俺とクーデレ幼馴染の日常   作:ラギアz

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直せば直せるし、キリが無いと思うのでもう投稿しまする。
遅れてすみませんでした!!今回で夏休みは最後です。

どうでも良いですけど、FGOのジャンヌ・ダルク・オルタ可愛くないですか!?
もう、最高ですね。ずっとSS漁ってました。可愛い。最高。
後プリズマ☆イリヤ最高ですね。
ニコ生の一挙放送、全部見ました。私のTwitter見てる人なら知ってると思うのですが、そんな事ばっかりtweetしてました。
因みにラギアは美遊ちゃん押しです。最高。特にドライの最後、むくれ顔の和服美遊ちゃんが神でした。

それよりも艦これ、夏イベですね。はい。

もう、FateのSS書きたくて書きたくて。
まあ、にわかなんですけど!

では、夏祭り回、どうぞ!!


俺と幼馴染と夏祭り

 夏祭りの張り紙を見た。

 それは何気ない、珍しく俺が――――暁結城が、一人で出掛けていた時だ。まあ単純にラノベを買いに行った帰り、夕暮れの住宅街の掲示板。日差しは弱くなるも、まだむわっとした熱気に包まれながら蝉の声を聞き流す。そんな中で見たのは、とある神社の夏祭りの知らせだった。

 それはこの町では有名な夏祭り。

 長い階段を上り、そこからまた階段までの長い通りを屋台と提灯、人が埋め尽くす。奥にはぼんやりと淡く浮かぶ社があり、夜だがかなり賑やかになる場所だ。

 俺も毎年、友人たちと行っていた。射的や宝釣り等は定番、今や数少ない型抜きもやっている。

 道中で買ったガリガリ君(メロンパン味)を一口齧り、これまた自然と頭に思い浮かんだ事は一つ。

「……今年は、ちょっと頑張ってみるかあ……」

 あ、ガリガリ君当たった。

 

☆★☆

 

 扇風機を消し、クーラーを26度に設定。部屋は十分に涼しくなった今日この頃、夏休みの中盤。宿題は終わり、部活動には入っていない俺と幼馴染は、お互いに本を読んで過ごしていた。ぺらり、ぺらりと紙をめくる音とクーラーの音のみの空間。会話は無い、真夏の朝。

 そんな静寂を破る切っ掛けは、俺の読んでいた本(廃線上のアリス。表紙の子可愛い)が終わりを迎えた事。そして、LINEに一通の通知が来た事だった。

 差出人は、永大。メッセージは、

『お前明日の祭りどうする?』

 との事だった。

「……誰だい?」

「んー? ああ、彼女」

「は?」

 床に座って本を読んでいた俺に声を掛けてきたのは、ベッドの上で寝っ転がりながら本を読んでいた我が幼馴染、雪柳桜。成績は常にトップ、どんな服装でも確実に世界のトップに君臨できる容姿に抜群の運動神経。中学校の体育では、器械運動でバク転→ブリッジ→逆立ち→側転→ロンダート→バク転(三連続)をやってた。

 Tシャツに短パンと言うかなりラフな格好のまま、彼女は俺の発言に目を鋭く細める。蒼い瞳が凄まじい殺気を帯びたのは見ないでも分かる所がまた怖い。

「冗談です許してください。永大だよ。夏祭りどうする? だってさ」

「ああ、明日のかい? 今年も何時も通り皆で行こうか。と言っても、今年はトアイリスと凛……二人増える感じかな。去年まではボクと結城、永大に葵ちゃんだったからね」

「いや、それなんだけどさ」

「ん?」

 桜が良く分からない外国語の分厚い本から目を離す。殺気の収まりを確認し、俺は本題を切り出した。

 

「祭り、俺と二人で行かない?」

「ん?」

 

 桜が呆気に取られたように呟く。呆然とする彼女の手から分厚い本が離れて、ベッドに沈んだ。

 

 俺がその話をした直後に、桜は何故か家に帰って行った。陽光で熱された屋根の上を素早く駆け抜けて、自分の部屋にダイブした桜を見届けると、ドアが三回ノックされる。返事も待たずに入ってきたのは、エプロンを着けた葵だ。

「兄さん、お昼ご飯は何が良いですか? 桜さんは……帰ったんですか?」

「うん。二人で祭り行こうぜって言ったら帰った」

「お昼ご飯はお赤飯とかにしましょうか。ちょっと頑張ります」

「何故!?」

「……はあ。冗談ですよ、兄さん。お昼は二人分だけ作りますね。後、」

 葵は無表情のまま、俺をじっと見据えた。強い視線に少し後ずさると、彼女は少し声音を低くして呟く。

「お兄ちゃん、服装をどうかした方が良いと思うよ。明日はもう、滅茶苦茶気合い入れて行ってね」

「どうして急に呼び方と口調変えた!?」

「私もテンション上がってるんです。ああ、このヘタレが遂に……! って」

 芝居がかった口調は珍しい。それを言い残した葵は階下へと行き、一人残された俺は昨日買ってきたラノベ(君と四度目の学園祭)を手に取った。ヒロインよりも花火ちゃん可愛いと思いつつ、1ページ目の文字列を追いかけ始める。

 お昼ご飯は牡蠣フライとすっぽん。どうしてすっぽん? そして、何故こんな暑いのに当たりやすい牡蠣なんだろうか……?

 

『結城、さっきの話だけど』

『良いよ、一緒に二人で行こうか。待ち合わせは神社前に六時半ね。待ってるから』

『……遅れるなよ』

 

『永大ー』

『ん?』

『俺、桜と二人で祭り行くから。お前はアイリスとか凛といてら』

『マ ジ か よ』

『うわ、マジで? うっそ俺ハーレムじゃん』

『こ れ は 勝 っ た』

 

 ☆★☆

 

 日は明けて、翌日。神社までは片道三十分だが、今日だけはこの町全員が神社に殺到すると言っても過言ではない。六時半と言う祭りが一番盛り上がる時間帯も重なるということで、俺は少し早めに家を出た。隣同士だし一緒に行けば良いのに、と葵に言った所帰ってきたのは無言のぐーぱん。どうやら黙って行け、と言う事らしい。

 永大や凛は一緒に行くらしい。となるとアイリスが余りそうだけど、あいつならまあ手ごろな男性を捕まえるなんて一瞬だろうし、永大も一緒に居てくれるはずだ。

 一番不安だった葵へのボッチ疑惑は、小学校の友達(女子)と一緒に行くとの事で一段落。

 男子だったら殴ってたかもしれない。

 神社前に着いたのは、六時十分くらいだった。周りには男友達、女友達、グループで来ている人とリア充の姿が。祭囃子の中に入っていく人混みの中で、俺は一人鳥居の前で立ち止まる。一応葵に合格を貰った私服姿で、腕時計を眺めつつそわそわする。何故か緊張してきた俺の前をクラスメイトが通り抜け、お互いに軽い挨拶を交わした。

 六時二十分、来たのは永大達。俺が手を振ると、永大だけがそっと俺に近づいてきた。

「よっ。凛とトアイリスさんに見つかるとめんどくせえだろうから、手短に」

 奴は俺の背中を叩き、直ぐに戻っていった。

「頑張れよ、暁」

「ん。ありがと」

 そうして、彼らも提灯並ぶ階段の奥へと消えていく。夕空の空は紫色に染まり、遠くには燃え落ちる太陽。藍色の世界が広がる寸前―――――――

 

「ごめん。待ったかな?」

 

 彼女は、現れた。

 白を基調とした生地に、水色の紫陽花柄。足元には下駄を履いて、手には小さな巾着袋。蒼い瞳は夕暮れの中でも輝き、長く綺麗なロングストレートの黒髪はポニーテールに纏められていた。

 走ってきたのか、少しだけ息を切らしている桜。道行く人全ての視線を一身に受けつつ、呼吸を整えながら彼女はゆっくりと歩み寄ってくる。カラン、カラン、と下駄の音を響かせ、ポニーテールを揺らして。赤らんだ頬のまま、桜は俺の傍ではにかんだ。

「じゃあ、行こうか? 結城」

 その可愛さに、声を失いかける。しかしその時蘇るのは、永大の手の感触。叩かれて、鼓舞されて。止まりかけた時が一気に動き出す。ヒグラシの声と周囲の喧騒、夏の暑さが俺を包み込んだ。

 むわっとした熱気の中で、俺はそっと手を差し出す。

「はぐれると嫌なので、手を繋いでくださいませんか」

「そこで敬語じゃなければ、もう少し良かったかな」

 呆れたように笑みを浮かべるも、しっかりと白く華奢な手を絡ませてきてくれる。

 手を繋いだまま、お互いの温もりと感触を確かめながら歩き始める俺と桜。幻想的な祭の風景へと、ゆっくり、ゆっくりと入っていった。

 

 祭りの定番と言えば、焼きそばにたこ焼き、お好み焼き等の鉄板で作れる料理。

 そしてチョコバナナやわたあめ、りんご飴にベビーカステラや水あめ、手軽に食べれる甘いもの。

 遊戯としては射的、宝釣り、金魚すくいにヨーヨー釣りだろう。

 この近辺での夏祭りでは一番規模の大きいここの神社では、その全てが揃っている。殆ど全ての住民がやって来るので、屋台の人も力を入れているのだ。大体ここの屋台には副業というか、他に仕事を持っている人が店を出している。その為、ここでの稼ぎには全力を注いでいないし、祭りを盛り上げたいというボランティア的な意思もあってか、品物の値段はかなり良心的だ。

 しかし、大量の人が買ってくれるので最終的には売り上げが高いんだ、とは父の言葉である。

 今も父さんは仕事中だろう。大変だなあ……。

「結城、結城。焼きそば食べよう焼きそば」

「そんなに反復しなくても良いんだぞ? えっと、焼きそばを一つ下さい」

 鳥居を潜ってすぐ。そこからは最早祭りの中心だ。

 手近な屋台で焼きそばを一つ買って、ビニール袋に入ったそれを桜に渡す。流石にこれを道の真ん中で食べるのは迷惑という事で道の端っこに行き、パックを開けた。

 それと同時に、ソースのいい香りが漂う。

 屋台の群れの中に居ても胃袋を刺激するその香りを近距離で浴びた俺は、自身の腹が悲鳴を上げるのを聞いた気がした。

「いただきまーす」

 そんな事は露知らず、軽快な音を立てて割り箸を割った桜は焼きそばを食べ始める。目を輝かせて麺を頬張る彼女は、どこか幼くも見える。暫く食べた後に、彼女は紅ショウガを麺とキャベツで巧みに隠してから持ち上げた。何をしているのかと見ていると、その箸は俺の口元に差し出される。

「はい、あーん」

「幾らお前が紅ショウガ苦手だからと言ってそれは酷く無いか!?」

「え? 何の事かな?」

「悪意しか見えないんですけど!」

 にっこりと笑って白を切る桜。その顔には何処にも違和感は無く、そこがまた恐ろしい。

 とは言え、紅ショウガ8に麺とキャベツ2の物など俺だって食べたくはない。紅ショウガとは、他の物と合わせる事によって良さが引き立つのだ。幾ら桜の頼みだとしても、ここは断r

 

「だめ、かな……?」

「頂きますっ!」

 

 迷いは消えていた。

 

 ……紅ショウガでひりひりしていた口内は、ラムネで何とか抑えることが出来た。しゅわしゅわとした炭酸が心地いい。焼きそばのパックを捨て、俺と桜は再び屋台の並ぶ道を歩いていた。下駄の音を響かせて、浴衣の裾を振るわせて進む桜。彼女は人混みの中、横にぴったりとくっ付きながら手を繋いで来ていた。右手にラムネ、左手に美少女の手。かなり満たされた祭りである。

「さて、次は何を食べようか。たこ焼き? お好み焼き?」

「えっと……そこにたこ焼き屋があるし、たこ焼き買っちゃおうか。桜、丸ごと小さい蛸が入ってるのと細かく切ってあるのどっちが良い?」

「食べ比べ」

「即答かい。分かった、じゃあ道の端で待っててくれ」

「あ、お金は出すよ」

「良いって。こっちは無駄にお金が余ってるんだから、こんなところくらいでは少しくらいカッコ付けさせて下さいな」

「……ありがとう、結城。でも一人にはならないからね」

 微笑を湛えて、お礼を告げてきた桜。しかし彼女は道の端っこに行くどころか強く俺の手を握り直し、すっととなりに並んだ。呆気に取られていると、桜は顔を上げてニヤリと笑った。

「ボクを一人で置いておいたら、間違いなくナンパしてくる人が居るんじゃないかな? その幼馴染の危機に、キミは絶対に遅れるだろうからね」

「否定できないんだよな……。分かった、じゃあずっと俺の傍に居てな」

「……一生?」

「いやいや、一生じゃないって。祭りの時だよ」

「ふうん。……ふーん」

 桜の問いかけに笑いながら答えた瞬間に、俺の左手が悲鳴を上げた。凄まじい痛みに叫ぶ事すら出来ず、悶えようにもここは公共の場。涙目になりながらも堪え、何とかたこ焼きを二つ購入した。

 俯いたまま顔を逸らしている桜は、それでも手を離さない。道の端に避けて、声を掛けてから左手を何とか離した。まだ痛む手を軽く振りつつ、熱々のパックを開く。箸では無く、爪楊枝を長くしたような奴が二本。これの名前を何というのかは知らないが、たこ焼きと言えばこれで食べる物だろう。

「桜? えっと、まずは丸ごと一匹の奴なんだけど、どうぞ?」

 そう声を掛ける。すると桜は顔をこっちに向けて、控えめに口を開いた。

 ……餌付けみたいだな。

「たこ焼きだから滅茶苦茶熱いと思うんだけど、それでも……その、俺が口に運べば良いの?」

 一回、首が縦に振られる。

「熱いぞ? 良いな? 行くぞ?」

 何回か確認を取ってから、俺は突き刺したたこ焼きを桜の口へと入れる。ソースと鰹節の掛かったたこ焼きは湯気を立てながら口へと入り、桜は目を白黒させて蹲った。

 相当熱かったのか、彼女はラムネを全て飲み干して直後、涙を浮かべた目で俺を見ながら手を振った。

「んー! んー!」

 そこで飲みかけのラムネを渡すと、それも一気に口へと流し込む。ビー玉を上手く止めながら全部を消費した桜は大きく息を吐き、

「熱いじゃないか!!」

「言ったよな!?」

 そう、叫んだ。

 

 焼きそばとたこ焼きを食べて空腹は落ち着き、次は屋台で遊ぼうと言う事に。射的や宝釣り、様々な種類の屋台に目を光らせつつ良さそうな所を探す。時々全然落ちない射的もあるし、この作業は何だかんだ重要だと思う。浴衣を着ているため歩幅の小さい桜に合わせて歩き、一つの良さそうな射的の屋台へと俺たちは入っていった。

 一回五発、三百円。安い!

「桜はどうする?」

「んー……ボクは見てるよ。結城、頑張ってね」

 顎に人差し指を当てて唸った桜は首を横に振った。屋台のおじさんからコルク銃とコルクを貰って、赤い布の敷かれた台の真ん中に入る。最初にレバーを引くのがコツで、こうすると空気が良く入って威力が高くなるのだ。そして、体を前に出すよりも銃がブレない様にする方が当たりやすいと思う。

 ……さて、どうせならばここで桜に何かをプレゼントしたいところだ。

 しかし、彼女が貰って喜ぶ物がここにあるのだろうか。ざっと景品を見渡しても、あるのはシガレットや安い玩具のみ。ここでプレゼントを落とすのは流石に安上がりすぎる、と思いつつも一発目。

 狙うはプリズマ☆イリヤの景品!!! さっきまでの思考は全て弾け飛んでいる!!

 ズドンッ! すかっ。

「……キミが何を狙ったかはともかく……へたくそ」

「うっさい! ええい、もう一丁!」

 ズドンッ! すかっ。ズドンッ! すかっ。 ズドンッ! すかっ。

「俺、射的には少しばかり自信があったんだけど」

「ロリk……こほん。狙ってるのが君の身の丈に合わないものなんだろうね。ドンマイ」

「尊すぎるのか」

「本当に結城は何を言ってるのかな」

 呆れた風に息を吐く桜。ぐぬぬと悔しさを噛みしめつつ、レバーを引いてから最後のコルクを装填。狙いを定めてから、トリガーガードに沿わせていた人差し指を引き金に掛ける。ゆっくりと押し込みながら、最後の一射。

 撃たれたコルクは直ぐに景品の元へと行くが、狙いの景品の遥か右側へと逸れて行った。

 負けを確信した次の瞬間、コルクはカツンッ! と何かを弾き飛ばす。景品棚から吹き飛んだそれは、下へと落ちた。

「おお。当たったね」

 驚いている声を聞きつつ、おじさんから景品を受け取った。手のひらに収まるそれは、桜の花弁を模っている髪飾り。

 屋台の列から外れ、通りを歩く最中。俺は桜に声を掛けて、その髪飾りを手渡した。

「……さっきのやつかな?」

「うん。えっと、そんなに高価な物じゃないとは思うんだけどさ……要りますかね?」

「勿論。キミがくれる物なら大体全部貰うよ。ありがとう、結城」

 そう言って微笑んだ桜は、早速髪飾りを左側に付けた。

 桃色の花弁が、提灯の光に照らされて輝いている。こっちを見て微笑んだ彼女は、自然に俺の手に指を絡めてくる。時刻は七時半。気づけば、もう一時間が経っていた。

 この祭りの醍醐味の一つに、海の上から打ち上げられる花火がある。

 大体三十分に及ぶ、連続して打ち上げられる花火は名物の一つ。俺が一番好きなのは、花を咲かせた後に落ちてくる金色の花火だ。イメージ流星群的なやつ。分かってくれる人は、居るだろうか。

 祭囃子の奥にある神社。

 本来神社は夜に入ってはいけないのだが、祭りだけは人と妖が入り混じる事の出来る。神隠しや、狐のお面を被った少年少女の怖い話を聞いた事は無いだろうか? そう言うのは、古来から日本で培われてきた神道の影響による物だ。

 ……とは言え、現代社会においてそんな知識を使う事は殆ど無いだろう。

 それより大事なのは、桜がくいくいと俺を引っ張っている事である。彼女が興味を惹かれているのは、祭りの定番と言えば定番の金魚すくいだった。

 取っても飼育に困る金魚。しかし桜は毎年これをやる事で、今や金魚の飼育が趣味の一環になっている。

 前見せてもらったのは到底金魚とはかけ離れた存在になっていた。

 屋台の人にお金を払い、ポイと器をもらう。浴衣のまましゃがんだ桜はポイを構える。俺は見ているだけ。理由は、その、絶望的に金魚すくいが下手なのである。ポイとか直ぐに破けるし。

 だがそこは桜。俺とは全然違う。

 数年前、中学生の桜が一回本気で金魚すくいをやった事がある。結果を言うと、金魚は全部器の中に入ってしまい、屋台のおじさんは冷や汗を流していた。それ以来、彼女は取る数を制限している。今日も三匹をすぱっと取り、出目金に向かってポイを構える。すくい上げるも重みにポイが破け、水面が揺れた。おじさんに破れたポイと器を渡し、代わりにビニール袋に入った金魚を受け取る。中に泳いでいる金魚は提灯から漏れるオレンジの光を透かし、幻想的な雰囲気を醸し出していた。

 浴衣に、金魚すくいの袋はとても似合うのは気のせいでは無いだろう。

 もうすっかり夜だ。しかし空には似合わない、明るい世界。珍しくずっと笑顔の桜は、俺の左手を握ったまま強引に持ち上げた。どうやら腕時計を見たかったらしく、首を捻りながらじっと時計を見つめる。

「七時、五十分か……。結城、そろそろ花火が良く見えるところに移動しないかい?」

「そうだな。じゃあその前に、なんか花火を見ながら食べれる物でも……」

「む。祭りの食べ物は美味しいけどね、食べ過ぎはダメだからね。明日は健康の事も考えて、豆腐ハンバーグだからね?」

「それは俺の大好物ジャマイカ」

 豆腐ハンバーグとは、その名の通り豆腐のハンバーグだ。聞くとあまり食欲はそそられないが、実際に食べてみるとこれがまた凄く美味い。

 と、会話をしつつお好み焼きやベビーカステラ、ふりふりポテトに竜巻ポテトを購入。

 両手にビニール袋を持ちながら、桜に案内されて神社の奥へと向かう。茂みの中、あったのは一つの柵。

「……そこ、鍵付きだぞ」

「ふっふっふ。ボクが前、巫女さんをやったのは覚えているかな?」

「うん」

「その時におばあさんが居たでしょ? あの人とここの神社の人が知り合いみたいでね。町で会った時に、鍵を貸してくれるって言ってくれたんだよ。キミに祭りに誘われたとき、直ぐ帰ったのはその……まあ、これもあったんだよ」

 巾着袋から鍵を取り出し、柵を開ける桜。どこか恥ずかしそうに、そそくさと彼女は先へと進んでいった。

「……これも、って事は他に何かあったのかな……?」

 取り残された俺は一人、そんな事を呑気に呟く。

 竜巻ポテト(じゃがいもを丸ごとリンゴの皮を繋げて切った時みたいにぐるぐるに切って、上から塩とかを掛けた物。美味い)を口に入れつつ、先に行った桜を追って柵の向こうへ。一応扉は閉めて、整備のあまりされていない道を進む。するとそこには、海が一面見渡せる場所があった。

 ここなら確かに、花火が良く見えるだろう。腕時計を見ると、暗くて良く見えないが針は恐らく八時直前。袋を地面に置いて、中からお好み焼きを取り出す。ちらりと横を見ると、桜が大きいりんご飴をちろりと舐めていた。

 その光景に目を奪われてじっと見つめていると、桜がジト目で俺を睨み付ける。

 少し頬を赤くしたまま、彼女は低く呟いた。

「なんだい、そんなに食べてるのをじーっと見て」

「いや……何でもない。俺の(買った)チョコバナナ食べる?」

「卑猥」

「なんでさ!」

 袋から取り出したそれを見せると、桜はぷいっと顔を背けた。美味しいのに、と思いつつ噛り付く。

 その瞬間。

 

 ヒュー……。

 

 海面から、光が打ち出された。空へと昇っていくそれを、自然と視線が追っていく。

 二人の間に言葉は消え、一発目が夜空に咲いた。大きく、青いそれを切っ掛けに、無数の花火が夜空を彩る。遠くに聞こえる、祭囃子の音。どこか日常とはかけ離れた景色に、意識が飲み込まれる。

 続く花火。消えた言葉。

 ……思えば。

 何時から俺は、この雪柳桜に恋心を抱いていたのだろうか。

 一目見た時からだろうか。でも、ファーストコンタクトは最悪だった思い出がある。昔、俺は桜に物凄く、世界最強レベルで嫌われていたのだから。

 いや、それは愚問か。

 花火が、幾つも幾つも空に明かりを灯す。じっとそれを見つめる桜を一瞥し、俺は長く息を吐いた。

 覚悟を決めろ。今年は頑張るって、決めただろうが。

 夜空の下。涼しい風が、俺と桜の髪を揺らす。漆黒のキャンパスを彩る極彩色の光が、海面に淡く映っていた。手汗をズボンで拭いて、背筋を伸ばす。

 伝える言葉は、一つだけ。

 率直に素直に簡潔に。ただ、思いだけを真っすぐに伝える――――――

 

「桜」

 

 ただ一言、名前を呼んだ。りんご飴を手に持ち、金魚すくいの袋を肘にかけ。白を基調とした布に青い紫陽花を刺繍した浴衣を纏う彼女は、雪柳桜は無言で振り返った。長い黒髪をポニーテールに纏めて、俺の当てた髪飾りを左側に付けて。

 花火を背に、微笑む幼馴染。彼女は何も言わずに、そこに佇んでいる。

 綺麗だった。これ以上ないくらいに、桜は綺麗で可愛くて、まるで手の届かない存在であるかの様でさえもある。

 だから俺は、緊張する鼓動を抑えるために一呼吸置く事が出来た。

 しかしそれも一拍。顔を上げて、彼女の青く透き通った瞳をしっかりと見つめて。

 

「ずっと、ずっと好きでした。俺と、付き合ってください」

 

 俺はずっと前から桜が好きだったんだ。何時からじゃない。そんなちっぽけな枠には、収まりきらない。

 だから。

 この幼馴染(好きな人)と、ずっと日常を過ごして行きたいんだ。

 

「そして、俺とずっと一緒に居て下さい!!」

 

 桜の持っている不安。ずっと一緒に居れないかもしれないとか、明日死ぬかもしれないとか。可能性の話をすれば尽きない、不確定な未来。幼馴染と言う、友人でも恋人でもない、ただただ長年ずっと一緒に居ると言うだけの不安定な関係だからこそ、その一見固そうで実は脆い関係がいつ崩れるか分からない。

 

 でも、そんなつまらない事はどうだって良い。

 

 俺は桜とずっと一緒に居る。こいつがどうなろうが、絶対に近くにいる。傍に居る。

 その手を取って、前に進み続ける。

 

 

 告白した瞬間に、桜は下駄で地面を蹴り飛ばした。

 カラン、カラン、と音を高鳴らせて、彼女は俺へと飛びついてくる。首に回される両腕。温もりが押し付けられて――――――

 唇に、柔らかくて優しい物が押し付けられた。

 桜の顔が、いい香りが、凄く近くにある。彼女の体を抱きしめ返すと、そのまま口を離す。

 頬を赤く染めて。

 青い瞳を細めた彼女は、

 

「ボクも、結城が好きだ」

 

 ……そう告げて、満面の笑みを咲かせた。

 

 その背景に、花火が大きく光る。

 それは祭りの最後を彩る、一番大きく一番輝いている、

 

 桜色の花火だった。


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