俺とクーデレ幼馴染の日常   作:ラギアz

18 / 39
新キャラドーン!




俺と幼馴染とドライな妹

 夏休みに入った。

 扇風機が羽を回し、開け放たれた窓からは夏の強い日差しと風が舞い込んでくる。生ぬるい空気の漂う中で、俺は机に一人向かっていた。昼間だから、電気はつけていない。黙々とシャーペンを走らせて、消しゴムを空いた左手で弄る。

 汗をだらだらと流しながら全力で右手と脳を動かす俺の後ろから、気だるげで居ながら澄んだ声が聞こえた。

「ほら、頑張れ頑張れ。七月中に宿題全部終わらせるんだろう?ボクはもう終わったからね。ほら、今日の目標は20ページまでだよ」

「死ぬ……っ!マジで死ぬっ!暑いし何より宿題終わらねえ!」

「ほら、早くしないとキミのゴリゴリ君が無くなるよ」

「もう一本食べてるでしょうが!」

 そう。七月の終盤、夏休みの序盤。俺は宿題を終わらせるべく、全力で机に向かっていた。七月も残り僅か。八月中目一杯遊ぶために、今頑張っているのだ。

 そんな俺こと、暁結城をじっと眺めているのは俺の幼馴染である雪柳桜。

 ベランダでお互いの部屋を行き来できる関係。十数年の付き合いがある彼女は今、俺のベッドに腰かけていた。

 自分の部屋のほうが涼しいのに、律儀に桜は俺の部屋へと来る。本人曰く、

『宿題の監視だよ』とのこと。

 と言いつつも宿題終わった後にルイカー(注・ルイーズカート。レースゲーム)を起動させる当たり、相当暇なんだろう。

 タンクトップのTシャツに膝上の短パン。全身を汗でじっとりと濡らしながら、溶けかけている水色の棒アイスをちろちろと舐めている。もう桜は宿題を終わらせて居るらしい。

「……にしても、今日はあれか。キミの妹君が帰ってくるんだね」

「オワタ。マジでオワタ」

「全寮制の学校かあ。大変だね」

「無駄に遠いしな。きっと今頃電車の中で本でも読んでるんだろ」

「……ところで、キミのお母さんと妹は美人なのにどうして結城は美形じゃないんだい?」

「性格に全振りしてるのさ」

「死ねば?」

 心に深い傷を負い、俺は涙目で宿題を進める。

 俺の妹は現在中学生。全寮制の学校に通っていて、春休みと夏休み、正月にしか帰って来ない。結構ドライな奴だが、兄から見ても美人だとは……思う。うん。きっと学校で告白されまくってるんじゃないかな。

 中学校はかなりの進学校で部活も強い。名門と言えば、という質問をされたら確実に上げられるような学校だ。勿論俺はそんな学校に入れないが、妹は何時も勉強していた。そして何を隠そう、俺の妹に勉強を叩き込んだのは桜である。ぶっちゃけて言うと、桜はその名門で主席を取れる位には頭が良いだろう。

 だからと言うべきか、妹は桜に対して尊敬の念を抱いているらしい。

 ……俺に向ける視線?ははっ、絶対零度超えてんじゃないかな。

「そう言えば、彼女はドクターペッパーとねるねるねるねが好きだったね。ストックは?」

「………あ」

 忘れていた。完全な失念。

 あいつはドクペとねるねるねるねが無いと、とんでもなく機嫌が悪くなる。ましてや今日は夏休みの初日。寮から実家へ帰って来る日なのだ。

 そして悲しいことに、家での地位は妹の方が高い。

「すまん、買ってくる」

「忘れてんだね……行ってらっしゃい」

 机から立ち上がって、財布をポケットに突っ込む。一応スマホも持つと、俺は自分の部屋のドアを開けて外に飛び出した。

 瞬間。

 

 ピンポーン。

 

 と、無慈悲なチャイムが鳴り響いた。現在は昼前。きっと、朝早くから出ていれば丁度家に着く時間だろう。

 そう。妹様が。

 やばい、やばいやばいやばい。

 

 ぴんぽぴんぽぴんぽぴんぽぴんぽーんぴんぽーんぴんぽーん。

「はあああああああいいいい!!!!!」

 叫んで、半ば階段を転がり落ちるかのように俺は一階へ。そのまま飛びつくように玄関のドアノブを握り、勢いよく開いた。すると、そこには―――――

 短く切りそろえられた髪。

 黒髪に、少し焼けて黒くなっている肌。手には何かしらの大きな荷物が持たれていて、そいつは半ズボンにスニーカーを合わせている。

 

 そして、俺よりも背が高かった。

 

「よう暁!元気してたか?さあ―――――宿題しようぜ?安心しろ、コーラとポテチとたけのこの里は完備してある」

「とりま爆発しろ」

「ええっ!?」

 ドアの外に居たのは、岡取永大。長い付き合いの悪友で、彼は大げさにリアクションを取った。

 

☆★☆

 

 新幹線を降りて、重たいキャリーバッグを転がす。海風の香りが鼻孔を刺激して、久々の故郷に少し立ち止まった。山と海があり、学校やファミレス、デパートがあると言ってもここはまだ田舎。

 こんな駅で降りるのも私だけでしょうか。改札を通れば、外は快晴。遠く連なる山々。青い海。

 ……本当に良い所ですね。と、しみじみ感じながら歩き始めます。

 白いワンピースの裾を伸ばしながら、麦わら帽子の位置を直して。こういう時に送り迎えに来ないから私の兄はダメなんですね。ええ。ねるねるねるねとドクターペッパーはあるでしょうか。……何ででしょうか。今全力で買いに行ってる兄の姿が凄い想像できますね。あの人は馬鹿ですので。

 とはいえ、あの人と血が繋がっているのは事実。そうじゃなかったら家族会議です。

 どうやら私は兄に怖がられているようですが、私は兄を慕っています。

 優しいですし。頼んでも無いのに私の好物を用意してくれますし、祭りとかに行けば必ず何かしらプレゼントをくれますし。

 ……その所為で、私は毎日アクセサリーに悩むのです。

 今日は兄の好きな服装です。白ワンピに麦わら帽子。少しは兄へのサービスも、ね。

 

☆★☆

 

「ドクペ箱で」

「は、箱ですか!?」

「ねるねるねるねるねも箱で!」

「ねるが一個多いですお客様!」

「残念!二つ多いんだなこれが!」

「くっ!間違えましたか……!お会計、こちらになります!!」

「はい!お釣りはいらねえ!」

「丁度頂きます!ありがとうございましたああ!!」

 

「……お前、テンション高かったな」

「……すみません。あの人に釣られました。花のJKなのに……」

「自分で花言うのか」

「もちろんです、プロですから」

「突っ込まんぞ」

「突っ込まないって……先輩、いきなり何ですか……卑猥ですねえ」

「……」

「スルーは辞めてください!」

 

 後ろの方での喧騒を聞き流しながら、箱を二つ抱えて俺は全力で街を駆け抜けた。

 我が妹はもうそろそろ家に着く頃だろう。それまでには何としてでも帰っていたい。さもなければ、死ぬ。

 どうして俺の周りの女の子はどれも怖いのだろうか(凛除く)。というか家で永大と桜が二人っきりとか不安すぎる泣けてくる。

 脳内でアソパソマソマーチを流しながら全力疾走。何とか俺は、妹よりも先に家へと帰って来る事が出来た。

 

「お帰り」

「おう、お帰りー!今二人でポーカーしてたんだ、お前も混ざれよ!」

「ドクペ冷やしてからな……」

 永大と桜はリビングでトランプをしていた。因みに見ている限りは桜の圧勝。

 いつの間にか桜は薄いパーカーを羽織っていて、短パンの上に長いスカートを履いていた。可愛いが隙の無い恰好。そう言えば妹もこんな格好をしていたな、と思っていると。

 

 ぴんぽーん。

 

 控えめになる、チャイムの音。それを機に桜は立ち上がり、エプロンを付けて素麺の調理に取り掛かる。永大は机の上を片付け始めて、俺は玄関へと向かった。

 もう何度も俺の家に来ている桜と永大だからこそ、こういう時の仕事をしっかりとしてくれる。

 正直、ありがたい。俺はドアノブを捻って、そして開けた。

「……お帰り」

 そこには、ショートカットの艶やかな黒髪に、静謐な黒い瞳。

 150cmちょっとの小柄な体躯に、ほんの少しだけ発育のみられる体。整った容姿に端正な顔立ち。

「ただいまです、兄さん」

 ―――――俺の妹、暁葵(あかつきあおい)が立っていた。

 

 ソファに座って、麦わら帽子を取った葵は卓上のドクターペッパーを一口飲み、大きく息を吐いた。

 キンキンに冷えているだろう缶の表面にはたくさんの水滴が滴っている。それを人差し指で掬うと、葵は口を開いた。

「こんにちは、永大さん。いつも兄がお世話になっています」

「久しぶり、葵ちゃん。こちらこそお世話になってるぜー」

 礼儀正しい我が妹は俺の向かいに座っている。俺の隣には永大。丁度男女で別れる形になっていた。

「兄さんもお久しぶりですね。宿題はどうですか?」

「微妙。……うんまあ、頑張る」

「桜さんに余り迷惑をかけては駄目ですからね、兄さん。もっと頑張って下さい」

「はい」

 淡々と言葉を紡ぐ葵。長旅の疲れなんぞ感じさせないくらい、彼女は何時も通りだった。

 その間に、桜は素麺を茹で上げたらしい。透明な食器(俺の両親公認、桜は食器類全て使用可能)に麺を山盛りにして、テーブルの上にどんと置く。めんつゆとカップも配って、桜は自身もソファに腰かけた。

「さて、食べようか。葵ちゃん、どんどん食べてね」

「はい。何時もありがとうございます。兄がこう……生ごみ的な感じですみません」

「ううん、大丈夫だよ」

「否定してくれ。後少しで泣くぞ」

「兄さん、否定出来ません」

 葵の辛辣な一言に、俺は崩れ落ちた。マイペースに永大はそうめんと食べまくり、桜もにこにこと薬味を揃えている。俺もネギとわさびを汁に入れて、早速食べ始めた。

 話題は、自然と葵の学校生活のことに成る。俺と桜はもっぱら聞き役、永大はしきりに話しかけていた。

「……処でさ、葵ちゃんはどこか行きたいところあるかな?連れてくよ?……暁結城が」

「お前じゃないんかい」

 永大がそう言うと、葵は珍しく悩んだ。即決即断の妹は、あまり悩まない。しかし直ぐに遠慮する癖もあるらしく、兄としては不安だ。

「兄さん」

 そう考えていると、葵はおずおずと話を切り出してきた。

 久しぶりに見る葵へと目を向ける。未だに敬語なのは、学校で染みついているからか、俺とそんなに会っていないから他人と言う意識があるのか。

 少なくとも後者だとは信じたくない。俺が首を傾げると、葵はゆっくりと言った。

「私、海に行きたい……です」

 その言葉に、俺と永大、桜は顔を見合わせる。

 直後、特に悩むことも無く俺は告げた。

「良いよ。……葵は水着を変えなくても良いとして、まずは桜とかの水着買わなきゃな」

「どういう事ですか兄さん!」




へっへっへ……妹の存在、忘れてましたよね……?

俺もでs(殴

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。