第二十一章 不穏
ブーブー文句を言っていたランサーを雪見だいふくを買ってあげることでなだめた詩音はランサーがラジコンに付けていたカメラの動画を見る。そこにはディルムッド、マスターのロードエルメロイと話す3人の映像があった。
1人は異様に体にフィットするタイツのようなものをきた片目を桃色の髪で隠し、大きな盾を持つ少女、男なのに長髪でタバコをくわえメガネをし、スーツに身を包む細めの男、それにどこにでもいるような感じを与える少年がいた。
しばらく動画を見ていると何度か吹き出しかけた。
それは長髪の男がケイネスにおだてる内容の嘘を言っているのにケイネスが真に受けているからだった。そしてその流れでランサー陣営とそいつらは協力を持ちかけたのだ。とんだ茶番だと思う。
だが少し考えると詩音は笑いを止めた。
ケイネスは自信過剰だがアホという訳ではない。
いとも容易く調略に成功したこの者はもしかしたら一騎当千の英雄よりも厄介かもしれない。
こういう輩は戦の時にとことん相手の精神をくじいてトドメを指すタイプだろう。人心掌握に長けた英雄などタチが悪いことこの上ないが 今はそうも言ってられない。
「…で、どうするよマスター。こっちもどっかと手え組むのか?」
雪見だいふくを食べ終えたランサーが横から話しかけてきた。
「そうだな。ランサーは取られたし、、バーサーカーかアサシン、セイバーぐらいかなー。バーサーカーはマスターを懐柔させるのが楽だしアサシンはマスターに対して不満を抱いてる。セイバーは協力することの利点とこちらの戦力の開示で少なからず魅力はあるはずだ。そこを付けば多分いける。」
宗玄から引き込みやすいと言われていたランサー陣営に敵が一番に食いついたことで改めて敵の大きさを知る。
それに冷静になってビデオを見てみると長髪の男はちょくちょく事実や魔術家の裏事情を織り交ぜている。最終的にはケイネスの子孫を語っている。
この調子だと味方にできそうな陣営すべて取られそうだ。
「…今夜動くか。」
目標は今の詩音陣営に足りない情報収集能力、暗殺に長けたアサシンの懐柔へ。
第二十二章 懐柔
目標をアサシンと決め、次は連れていくサーヴァントを決める。
本当は全員連れていきたいがアサシンに過剰に警戒されないために1体のみ連れていくことにした。
実際、これまででアサシンの強襲はない。おそらくずっとセイバーやランサーなど強力な英霊が付いていたからだろう。
そこで今回はライダーを連れていくことにした。
セイバーやランサーのような三騎士ではビビるかもしれないのとライダーは気配感知が優れているためだ。
「じゃあ行ってくる。」
見送りに来てくれたセイバーにそう告げると詩音は家を出た。と言っても別段行くあてがある訳ではない。
路地裏などをうろついてあちらから出てくるのを待つというシンプルな作戦だ。
「おお、やべ、ちょい怖いな」
詩音が路地裏前で竦んでいると脳内にライダーの声が響いた。ライダーは一旦霊体化しており今は詩音1人だ。
(何を戸惑っている?さっさと行こうではないか。)
「あ、ああ。そうだな。よし。すーはー、ふう、いこう。」
なんとか覚悟を決めて歩を進めた。
「怖ぇー、これ物音がしたらもう近くにいるって事だよな?アサシンぱねぇー」
(何を言っている。相手が暗殺者なら物音が聞こえた時は自分の首が飛んだ時だろう。いや、英雄になるレベルなら死んだことにすら気づかせないとか。)
「…っ。なっんで!今そんな怖いこと言うの?!やばっ、鳥肌立ってきた。」
これは一般人からみたら路地裏で大きな独り言をして騒ぐヤバイやつと思われる光景だが詩音はその辺は気づかない。それに前までとても無口だったライダーがイスカンダルと会った後ぐらいから少しずつ饒舌になっていくのが嬉しかった。
と、その時詩音の後頭部の付近から金属の音が聞こえた。
詩音の心臓が止まった。ただしそれは恐怖から来るものですぐに心臓は動き出した。
「!?!!!?」
すぐに後ろを振り向くとそこにはナイフのようなものを受け止めたライダーが立っていた。そしてそのナイフを虚空に投げ放つ。だがそれは空中で弾かれた。
「お出ましのようだなアサシン。」
「ちいっ、おまえ、我らの気配を…!」
「静かなること林の如く。今マスターと俺の周りには静寂がある。そこを乱すものを特定する陣。お前の気配遮断が如何に正確でも1度姿を見せれば意味を持たない。功を焦ったな、暗殺者。」
ライダーが言うと同時に暗闇から顔に髑髏の仮面をした女が出てきた。
「…我らにいつ気づいた?お前の言う林のなんたらがどんなものかは知らないがライダー如きに破れるものでは…」
「馬鹿だなお前。」
「なっ…!?」
「林の陣はあくまでも迎撃術。こちらに向かう攻撃を特定するもの。攻撃するやつの存在を知るものじゃない。お前にいつ気づいたかって?今さっきだよ。俺が適当にナイフが飛んできた方向に投げてお前が自分から出てきた時にな。」
「…なっ!?それじゃ…」
「そうだな。お前の行動は完全に愚策だな。そして…」
ライダーがふと後ろを向き、詩音に迫るナイフを刀で払った。
「…一つだけ言っといてやる。暗殺者ならゴタゴタ抜かすな。我らとお前は言った。集団だという利点は勝負の鍵だろ。」
「きっ、、貴様っ、、!良いだろう、もはや隠す必要も無い。総員で!お前を潰す!」
言うやいなや詩音の周りに20人ほどのアサシンが現れる。
『妄想幻像(ザバーニーヤ)』
多重人格の英霊で全ての個体に気配遮断のついた超有能な諜報機関。個々の力は大したことはないものの徒党をくめばある程度は強力なのに加え、戦術に長けたマスターと組めばマスター殺しとしてとても厄介な敵になりうる。
だからこそ、詩音はこの力を求めた。戦力で少し心許ない詩音としては戦術で勝負するしかない。その点でもハサンのこの力は何としても引き込みたいものだ。
「聞いてくれ、百貌のハサン。我々は別にあなた方と敵対するつもりは無い!無論あなた方のマスターともだ!」
だからこそ、ここで正面衝突はまずい。ここでは双方共に最小の犠牲で済ませたい。
「なっ、なぜ我らの真名を!?」
「そういうこともおいおい説明する。まずは武器を下ろしてほしい。」
アサシンは少し顔を見合わせる。戸惑いだろうか。だがその予想は完全に外れた。
「…はは。そんな妄言で!我らが手を止めると?甘い!」
瞬間アサシンの軍が一斉に飛びかかってきた。
だが…
「…遅い。」
がちん、とアサシンの動きが止まった。
「動かざること山の如く。王手だ、暗殺者よ。」
それはギルガメッシュ戦でライダーが見せたものだった。
「なっ!?これはサーヴァントでも拘束するのか!?」
「はん、なめるな。射程距離はだいぶ落ちるが山の陣は万物を硬化させる。残念だな。」
頭を垂れるアサシン。そこに詩音が話しかけた。
「お前達に損はさせない。聖杯はあなた方に譲ろう。どうか、我々に力を貸して欲しい。」
まっすぐに詩音の双眸がアサシンに向けられる。
「…聖杯を我らに譲るだと?バカな、それでは何のために力を振るう?」
少し躊躇ったあと、詩音は現時点で告げられる最上のことを言った。
「…運命を変えるためだ。」
アサシンは驚いた顔をしたが笑いも出たみたいだ。
「…はん、胡散臭いな。だが我らがここで敗れたのも事実。良いだろう。戦術的に提携をくんでやる。だがあくまで我がマスターの支障にならない範囲でだ。良いな?情報交換はするが戦闘協力はマスターの許可が降りた時だ。」
「ああ、構わない。ありがとう、アサシン。」
詩音陣営にアサシンの名が連なった。
ちょっと強引に仲間にした気もしますが、、綺礼の指示での偽りの時臣邸襲撃、fgoでのカルデアに戦力の随時投入という愚策などで綺礼への不満と言うことを踏まえて頂けると少し納得してもらえますかね?
あと風林火山の陣についてですが詳しい説明は然るべき時が来た時に公開したいと思います。現時点では、そこそこの強力な技と認識していただけると嬉しいかと。宝具ではありませんので、あしからず。
僅かですが最近影の薄い宗玄父さんの紹介をしようと思います。
天草宗玄42歳。年相応の雰囲気で無精髭が少しはえている。ちょっと頭皮が後退気味だが本人は気にしていない。オランダ生まれ。天草四郎を先祖に持つことを誇りに思っている。魔術師と言うより技師の性格がつよく、こと機械を使った魔術なら天才の域にいる。魔術師としての冷酷さは見られず危険な魔術の世界には詩音はあまり関わらせたくないと思っている。そのため詩音に教えた魔術は回復や防御系で、相手を倒すことよりも自分が死なない事を重んじる。
趣味は絵画鑑賞。美術館には1ヶ月に1回は行きたいと願うが1年に1度行けたらいい方。最近は歯槽膿漏が目下の悩みで日本製品の生葉薬用歯磨きをつかっている。プチブームは将棋だがもう飽きたため将棋盤が家に眠っていた。カルデアをはじめ、様々な研究機関に属した経験をもち、そこからえた知識や技術を使い、己の半生をかけて聖杯制御装置、ノアを作り上げる。
得意料理はサンドウィッチ(作るのが楽なため)。