俺とクーデレ幼馴染の日常   作:ラギアz

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俺と幼馴染と告白予行演習

 遂にやってきました入学記念合宿!!

 俺たち一年生はもうバスに大きい荷物を積み込み、弁当やお菓子、水筒や筆記用具のみを入れた小さい鞄を手に持ち、よくある出発前の朝会的なのに参加中である。

 ここで重要なのは、校長先生のお話が長いということ。

 勿論誰一人として聞いている人はいない。……筈。長くてつまらない話は時に熱中症の患者を大量に生み出す兵器としても使われることがある。

 うわあ、恐ろしい。

 

 さて、平均平凡な黒髪黒目の高校一年生――――――暁結城(あかつきゆうき)こと俺は、身長が微妙なため背の順の真ん中よりちょっと後ろ位に体育座りをしている。永大は俺よりも背が高いのでもっと後ろだ。べ、勉強は一応俺のほうが出来るし。身長程度で悔しくなんかねえし!

 天気は快晴。雲一つない青空はどこまでも澄み渡っていて、俺たちの間を爽やかな風が吹き抜けていく。しおりを適当に捲ったりして、俺は時間を潰しつつ日程を確認する。

 今は朝の八時。二時間半くらいだから、十時半、遅くて十一時に宿泊施設へ到着。点呼や職員さんへの挨拶を済ませたら、宿泊施設の広場でお昼ご飯。その後は荷物を部屋に置いて、適当に自由時間。施設内にはどうやら一般のお客さんも使用できるように卓球台や簡単なゲームセンター、図書室もあるらしい。しおりにも上限の決められたお金を持ってきていいと書いてある。

 五時くらいになったら、外に出て自炊の準備。焼きそば、カレーを作りつつ親睦を深めるとかなんとか。

 その後はお風呂とかで就寝。平和な一日である。

 ……因みに、俺の班員は神だ。神ってる。最強。

 まず俺。そしてその次に岡取永大、更には吉相凛。ここまで仲の良い人たちが続いて、最後に来るのはもう何となく予想できているであろう。

 雪柳桜、だ。

 長い黒髪に青い瞳、端正に整いまるで人形の様にも見える美しい顔に、調律の取れたスタイル。纏う雰囲気は最早神々しさすら感じさせ、見たもの全てを比喩抜きで引き付けるレベルの美少女だ。そして彼女は、何を隠そうベランダで行き来できる近さの幼馴染である。

 きっとこのクラスで桜と一番付き合いが長いのは俺で、あいつの事が好きなのも俺である。

 まあ、そんな美少女と幼馴染&同じ班というのはそれだけで他の男子の視線が痛い。それを笑い飛ばせるほど俺はメンタルが強くないので、いつも震えています。ぐすん。 

 さて、そんなこんなで校長先生のお話も終わり、ぞろぞろと俺たちはバスへ。班ごとに決まった席へ向かう。

 俺は真ん中らへんの席に行くと、ひょこっと横から長い黒髪が視界に入った。

「結城、窓際を貰ってもいいかな?」

「勿論。ほら、今日は天気もいいし景色も綺麗だと思うぞ」

「そうだね。……よっと。ありがとうね」

「気にすんな」

 窓際の席に座って、シートベルトを締めた桜。ドスブスグサアッ!と様々な方面から怨念の籠った視線の槍が俺を貫くが、究極の癒しである桜が隣に居るため俺には効かない。

 後ろには永大と凛が座っている。仲の良い人で固まった俺たちは、先生の合図と同時に出発した。

 

☆★☆

 

 走り始めて、三十分くらい。高速道路に乗った当たりで、前のほうに座っていたイケメン野郎がマイクを取って立ち上がる。ざわざわっと女子が盛り上がり(桜以外)、桜とイケメンがお似合なのに……なんだあいつと言った目で俺を睨み付ける。後ろでにゃははーと凛がその状況を笑い飛ばし、永大がニヤニヤしている。肝心の桜といえばそれを気にする風もなく、ただ静かにしていた。

「……はい!皆、突然ですが――――バスレクです!レクリエーション満載の合宿、皆で楽しみましょう!」

 イケメンが爽やかスマイルでそう告げると、バス内の全員が大きく盛り上がった。

 どこからか小道具を取り出したイケメンは大きく周りを見回し、マイクに向けて喋り始める。投げかけられる問題に永大が元気よく反応する中で、俺は桜に尋ねる。

「お前は何かしないのか?」

「めんどくさいし、バス内では折角班で座れるんだ。この班になる様に頑張ったんだから、バスレクは彼に任せているんだよ」

「さ、桜……職権乱用を堂々と言うって」

「嬉しくないの?」

「嬉しくないわけないだろ」

 即答すると、どこか機嫌を良くしたように桜は微笑を浮かべる。基本的に無表情、怒っているときと照れている時、嬉しいときはしっかりと表情を変える。付き合いが長いと、その微細な変化も見抜けるように成ってくるのだ。

「……ま、ボクもキミと隣に成れて嬉しいんだよ。だから仕事はしたくない」

「よし、それなら俺と付k」

「何分、からかって遊べるしね」

「おう……」

 悪戯っぽく口角を釣り上げ、足を組みなおす桜。快晴に負けず劣らずの蒼く綺麗な瞳に見つめられ、俺は言葉を短く漏らすことしかできなかった。

 前の方ではレクリエーションが賑わっている。イケメンの言葉に一々女子が反応し(桜と凛を除く)、男子がギロリとイケメンを睨み付ける。バスの外の、飛ぶように流れていく景色を桜は無言で眺めている。それを見つめていると、時折此方を向いて微笑むのが本当に可愛い。

「はい、じゃあ次はクジを引いて、その席だった人にお題をこなしてもらいます!」

 イケメンが、早速次のレクに取り掛かった。

 あいつ忙しそうだな。……あいつの名前、なんだっけ……?

 

「一回目は―――――桜さんと、暁君ですね!」

「はい?」

 

 急に名前を呼ばれて、俺は戸惑う。

 隣を見れば、桜は視線を前へと向けていた。周囲の視線がイケメンに向けていたのよりも鋭くなるのは気のせいだと信じつつ、イケメンがお題のクジを引くのを黙って見ていると。

「えっと……お題は、[告白予行演習]です!男から女へでもオッケー、女から男でもオッケーです」

「はいはーい!質問っす!」

「どうぞ、岡取さん!」

 

「両方っていうのはー!?」

「「「「「良いぞ良いぞーーー!!!」」」」」

「お前ら無駄な結束高めてんじゃねえよ!!永大も止めろアホ!!」

「嫌だね!暁は皆の前で恥かいて爆発しろ!」

「「「「「そうだそうだー!」」」」」

「お前らああああああああああああああ!!!!!」

 

 永大の一言に団結するバス内。女子も男子も入り混じって永大を支持する中で、イケメンが何とそれを許容する。俺たちの担任である理科の教師はバスに乗るやいなや寝てしまい、バスガイドさんと学年主任の女教師はにこにこと微笑んでいる。

「では、どうぞー!」

 そして、イケメンが声を張り上げた。

 途端に静まり返るバス内。高速を走る音だけが中で小さく響き、何よりも大きく鼓動が聞こえる。男子生徒の羨望と嫉妬が混ざった目を向けられつつ、俺はもぞもぞと席の中で隣を向いた。

 するとどうだろうか。何かを期待しているかのように、桜は蒼い目を真っすぐに俺へと向けていた。心なしか頬は赤くなっており、長く綺麗な黒髪はまるで今手櫛で梳いたかのように整っている。唯一助けてくれそうだった桜への希望はもうすっかりと消えており、俺はぐっと唇を噛みしめた。

 どうしてこうなったんだ。

 イケメンの野郎、許すまじ。つーか永大許さねえ。先生もにこにこしてないでください。「若いって良いわねー」じゃないですよ!

 

 ぐぬぬ、と唸っていても周囲から声は上がらない。急かすような事もなく、じーっと俺たちを集中してみているのみ。桜も俺を見つめるだけで、全く動かない。

 空気が重い。

 しかし、ここで言わなければ解放されないのだ。この重苦しい空気から逃げ出すために、俺は今”ヘタレ”の称号を脱ぎ捨てる。新しい暁結城へと、昇華するのだ!それで永大をぶんなぐる。ここテストに出るぞ、大体永大を殴るって書いておけば満点だ。

 無駄な思考を切り捨てつつ、俺は息を長く吐いた。

 そして、息を短くすう。瞼をぎゅっと閉じる。クラスメイトがごくりと唾を飲み込み、俺たちを注視している中で、

 

 俺は、口を開いた。

 

「じゅ、十二年前から好きでした……!俺と付き合ってください!!」

 

 意外にも、すんなり言えた。

 男子が「おおっ」と呟き、女子が何故か口元を抑えている。

 本心だからだろうか。心の奥からすっと出た言葉に赤面することもなく、だが桜を見るのは怖くて目を瞑ったまま、俺はただひたすらに待つ。

 あくまでこれは『告白予行演習』だ。

 しかし、返事が怖いのは同じ。膝の上で拳を強く握りしめ、胸の中が捩じ切れそうな心境で耐え続ける。

 

「……あ、え、あ」

 

 そして、聞こえたのは震えた声だった。

 掠れていて、小さい。不安になった俺はゆっくりと瞼を開けていく。それに連れて拳を握りしめる力はどんどん強くなり、やがて開ききった俺の目に映ったのは―――――

 

「そ、そんなドストレートど真ん中直球の剛速球でくるとはお、思わなくて……。ごめん、ちょっと待ってくれないかな……?」

 

 耳まで赤くなって、少し俯いて、必死に顔を隠している桜だった。

 長い黒髪が、窓から入ってくる太陽の光を受けて煌めく。絞り出すように震える、澄み切った清水の様な声は小さい。でも、バスの中には響いた様だった。その証拠に、男子全員が顔を赤くしている。勿論それは俺も例外ではなく、恥ずかしさに押しつぶされそうなのは変わらなかった。

 高速を走るバスの、小刻みに揺れる音だけが静まり返った俺たちの間に響く。

 女子でさえも何も言えず、凛や永大でさえも何も言わない。そんな静かな雰囲気を破ったのは、俯いたまま俺を見上げ、潤んだ蒼い瞳の桜だった。

 

「ボ、ボクもずっと前から好きでした……!よろしくお願いします………!!」

 

 潤んだ瞳で、上目遣いのまま桜は顔を真っ赤にしてそう呟いた。

 その異常な破壊力に、俺を含めた男子が全員フリーズする。バスの中に持ち込んだ手荷物で急いで顔を隠した桜は、窓の方へと顔を背けて小さくなった。

 

「こ、これさ―――――『告白予行演習(、、、、)だよな………?」

 

それは一体、誰が呟いたのか。

 

結局、バス内のそんな静かにときめいている雰囲気は、宿泊施設に付くまでそのままだった―――――。


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