あの日たすけた少女が強すぎる件   作:生き残れ戦線

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十六話 

ニュルンベルク城の王宮深奥部には皇族専用の部屋がある。

其処まで行くには多くのチェックが必要で、将校であっても必ず足止めを食らってしまう。

(すめらぎ)近衛騎士団』からなる立ち番の兵士に誰何され、戻されるのがオチである。

不埒者であればなおさら即刻切り捨てられるだろう。

彼らの監視は厳しくまた審査も同様に固い。

なので今までは私ですら何度も追い返されて来た。

というかなぜか私は特に入らせないようにしているようで、聞いてみたところ「団長が固くセルベリア様の入室を禁じていますので、殿下が許可しようとも入らせるなとの事です」だそうだ。

申し訳なさそうに言うが職務に忠実な兵士であった。何度頼んでも堅い守りを突破することは叶わなかったのである。

むう、食堂のシェフのようにはいかないか。

それにしても昔からの知り合いだと云うのにあの男め。

私が殿下に何をするというのか?まったく....。

殿下もあの男には甘い気がする。幼少の頃よりの剣の師であるから仕方ない事なのかもしれないが。

 

実のところ私はあの男の事が少し苦手だ。

何を考えているか分からない。

常に無表情であることを生涯の誓いに立てているのかと思わんばかりに顔を変えない。

しかし、殿下に対する忠誠は本物だ。心酔していると云ってもいい。

 

まあ、私のほうが殿下を想っているがな!

 

誰に誇るわけでもなく豊かな胸を張ってみる。

なにはともあれ話を戻すが、大事なのはそのチェックの厳しい通路に今は誰一人兵士が居ないと云う事だ。

これまで入った事のない初めて通る道の先には、巨大な螺旋をモチーフにした古代ラグナイト鉱石のアーチで出来た入口がある。中に入ると門があり不思議なことにそこだけ材質が木製であった。まるで一度壊した後に建て直したような作りだった。

 

その門の奥は、白い大理石のタイルを床一面に張った広い空間で、セルベリアは一瞬ここが目的の場所かと気を逸ったが違った。見れば木で出来た棚があり、その上には藤で編んだ籠が載っている。

 

ふむ、と細い顎に手を載せて考えること暫し、

 

セルベリアはおもむろに服を脱ぎ始めた。

最初に背広を脱ぎ、背中をざっくり露わにした作りの軍服だけになる。

すると金縁ボタンを外しなんと軍服すらも今は邪魔だとばかりに脱ぎだした。

その勢いの良さにあわや豊満な美体を全て晒すのかと思ったが黒いレースの下着で留まった。

いや、よく見ればそれは黒いビキニの水着だ。何故そんな物を着ているのだろうか。

まるで今から海水浴にでも行くかのような格好になると、緊張の面持ちで奥に繋がるドアの前に立ち。

しずしずと開けるのだった。

 

「失礼いたします....」

 

ゆっくりとドアを開けた先に広がる一面の湯気。同時に熱気が体を包み込んだ。

 

 

 

 

★        ★          ★

 

 

 

 

()()()も驚くほど広かったが、その先にある()()は輪をかけてとんでもない規模だった。

奥行きもある上に全体的に吹き抜けの空間になっていて、高い天井からはラグナイトの青い光が淡く降り注いでいる。

湯船はそれこそ遊泳できそうなほど大きく、軽く数十人が一度に入れそうだ。

中央には螺旋状をイメージした噴水がありそこから湯水がジャボジャボと溢れている。高名な画家の芸術作品を目の当たりにしているような惹きつける存在感があった。

.....これは、凄い。

一通り眺めセルベリアは思わず唸っていた。

そこで声が掛かる。

 

「来たか、遅かったな」

 

湯船の縁にもたれかかるラインハルトが面白そうに笑みを浮かべてこちらを眺めていた。さらに二人ほど湯に浸かっている。

どうやらラインハルトは呆気にとられるセルベリアの様子を見ていたのだろう。

自覚するとカアっと頬が赤くなる。

恥ずかしさを誤魔化すように口を開く。

 

「申し訳ありません、準備に手間取ってしまいました」

 

嘘ではない。

と云っても準備と言うほど大仰なものではなかったが。

何のことはない、只単に水着を選ぶ時間が長引いてしまっただけだ。

.....殿下との混浴にあたり、みすぼらしい物は見せられないからな。

そう考えているセルベリアの胸中を察したのか、ラインハルトはセルベリアの肢体を無遠慮に眺めると。

 

「白い肌に黒の生地が映えて、よく似合っているぞ。やはりお前には黒が合う」

「は、ありがとうございます」

 

水着鑑賞の後に呟いた褒めの言葉にセルベリアは頭を下げる。

平然を装っているが先とは別の意味で顔が朱に染まっていた。

心臓がドキドキと高鳴っている。

褒められたと云うのもあるが理由はもっと別だ。

原因はラインハルトの姿にある。

湯船に浸かっている彼は当然のごとく服を着ていない。つまり裸身だ。

たくましい体を臆面もなく曝け出している。

しかも長湯したせいで発汗したのか頬は赤く染まり髪は艶やかに濡れ、そのせいで匂い立つような色気が醸し出されていた。

熱の籠った妖艶な瞳がセルベリアを貫く。

.....し、刺激が強すぎます。

まだ湯に浸かっていないというのに頭がクラクラしてきた。

 

「そんな所に立っていないでお前も入ったらどうだ.....?」

「っ.....はい!」

 

しかしその言葉で我に返ったセルベリアは湯船に近づき、湯面につま先を浸けようとしたところで「リア、待て」ラインハルトにストップをかけられた。

 

「リア。その前に掛け湯をしろ、体に悪いぞ」

「あ、そうでした。申し訳ありません、気が舞い上がって忘れていました」

「ダメだぞ、風呂に浸かるならまず掛け湯をするのがマナーだ」

「はい」

 

言われた通り湯船の縁に置かれていた桶を手に取りお湯を掬い体に掛ける。

 

「ん....」

 

思いのほか熱めの温度に小さく声が漏れる。そしてもう一度お湯を掬って体に流し掛けた。体が温度に慣れてきたのか今度は大丈夫だ気持ちいい。

.....懐かしいな。昔まだ子供の頃に、殿下が教えてくれたのだ。

 

「こうしていると昔を思い出します。当時は世間知らずだった小娘に殿下は色々な事を優しく教えてくださいましたね」

「そうか?リアはよく覚えているな。正直カレーの件だって言われるまでは忘れていたぞ俺は」

「覚えていますとも、私は殿下との出会いから今に至るまで、数々の思い出を片時たりとも忘れたことはありません。私にとってかけがえのない大切なものですから.......」

「そう言われるとなんだか申し訳ない気持ちになるな。俺は忘れてしまっていたというのに」

 

気まずげに頬を掻くラインハルト。

確かに聞きようによればバツが悪い感じになってしまった。

もちろんセルベリアにそんな意図は微塵もない。

 

「あ、いえそんなつもりで言ったわけではなくて....!」

「分かっているさ。ただ俺がそう思ってしまっただけだ....ふむ」

 

そこで何やらふと考えるように顎に手を置くと、名案が浮かんだのか笑みを浮かべた。そして妙に朗々とした口調で言い出す。

 

「セルベリアよ、今までお前は良く俺に尽くしてくれてきた。礼を言うぞ」

「そのような事はありません。私は殿下の御力になることが何よりも幸福なのです。私に何でもお望みくださいッ殿下」

「ありがとう。そう言ってくれる忠臣が居てくれることを俺は神に感謝しよう。だがな、俺はそんな忠誠を誓ってくれるお前に何も返せていないのが実状だ。これでは上に立つ者として失格だろう。そこで俺自らお前に奉仕してやろうと思う」

「?......ッ!?」

 

どういう事だろう?と首を傾げていたセルベリアだったが、勢いよく立ち上がったラインハルトに慌てて目を手で隠す。

がっつり指の隙間から目が出ていたが。

 

「心配するな、ちゃんと俺も水着を着ているさ」

 

言葉通りラインハルトは黒の水着を履いていて下の部分を隠していた。

少しだけ残念な気持ちになる。

.....いや、何を考えてるんだ私は、臣下としてあるまじき下劣さだぞ!

自己嫌悪に陥っていたことで理解に遅れた。

 

「そこの椅子に座れ、()()()()()

「はい......え?」

 

指さす木製の椅子に大人しく座ったところでラインハルトの言葉を理解した。

 

「で、殿下?それは....!」

 

慌てた様子で振り返るとラインハルトの整った顔がすぐ近くにある。

形の良いセルベリアの耳にボソリと呟かれた。

 

「嫌か....?」

 

息が掛かる程に近い。

背筋がぞくぞくと震えた。

い、いったい何が起こっているのだ?臣下である私が主君であるラインハルト様に奉仕させるだと。ダメだろうそれは臣下としてあるまじき行いだ。

決然とした態度でしっかりと断らなければ!

 

「......嫌ではありません」

 

いつもの覇気ある態度はどこへやら、ウサギのようにふるふると震えてか細い声で言った。

何を言ってるんだ私は、断るんじゃなかったのか!?なんだその媚びるような甘え声は!自分の事ながら情けないぞまったく。

そんな余計な事を考えていると背中に温かな手の感触が伝わる。

すぐに手の温もりで分かった。分からない筈がない。辛い時や苦しい時もこの温もりの御蔭で私は立ち上がってこられたのだから。

しかし今はその手が自分の背中を優しく撫でまわす感触に背徳的な気持ちよさを感じた。

 

「痛くはないか?」

「はい、んぁっ。気持ちいいです、あっ」

 

ラインハルトが石鹸で泡立った手でセルベリアの綺麗な背中を洗いながら確認すると何故か艶がかった悩ましい声で返答してくる。

面白いことにポイントポイントで違った反応を見せてくれるのだ。腰を洗ってやるとビクンと腰がはねるし、首筋に触れてやると背筋をブルリと震わせ小さく甘い声を漏らす。その反応の良さにラインハルトは楽しくなってきた。

知らなかったが自分にはマッサージの才能があったのかもしれないな。

なんてことを考えながらあちこちを念入りに洗ってやった。

 

「こうしていると昔を思い出すな」

「はぅっ、むかしですか?んぁっ」

「そうだ。昔はこうやって洗ってやったものだ。覚えているだろ?」

「はい、も、ちい!ろんっです.....忘れる筈がぁっ、ありません....はぁはぁ」

 

幼い頃のセルベリアはいつもラインハルトの後ろを追いかけるような子だった。まるでそこが唯一の居場所だと言っているかのように。

食事のときはもとより寝るときだっていつも一緒だった。当然のように風呂まで付いて来た時は驚いたものだ。

その過程で洗いっこしたりしたのだ。くすぐったそうに笑みを浮かべる当時のセルベリアを思いだす。今の様な良い反応を見せてくれていただろうか。

そう考えふと思い出す。

 

そういえばあの頃から一か所だけ弱い所があったな。そこを洗ってやるとひゃんひゃんと可愛らしい声で鳴いてくれたのだった。一番のくすぐりポイントだ。

......久しぶりにアレをやってみるか。

当時を思い出したラインハルトはニヤリと悪童のような笑みを浮かべる。死角にいるためラインハルトの表情に気が付かないセルベリア。

 

そして、

 

「鳴かぬなら鳴かせてみせよう何とやらだ。鳴け、リア」

 

そう言いながらセルベリアの魅惑的な()()()に手を置くと。揉み押しながらザッと滑らせ膝まで手をスライドさせたのだ。

反応は劇的だった。

 

最初、セルベリアは何が起きたのか分からないと云った風に愕然とした顔で、瞬間――下半身からこみ上げる快感が電撃のように衝撃を流し抗う暇もなくセルベリアの体を仰け反らせる。

 

「あっあっ、アアっんあ!アアアアアア!!?」

 

爪先が丸まり力が入ると全身がガクガクと痙攣する。セルベリアの視界はぱちぱちと明暗し、浴場に甘い悲鳴が反響する。

 

「ああぁぁあぁ......」

 

やがて押し寄せてきた波は退き始め、余韻が甘い残響となってラインハルトの耳に残る。

太ももに手を這わせるため密着させていたのが良かったのか頭をぶつけることなくラインハルトの肩にもたれ掛っているセルベリア。

紅い瞳は潤み、涙が頬を伝う。桜色に染まった頬。はぁはぁと切なそうに漏れる甘い吐息。雄を虜にする雌の魅力が全開に放出されている淫靡な雰囲気を見てラインハルトの表情は固まる。

 

.....浴室に静けさが落ちた。

 

 


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