あの日たすけた少女が強すぎる件   作:生き残れ戦線

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三十五話

ギルランダイオ要塞の司令官室にほど近い廊下にて。

セルベリアの問いかけに立ち止まった、艶やかな黒髪の女官に、前を行く同僚の女官が声を掛ける。

 

「エリー、私達は先に行くわよ?」

「はい、先輩方。私も後から向かいますので先に行ってくださいな」

「分かったわ、出来るだけ早く戻って来るのよ?ただでさえ人手が少ないんだから」

 

女官の二人はそう言うと、忙しそうにまた小走りで廊下を歩いて行った。

柔らかな笑顔で応対していたエリーと言うらしい黒髪の女官は、彼女らの背中を見送るとようやくこちらを向いた。柔らかだった雰囲気が途端に鋭利なモノに変わる。

 

「――それで、何用でしょうか、セルベリア様?」

 

女官用(エリー)の演技を脱ぎ去ったエリーシャ・ヴァレンタインは静かにそう言った。

この三日間どこに消えたのかと思っていたら、早々に女官として要塞内に紛れ込んでいたらしい。

普通であれば難しいはずの女官としての潜入を難なく行えているのは、彼女固有の高い技能あっての事だ。

なんせ普段は城で働く百人もの使用人たちを統括する侍女長として働いているのだ、これくらい朝飯前ということなのだろう。

セルベリアは声を抑えて言った。

 

「殿下より与えられた任務で動いているのだろう?私が得た有益な情報を提供しようと思ってな」

「私に協力してくれるのですか......?」

 

意外そうに目を瞬かせるエリーシャ。

『あのセルベリア様が?....信じられませんねえ』とでも云う内心が見え隠れしていた。

そんな反応を見せられるとは思っていなかったセルベリアは戸惑いの表情になる。

 

「な、なんだ。私も情報を探っていたのがそんなに意外か?」

「いえ、その情報を私に素直に伝えようとするのが意外なのです。セルベリア様のことですから、てっきり私の任務を代わりに成功させて、ご主人様から与えられる褒美を横取りしようとするぐらいはすると思っていたので」

「お前の中の私はそんな奴なのか!?そ、そんな事するはずが.....」

 

『ないだろうが!』と言いかけて口を閉ざす。

あんまりな信用の低さに驚いて弁解しようと口を開くが、実際、的外れではない事に気づき。言葉尻が下がったのだ。

先程までエリーシャの代わりに任務を達成して殿下の願いを独占しようと、その考えだったセルベリアは視線を泳がせた。動揺から冷や汗が滲む。

それを見詰めるエリーシャは、クスリと笑い。

 

「嘘が下手ですわね」

 

と、まるでお見通しですとばかりに口元に手を翳して笑みを浮かべている。

一瞬でこちらの内心を察したのだろう。

......私の完璧な虚偽を見抜くとは、恐ろしい女だ。

 

「そんな事よりだっ。今、マクシミリアン殿下達は何らかの会議を行っているようだ、司令官室には居ない可能性が高く。もし忍び込むつもりなら絶好の機会だぞ」

 

羞恥から頬を赤くさせたセルベリアは誤魔化すようにそう言った。

するとからかいの笑みを変えエリーシャは興味深げに頷き。

 

「やはりそうですか。情報を規制していたようなので、そうではないかと思っていました」

 

流石と言うべきか女官に扮している中、その情報を得たのだろう。既に知っていた様子のエリーシャが続けて気になることを呟いた。

 

「昨夜の内から慌ただしくなっていたので恐らく会議が始まったのはその時でしょう。何か動きがあったのかもしれません」

「それはガリア軍でか?」

「あるいは本国で.....ということもありえるでしょうね」

 

何やら思案気に呟くエリーシャの言葉に、良く分からないセルベリアは首を傾げて。

 

「大丈夫なのか?私にできる事があれば言ってくれ手伝おう」

「ありがとうございます、ですが心配せずともお任せください、セルベリア様が体を張ってもたらしてくれた情報の御蔭で決心がつきました、何の問題もありません」

 

自負の込められた表情で淡々と告げる。

彼女が何者であるかを知るセルベリアとしてはこれ以上とやかく言うつもりはない。どのような手を使うか知らないがきっと上手くやってくれるだろう。

なんせあの御方が信頼を置くほどなのだから。

と、納得していると何やらエリーシャがこちらを物憂げな目で見詰めているのに気付く。

 

......どうしたのだろうか?と不思議に思っていると。

何故かセルベリアの豊満な肉体を見ながら、さも悲しげに首を振った。やや芝居がかった様子なのが気になる。

 

「それにしても、確かにセルベリア様の御体であれば、男どもより情報を調べ上げることなど容易き事でしょうが。よもやセルベリア様にそのような事をさせてしまうとは」

 

このエリーシャ一生の不覚です。と何やら良く分からない事を言いだす始末。

 

「ですが気にする事はありません。犬に噛まれた様なものです、それでも最初は引きずるかもしれませんが時間が洗い流してくれるでしょう.....」

 

まるでナンパ男に騙されて処女を散らされた女友達を励ます様な目で見てくるエリーシャにここでようやく誤解を受けている事に気づく。

 

「待て、いったい何を勘違いしている!?」

「大丈夫です、誤魔化さずとも。私は貴女の味方ですからね」

「だから勘違いだと言っているだろうがっ、私が色仕掛けで男を篭絡したとでも思っているのか!?」

「違うのですか?」

「当たり前だろうっ」

 

羞恥とは別の感情で顔を赤くさせたセルベリアは激昂する。

 

「情婦の様にそこらの男に対して簡単に股を開く女とでも思っていたのかお前は」

もしそうなら心外だとでも言うように睨みつける。

対して、

「それもそうですね。確かにセルベリア様がそのような行動を取れている性格であれば、とっくにご主人様を篭絡している事でしょうから.....」

 

のほほんとした様子のエリーシャは何やら直ぐに誤解を解いたようだが。

かなり気の障る納得の仕方をされた気がして。

意外と沸点の低いセルベリアの米神にピキリと青筋が浮かび。潤った桃色の唇から吐き出されるは地の底から響くような低い声音。

 

「貴様.....喧嘩を売ってるのか?いや、そうに違いない。買うぞその喧嘩......!」

 

図星を突かれたセルベリアがそれはもうおどろおどろしい気配を漂わせ始めていると、いきなりエリーシャが制するように手を翳し。

 

「落ち着いてください、感づかれてしまいますわ。それと今のは只の冗談です」

 

冷静な声音を浴びせられた。

それは司令官室の前に立つ衛兵に対する言葉ではなく、恐らく向こう側にある十字路に隠れてこちらを窺っている何者かの事を言っているのだろう。

ちょうどエリーシャが背中を見せている形だ。

 

「どうやら相手は警戒しているようですね。要塞内にそのような気配がなかったので意外でしたが、さすがにセルベリア様はマークされているのかもしれません。.....よろしければ私が片づけますが?」

 

自然な動作で黒髪を掻き上げ、スッと髪の中から指先を引き抜く。一瞬の動作だった。

指先には目を凝らして見なければ気づかない程の微小な針が摘ままれていた。

遅れてその正体に気付いた。毒針である。

 

セルベリアが離れたのを見計らって何気なく近づき、毒針を打ち込もうと云うのだろう。

 

「いや、その必要はない。私の相手だ手を出すな。それにどうやら私に何か用があるようだしな.....」

「分かりました、それでは私はこれで失礼します、貴重な情報提供ありがとうございました」

「礼にはおよばん。部下を救ってくれた恩を少しでも返せたならそれでいい」

「もしやセルベリア様は」

「――ああ!そうだったな!こっちの道だったか、広い要塞だ迷ってしまってどうしたものかと思っていたが、ありがとう助かった!ではな!」

 

何かを言いかけたエリーシャの言葉に被せながら、隠れ潜む者に聞こえるよう声高に言うとそそくさと背を翻した。多忙な女官でもないと云うのに足早に去って行く。一瞬見えた頬の赤さがとても印象的だった。

 

「.....」

 

その背を見送っていたエリーシャは浮かべていた笑みを消すと。

女官の演技を再開して、

とある場所に向かって歩を進めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

マクシミリアン皇太子の内情を探る目的は、本来の任務を受けたエリーシャに任せ。

自身は司令官室前の廊下を通り過ぎて行き。

自らが動く必要もなくなり暇になったセルベリアは特にあてどもなく要塞内を歩いていた。

 

ドンドンと奥に向かって進んでいく。

途中、何度も兵士とすれ違い。その度にセルベリアの美貌に見惚れた男達は足を止める。

そんな事はお構いなしに、奥に向かって足を動かすセルベリア。

 

やがて人の気配が薄れていき、喧騒の声も遠くにあるのみ。

シンと静まった廊下の只中で立ち尽くす。

 

目の前には立ち入りを封じるテープが敷かれて、直ぐ傍の看板には『この先汚染箇所アリ立ち入りを禁ズ』と危険を知らせる文字が描かれている。

 

つまりその先はもう立ち入り禁止区画であり。

毒ガスの除染処理が行われていない場所という事だ。

 

なぜセルベリアがそんな危険な所に来たかというと。

 

「ここでいいだろう....」

 

軽く呟き、そこで振り返った。

もはや隠す気もない戦意の高まりを感じながら、視線の先、無人の廊下にセルベリアの声が木霊する。

 

「わざわざ人気のない所まで来てやったのだ、出てきたらどうだ?」

 

相手もまた待ちきれなかったのか言葉が終わって直ぐ、セルベリアの前に人影は現れた。

顔は分からない。長大な黒衣のローブを目深に被っている為だ。

背格好はセルベリアよりも少しだけ低く、体格はローブの上からでも分かるほど華奢だった。

唯一分かる事はといえば性別くらいだ。

全身を覆い隠すほどに大きなローブにおいても、その豊かな胸は隠せず。布地を押し上げて女としての主張を誇っていた。

何故そんな恰好をしているのか分からない、その女は無言でこちらを見詰めている。

 

何か言ってくるものと待っていても、一向に喋る気配がなかったので先に口を開いた。

 

「最初は私の監視役かと思ったが、どうやら違うようだな。でなければ私の前に現われるはずもないし、なによりそれほどの敵意を隠さないはずがない」

 

声も発さず顔色も窺えない中、そのローブ女から放たれるプレッシャーだけが如実に感情を示していた。

監視であれば対象に気付かれないよう感情をカットする術くらい持っているはずだ。

故にそういう類いの輩ではない事を確信して、相手は自分自身に用があるのだと推測した。こうして誘い出したのも相手が乗ってくると思ったからだ。

事実、こうして相手はセルベリアの前に現われた。

その理由に興味があった。

 

「ガリア軍ならいざ知らず味方に恨みを買った覚えはないのだがな」

 

そう言って相手の出方を伺う。表情はローブに隠されて読めない。

 

お互い睨み合う状況が続き......。

 

やがてセルベリアの口からため息が漏れる。

 

「ふぅ。用がないのなら私は行くぞ。こう見えて忙しいのでな、付き合っている暇はないんだ.....」

 

これ以上は構っていられないと、早々に歩き出した。佇むローブ女の横を通り抜けようとする。

――その瞬間。

セルベリアは勢いよく後方に飛び退いた。寸前まで在った頭の位置に風が鳴る。

それまで彫像化していたローブ女が嘘のように俊敏な反応を示したのだ。

いきなり高い跳躍を見せると、勢いのままにセルベリアの顔めがけて回し蹴りを叩き込もうとした。

しかし、それを予期していたセルベリアは見事回避して見せたのである。

上手く誘いに乗ってくれたローブ女に向けてニヤリと笑みを浮かべながら。

 

「....というのは嘘で実は暇を持て余していた所だ。せいぜい私を楽しませてみせろ!」

 

言うや否や今度は自分の番だと力強く地面を蹴ったセルベリアは。瞬く間に被我の距離を詰め、移動で生じた勢いを殺さぬよう流れる動作で体を弓なりに反らせる。そして、筋肉のバネが引き戻されるのを利用して手刀を振り下ろした。

断頭の勢いで迫る手刀――それをローブ女は軽快な体さばきで躱してみせた。それまであった幽鬼のように突っ立っていた姿はもはや何処にも無い。

詰められた距離を離すため、ローブ女は怪鳥の如く地面を踏み、次打で来ていたセルベリアの攻撃を後ろに跳ぶことで躱す。セルベリアとの間合いが開かれたかに思えた。

 

しかし、次の瞬間――ローブ女に隠しきれない動揺が襲う。

 

自分が後ろに跳んだ瞬間、なんとセルベリアもまた同じタイミングで跳び上がり、こちらに迫って来たのだ。動いたのはほぼ同時、ローブ女の動きを読んでいたのかタイムラグは存在せず、まったく間合いは変わらなかった。

内心で驚きを隠せないローブ女にセルベリアの蹴りが襲いかかる。

 

慌てて両腕をクロスにして蹴りを防ごうとした。野鹿の様なセルベリアの足が両腕に接触した瞬間。ローブ女に信じられない衝撃が伝わる。

 

「ッがぁ!?」

 

大型獣の突進をくらった方がまだましだと思わされる。尋常ではない威力に華奢な体が呆気なく吹っ飛ばされたのだ。

 

ただの蹴りで吹っ飛んだとは思えない勢いで、ローブ女の体は長い廊下をゴロゴロと転がった。

転がったせいでローブがもみくちゃにされボロ雑巾の様相を見せている。

苦悶の声を上げながら、よろよろと立ち上がるローブ女の様子を見て。

 

「これぐらいは凌げると感じたのだがな、仕方ないか、そんな動きにくい格好をしているお前が悪い」

 

ローブが無ければもう少し良い動きが出来ただろうに、これでは少し期待外れだと残念がるセルベリア。もう既に勝利は確定したかのような物言いにローブ女が反応する。

その傲慢な言葉に怒りを感じたのか、放たれる敵意のプレッシャーの勢いが増した。

 

そして、おもむろに女はローブに手を掛けると、バサッと一息に脱ぎ去ったのだ。

 

それまで面白そうに見ていたセルベリアの目が見開かれる。今度はこちらが驚く番だった。

 

「!?.....その姿....貴様何者だ.....?」

 

ローブを取り払った女の外見は酷く既視感を覚えるものだった。なんせ、その女は蒼色に艶めく銀髪を靡かせ、その合間より覗く赤い瞳をもってセルベリアを睨んでいるからだ。

自身と同じ外見的特徴を兼ね備えている。

つまりヴァルキュリア人の特徴に該当するのだ。

 

驚愕の視線をぶつけられている赤い瞳の女は、セルベリアの問いに答えず、無言のまま視線を見返すセルベリアから壁に移した。正確には壁に立て掛けられている観賞用の軍刀にだ。それに近寄って腕を伸ばす、柄を握ると壁から剝ぎ取ってしまった。

 

曲線の反った軍刀をブンブンと振り回し、感覚を馴染ませたかと思うと今度は興味を失くした様に放り投げた。

放物線を描き飛んでくる軍刀をパシリと掴むセルベリア。

 

何のつもりだと思って見ていると女はまた壁から武器を取り外そうとする。今度は西洋らしい無骨な両手剣だ。

歴戦の武芸者の様に両手剣を構えてセルベリアと相対する。

ここでようやく自分と決闘をするためにわざわざ軍刀を渡したのだと分かった。

瞳には隠しきれない闘志が込められている。負けず嫌いの様で。外見だけでなく内面まで自分と似ている目の前の女に何ともいえない感情を覚えた。

 

「やはりお前はヴァルキュリア人なのか?」

 

それまでと同じで答えてはくれないと思っていたが意外な事に女は口を開いた。それはセルベリアにとって衝撃的な言葉だった。

 

「......残念ね、同じ研究所の仲間を忘れたの?私は一日も忘れた事は無かったのに」

「まさか!?あの施設に居たのか!」

 

信じられないと目を瞠るセルベリアに過去の記憶が蘇る。

今とは違い何の力も持たなかった少女時代。非道な人体実験を繰り返す毎日。

暗い闇の底に沈みこむ様だったあの地獄に居たというのか。

 

「信じられない様ね無理もないわ。セルベリア=ブレス、いえ、0()6()7()()と呼んだ方が分かり易いかしら」

 

それはセルベリアがまだ研究所に居た頃に呼ばれていたものだ。

忘れようとも忘れられない忌まわしい悪夢の記号。

その事を知っているのは自身とラインハルト。研究に関わっていた者だけ。

という事は目の前の女が言っている事は真実である可能性が高い。

 

「教えてくれ!他の皆は?どこかに居るのか!?」

 

気になっていた。私以外の研究所に居た者達がどうしているのか。殿下に助けられてから今まで心の中にその思いはあった。だが知ろうとはしなかった。殿下に救われて幸せのあまり片隅に追いやってしまっていたのもあるが、一番の理由は私自身、踏ん切りがつかなかった。自分一人だけが救われておいて、どのような顔をして会いに行けばいいのか分からなかったのだ。

だが、同郷の者が目の前に現れた事で、昔の仲間の安否が気になった。

 

しかし女の答えは辛辣だった。

 

「それを聞いてどうするの?私の顔を忘れているぐらいなのに、仲間を見捨てた癖に今さら同胞のつもり?」

「そ、それは.....」

 

見捨てたつもりはない。そう言いたかったが今更そんな事を言っても目の前の同胞には言い訳にしか映らないだろう。

嶮しい表情で何も言えないでいるセルベリアを見て、赤い瞳の同胞は問いかける。

 

「何で助けに来てくれなかったの?待っていたのに。いつか貴女が私達を救いに来てくれると信じていた、それだけが皆の希望だったのよ。だって貴女は私達の憧れだったから.....」

 

嘆くように、悲しむように、女は淡々とした口調で告げる。その目に燃える様な怒りを込めて。

 

「皇子様に見初められて良かったね、安穏とした日々は楽しかった?私達の事を忘れてしまうぐらいに」

「やめろ!」

 

女の言葉を断ち斬る様にセルベリアの叫びが廊下に響く。

 

「私とて殿下の下でただ平穏を甘受していたわけではない!」

「だけど私達を見捨てた事実は変わらない!助けるタイミングは幾らでもあったはず、ラインハルト皇子に助けを求めれば私達を保護してくれたのでは?そうしなかったのは何故?」

「....ッ!」

「貴方は救ってくれた主の寵愛を独占したかっただけ。自分の欲の為に私達を切り捨てた!」

「違う、私は....!」

 

何が違うと云うのだ?その女のいう通りではないか。

心の中でそう思う自分が居た。

殿下の寵愛を受けたいと思う。卑しく浅ましい欲望に塗れた女。

それがセルベリア=ブレスの本質。

本当は分かっているのに認めたくない私は口を開く。

 

「だ、だが実験は私が抜けた事で凍結したはずだ!もうあのような研究は終わったのではないのか!?」

 

研究が終わったのであれば皆は解放されるはずだ。あの男もそう言っていた.....。

だから私は、

 

「......確かに第一世代戦乙女計画『ワルキューレ』は根幹である貴女が抜けた事により一時凍結を余儀なくされ、現段階においても、それは変わりない」

 

その言葉でホッとするセルベリアに何故か女は酷く冷めた表情で見据えながら言った。

 

「だけど.........凍結後すぐに第二世代戦乙女計画『ラグナクリア』が始動している。実験はとっくの昔に再開された」

「な!?」

 

絶句するセルベリア。言葉もないといった様子だ。

その様子を見詰める女は剣先を向けて。

 

「だからこそ私は貴女を超えなければならない、それを証明するのが今!」

 

瞬間―――女の体から蒼い光が放たれる。

覚醒したヴァルキュリアだけが起こせる奇跡の現象。ラグナイト発光現象だ。

それは戦いの予兆でもあった。

 

「セルベリア=ブレス。貴方に決闘を申し込む」

「待て!同胞と戦う気はない!」

 

止めようとするセルベリアの言葉を無視して。

 

「決闘の前には名前を言い合うものでしょ?だから教えてあげる。

個体番号は109、名はプルト......」

 

一呼吸分の間を置いて、その昔、同胞だったヴァルキュリアは言った。

 

「貴方を超えていく者の名よ!!」

 

―――その瞬間セルベリアの視界から、プルトの体は霞の如く掻き消える。

 

 

 

 

 


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