──なんで北欧神話なのよ?──
まったく…珍種猫の相手をしていたら余計に疲れてしまった。これでは何のために個室へ来たのかわからなくなってしまいそうだ。とっ捕まえてなお暴れるフォウとやらの首根っこを掴んで個室へ入る。というかこいつ、生殖器の有無でメスであると確認した途端、俺の手を噛むは顔をひっかくは、やたらと「フォフォフォウ!」と吠えまくったりはで散々な目にあった…。猫(?)畜生の分際でなんとも生意気な…!
「はーい入ってまー──って、うえええええ!?誰だキミは!?ここは空き部屋だぞ、ボクのさぼり場だぞ!?誰のことわりがあって入ってくるんだい!」
「貴様こそ何者だ。俺はさっきここをマシュに案内されたのだが…?」
空き部屋であるはずの俺の部屋には、白衣を着たポニーテールの男のがベットに座ってくつろいでいた。ふむ…しかしこの男、初対面のはずなのに隠し切れていないヘタレでチキンな匂いがこの上なく漂ってくるのはなぜだろうか…。と、俺は椅子に腰掛け膝の上にフォウを乗せた。また暴れておりるだろうと思っていたが、膝の上から動こうとしない。ふん、まぁ勝手にすればいいさ。別にこいつの毛並みが膝に心地いいとかそんなことは思っていないからな!
「何者って、どこからどう見ても健全な、真面目に働くお医者さんじゃないかな!というか、キミこそ誰なんだい?見たところ君も医療部門のメンバーのようだけど、知らない顔だし…」
そういえば俺はいつも通り白衣を着ている。確かにこの格好だと医者に間違えられても仕方ないだろう。
「いや、俺は医療部門とやらには所属していない。ここにいるのは、まぁ成り行きといったところでだな。マスター候補というものなのだが、体調が優れなくてな、個室で休むことにした」
「優れないって…けっこう元気そうに見えるけどな、キミ…。まぁいいさ!予期せぬ出会いだったけど、改めて自己紹介をしよう。ボクは医療部門のトップ、ロマニ・アーキマン。何故かみんなからDr.ロマンと略されていてね。君も遠慮なくロマンと呼んでくれ」
「俺は岡部倫太郎。カルデアには来たばかりでな、不慣れなところもあるが、よろしく頼む」
というかカルデアのことは全く分からないのだがな。ロマンは医療部門のトップだということだし、頃合いを見てさりげなーくカルデアのことを聞いてみるか。
「待て、仮にも医療部門のトップがこんなところでサボっていていいのか?所長からの説明会とやらには出なくていいのか?」
「ははは、確かにその通りなんだけどね。ボクはその所長に叱られて待機中だったんだ。『ロマニが現場にいると空気が緩むのよ!』って追い出されて、仕方なくここで拗ねていたんだ」
なんとも理不尽な…と思ったがどことなくふわふわしているロマンがいると、何とも締まらないだろうな。ロマン、あまり所長からいい印象を受けてないのだろうか…。
「でもそんな時にキミが来てくれた。地獄に仏。ぼっちにメル友とはこのコトさ。所在ない同士、ここでのんびりと世間話でもして交友を深めようじゃないか!」
「まぁいいだろう。そもそもここは俺の部屋らしいしな」
「うん、つまりボクは友人の部屋に遊びに来たって事だ!ヤッホゥ、新しい友達が出来たぞぅ!」
ふむふむ、ぼっちとはな。ロマンもなかなかの苦労人と見える。別に俺もラボメン以外に親しい者がほとんどいないから同情しているわけではない。断じて、そんなことは、無い。
「ところでキミの膝の上にいるの、もしかして噂の怪生物?うわぁ、初めて見た!」
「おや?フォウは昔からカルデアにいたのではないのか?」
「あぁ、一週間くらい前からどこからともなく侵入してきたとマシュから聞いていたんだけど、ほんとにいたんだね…。どれ、ちょっと手なづけてみるか」
そういうとロマンはベット立ち、こちらの方へ歩いてフォウが『ここは私の場所なのだぜ☆(ドヤ顔)』と言いたげな顔で鎮座している俺の膝の前でしゃがみこんで…
「はいお手。うまく出来たらお菓子をあげるぞ?」
とロマンは右手を差し出した。さてフォウは…
「……………………フゥ」
とこれ以上ないというくらい見事に鼻で笑った。こいつ、やっぱり生意気だ!全然可愛くない!そもそも反応が動物っぽくない!
「あ、あれ?今、すごく哀れなものを見るような目で無視されたような…」
「とてもメスには見えんな。というかロマン、猫にお手は無いだろう、お手は」
「あれ?この子、猫なのかい?ボクは犬だと思っていたんだけど…まあいいや…」
猫(?)にまで軽んじられるとはロマンという男。なんとも哀愁漂う顔をして手を引っ込めた。
「すこし喉が渇いてきたから何か持ってくるよ。倫太郎君、キミにも何か持ってくるよ。何がいいかな?ついでにフォウさんにも持ってこよう」
「フ…では俺は至高の知的飲料、ドクペを要求するとしよう」
「えぇーっ!?キミあんな不味いものよく飲めるね!いや、ここにも一応あるにはあるけどボクの知る限りだと、知り合いの天才変人しか飲まないよ、アレ!?」
「ほほう、このよくわからん所にもドクトルペッパリアンがいるのか。そいつとはいい飲み仲間になりそうだ」
「いやぁボクとしてはあまり関わりを持たない方が…まあいいか、それじゃついでにフォウさんにもミルクか何かでも持ってくるよ」
「待〜て、ロマンよ。こいつにもドクペを持ってきてくれ、散々コケにしてくれたからな、このバカ猫にも至高の知的飲料を飲ませて、少しでも知能を上げてやるとしよう」
「キミって実はとんでもなくやっかいな性格をしているんじゃないかな…とりあえず持ってくるとするよ」
えぇーと財布はどこに置いたかなぁと、ロマンが個室の中で財布を探している。むむ…言ってみては何だがやはり猫(?)にドクペはマズイだろうかとフォウを見てみると、『はいはいワロスワロス』などと言いたげにニヤけなが「フォウフォウ(笑)」と鳴いていた。この猫殴りたい…!おのれ…少し可哀想かなと思ったが、こうなったらコップ一杯飲みきるまで口に流し込んでやろか…!
ピリリリリ!ピリリリリ!
「あれ、僕に電話だ。まったく人が友人とせっかくコーヒータイムを楽しもうしているのに…」
とぶつくさ言いながらロマンが懐から携帯電話を取り出す。あれは…プッシュボタンが無いではないかと疑問に思ったが、マシュに聞いた通り、ここは2015年の世界なのだと思い出した。
『ロマニ、あと少しでレイシフト開始だ。万が一に備えてこちらに来てくれないか?Aチームの状態は万全なのだが、Bチーム以下、慣れていない者に若干の変調が見られる。これは不安からくるものだろうな。コフィンの中はコックピット同然なのだからな』
音が漏れてきたがこの声は…さっきの…。
「やあレフ。それは気の毒だ。ちょっと麻酔をかけに行こうか?」
『ああ、急いでくれ。いま医務室だろ?そこから二分で到着できるはずだ』
「あ、あぁ!分かったよレフ、うんっ、すぐに向かうさ!」
ガチャ…プー、プー、プー…
「どうするのだ職務怠慢ドクター。俺の目が確かならここは医務室ではないはずだが」
「…あわわ…それは言わないで欲しい…。ここからじゃどうあっても五分はかかるぞ…」
「フォフォ〜ウ…」
見るからに動揺しているロマンにフォウが白い目で見ている。珍しいなフォウ、俺も同じ気持ちだ。
「ま、少しくらいの遅刻は許されるよね。Aチームは問題ないようだし」
こ、こいつ!あっさりと遅刻宣言しやがったぞ!そこらへんはまゆりと同じくらいフワフワだな!
「本当にそれでいいのか医療部門トップよ…」
「流石に早足でいくさ。おっと、お喋りに付き合ってくれてありがとう、倫太郎君。今度はドクペといっしょに美味しいケーキぐらいはご馳走するよ」
じゃあねっと言いロマンが個室から出ようとした時
暗転
「なんだ?明かりが消えるなんて、何か──」
「フォウっ!?フォウっ!?」
ロマンが訝しげにつぶやく。いきなり真っ暗になったせいか俺の膝にしがみついてくる。
ドオォォォンと雷が落ちたような爆音
すぐ後に大音量の警報とアナウンスが流れ始める。
『緊急事態発生、緊急事態発生。中央発電所、および中央管制室で火災が発生しました』
『中央区間の隔壁を90秒後に閉鎖します。職員は速やかに第二ゲートから退避してください』
『繰り返します。中央発電所、および中央──』
警報が響く中、明かりはすぐに戻った。しかし…
「今のは爆発音かっ!?一体何が起こっている…!?」
「ロマンっ!これは…!?」
「ボクにも分からない…モニター、中央管制室を映してくれ!みんなは無事なのか!?」
ロマンは個室の壁に貼り付けてあるモニターに向かって怒鳴る。するとロマンの声に反応したように、モニターが中央管制室だと思われる場所を映し出す。
──そこは、地獄のような惨状だった。火の海に焼き焦がされ元々人であったのであろう肉片。爆発で落下した瓦礫に押しつぶされ千切れ潰れた手足。中央に立つ暗い色で覆われている地球儀が人々を燃やしたつくそうとしている太陽のように見える──
「────────」
「─────これは」
思わず声が出なくなる。だが、ロマンはさっきとは打って変わって真剣な顔つきになっていた。
「倫太郎くん、すぐに避難してくれ。ボクは管制室にいく。もうすぐ隔壁が閉鎖するからね。その前にキミだけでも外に出るんだ!」
そういうとロマンは個室を走って出て行く。残っているのは俺とフォウだけ──
俺は未だに、このカルデアはどこなのか分からない。2015年という未来。もしかしたらシュタインズゲート世界線と違う世界線なのかもしれない。ダルやまゆりなどといったラボメンもいない。まゆりを救うために俺を支え続けてくれた紅莉栖も──
「フォフォフォウ!」
はっと足元を見た。フォウだ。生意気な性格のようで散々俺を困らせたが、ふと見せる仕草が可愛くないこともない。あのフォウが俺をじっと見ている。こいつが俺に何と言っているかは分からない。だが、何を伝えようとしているかは──今は分かる。
「──分かっている。マシュを助けに行くぞ!」
「フォウ!」
マシュ。見ず知らずで素性の知れない俺を、先輩と甲斐甲斐しくも心配してくれた少女。その少女が今、あの地獄で助けを求めているのなら──
──ここはどこなのか、どの世界線なのか、ラボメンはどこにいるのか、今はひとまず置いておく。だからまずは──!
「これより、マシュ・キリエライト救出作戦、神へと至る為の祭壇作戦(オペレーションホルグス)を開始する!行くぞ助手2号よ!」
「フォウ、フォウフォウッ!」
エル・プサイ・コングルゥ(こんにちは)書きたいところの一つがやっと書けました。まぁほんとに書きたいところは次の次あたりになりそうです…。オカリンのサーヴァント引き継ぎ募集中ですので、オカリンと合いそうなのがいたら活動報告からのコメント、お願いします!ではまた近いうちに、エル・プサイ・コングルゥ(今度はさようなら)