俺とクーデレ幼馴染の日常   作:ラギアz

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アンケートの結果は、このままで行きたいと思います!

……はい、文字数そのままで連日投稿です。
体力、精神力がごっそり抉られました。

では、どうぞ!


俺と幼馴染と混浴お風呂

 ――――――混浴。

 それは男性と女性が同じ風呂に、同じ時に入る事を指す。その文化は日本だけと思われがちだが、ドイツを始めとして、北欧、東欧諸国でも見られる文化だ。最近は水着着用のスパやカップル、家族用の物も存在している。裸での入浴が始まったのは江戸時代以降という説があり、それまで温泉というものは天然の野湯であった。その為、男性用女性用と言う概念は無く、混浴は自然発生した文化とも言える。

 明治時代には一回混浴が禁止されたが、現在は子供なら女湯にも入れるのは皆知っていると思う。家族やカップル用のも用意されている今の時代から分かるとおりに、混浴というものはしっかりと根付いている一つの文化なのだ。

 

 ……さて、長々と語ってしまったが、俺―――――平均平凡、黒髪黒目の暁結城は今現在大ピンチである。それは俺が原因なのだけれど、それにしても冷汗が止まらない。

 俺の前で頬を赤らめ顔を逸らし、右手に鍵を持っているのは雪柳桜。

 黒髪ロングストレートに整った顔とスタイル、千人いたら千人が美少女と認めるような少女は、何を隠そう俺の幼馴染で、そして俺の好きな人である。

 ベランダ越しに行き来できる距離、そして一方的な片思い。

 俺は今、そんな相手と混浴するチャンス(ピンチ)に陥ってるのだ。

 良く思うのは、ラノベとかで主人公がラッキーハプニングのチャンスに突っ込まないとき、そしてヒロインの誘いを無自覚に断るのを見て「ふざけるな!もっと頑張れよ!」と思う。

 ごめんなさい。俺が間違っていました。

 いざこういう場面に立つと、人は何をしていいのか分からなくなる。理性は半分くらい崩壊しているし、桜も無言で立ち尽くすのみ。

「あ、え、えーと……俺、今日はお風呂良いよ。桜が一人で入ってくれ」

 ならばどうするか。そう、逃げるのだ。

 それが一番手っ取り早い選択肢。言うが早く、俺はお風呂道具を抱えて後ろに振り返り、その場から逃走を謀ろうとするが。

 がしっ、と服を掴まれて、動くに動けなくなってしまう。

 ここには俺と桜しか居ないので、俺を引き留めたのは桜と言うことになる。恐る恐る振り向くと、桜が蒼い目を少しばかり潤ませて、赤く蒸気した頬で俺を上目遣いに見上げていた。その時点で破壊力はとんでもないのだが、桜は追い打ちを放つ。

「……い、一緒に入ろうと言っているんだよ。キミは人の好意を無下に扱うのかい?それにここには結城だけじゃなくて沢山人がいる。お風呂に入っていない不潔な人間なんて犯罪だようんそうなんだよだからボクと一緒にお風呂入れよ入るんだよ入ってよねえ結城背中も流してあげるからさ」

「落ち着け!よく噛まずに言えたな!」

「むう」

「あのう。……俺ってそんなに不潔?臭い?」

 桜がまくしたてた言葉から聞き取れた部分だけ聞き返すと、桜はお風呂道具で持ってきていたバスタオルに顔を埋め、そして呟いた。

「臭くなんかないよ。……い、良い匂いだよ……」

 最後の方は聞こえなかったが、どうやら臭いは大丈夫らしい。

 桜はまだ俺の服を離してくれない。タオルに顔を埋めたまま、それでも綺麗に整えられた前髪の隙間から此方を見上げる桜は、一言、端的に呟いた。

 

「……だめ?」

「良いに決まってんだろ」

 

 結局。

 俺は桜に流されるがまま、桜と混浴する事になったのだ。

 

☆★☆

 

 カポーン。

 

 桜にそっぽを向いてもらい、手早く服を脱いだ俺は先に湯船に向かっていた。

 手に持っているのは細長いタオル。それを持ちながら、足の先でお湯の温度を計って、俺は恐る恐る足を入れた。銭湯とかにやけに熱いお湯があるが、あれに浸かれる人って凄いと思う。

 俺は無理だ。足も入っていられない。

 温度が適温なのを確認して、俺はゆっくりと湯船に入った。広い風呂の中は何人も入る事が出来るだろう。そこを占拠しているのは良い気分である。頭にタオルを乗っけて、俺はすすす~と湯船の中を入り口から一番遠い所まで泳いだ。

 そして、入り口を極力見ないようにして胡坐を掻く。タオルを湯船の縁に置き、俺は目を瞑った。

 ……冷静になるんだ。俺。

 良いか、俺は賢者だ。

 例え好きな女の子と混浴する事になっても、俺は冷静で居られる。何故なら俺は賢者。

 煩悩を捨てて、人間を卒業しt

 

「………は、入るよ………?」

(ああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!)

 

 浴室に、小さく響いた桜の声。心の中で思いっきり叫ぶと、俺はさっきまでの思考とか全部忘れてただただ体を硬直させた。

 ちゃぷん、とお湯が揺れる音がする。その音に反応して、俺は更に強く瞼を閉じた。

 煩悩退散。煩悩退散。

 除夜の鐘を頭の中で轟かせ、拳を握りしめて桜の方を向かないようにしつつ、俺は深く呼吸を繰り返す。

 熱いお湯が、何時もよりも敏感に感じ取れる。肌をじんわりと熱くしていくお湯の中で、俺は呼吸をし続けて、

 ――――――――――むぎゅっ。

 と、急に背中に触れた柔らかく温かい感触に背筋を強張らせた。

 むにゅむにゅと、それは形を変えている。呼吸が詰まり、鼓動は速くなり、体は硬直して動かない。そんな状態で頭の中が真っ白になっていると、横から出てきた白く綺麗な腕が俺の前で組まれた。耳元に吐息が触れる。濡れて湿った黒髪が背中と右腕に触れている。

 ………抱き付かれている。桜に。後ろから。

 ドッドッドッドッ、と心臓の音が体内に、耳にやけに大きく響く。

 温かく柔らかい感触が、理性を蝕んでいく。動けない俺の耳元で、桜は小さく呟いた。

「一緒にお風呂に入るのは、……8年ぶりかな?」

「なななな7歳の頃に一緒に入らなくなったからそれくらいじゃないかな!?」

 思わず声が裏返る。

 しっとりと濡れていて、小さく吐息と共に耳元で囁かれる声は何時もよりも艶めかしく、理性を逆撫でる。背中で形を変えている柔らかい何かの感触を敏感に感じ取る背中は、最早火照り切っていた。

 心なしか、桜が俺を抱きしめる力が強くなる。

 耳元の吐息は大きくなり、背中でも何かが押しつぶされる。

 目を全力で瞑りながら、俺は必死でそれを耐え続けた。それはたったの数秒なのか、数分なのか。少なくとも俺にとっては何時間も経った様な感覚の中で、のぼせかけている頭を何とか動かし続けていた。時折、何かを言いかけるように桜が大きく息を吸い込む度に体を強張らせる。

「……ボクと一緒にお風呂に入るのは、嫌だった?迷惑だった?」

「いや、迷惑じゃないし嫌じゃないよ。……えっと、嬉しいよ。うん」

 申し訳なさそうに、桜の声のトーンが落ちる。

 慌てて本心を告げると、桜は一瞬俺を強く抱きしめて、そしてすっと離れていった。

 少し落ち着く。それでも鼓動は収まらず、強く大きく脈を打ち続ける。顔がお風呂の温度だけではない物で熱くなっているのを感じていると、桜は次に、再び小さく呟いた。

「じゃあ………こっちを見てほしい、な。ちょっと、寂しいよ……」

「っっ!」

 浴室に、はっきりと響いた小さな呟き。

 その声は本当に寂しそうで、心臓が締め付けられるような感覚に俺は陥る。それでも鼓動は強くなって、拳を握る力は強くなった。

「……良いの?」

「だめだったら、こんな事言ってないよ」

 一応、許可を取る。

 息を長く吐いて、呼吸を整えて、

 

 俺は、ゆっくりと振り返った。

 

 湯煙に遮られて、それでも桜は直ぐそこに居た。

 水滴が滴る、湿った長い黒髪は肌に張り付いている。きめ細やかな白い肌を隠すものは何一つなくて、小柄な体格に目立つ大きな二つの双丘は柔らかそうに、呼吸と同時に上下し揺れる。

 赤らんだ頬に、俺をじっと上目遣いで見つめる蒼い瞳。

 湯船の中でぼやけている臍、引き締まっている腰に、女性らしく丸みを帯びた臀部。すらっと長い足。

 体を隠さずに、ただ俺を見つめている桜に、俺は呼吸すらも忘れて見入ってしまう。何処か不安げに俺を見つめる桜はまるで子犬の様だった。

 鎖骨はうっすらと浮かんでおり、アバラは見えない。

 それでもスレンダーで、目の前にいる桜はまるで絵画の様で、とても人だとは思えなかった。

 ドクン、ドクンとさっきよりも強く強く心臓が脈を刻む。

 何かを言わなきゃ、とどこかで俺が叫んだ。その意思に従って、緊張で声が上ずりそうになりながらも、それでも俺は口を開いて、桜と目を合わせた。

「……凄く、綺麗だよ」

 言い終えた後に、俺は自分の頬が熱くなるのを感じた。

 それでも、桜から視線を外さない。一瞬、俺の言葉に呆気に取られたように口を開いていた桜は一拍の間の後に、その頬を綻ばせた。

「―――――そっか。うん。良かった」

 目を細めて、柔らかく幸せそうに桜は微笑んだ。

 イラついた時、悲しい時、そして嬉しい時に、桜は表情を変える。それ以外は基本的に無表情な桜が笑うのは、珍しいと言っても過言ではない。

 だからこそ、この雪柳桜の幸せそうな笑みを見て、俺は心の底から思う。

 俺は、本当に桜が好きなんだ、と。

 意気地なしで、自分に自信が持てなくて。運動も勉強も平均平凡だから、言い出せないけど。でも、このずっと一緒に居た幼馴染の事が大好きなんだと、改めて実感する。

 叶うか、叶わないかで言ったらこの初恋は片思いで終わると思う。目の前の幼馴染は、高嶺の花という言葉を具現化したような存在なのだ。

 ―――――――そして。それでも、幸せだった。

 桜が笑ってくれて、その傍に俺が居る事が出来る。

 たったそれだけのちっぽけな事実が、俺にとっては生きる意味になるくらいに重要で大きな事実。何時までも傍に居たい、その最期の時まで、一緒に傍に居たい。

 心臓が締め付けられて、それでも温かい何かが胸の中を満たす。そんな良く分からない状況。

 

 良く分からない。でも、俺は幸せだった。

 

 きっとこの一瞬は、どんなに長い時間にも変える事が出来ない物だ。

 そう確信して、俺は桜を見つめ続けた。

 

 ……やがて、桜が笑みを浮かべたまま口を開いた。声のトーンは何時もよりも元気に、高かった。

「さあ、体を洗おうか。……背中を流してあげるよ」

「せ、背中を流す!?いやそれはちょっとあれだよ、早過ぎるって。それはもっと大人のお店で―――」

「か、体で洗う訳無いだろ!!ちゃんとタオルを使うよ!」

「その手があったか……!」

「寧ろどうして最初に思い浮かばなかったのさ!この変態!」

 桜に罵倒されつつ、俺はタオルで体を隠しながらシャワーの前の椅子に座る。怒ったように桜が歩いてきて、俺の横からシャワーを手に持って頭にお湯を掛ける。その後シャンプーを手に取り、わしゃわしゃと桜は俺の頭を洗ってくれた。

「かゆい所はございませんかー?」

「大丈夫っす」

「はーい、流すから目は開けといてくださいね」

「死ぬって!それシャンプーが目に入ってアァアァアァアァア!!!!」

 目にシャンプーが入って、思わず叫びつつ悶える。

 桜はそれを気にも留めずにタオルにボディソープを付けると、ごしゅごしゅと俺の背中をこすり始める。心なしか乱暴なそれに歯を食いしばり、俺は耐え続けた。

 

☆★☆

 

 お風呂から上がって、部屋に戻って、夕ご飯の時間だ。

 俺を問い詰めてきた永大とかを何とか躱すと、俺たちは指定された席へと向かった。部屋は男女別だが、それ以外は基本的に班で行動するのが決まり。俺は凛と桜がいる席へ永大と一緒に行き、夜ご飯の乗ったお盆をそこに置いた。

 机に頬杖をついて、少し頬を膨らませている桜の正面に俺は座る。皆と同時にいただきますと唱和すると、俺は早速ハンバーグを頬張った。

 肉汁が口の中で溢れ出す。その幸せな感触を味わいつつ、俺たちは明日の予定を皆で確認する。

「明日は朝起きて、飯の後にバス乗って登山だな。山頂で昼飯食って、帰ってきてキャンプファイアーと班別バーベキュー、か。……なあ桜さん、キャンプファイアーの時のお楽しみって何?」

「さあ、何だろうね。機密事項だよ」

「……機嫌悪いのかにゃー?どうしたの、結城に裸でも見られた?」

「「っっ!!??」」

 永大の質問にぶっきらぼうに答えた桜に、笑いつつ揶揄う凛。

 しかしその内容が内容だけに、俺と桜は同時に言葉を詰まらせる。その様子に驚いた永大と凛は目を見開き、顔を赤くしている俺たちを見回して、

「……取りあえず暁結城は死刑だな」

「はあ!?お前、何言って……つーか止めろ!なんでクラスメイト全員が立ち上がってんだよ!?」

「聞こえたぞ暁結城!」

「てっめ、羨ま……けしからん!」

「そうだそうだ!桜さんの裸見たなんて!」

「おい!暁結城を外に運び出せーー!!」

『うおーーーー!!!』

「お前らまた変なところで一致団結してんじゃねえよ!ってちょっと待って、助けて桜ああああ!!」

 一年二組の男子全員に担がれ、夜ご飯もそこそこに俺は外へ連れていかれる。

 桜は顔を赤くしたままクラス中の女子に囲まれていて―――――――

 

 その日、とある男子生徒の悲鳴が宿泊施設に響いたのは、言うまでもないだろう。

 


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