あの日たすけた少女が強すぎる件   作:生き残れ戦線

40 / 105
それは三日前、ギルランダイオ要塞陥落の日まで時は遡る。



三十九話

不気味なまでにシンと静まり返った、

凶悪なラグナイトガスによって侵されている廊下は、蒼い毒煙で充満している。

もはや人の活動できる領域から逸脱したその中を、

たった一人、進み続ける影がある。

孤立した帝国軍を助けに行ったセルベリアと別れ単独で要塞内に消えたエリーシャだ。

メイド服にガスマスクという異様な風貌のままに、

物音ひとつしない廊下にコツコツと彼女の足音だけが響く。

 

不自然なほどの静寂、いや違う。

立ち込める毒ガスのせいで見え難いが、目を凝らせばいたる所で死屍累々の骸が床に転がっているのが分かる。

それは猛威から逃げ遅れた兵士達であり。

数えるのも馬鹿らしいほどの死体が廊下の先まで続いているのだ。

 

そんな中に居ながら少しも気にした素振りを見せないエリーシャは歩を緩めることもなく前だけを見据えている。

しかし、マスクの奥に隠れた視線は隈なく巡らせていた。何かを探すように。

ゆっくりと一階の廊下を進む中、ふとエリーシャの歩みが止まった。

その視線はある一点で集中する。

 

視線の先には一つの袋があった。

ひと一人を入れることの出来る大きさで、正しくそれは死んだ人間を収納する為の道具である。

戦場では珍しくないありふれた物の一つ。

何を考えたかエリーシャは()()()に近寄った。

たった一つ、ぽつんと取り残された様に置かれている事を奇妙に思ったのだ。

 

ジッパーを下ろして袋を開ける。中には白衣を着た少女の遺体が納入していた。

遺体を検分して分かった事は少女がガリア人という事だ。しかも兵士ではなく、衣類から見て医療に従事する者だという事が分かる。

 

死因は一発の銃弾、胸元が黒く変色した血糊で染め上げられている。

少女の遺体を無言で見下ろしていたエリーシャはどこからともなく一本のナイフを取り出すと、鋭利な切っ先を傷口に当てた。躊躇せずナイフを引き、

傷口を開くと綺麗なピンク色の肉が姿を見せる。

普通の女性なら卒倒モノの光景だが、

全く動じた様子を見せないエリーシャは機械的に作業を続ける。

 

時間を掛けず少女の体から鉄の弾が摘出された。

付着した血を拭い取り、少女の命を奪ったその弾丸を鑑定すると面白い事が分かった。

 

「これは.....帝国軍のものではなく、ガリア公国軍式の銃弾ですか」

 

条約によって国が作る武器・兵器にはどこの国の物か分かるよう符号が刷られている。

それは弾丸の一つにとっても例外ではなく一目見ただけでエリーシャにはそれが何処の国で造られ使われている物なのかが分かった。言葉にすると簡単なようだが本来、生産国を特定するには専門的な知識が多量に必要となり。

これほどの短時間で特定できるものではない。安に此処が現在戦争しているガリア軍の基地であり、帝国式銃の物ではないと判断した末に落ち着いた結論だ。

 

「穿透創をつくる程の威力ではないという事は性能の低い拳銃の可能性が高い、かといってこの傷口の焦げ方はかなり近くから撃たれないと出来ないはず、撃った者はこの娘にとっても信頼できる人物だったということ.....」

 

呟きながら事の真相を探っていく。

弾痕の傷跡から恐らく五メートルと離れていないだろう。

近距離から放った弾が少女の体に留まっていた程の低威力という事は性能を無視して外面を煌びやかなものとした鑑賞用の拳銃である可能性が高い。つまりお飾りの武器というわけだ。

そんな物を使うのは実戦に立つ兵士ではなく外面を重視する貴族の指揮官だけだ。

 

ここで最初に考えていた兵士同士の攻防戦に巻き込まれた哀れな被害者という線が消えた。

 

なにより非戦闘員の人間はこの場所において少女一人だけというものおかしい。

やはり何かしらの陰謀に巻き込まれたと考えるのが妥当だろう。

となると彼女は味方に殺されるまでの何かをしてしまったのだ。意図的かあるいは偶然か、そこまでは現状では分からないが口封じに殺害された可能性は高い。

 

何かを聞いてしまった。もしくは......。

 

「誰かと遭遇してしまった......」

 

恐らくその誰かにとっても少女と出くわしてしまったのはアクシデントだったのだろう。

絶対に見られてはいけない場面を見られてしまった為に少女を殺害する事で証拠を消した。

ではそれ程に見られたくない状況とは何か?。

 

もはや現時点でガリア軍の負けは覆らない。

それはセルベリアからの報告を聞いた時点で確信していた。

あの時、要塞司令部を制圧した後、彼女からの報告を受けた情報では上層部は撤退した後でもぬけの殻だった。

もしかすると逃走する上層部の誰かが少女を殺害したのかもしれない。仮にそうだとすると、それは逸早くこのギルランダイオ要塞から逃げ出した者だ。司令部が放棄される前に敵前逃亡を図り。誰からも見られないようこの要塞より逃走する瞬間を少女に目撃され。やむを得ず罪のない少女を凶弾にかけた......と考えられるだろう。

 

そして、現在ギルランダイオ要塞より逃げおおせたガリア軍上層部の人間はたった一人しかいない。

さらに言えば今この時、これほどの非道な策を弄する敵の将に思い当たる人物がいる。

すなわちこの状況を作り出した張本人。

それは......。

 

「ガリア公国軍最高司令官ゲオルグ・ダモン将軍」

 

エリーシャの中でピタリと事件のパズルがはまった。

確かに彼の男であればガリア人である少女に警戒される事なく近距離からの射撃が可能だろう。

なんせガリアの英雄なのだから。国民を守るはずの将軍がまさか自分に危害を加えてくるとは夢にも思うまい。

殺傷力の低い銃弾だったのにも納得する。味方を置いて逸早く逃走する輩だ、元から自らが打って出て奮戦する気など露ほどもないのだろう。

 

「ということは()()もこの近くにあるという事ですね」

 

思いのほか早くアレに関する手がかりを得たエリーシャの視線は少女から最も近くにあった扉へと向けられた。

その部屋の名前は『情報書簡庫』と書かれており、本来であれば素通りしていたかもしれない何の変哲もない部屋だったが、もはやエリーシャの猛禽類の如き瞳は、書庫の扉を捉えて離さない。

 

「.....ここですか」

 

そう呟いたエリーシャは立ち上がる前に最後に少女の方を見た。

虚ろな目で天井を仰ぎ見る少女の亡骸に穏やかな笑みを浮かべると。

 

「ありがとうございます、貴女の御蔭で探しものが見つかりそうですわ」

 

そっと少女の顔を覆うように手で触れるとゆっくりと離す。すると少女の瞳は閉じられ、眠るように絶えた姿が残った。

せめてもの手向けと礼を述べたエリーシャは立ち上がり、部屋の前に立つと少女に安らぎを与えた手で扉を開けた。

 

中に入ると部屋いっぱいの本棚が並ぶ光景が映る。

書庫という名前に違わずかなりの蔵書量を誇る内装を見渡すと壁側の方を見ながら一周を描くようにゆっくりと歩き始める。時折本棚に触れてみては何かを探すようにしていて。どうやら本自体に興味はないようである。

 

それは、傍目からは何をしているのか分からない行動を続けながら、書庫内を半周していた時である。エリーシャはその違和感に気付いた。

 

「?コレは.....」

 

ふと視線が下がった。壁から床に向けられたエリーシャの目にある物が映る。

それは書庫に落ちていてはいけない物であり、この部屋においては危険な状況に陥る可能性のある小さな異物。

エリーシャはそれを摘まみ上げるとジッと見詰めた。貼られているラベルを見て生産社を見極める。

 

「コイーバ産の葉巻ですか、高級品ですね」

 

中ほどで火の消えた葉巻はまだ真新しく、使われてからまだ日は経っていない。先端には踏み潰された痕が残っていた。まさか戦争の真っ最中に高級葉巻を吹かしている兵士が居るとは思えない。というか兵士の給金では賄えない贅沢品だ。一本とて手に入れるのは不可能なはず。

十中八九、件の人物の仕業だろう。

 

それを見ながら内心で呆れを隠せない。

こんな証拠を置いて行くなんて迂闊に過ぎるというものだ。

これでは子供でも探し当てられるのではないだろうか、と思いながら葉巻の踏み潰された靴跡の向きから位置を割り出した。爪先の痕がこちらを向いているという事はその重心の反対から来たという事だ。扉の位置から考えて......。

 

壁側の方を向いたエリーシャは目の前の本棚に向かって手を伸ばし。

思いっきり横に引いてみた。

ズズズ....と鈍い音を響かせながらゆっくりと本棚は動いていき。

 

そして、遂に隠された通路の入り口が露わになった。

 

「.....見つけた」

 

知らず仮面越しの口元は弧を描いていた。恐らくはダモン将軍が使用したであろう脱出経路。エリーシャが探していたアレとはこの隠し通路の事だったのだ。

正確には司令官室に繋がる道を.....である。

 

「後は女官として要塞内に留まり、時が訪れるのを待つだけですね」

 

せっかく見つけたのは良いが今は意味を為さない。この通路を使うのはマクシミリアン殿下が司令官室に入ってからとなる。完全なマクシミリアンの居室となるのを待たなければならない。そこに運び込まれるであろう情報こそがエリーシャ、ひいてはラインハルトが欲するモノだからだ。

 

計画通りに行くかは分からない。成功する確率の方が低いだろう。それでも実行しないという選択肢だけはなかった。全ては敬愛する主君のためにつつがなく事を為す。それが出来るメイドというものだ。

その為にもまずは、本当にこの通路が司令官室と繋がっているのか調べる為にエリーシャの姿は入口の中へと消えて行った。

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「―――というわけでして、つつがなく司令官室に忍び込む事に成功した後は、もう一度潜入するために女官として働いていたというわけです。それから今日、セルベリア様のおかげで二度目の潜入は成功しました」

 

場所はセルベリア達に用意された宿舎。そこで二人は内密に会談を行っていた。

隊長格に与えられたわりかし広い部屋でエリーシャはセルベリアに潜入成功の旨を伝えると、それまでの過程を語っていた。

そこまでの話を黙って聞いていたセルベリアは組んでいた腕を解くと。

 

「そうか、お前の事だからどうとでもするのだと思っていたがやはりそうだったな。まさか脱出経路を探し出してしまうとは流石だ........」

 

話を聞いただけでも手際の良さに感嘆の思いしか出てこない。自分では到底そんな働きは出来ないだろうと強く思う。もしかしたらあの時、エリーシャが傍に居たら毒ガスの存在に気付き惨劇を回避できていたかもしれないとさえ思う。

 

考えが顔に出ていたのか、エリーシャはこちらをジッと見て言った。

 

「セルベリア様は常に最善の手を打たれていました、きっと私がその場に居ようとも状況は変わらなかったはずです、だから気を落とさないでください」

「.....そうだな、過去を嘆いてばかりいても死んだ部下が戻って来るわけではないか」

 

慰めの言葉を掛けられたことに目を瞬かせたが、フッと笑みを浮かべたセルベリアはそう言った。

気分を変えるために話を振ってみる。

 

「それでお前が情報工作(スパイ)までして得た情報は殿下が望むモノだったのか?」

「正直、私自身の判断では何とも言えません。目ぼしいものは全て頭に入れているので漏れは心配ないですが。本当にアレらが御主人様の望む情報なのか報告するまでは.....といったところでしょう」

「ふむ、例えばどんなものがあった?」

「そうですね....ああ、セルベリア様にも関連しそうなものであれば『古代ヴァルキュリア人の文献』等でしょうか。ガリア公国で語られるお伽噺であったり伝承、他には当時の遺跡といった場所の資料も多々見受けられましたが」

「ヴァルキュリアか......」

 

それを聞いて思い出すのはやはり先ほど死闘じみた対決を行ったプルトと名乗ったヴァルキュリアだろう。同じ施設の出身と言っていたが。どうしても思い出せない。それに恨み言を語っていたが目には仄暗い光はなく。セルベリアを超えようとする強い意志の光があった。とても復讐者の目には見えなかった。本当に私を憎んでいるのだろうか。

 

「いや、それよりも何の目的で此処に....?」

 

エリーシャの語った古代ヴァルキュリアの伝承が関係するのだろうか。いったいマクシミリアン皇子は何をしようと企んでいるのか、ヴァルキュリアを欲していたようだがそれだけなのか。考えても分からないが、とても嫌な予感だけはした。

 

答えの出ない考えにうんうんと唸り声を上げていると、今度はその様子を黙って見ていたエリーシャが話を振って来た。

 

「そういえば(わたくし)の事を探していたようですが、結局あれは何だったのでしょうか?話をしようとした時にここではマズイと場所を変えたのではなかったですか?」

「ん?.......ああ!そうだった!忘れていたっ、悠長に話しをしている場合ではなかった!つい間諜としての働きが成功したのか気になり聞いたのがいけなかった!」

 

エリーシャの話に夢中になってすっかり本来の目的を忘れていた。思わず素っ頓狂な声を上げてセルベリアは目の前の侍女長に詰め寄った。

 

「一大事なんだ!連邦軍が動いた!殿下の身に危険が迫っている!!」

 

セルベリアは勢いよくエリーシャに事情を説明した。

西方戦線より連邦の大軍が帝都に進攻を始めた事。

それを対処する防衛戦力が押し込まれている事。

急ぎ救援に向かわなければならないのに、ガリア方面軍は依然としてガリア攻めを止めない事。それによってセルベリア達も動きを制限されている事。ラインハルトに敵が迫っている云々(二度目)。

 

次々と言葉の放射をまくしたてる。セルベリアにしては珍しく内心の焦りが窺えた。

 

一騎当千と言ってもいい歴戦のセルベリアが、この取り乱しようである。

事態がどれほど重い事なのか理解できるというものだろう。

 

だというのに、それに対するエリーシャの顔色は一切なにも変わらず。

午後のティータイムを楽しむかのように静かに聞いている。

そして、全てを聞き終えたエリーシャの口から驚くべき言葉が発せられた。

 

「......そうですか、ようやく彼の軍は動き出しましたか。想定よりも遅かったですね」

「は?」

 

ポカンと呆気に口を開くセルベリア。美人が台無しである。

 

「なに?......どういう意味だ。まさか、こうなることを予期していたというのか!?」

「はい。正確にはわたくしではなく、ご主人様です。既に1年前からこの状況を予測していました。ゆえに手も打ってあります」

「1年も前からだとっ!?ありえん!いったいどうやって連邦軍の動きを読んだというのだ!」

「大西洋連邦機構とて一枚岩ではありません。強硬な同盟政策に反対する思想団体は腐るほどあります、その中の一つのファシズム系団体とコンタクトをとり情報提供といった工作活動を行わせているのです。そういった存在を私たちは『草』と呼んでいます。他にも連邦に送り込んだ部下に思想活動をさせているのですが、思想に共感してくれた者達を協力者(エージェント)に仕立て上げ、求める情報を得るための仲介役にさせたりしています。今では商人や芸術家、詩人、舞台役者に医者といった多種多様な職業や人種の方々が間諜として働いてくれています。そういった存在が連邦の各地に団体や組合を合わせて五十以上はあるでしょうか。彼らから送られてくる僅かな情報を頼りにラインハルト様が出した結論です」

「......今更だがお前達の存在が末恐ろしく思うぞ、国以外でそんな事が出来る非正規の組織はお前達ぐらいだ。そんなのが帝都に巣くっていたとはな」

 

恐ろしいものを見たとでも云うようにため息を吐く。こんな奴らがいる中を数年間に渡って過ごしていたかと思うとゾッとしない。

だがエリーシャは微かに首を振って。

 

「真に恐ろしいのはご主人様です。幾ら協力者が居ようと厳しい連邦の目から逃れる為には情報をパズルのように細切れに細分化する必要があります、なので僅かばかりの情報を少しずつしか受け取れません。虫食いだらけの情報を繋げ合わせ、価値あるものに変えるには膨大な時間と根気が必要となります。ラインハルト様はそれら一つ一つを見極め検分の果てに物資が軍に買い占められている事に気づけば、そのせいで物流が遅延し物価の高騰、政治家の扇動により帝国に対する市民感情の高まり、それに伴い徴兵令が行われるだろうことを予想し、逸早く大規模な軍の動きがある事を事前に察知したのです」

「できるのかそんな事が?雲を掴むような話だな」

「我々とはかけはなれた視点から物事を見ているのでしょう、類まれな才覚が為せる御業です。実際にラインハルト様の言う通りに市場が動いていた事を知らされた時には薄ら寒い思いをしたものです」

「ふむ、よくは分からなかったが流石は殿下という事だな?」

「........」

 

今いちその凄さを理解しきれていないようで。とりあえず殿下は凄いで済ませてしまう。そんなセルベリアをエリーシャはジトリとした目で見詰めていた。そこはかとない非難の色が窺える。

視線の痛さに耐えきれずセルベリアは口を開いた。

 

「は、話はわかった、事前に想定していたという事は、この状況を打開する手もあるのだな。教えてくれ、私はどうすればいい?」

 

セルベリアの真剣な目に、ふうっと軽く息を漏らした侍女長は懐に手を忍ばせると複数枚の紙を取り出した。

それをセルベリアの眼前に置く。

手に取って内容に目を通していくセルベリア。直ぐに赤瞳が見開いた。

 

「コレは.....指令書か!?」

「はい、ニュルンベルクを発つ前にご主人様から預かってきました。きっとこうなる事を見越していたのでしょう」

「これさえあれば私達はガリア方面軍から離れる事が出来る!さっそくこいつを上に叩き付けてやろう!」

「お待ちください」

 

指令書を掴んで意気揚々と部屋から出て行こうとするセルベリアに静止の声を上げる。

訝しむ表情で振りかえったセルベリアを見返しながら、エリーシャは静かな口調でこう言った。

 

「今、動くのはお控え下さい。もう少し待つべきです」

「なにを悠長な事を言っている!この時にも殿下の身に危険が迫っているかもしれないというのに!」

「まずは落ち着いてください、興奮するのは分からなくもありませんが視野狭窄となっては意味がありません。遊撃機動大隊の兵士達をここに置いて行く気ですか?」

「っ......!」

 

その言葉に熱くなっていた頭が急速に冷やされていくのが自分でも分かった。己の部下達の現状を思い出したからだ。半数近くが毒ガスの影響もあって直ぐには動けない。ラグナエイドによる治療を受けているとはいえ今日、明日で完治するものではなかった。無論セルベリアは彼らをこの地に残して置いて行く気はない。捨て石程度に使われるのが目に見えているからだ。

 

「決行するのは最低でも五日後です、それまでどうかご辛抱下さい」

「そういう事なら致し方ないか、分かった。お前の言うとおりにする。だが....」

「大丈夫です。ラインハルト様がお創りになられた、五つの部隊の中でも最速を誇る遊撃機動大隊の足ならば間に合います、必ず私が間に合わせます。命に賭けても.....」

「......分かった、そこまで言うなら大人しく従う、必ずや殿下を救ってみせるぞ」

 

頷き合う二人。

その言葉に偽りはなく、二人の女は自らの命を一人の男の為に使う事を決めていた。

その後、ほどなくして内密の会談が終わり、エリーシャはまた女官として部屋を出て行った。

怪しまれぬよう変わりなくその日まで女官として働くようだ。

 

残された指令書を片手に一人立つセルベリアは。

 

「殿下。もう少しだけ待っていて下さい、直ぐに向かいます。今度こそ、絶対に御身に傷はつけさせません」

 

誓いを忘れないように強くそう言った。

 

 

 

 

 

 

 




捕捉・隠し経路については二十九話を参照

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。