第二十五章 父の思い
一応の戦略を練り上げた詩音は久しぶりに宗玄に報告をすることした。ノアと繋がる機会に魔力を流す。
ビー、ビー、となるサイレンが宗玄の貴重な仮眠からたたき起こした。ああ!と苛立ちを込めながらスイッチを押した。マイクからは息子の声が聞こえた。
「よー親父ー。元気かー?」
向こうからは明るい声が聞こえた。普通なら、親として、我が子の声が聞こえた喜びに打ちひしがれるかもしれない。だが、安息の時間を取られた宗玄にはそんな余裕はなかった。
「で?!何用?」
突き放すような口調に詩音は少し気圧された様だったがすぐに言葉を返した。
「いやな、状況が少し動いたんでな。親父、少し解析してくんね?なんか分かるかもだぞ?」
ふざけるな、と心には思ったが、詩音も命懸けの環境だと思うと承諾した。詩音からは現在知りうる敵のサーヴァント、そのマスター、現在の状況アレコレが語られた。しかし、その説明の中にひとつ、引っかかることがあった。それは
「…詩音。敵のサーヴァントは英霊が人間に憑依していると?そう言ったのか?」
「俺が見たわけじゃなくてアサシンから得た情報ではな。」
…正規の英霊を人間に憑依させる。そのような技術は宗玄は知らない。ただ一つ、カルデアという場所を除いて。
「詩音、マスターの格好、服装はどんなだった?」
「はあ?服装?なんで?」
「いいから!答えろ!」
記憶の片隅を無理やり引っ張り出し、詩音からは語られるものと照合する。そして、
「…カルデア戦闘服。」
合った。合ってしまった。
「…詩音。お前が戦う相手…分かったぞ。」
「え?ええ?なんで?どやって?」
「…俺が、昔そこにいたからだ。」
宗玄はカルデアという組織について語った。
話を終えると詩音は思いついた疑問を口にした。
「でもなんでこんなことしたんだろ?オルガマリーって人はそんな事しないんだろ?」
「…レフ・ライノール。俺をカルデアから追放した男だが…昔からどこか怪しかった。それを探ろうとして逆に目え付けられたんだが…。あいつがなにかしてるのかも…」
宗玄の予想はあっていた。だが今はカルデアと何の関係も持たない宗玄は確証が得られなかった。
「まあ分かった。カルデアってのがどんなのでも戦わなきゃならないってのは変わりない。じゃな、親父」
ぶつっ、とマイクの電源が切れた。宗玄は少し目を閉じた。そこには深いクマがあった。
「…カルデア、か。」
とても懐かしい。そして、あまりに親子2人で敵対する相手としては大きい。
宗玄はこのことでますます寝れなくなりそうだ。
このところほとんど寝ていない。
詩音が帰ってくるために宗玄は作業に追われていた。
天草詩音の存在をこちらに置くためだ。
だがここではカルデアのように常時存在をこちらで証明するようなことはしない。というより、宗玄1人では出来ない。だから、危険だが詩音の過去の存在とは別でいま、こちらには詩音がいることになっている。
帰ってくる時は聖杯を用いて詩音をこちらに引っ張る。宗玄の仕事はこちらの世界の詩音が何かをしでかして地球から天草詩音という存在が現在のもので確定されないよう見張ると言ったものだ。だから仮眠中でも神経をすり減らす作業が続いていた。
そしてもう一つ、肝心の聖杯の出力が食料調達やノア起動にどうしても必要だった資材を出すためにちょくちょく使った結果、パワーは20代に落ち込み、詩音を連れ戻すことが出来ないところまで追い詰められていた。
そこで、ひとつ、宗玄は考えがあった。この聖杯は生きたものの生命エネルギー全てを出せば英霊の魂でなくても出力を生産することができる。当然その者は死ぬ訳だが。
宗玄は銀色の空を眺め、ふ、と笑った。
(世界の、誰も知らない場所で死ぬのが俺の死にざまか…。魔術師にも神父にもなり損ねた半端者の末路には相応しいのかもな…)
雨が降り出してきた。辺りには崩れた建物に当たる雨の音のみが響いていた。
第二十六章 運命の日(午前中)
宗玄と話した後、詩音はぐっすりと眠った。決戦の前夜こそ寝るべきだとサーヴァント達から言われたからだ。
夜が開けた。運ばれてきた朝食を食べながら詩音は今日やるべき事を思い出した。バーサーカー陣営の調略、そして、今日の夜は、、
「…聖杯、問答」
これは第4次聖杯戦争の重要な分岐点だった。史実ではここでライダーが王の軍勢でアサシンを蹂躙した。
だが今回はそうはさせない。アサシンにはまだやってもらうことが沢山ある。だからといって今回のを無視はしない。カルデアだってここには必ず食いついて来るはずだ。だからこそ、その場で狩れるものは狩る。
そのためにもバーサーカーを引き連れて来る方がいい。セイバーが敵に回った以上バーサーカーはセイバーの足止めに出来る。
(…カルデア、か。)
その言葉は初耳だ。だが宗玄が昔所属していたと聞いてどこか変な感じがした。どこが?と聞かれると何も言えないのだが。だが今はカルデアが何だっていい。
敵対する相手は倒してみてから気になることを聞けばいい。まずは勝つ為に動く。
「よし、いくか。」
準備が整った。まずはアサシンの情報操作で公園にいる雁夜に会いに行く。具体的には雁夜の電話をすり替えたり…
~数時間後、公園にて~
「お前がランサーのマスターか?」
顔色の悪そうな男、間桐雁夜が問いかけた。
それに対し詩音はうなづく。疑われないよう、詩音はランサーを連れていった。
「協力の話は本当だろうな?おれと時臣との一騎打ちの下準備を整えてくれるんだろうな?」
「ああ、本当だ。だが、一つ条件がある。バーサーカーはこちらに預けて欲しい。アーチャーの邪魔が入らないようにするにはそいつの力が必要なんだ。 」
「…ああ。構わない。魔力もこちらで出そう。だから必ず邪魔は入れるな。」
詩音はうなづく。アサシンの手を借りて時臣と綺礼との通信手段を切らせているので綺礼の邪魔も入らない。まあ、入られたとしてもアサシンが行かなければ良いだけなのだ。
「じゃあ今日の夜にアインツベルンの森付近でバーサーカーを置いてくれ。」
「ああ、分かった。」
そういった後、2人は別れた。これで引き込みは完成だ。
時間は夜へと針を進めていく。
キャラ紹介したいのですがネタバレする訳にも行かないので今回は予告で。
次の話は聖杯問答編で僕がこのパラレルクロニクルで書きたいことになりますので少し制作に時間がかかる分大作になる予定です。
ご期待ください。