだ。あまり魔法少女っぽくも忍者っぽくもない、とがっかりしたものだった。別に忍者に思い入れがあるわけではないが、地味だなと思った。分身とか
ただ、『手裏剣を投げれば』と説明に書いてあるものの、効果は手裏剣に限ったものではなかった。リップルが投げれば、なんでも百発百中になるのだ。正確に言うと、リップルが『狙いをつけて』手で投げた物は、それがなんであっても、その目標としたものに飛んで行く。見当違いの方に投げても、軌道を変えて飛んで行くのだ。これなら、確かに魔法と言えるだろう。地味だが。
もっとも、外的要因で防がれるというのはある。投げた物が
背中には忍者刀も背負っており、これも武器として使用できる。以前、カラミティ・メアリに撃たれたことがあったが、彼女の撃った拳銃弾を弾ける程度には強度もあった。ほかにも、袖口に小刀が仕込んであったりする。
「『どんなケガをしてもすぐに治るよ』」
「ん?」
「私の魔法のようです」
「そう」
「はい」
ハードゴア・アリスの言葉にリップルが頷くと、彼女もまた頷いた。
「いや、あんたら、なんつーか、こう、明るく話せとは言わねーけど、もうちょっとリアクションとろうぜ――」
トップスピードが、なにやら頭を抱えていた。気にせずに説明を続ける。
一般人に正体を知られてはいけない。
魔法少女のルールや力を一般人に話してはいけない。
この二つの決まり事を破ったら、魔法少女としての資格を
週に一度チャットがあり、強制参加ではないものの、重要な連絡があったりすることもあるため、なるべく参加した方がいい。
一部の魔法少女は縄張り意識が強いため、ほかの魔法少女の担当地区に行く場合は注意すること。
「カラミティ・メアリの城南地区と、ルーラの西門前町には、行かない方がいい。カラミティ・メアリはだいぶ危険なやつで、いきなり撃たれる可能性もある」
「はい」
「ルーラは、そこまで危険なわけじゃないらしいけど、かなり口うるさいらしい」
「はい」
こんなところだろうかと、ちょっと考える。トップスピードを横目で見ると、苦笑しながらも親指を立て、サムズアップしてきた。OKということだろう。内心で、ほっと胸をなでおろした。
「っ、チッ」
思わず舌打ちしていた。ハードゴア・アリスが首を傾げる。
「ごめん、気にしないで」
「はい」
視線を逸らしながら言うと、ハードゴア・アリスはやはり素直に頷いた。
舌打ちしてしまったのは、まるでトップスピードに頼るようなことをしてしまった自分に、気づいたからだ。
トップスピードが、近づいてきた。
「おう、お疲れさん、リップル。ハードゴア・アリスもお疲れさん。魔法少女としてのルールとか、ちゃんとわかったかい?」
「はい」
「よし。ほかに気になることがあったら、なんでも聞いてくれていいぜ?」
「では、ひとつお聞きしたいことがあるのですが」
「ん?」
「『白い魔法少女』を、ご存知ですか?」
ハードゴア・アリスの言葉に、二人で顔を見合わせた。
ハードゴア・アリスの方に二人で顔を戻す。トップスピードが、口を開いた。
「『白い魔法少女』ってーと、スノーホワイトのことか?」
「学生服みたいな衣装の」
「ああ、そんな感じだな」
「どこにいますか?」
「担当地区は倶辺ヶ浜だけど。って待った待った」
それまでのボーっとした挙動が嘘のような食いつきにリップルが呆気にとられていると、ハードゴア・アリスが
ハードゴア・アリスが、ふりむいた。
「スノーホワイトの担当地区に行くのは、駄目ですか?」
「いや、んなこたねーけど、なんでスノーホワイトのところに?」
「それは」
ハードゴア・アリスがちょっとだけ顔をうつむかせ、顔を上げた。
「お礼が、言いたくて」
「お礼?」
「はい」
声は小さなものだったが、強い光が瞳に
うーん、とトップスピードが声を洩らし、よし、と頷いた。
「んじゃ、ちょっくら行ってみっか」
「え?」
「俺の箒に乗って行けばあっという間だぜ。さー、乗った乗った!」
トップスピードが箒に
ため息をつき、リップルは頷いた。
「こいつは、いつもこんな感じなんだ。デリカシーがなくて、お節介を焼きたがる」
「ヒデェ言いようだなあ」
リップルの言葉に、トップスピードが苦笑した。まったくツンデレなんだから、などとでも思っているのだろう。なんとなく舌打ちする。
「嫌だったら、断っていいと思う」
「はい。いいえ」
ハードゴア・アリスが言い、トップスピードに近づいた。箒を見て、トップスピードの顔を見た。乗せて貰うことにしたようだ。
トップスピードが首を傾げ、得心がいったように頷いた。
「ああ。箒に跨って、俺の躰に掴まってくれ」
「はい」
言われた通りハードゴア・アリスが箒に跨り、トップスピードの腰に手を回した。
今日は、ひとりでパトロールするか。
「ほら、リップル」
そんなことを考えていると、トップスピードが
「なに?」
「なに、じゃなくってさ。ほら、リップルも乗りな」
「私は、いい」
「そう言うなって。一応、ハードゴア・アリスの教育係はリップルなんだからさ」
チッ、と舌打ちして、
「よーし。二人とも、しっかり掴まっとけよ!」
「はい」
「チッ」
すでに馴染んでしまった浮遊感を覚え、風を感じた。空。ハードゴア・アリスが乗っているためか、普段よりスピードが抑えめのような気がした。
「どうよ、俺の魔法は?」
「すごく、速いです」
「おうよ。だけどよ、もっと速くできるぜ?」
「はい」
「ようし、んじゃ、行くぜ!」
トップスピードが楽しそうに笑い、いつもリップルとパトロールしている時と同じぐらいのスピードになった。ハードゴア・アリスの表情は変わっていないが、顔をあらゆる方向にむけている。どこか高揚しているようにも見えた。
しかし、二人ではなく三人で乗っていると、マジカロイド44の魔法の道具『魔法の箒性能強化マシーン』なるもので、トップスピードが暴走した時のことを思い出した。トップスピードいわく、箒のスピードだのパワーだの小回りだのが向上し、かっ飛ばしたくなってしまったらしい。あれほどに死を感じたことはない。マジカロイドもそうだったのか、暴走が終わったあと、安堵から二人で抱き合ったほどだ。
「チッ」
「おいおい、どうしたんだよ、リップル。いきなり不機嫌そうな舌打ちなんかして」
「マジカロイド」
「えっ、あー、いや、マジカロイドの件は悪かったって。現役時代を思い出しっちまったんだよ」
「チッ」
「はい」
大変だったんですね、とハードゴア・アリスに言われた気がした。舌打ちせず、頷いておく。
「っと、そうだ、リップル。スノーホワイトとラ・ピュセルに、いまからそっちに行くって連絡しといてくれ」
「なんで私が」
「いや俺、運転中だからさ。いいだろ?」
仕方ない、とマジカルフォンを取り出し、メールする。
文面はシンプルだ。これから新しい魔法少女を連れて、そちらに行く。
少しして、返事が来た。
わかりました。これから鉄塔に戻ります。
返ってきたのは、そんな文面だった。スノーホワイトからだった。
「いまは、パトロール中だったみたい。これから戻るって、スノーホワイトの方から」
「おう。わかった」
「あの、スノーホワイトは、『竜騎士』とか『黒い魔法騎士』とか呼ばれている魔法少女とよく一緒にいる、という話がありますが」
「うん。そいつが、ラ・ピュセル。あの二人は、コンビを組んでるから」
「俺とリップルみたいにな」
「チッ」
「いや、そこで舌打ちすんなよ」
トップスピードがまた苦笑した。
ハードゴア・アリスは、そこで黙りこんだ。スノーホワイトが気になるのだろうことは、さっきの話で見当がつく。しかし、あの二人が一緒にいる時に近くにいるのは、なかなかつらいものがあるのではないだろうか。そんなことを思う。
「まあ、アリスがどうしたいのかはともかく、まずは会ってからだな」
「はい」
トップスピードが言い、ハードゴア・アリスが頷いた。
やがて、鉄塔が見えてきた。近づいてみるが、二人の姿はなかった。まだ戻ってきていないようだった。
鉄塔の上に降り立った。箒から全員降りると、トップスピードがマジカルフォンを取り出した。
「着いたぜ、っと」
スノーホワイトたちに連絡したようだった。
そこまで間を置かず、スノーホワイトから返事がきた。もう少しで着くらしい。
ハードゴア・アリスに視線をむけると、特に表情を変えているわけではないのだが、どこか落ち着かないように見えた。
「大丈夫?」
「――――はい。ありがとうございます」
ハードゴア・アリスが、不意を
なんとなく照れくさくなり、視線を逸らした。
「別に、お礼を言われるようなことは、してない」
「ハハハッ、ほんと、リップルはツンデレだよな」
「だからツンデレじゃ」
「はい」
「いやそこで、はい、って言わないで欲しいんだけど」
「いいえ」
「えー」
ハードゴア・アリスの返事に肩を落とすと、トップスピードが背をむけて肩を震わせはじめた。笑いを
舌打ちしそうになったところで、近づいてくる気配を感じた。下を覗きこむようにして、あたりを見回す。リップルに変身している時は、感覚がかなり鋭くなっている。ある程度の距離なら気配を感じ取ることもできた。
鉄塔の方にむかって来る人影を、見つけた。
「え」
「どうした、リップル?」
「お姫様抱っこ、してる」
「は?」
駆けてくる人影はひとつ。スノーホワイトを横抱きにした、ラ・ピュセルだった。
こちらに気づいたのか、スノーホワイトがラ・ピュセルに抱かれたまま手を振ってきた。ちょっと恥ずかしそうに見えた。
どう反応していいのかわからず、トップスピードと顔を見合わせ、再びスノーホワイトたちに眼をやる。
ラ・ピュセルが、走りながらスノーホワイトを片手で抱き直した。スノーホワイトがラ・ピュセルにしがみつく。
なにをする気かと見ていると、ラ・ピュセルが片手で剣を抜き、その剣を地面に突き立てた。瞬間、ラ・ピュセルたちの姿が大きくなったように見えたと思ったら、鉄塔より高いところに、ラ・ピュセルたちの姿があった。地面とラ・ピュセルたちの間を、月の光を照り返すなにかが結んでいた。金属的な光沢。ラ・ピュセルの剣だ。
剣を伸ばした。それに思い至った直後、剣が縮み、空中でラ・ピュセルが片手で器用に剣を鞘に納め、スノーホワイトを改めて横抱きにした。ラ・ピュセルたちの姿が、大きくなっていく。
「っと」
ラ・ピュセルが、スノーホワイトを横抱きにしたまま、リップルたちのそばに着地した。音は多少響いたが、そこまで大きなものではなかった。
「ごめんなさい、お待たせしました!」
「すまない、待たせたな」
「あー、いや、いきなり押しかけたのはこっちだからな。気にしねーでくれ。それより、なんでお姫様抱っこなんかしてんだ?」
「えっ、いや私の方が足は速いからな。スノーホワイトを抱いても、私の方が速いし」
「いや、別におんぶとかでもよかったんじゃねーか?」
『えっ』
トップスピードがからかうように言うと、二人がハタと気づいたように声を上げた。恥ずかしそうにしながらも、ラ・ピュセルがスノーホワイトを優しく下ろした。
ゴホン、とラ・ピュセルが咳払いをした。
「それで、その子が新しい魔法少女かい?」
「はい。ハードゴア・アリスです」
「ラ・ピュセルだ。よろしく」
「スノーホワイトです。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
ハードゴア・アリスが、お辞儀をした。
「それにしても、挨拶回りかい?」
「いや、アリスがスノーホワイトに用があるみたいでよ」
「わたしに?」
「はい」
視線が、ハードゴア・アリスに集まった。ハードゴア・アリスが進み出る。
スノーホワイトとハードゴア・アリスが、じっと見つめ合う。妙な緊張感が漂いはじめた。
そのまま、十秒ほど経った。
「なあ、アリス。俺たちがいると言いにくいってんなら、離れておくけど」
めずらしく、トップスピードが気遣うように言った。
「いいえ、大丈夫です」
「そ、そうか」
ハードゴア・アリスが深呼吸した、気がした。あまりアクションが大きくないので、そんな感じがしたというだけだが。
「その、どうしてもあなたにお礼を言いたくて」
「お礼?」
「はい」
ハードゴア・アリスがスノーホワイトに手を差し出し、掌を開いた。掌には、鍵があった。
スノーホワイトが、二、三度ほど眼をパチパチとさせたあと、なにかに気づいたような仕草を見せた。
「この鍵、もしかして」
「はい。その節は、ありがとうございました」
ハードゴア・アリスが、小さく微笑んだ。
なるほどなあ、とトップスピードが言った。
「スノーホワイトに助けて貰って、それでお礼を言いたかったってわけか」
「はい」
「でもよ、なんかそれだけって感じじゃない気がしたんだけど」
「それは」
ハードゴア・アリスが言いよどんだ。ちょっとだけうつむき、遠慮がちに口を開いた。
「その、スノーホワイトと一緒に、魔法少女として人助けがしたくて」
「え?」
「それで、白と黒で、綺麗かなって」
「ああ、なるほど」
トップスピードが、納得したように言った。
ハードゴア・アリスが全身真っ黒の姿なのは、スノーホワイトと並んだ時のことを考えてのものだったのか、とリップルも納得した。
「ねえ、ラ・ピュセル」
「ん、なんだい、スノーホワイト?」
「ハードゴア・アリスも一緒に活動していいかな?」
「三人でチームを組むってことかい?」
「うん」
「もちろん、私は構わないよ。ハードゴア・アリスはどうだい?」
「私は」
すぐに承諾すると思っていたのだが、ハードゴア・アリスはなぜか口ごもった。思ってもみなかった反応にリップルは首を傾げた。周りもそうなのだろう、みんな首を傾げていたが、スノーホワイトがなにかに気づいたように、ハッとした表情を見せた。
ハードゴア・アリスが、リップルを見た。なぜこちらを見たのかわからず、リップルは眼をパチパチとさせた。スノーホワイトも、困ったようにリップルの顔を見ている。
トップスピードが、ああ、と納得したように声を上げた。
トップスピードが近づいて来てリップルの肩を抱き、向きを変えさせられた。ともに、背中を三人にむけるような恰好となった。
トップスピードが肩を組み、リップルの耳もとに顔を寄せた。
「ほら、リップル。あんたからも言ってやらねーと」
トップスピードが、声を
「なにをだ?」
「教育係だろ。あと押ししてやれって」
「あと押しって」
「多分、俺たちに気を遣ってるんだろ。結構遠慮する性格みたいだし。な?」
「――――わかった」
そう言うと、トップスピードが離れた。ハードゴア・アリスにむき直る。
しかし、あと押しと言っても、なんと言えばいいのだろうか。
「好きにすればいい」
「おーい、リップルさんよー」
トップスピードが、頭を抱えていた。ラ・ピュセルとスノーホワイトも同じだった。
ハードゴア・アリスは、相変わらずの無表情だが、ちょっとだけうつむいているような気がした。罪悪感のようなものが、ちょっとだけ胸に生まれた気がした。
「その、ハードゴア・アリスは、スノーホワイトと一緒に魔法少女として人助けがしたかったから、魔法少女になったんだろ。だったら、私たちに遠慮することなんてない。スノーホワイトたちもこう言ってくれてるし、言葉に甘えていい、と思う」
「――――はい」
ハードゴア・アリスが、お辞儀をした。ちょっとだけ微笑んだ気がした。
なんだか恥ずかしくなり、背中をむけた。トップスピードが苦笑しているのが見えた。
「その、よろしくお願いします、スノーホワイト、ラ・ピュセル」
「うん。よろしくね、アリス」
「よろしく、アリス」
背中から三人の声が聞こえた。トップスピードが近づいてきて、再びリップルの肩を抱いた。
「おう。よかったぜ、さっきの言葉」
「チッ」
トップスピードが苦笑し、リップルの肩にちょっとだけ力を入れた。スノーホワイトたちの方にむき直らされるかたちになった。むき直ると、トップスピードが離れた。
スノーホワイトとハードゴア・アリスが話をし、ラ・ピュセルが二人を見守るようにしている。そこに、トップスピードが近づいていった。
「ところでよ、ちょっとだけ腹ごしらえしないかい?」
「腹ごしらえ?」
ラ・ピュセルが首を傾げて言った。スノーホワイトたちも首を傾げている。
トップスピードがタッパーを取り出し、蓋を開いた。今日は煮物のようだ。タッパーは普段よりも大きめの物で、十六人目の魔法少女と会うからと、大きな物にしたのかもしれない。
「おう。このトップスピードお手製の料理さ。味は保証するぜ。なにせリップルが頬を緩めるぐらいだからな」
「トップスピード」
「ハハハッ」
余計なこと言うなという意をこめてリップルが
「まっ、とにかく食べてくれ」
「あ、ああ。じゃあ、私から。いただきます」
まずラ・ピュセルが箸を受け取り、おそるおそるといった様子で煮物に箸を伸ばし、口の中に入れた。ラ・ピュセルが、眼を見張った。
「美味いっ」
「ほんとだ、すごくおいしいっ」
ラ・ピュセルに続き、スノーホワイトも言った。二人とも顔をほころばせている。ハードゴア・アリスも、わずかに頬を緩めているように見えた。
「ほら、リップルも来いよ」
「私は」
「いいから」
スノーホワイトにタッパーを渡したトップスピードが、リップルに近づいて来て手を掴んだ。どうにも振り払えず、一緒にスノーホワイトたちのもとに行く。
リップルも、煮物に箸を伸ばした。いつもながら、
「美味いだろ?」
「べつ」
「とてもおいしいですっ」
別に、と言おうとしたリップルの言葉に、笑顔のスノーホワイトの言葉が重なった。なんとなく、自分の内心まで代弁された気がして、ちょっと恥ずかしくなった。
「トップスピードは、いつも料理を持ってきてるんですか?」
「いつもってわけじゃねーけど、だいたいはそうだな」
「それでリップルは、毎回こんなおいしいものを食べさせて貰ってるのか?」
「おう」
羨ましそうなラ・ピュセルの言葉に、リップルの代わりにトップスピードが頷いた。舌打ちしようとして、なんとなくできなかった。自分のペースが乱されている気がした。
「また機会があったら、食べてみたいな」
「あ、じゃあ今度はわたしがお弁当作ってくるよ。トップスピードほどおいしいのは作れないかもしれないけど、どうかな、ラ・ピュセル、アリス?」
「スノーホワイトの料理か。うん。ぜひ食べてみたいな」
「はい。では、私も作ってきます」
「おー、じゃあ、いっそのこと料理持ち寄って、魔法少女みんなで
「あ、いいですね、それ」
「はい」
「いいけど、カラミティ・メアリやルーラもか?」
「ルーラはあれで結構いいやつだからさ、そう
「チッ」
「いや、リップルがカラミティ・メアリのこと気に入らないのはわかるけどさ、伝えなかったら伝えなかったで面倒なことになると思わない?」
「誘われたからって素直に応じるやつじゃないだろ。それどころか、
「まあ、そうかもしれねーけどよ」
よく喋っているのは、やはりトップスピード、スノーホワイト、ラ・ピュセルの三人だったが、時々リップルやハードゴア・アリスにも話が振られた。
ハッとラ・ピュセルがなにかに気づいた。
「考えてみると、私の方が追加戦士っぽくないか」
「え?」
「あー、確かに。ひとりだけ剣持って鎧着た魔法少女だもんな。なんかジャンルが違う気がするな」
「や、やっぱり」
トップスピードが肯定し、ラ・ピュセルが頭を抱えた。
「ですが、スノーホワイトの相棒は、ラ・ピュセルです」
「アリス?」
「ラ・ピュセルがスノーホワイトを抱きかかえて来る姿は、とても綺麗でした」
ハードゴア・アリスは、そこで言葉を止めた。トップスピードが笑い、ポカンとしたラ・ピュセルの背中を叩いた。
「ほら、後輩に気ぃ
ラ・ピュセルが、再びハッとした表情を浮かべた。うつむいて息をつき、顔を上げた。
眼に、強い光があった気がした。
「ありがとう、アリス。そうだな。私は、スノーホワイトの騎士で、相棒だ。誰が仲間になろうと、それだけは誰にも譲れない」
「うんっ」
スノーホワイトが、顔を赤くしながらも嬉しそうに頷いた。ラ・ピュセルも顔を赤くしていたが、力強く頷いていた。ハードゴア・アリスも、不思議とどこか嬉しそうに見えた。
見ているこっちが恥ずかしくなってきた。ごまかすようにタッパーを見てみると、料理はほとんどなくなっていた。
頃合いだろう、と思った。
「トップスピード。今日はもう戻ろう」
「っと、そうだな。アリスは、もうちょっと話してくか?」
「はい。皆さんがよろしければ」
「わたしはいいよ」
「私もだ」
「リップルは?」
「わざわざ聞か、――――いや、いいと思う」
「はい」
なんとなく言い直すと、ハードゴア・アリスが頷いた。気のせいだろうか、かすかに嬉しそうに見えた。
ちょっとだけ寂しい気がした。きっと、気のせいだ。
トップスピードが箒に跨り、リップルも跨ったところで、ラ・ピュセルが口を開いた。
「そういえば、この前言ってたチームの話だが」
「ん、ああ。あの話か。あれは忘れてくれてもいいんだぜ?」
「でも、いまこうして三人のチームになったわけだし、いっそのこと五人のチームでもいいんじゃないかと思うんだが。ルーラのところもそうだろう?」
「スノーホワイトは?」
「わたしも、ラ・ピュセルと同意見ですけど」
「そうか。リップルはどうだ?」
「私?」
「おう」
問いかけられ、眉をひそめた。ちょっとだけ考える。
「わざわざチームを組むことないだろ」
「そりゃまたどうして?」
「トップスピードの箒は、精々三人が限度だろ」
「まあ、スピードは問題なく出せるけど、四人以上になると乗りづれえだろうな。下手すりゃ振り落とされるかもしれねーし」
「スノーホワイトたちは、できれば三人一緒がいいんだろ。チームを組んでもしょうがない、と思う」
「言われてみれば、確かにそうだな」
ラ・ピュセルが頷いた。
「って、それだと四人でもひとり余ることにならないか。トップスピードはどうするつもりだったんだ?」
「あー、いや、悪い、そこまで考えてなかったわ」
トップスピードとハードゴア・アリス以外の者が、力が抜けたように首をガクッとさせた。
リップルは、ため息をついた。
「チームはともかく、なにかあったら助け合う、とかでいいだろ」
リップルが言うと、トップスピードが
なにを驚いているんだ、と思ったところで、助け合うなどという言葉を言った自分に気づいた。
トップスピードが、笑顔を浮かべた。
「だな。――――そんな感じでいいかい?」
トップスピードがスノーホワイトたちに顔をむけて言うと、三人とも頷いた。
また気恥ずかしさを感じ、リップルは顔を
定位置とも言えるようになってしまったラピッドスワローの後部座席で、リップルは風を感じながら月を見上げた。
「いやー、にしてもすげえよな、アリスの根性っつーか執念っつーか」
トップスピードが、感心するように言った。相槌を打つことはしなかったが、リップルも同じ気持ちだった。
ふっと思うことがあった。
「トップスピード」
「なんだ、リップル?」
「なんで、私に教育係なんてやらせたんだ」
「ああ、それはその、いや、まあ、ほら、リップルも魔法少女として板についてきたしよ、誰かに教える経験を持ってもいいんじゃないかって思ってさ」
「――――?」
なんとなく、言葉を濁したように思えた。なにかを話そうとして、しかし決心がつかなかった。なぜか、そんな印象を受けた。
「まあ、とにかく、ちゃんとできてたし、俺も安心したよ」
「余計なことを」
「嫌だったか?」
「っ」
当たり前だ。鬱陶しいし、面倒くさい。そう言おうとしたが、言葉が出なかった。そういう気持ちは確かにあったが、ハードゴア・アリスと話している時は、意外と悪くない気分だった。
ハードゴア・アリスは口下手ではあるが、いい子だと思った。複雑ではあるが、ちょっとした親近感もあった。
それに、彼女に付き合ってスノーホワイトとラ・ピュセルのところに行って、会話して、こういうのも悪くないな、という気持ちが心のどこかにあった。
自分が、わからなかった。
群れることが嫌いだった。群れることで、強くなったと勘違いしているやつが嫌いだった。
母が、嫌いだった。誰かにもたれかかるようにしなければ生きていけない母が、嫌いだった。母のようにだけはなりたくないと思っていた。
だからなのだろうか、人と関わるのを避けていたのは。
群れないから自分は強いのだと、そう思いたかったのだろうか。
ほんとうは弱かったから、誰かと関わるのが怖かったのだろうか。
なぜかいまは、そんなことばかりが頭に浮かんでくる。
「トップスピード」
「ん?」
「私は、弱いのかな」
「いや、強いだろ。カラミティ・メアリとやり合えるし」
「そういう意味じゃ、ない」
トップスピードの言葉に
私は、なにを言ってるんだろう。どんな答えが欲しいのだろう。
私はなんで、こんなことをこいつに喋っているんだろう。そんなことを思った。思考がぐちゃぐちゃになっている気がした。
不意に、おかしな夢を見たことを思い出した。トップスピードがいなくなる夢だった気がした。それでリップルは、たったひとりだけの大切な友だちを失った、などと思っていた。
きっと、そのせいだ。今日の自分が、なんとなく自分らしくないのも、きっとそのせいだ。
「リップルがなんて言って欲しいのかはわからねーけどさ、俺はリップルのこと、立派な魔法少女だと思ってるぜ?」
「え?」
「そりゃ、口は悪いし無愛想だし、舌打ちばっかりするけどよ、街のいろんな問題を調べて、どうしたらそれらの問題を解決できるか、とかちゃんと考えてるだろ?」
「それは」
確かにそうだが、認めるのは抵抗があった。
キャンディーのために人助けをしているのか、魔法少女として受け持った地区の人たちを助けるためにこんなことをしているのか、自分でもわからないのだ。前者は自分らしいと言えるし、後者は鬱陶しいお節介だと思える。少なくとも二ヶ月前、魔法少女になった直後までの自分なら、間違いなく前者だっただろう。いまは、わからない。
幼いころに憧れていた魔法少女は、清く正しい良い子な魔法少女だ。スノーホワイトは、リップルから見ると、そんな理想の魔法少女のように思えた。
とりたてて活躍が派手というわけではなく、散らばった小銭を拾ってくれただの、家に置き忘れた弁当を持ってきてくれただの、そんな小さな問題を解決する話が多かった。ラ・ピュセルと一緒にいることは増えても、そんな小さな問題解決に現れることは変わらなかった。人助けが好きなのだろうと、そんなふうに思った。
照れもせずに、人助けがしたいと言いきり、実行できる者こそ、正しい魔法少女なのだとリップルは思っている。スノーホワイトがそれで、リップルはそうではない。人助けがしたくないわけではないが、それを言葉にするのは照れくさいという思いがある。
だから、リップルは正しい魔法少女ではないのだと、そう思っていた。
「リップルは、立派に正しい魔法少女をやってると思うぜ。スノーホワイトとかにも負けないぐらいにな」
「そんなこと」
「あるさ。誰がなんと言っても、俺はそう言ってやるよ。リップルは立派な魔法少女で、俺の自慢の相棒で、友だちだってな」
トップスピードがふりむいて、ニカッと笑った。快活で、優しい笑顔だった。
なぜか目頭が熱くなり、トップスピードから顔を
誰が相棒だ。友だちになった憶えはない。そう言おうとして、声が詰まった。声を出したら、なぜか涙が出てしまいそうな気がした。
リップルは、小さな舌打ちをした。トップスピードが、微笑んだ気がした。
予定は未定であって決定ではない。
鬼滅の刃の八巻を読んで泣いた作者です。涙腺緩くなったなあと思いつつ、煉獄さんの最期はやっぱり泣いてもしょうがないと思う。
リップル書いてるとなんだか舌打ちが増えて困ります。いや、ほんと困る。