ではどうぞ。
「…マシュ、やるぞ。」
「はい、先輩。」
カルデアの目標は顕現した聖杯の打倒である。この冬木が特異点たりうるのは恐らくそれが原因なのだろう。ただ、こうなると懸念材料はもう一つの勢力だ。ランスロットの奪取に始まり、聖杯問答など節目節目で行く手を阻んできた。初めは地元に魔術師が潜り込んだのだろうかと言ったような感じでしか受け取っていなかったが日を追うごとに彼らの存在は確かにカルデアにとって脅威となっていた。
彼らの目的も戦力もわからずただ実力が確かな敵というとても厄介なものだ。ただ唯一わかったのは彼らのサーヴァントというのは日本の戦国武将だという事だ。藤丸の母国である日本の英霊ということで個人的には向こうを応援したくもなったが、一つ、日本の英霊を召喚しているということは彼らは日本で召喚されたとは思えないということだ。
だったらなぜ彼らはこの冬木の聖杯戦争に来ているのだろう。そもそもある聖杯戦争に別のサーヴァントがいること自体おかしいのだ。まぁ、自分達が言えた義理ではないのだが。
(考えれば考える程分からなくなる連中だな…。目的が見えない…。この悪意に満ちた聖杯を呼び出すのが目的だとして…それでも状況に対応するのがうますぎる。まるでこの世界を知っているようだ。相手は未来人かなにかなのか…?)
「なぁ、マシュ、レイシフトができるのはカルデアだけなんだよな?」
「ええ、そうですよ。レイシフトはカルデアのトップシークレットですから。レイシフトの技術はおろか存在すらも秘匿されています。」
「じゃあ誰かがレイシフトを模倣しようとしても無理なものなの?」
「ありえません。徹底的な情報統制に加え、万一漏れたとしてもレイシフト技術というのは膨大なエネルギーに人材が必要になってきます。再現なんて不可能です。」
「だよなぁ…。」
藤丸は一旦考えるのをやめた。考えてもわかる気がしないし明日は最後の決戦になるからだ。明朝に発ち、聖杯を破壊する。彼らが邪魔するなら倒すだけだ。そう、それだけ。
藤丸が眠りについた後、マシュはカルデアに電話をかける。
「もしもしドクター?マシュですが、何か用ですか?マスターに聞かれないところで通話など…」
「いいや、この事は藤丸くんに聞かせるわけには行かないんだよ。たぶん知ってしまったら彼は戦いが辛くなる。」
「…マスターが…辛くなる?」
「うん、単刀直入に言おう。君たちの前に立ちふさがったもう一つの乱入勢力についてだ。」
ドクターロマンの口からカルデアの敵・天草詩音、宗玄親子について、どういう方法で彼らが現れて、彼らの目的、置かれていた状況、カルデアに敵対した経緯などが語られた。
マシュははなしの内容に怒りよりも悲しさが募ってきた。彼らはいきなり人理崩壊という絶望の中で親子2人で立ち向かおうとした行動を誰が責められるというのか。ともすると今のカルデアの位置にいたのは彼らなのかもしれないのだ。
「…なぜこのタイミングで私にそのことを伝えたのです?私なら気にしないと、そう言いたいのですか?」
「違うよマシュ。彼らの行動の根本は分かっただろう?真実を知るものがいたほうがいい。甘いと言われるかもしれないけど彼らと共闘だって不可能じゃないと思うんだ。」
「…、ですが、それは…」
「うん、それはおそらくとてつもなく難しい。向こうだって、もちろんこっちだって、理由があったからと言って全てを許せるわけじゃない。だからね、マシュ。彼らを許せとは言わない。ただ、向こうの事情も理解してあげてほしい。その上で、我々は彼らを倒す。話し合いはそれからなんだよ。」
ドクターとの会話を終えた後、マシュはなかなか寝付けずにいた。彼らのことを思えば戦いになることが少し辛かったからだ。明確な敵として見ることが出来ない。こんな感情を持っていては戦いの場では足でまといになるだけだろう。だけど、それでも、心のどこかにトゲが刺さったように痛むのだ。
仕方なく、マシュは少し外に出てみた。少し夜風が吹いており、心地よく感じた。
「あれ、マシュ?」
不意に後ろから名前が呼ばれた。
「せ、先輩!?寝たはずでは?」
「ん、まぁね、、マシュこそ、こんな時間になんで外に出てんの?」
「え、と、今日は月が綺麗だなーと。」
「今日は曇ってて月は見えないよ?」
「え、、と、、」
「…まぁいいや。マシュが言いたくないならそれでかまわないんだ。そうだ、マシュ、さっき作戦が思い浮かんだんだ。聞いてくれるかい、マシュ?」
「っ。は、はい!」
カルデアの、人類最後のマスター・藤丸立香は明朝にサーヴァントを引き連れて聖杯へと旅立つ。その者達の動向に細心の注意を払っていた天草詩音はカルデアの行動に敏感に反応した。
「来るぞ!バーサーカー、セイバー!俺と一緒に、あいつらから未来を取り返そう!」
(さぁ、どうでる?ここまで目立つ動きをしてるだ。動かないなんて手はないよな?)
藤丸はカルナの肩を借りて聖杯に真っ直ぐに突き進んでいた。彼らはいわば囮でそこに詩音たちを引き付けて全力で叩いたあとスグに聖杯を潰す、もしくはもう1人のサーヴァントに先行させておくという二段構えの作戦だった。
「さぁ!開戦だ!」
詩音の合図で地中から多様な魔術道具が出てきた。と言ってもそれらは全て100均クオリティで、母里友信が作っていた玩具なのだが、それでもバーサーカーの魔力を織り込んでいるため対サーヴァントという意味では多少の効果は望めるはずだ。
打ち上げ花火の乱れ打ちが炸裂した。数十発の内の数発はカルナの体に直撃した。
「どうだ?」
「残念ですが全く効果はなかったようですな。」
セイバーの言葉のとおりカルナの体には傷一つなく上に乗っていた藤丸にも傷はない。
「ち、ま、わかっていたけどね。こんなんじゃ大したダメージはないよねー。」
「けど、明らかに警戒したよ。意識をだいぶこちらに持ってこれらた。あとはあのランサーが釣りに乗るかだけど…」
「どうするマスター?ここで潰すか?」
カルナの問いに即答できない。ここでカルナを出せば向こうを倒せる自信はあるが聖杯の方が気がかりになる。それに。
「バーサーカー…聖杯の方だな…。」
向こうの主戦力のバーサーカーが聖杯の方にいる。ならばこちらも大英雄クラスでないと太刀打ちできないだろう。
「カルナは聖杯を潰してくれ。俺達はここであいつらを倒す!行くぞ、マシュ!」
「は、はいっ!」
「なんとか、あのランサーは向こうに行ってくれたようだな。さぁて、始めるぞ!俺達の敵は……!?」
「どうしたんです?マスター。」
「……違う。」
「は??」
「…牛若丸じゃない!この気配は…?」
「行くぞ!マシュ!天草四郎!」
藤丸の隣に居たのは白髪に長髪で豪華な羽織に身を包んだ少年、天草四郎だった。
最後のサーヴァントはこの人でした。チートキャラじゃない!とかなるかもですが…詩音・信親vs四郎というのは初期から考えていたのでそこだけは譲れなかったんです、ごめんなさい。
もう展開見えたーとかなるかもですが出来ればもう少しお付き合いしていただけると嬉しいです。あと、こちらの都合上投稿は2週に1度とさせていただきます。ごめんなさい