ではどうぞ。
新幹線の車内では殺せんせーの鼻を付け替えたり、花札の後で眠ってしまい富士山を見逃したりと色々あったが、無事に京都に到着した。とはいえすぐに観光という訳では無く、一日目の予定はそのままバスで宿泊予定の宿へと向かう。
「分かってたけどなぁ……」
「……ボロいな」
「うん……」
E組が泊まる予定の宿に到着した一同の言葉はそれだった。宿の名前が『さびれや旅館』という時点である程度の予想はついていたが、中に入るとまぁボロかった。鴬張りでもないのに床が音を立てると言えば、いかに老朽化が進んでいるかが分かるだろうか。一部のマニアな客から一定の人気があるらしいが、それを差し引いてもボロボロだ。
皆は仕方ないと受け入れつつも、やはりどこか不満には感じているようだった。こんな事なら本当に、理事長に掛け合って私のポケットマネーで宿のグレードを上げた方が良かったのかもしれない。ちなみに私はE組の隔離校舎と似ている雰囲気が逆に落ち着けるし、月の裏側の旧校舎を思い出して懐かしい気分に浸れるので、それ程不満は抱いていない。
「ヌ……ヌルフ……フフ……わかってませんね皆さん……」
「殺せんせー?」
「安宿にて、あ……悪態を吐くという、のも……ッた、旅の、醍醐味、なのですよ……ヌルフゥ……」
「……あぁ」
殺せんせーの言葉に納得した。豪華な部屋に感嘆の声を上げるのも、安宿に悪態を吐くのも、どちらも旅先でしかできない事だ。ならば確かに『宿の感想を述べる』という、旅の醍醐味と言えるだろう。確かギルガメッシュも裏側のマイルームで同じ事を言っていた記憶がある。
あの時は自分の事と状況が状況だけに気にする事も無かったが、当時のギルガメッシュは気紛れで契約した私の行く末を酒の肴にしていたんだ。本人からすればちょっとした小旅行くらいの気分だったのかもしれない。ならあの場面でそんな台詞が出て来てもおかしくないのだろう。
「……で、何で殺せんせーはもう瀕死なんだ」
「新幹線とバスで酔ったらしいよ……」
……そんな事を言った殺せんせーは、顔色が悪くぐったりとしている。この顔色が悪いというのは比喩ではなく文字通りの意味で、普段の黄色とは違って緑色になってる。これだけグロッキーでも岡野さんや磯貝君のナイフはマッハで躱すんだから、気分が優れないなら大人しくしていろと言いたくなる。
「大丈夫殺せんせー? 寝室で休んだら?」
「いえ……ご心配なく」
大丈夫と気遣いながらナイフで切りかかる辺り、岡野さんも中々だな。
「先生これから一度、東京に戻りますし……枕を忘れてしまいまして」
「あれだけ荷物があって尚、忘れ物を……」
明らかに不要なものが殆どなのに、必要な物は忘れるとか何なんだろう。準備、それも遠出のためのそれとなれば、万全を期するものじゃないのか? アリーナや迷宮探索の前にアイテムを揃えておくのは私にとって当然の事だったから、余計間抜けに感じる。
「神崎さん、日程表見つかった?」
「……ううん」
と、そんな事を考えていたら、すぐ横で神崎さんと茅野さんが何か探していた。
「何探してるの?」
「ちょっと、日程表を……」
神崎さんが言う所によると、あの分厚いしおりを持ち歩くのが面倒だったので、ポケットに収まるサイズのノートに、暗殺旅行の日程を纏めたものを用意していたらしい。そしてカバンの中に入れておいた筈のそれが見当たらないとの事だった。
「確かにバッグに入れてたのに……どこかで落としたのかな」
「……それは」
――拙くないか?
そう思わず呟くと、カバンをのぞき込んでいた二つの目がこちらに向いた。
「日程纏めてたって事はつまり、
手帳の様なものを拾った場合、外から見て持ち主が分からなければ、中を検めるのはそう珍しい事じゃない。そしてそこに書かれているのはプロの助言を元に組み上げた暗殺計画。何も知らない人間が見たら、冗談だと笑い話にするか本気にして通報するかだ。前者ならまだいいが、後者はもう取り返しがつかない。裏でどれだけの人と金が動く事になるか、考えただけで恐ろしい。
そう思った事を説明したら……
「あ、それは大丈夫。周る場所しか書いてないから」
「あー……なら、大丈夫……か?」
……どうやら、杞憂に終わりそうで安心した。
「ではそろそろ、先生は枕を……」
「待った殺せんせー」
安堵したのも束の間、殺せんせーがどっこいしょと立ち上がったのを肩を掴んで引き留めた。
「な、何でしょうか岸波さん……?」
「……安宿で悪態を吐くのは旅の醍醐味なんだよね?」
「え、えぇ……」
「なら……『合わない枕で眠れない夜を過ごす』のも、旅の醍醐味じゃないか?」
「にゅやっ……そ、それは……」
私の言葉に、殺せんせーは緑色の表情を暫くモニョモニョとさせた後、再びソファーへと体を預けた……そして始まるナイフの襲撃とマッハ回避。
「……そう、ですね。それもそうですか。では枕はこのまま……」
「うん、大人しく部屋で休んでなよ」
「えぇ、そうします……では皆さん、また夕食の時に……」
よたよた、とぼとぼ。
そんな擬音が丁度当てはまりそうな動きで殺せんせーは私達の前から去っていった。あんな無防備な背中なのに速水さんが撃った弾はマッハで躱すんだから質が悪い。ゆっくり動きながら残像作るってもう何なんだ。
「――さて」
殺せんせーが廊下の角に消えて暫く、完全にこの場を去った事を認識してた後、全員を振り返る。
「グロッキーな殺せんせーを密室へ追い込む事に成功した。殺るなら今だ」
そう告げると、全員が虚を衝かれたようになっていたが、すぐにギラギラした殺る気に満ちた目になった。
「最初の方にやったっていう、全員での一斉射撃を行いたい。手を貸してくれ」
まだ私がE組に復学する前に試したという、HRの開始に合わせてクラス全員で殺せんせーを狙う一斉射撃。全て躱されて効果が無かったと聞いているが、やり様はあると思う。
「ふ~ん……いーけどさ、それ駄目だったんじゃないの渚君?」
「うん……全部躱された」
潮田君とカルマがそんな話をしていた。そうか、その時はカルマも停学中だったんだっけ。
「いろんな方向から狙ったんだけど、駄目だったんだよね」
「大丈夫だ、今回は『狙わない』」
私がそう言うと、聞き耳を立てていた全員が怪訝な顔をした。まぁそうだろうね。
「正確には、狙うのは数人だ。他は部屋の中を銃弾で埋める事を意識してほしい」
「あーナルホド、逃げ道塞ぐんだ」
「そういう事だ」
全員が一点を狙うのなら、少し横にずれるだけで回避できてしまう。だが弾幕を張られ、周囲に弾があふれかえってるという状況であれば、迂闊に回避は出来ない筈だ。あの先生は弾に触れることが出来ない以上、逃げ道を塞ぐというのは比較的容易い。
「折角銃口が多いんだ。一点を狙っても仕方ない」
加えて今は乗り物酔いでグロッキー状態だ。ナイフも弾も平然と躱していたから、普段とどれくらいの差があるのかは分からないが、多少なりともパフォーマンスは落ちている筈。判断を鈍らせて弾丸の密集地帯に突っ込んででもくれれば御の字である。
そう考えるとギルガメッシュが財宝を狙って撃つことが少ないのは、逃げ道を塞ぐ意味もあるのかもしれない……いや、違うな。あの王様の場合は結果としてそうなってるだけだ。本人的には面倒だから適当に撃ってるんだろうし。
頭を軽く振って今考えた事を追い出す。周囲を見ると、既に全員が銃を手に臨戦態勢だった。宿の人に目撃される危険性もあるが、烏間先生達が宿の方へ暗殺の事は伝えているので問題無い。
「さぁ……行こうか」
「「「おぉ!!」」」
号令と共に殺せんせーの部屋へと向かう。一斉射撃作戦part2……作戦名『ゲート・オブ・バビロン』の開始だ。
◆
「渚。暗殺の場所、ここならいけそうだな」
「スナイパーの人から見えるかな?」
修学旅行二日目。初日は移動に費やしたので、今日から本格的な暗殺旅行の開始と言える。既に全員宿を出発しており、私達第四班も京都の観光を合間に挟みながら、暗殺地点へと移動していた。
ちなみに昨夜行った『ゲート・オブ・バビロン』だが……結論を言うと失敗した。
全員で形成した弾幕は、殺せんせーが掲げた布団という盾に遮られ、挙句持っていた銃をあの分厚いしおりに取り換えられるという悲惨な結果に終わってしまった。おのれ。
しかし何も収穫が無かったわけではない。殺せんせーが弾幕を前に回避ではなく防御という手段を選択したのだ。これは即ち、体調が悪い時は回避能力が低下するという事を言外に表しているのではないだろうか。もう何度かデータを取ってみないと解からないが、もしそうなら弾丸の貫通性能を向上させたりしなければならない。烏間先生に相談しよう。
「折角京都に来たんだから、抹茶わらび餅食べたーい!」
昨日の反省点を頭で整理していると、茅野さんが何やら騒いでいた。甘味が好きな彼女らしい。そして、それなら私は京都中の老舗和菓子屋に行って飴の食べ比べをしたい。
「では、それに毒を入れるというのはどうでしょう?」
「何で!?」
「殺せんせー、甘い物に目が無いですから」
「いいねー、名物で毒殺!」
カルマ達が暗殺に使えそうなことを色々と話しているが、もう少しボリュームを抑えてほしい。歩行者がいないから良いようなものの、聞かれてしまえば通報待ったなしの会話だ。警戒はし過ぎるくらいが丁度良い。
「殺せんせーに効く毒があればいいんだろうけど……」
「あるじゃん」
「え?」
「岸波さんお手製のヤツがさ」
「は?」
思わず振り返る。何を指しているのかは理解できたが、同意する訳にはいかない。「あぁ!」と納得の色を浮かべている他の班員に聞かせる事も兼ねて、少し強めに言っておく。
「……麻婆は毒じゃないからね?」
「いやいや、効くんだから一緒だよ」
「違うからね?」
「あはは」
コラ、笑って流すな。麻婆は毒じゃないんだよ?
「あの、無理……だと思います。あの滲み出る破壊力は抹茶わらびじゃ隠しきれないです」
「あーそれもそっか」
「やめて、毒前提で話進めないで!?」
奥田さん、目を逸らさないで!?
「そう考えると難しいな。隠す方を強くすると別の何かになるし」
「でも、隠せるくらい弱い毒だと効かないし……」
「んー……岸波さん、辛さそのままにして無臭で調合できない?」
「お願いだから話聞いて!!?」
なんで皆毒扱いするんだ、あんなに美味しいのに!
……その後どうにか荒ぶる感情を鎮めてから、麻婆は毒ではないと散々説いたおかげで毒扱いは撤回してくれた……しかし「人が食べるものではない」というレッテルを剥がす事は叶わず、間接的に私が改めて人外認定された。本当に解せぬ。
「でもさぁ、京都に来た時くらい暗殺の事忘れたかったよなー」
その後、京都の街並みを観光しながら目的地に向かう途中、杉野君がそんな事を言いだした。
「いい景色じゃん。暗殺なんて縁の無い場所でさぁ」
「そうでもないよ杉野」
潮田君はそう言って杉野君の言葉を否定すると、少し寄りたいコースがあると言い出した。道1つずれるくらいだから暗殺計画には影響しないだろう。皆も別に構わないと言う事で、近くのコンビニに寄る事になった。
そして潮田君が足を運んだ先にあったのは、一つの石碑だった。刻まれてる名前はとても有名な人物のものだ。
「坂本龍馬……って、あの?」
「あぁ、1867年の龍馬暗殺……『近江屋』の跡地か」
「ここで死んでたのか……」
坂本龍馬。
詳しく語ると長くなるのでざっと説明すると、海援隊の前身の組織を設立したり、薩長同盟の斡旋や大政奉還の成立に尽力した人だ。
歴史に名を遺す様な偉人のエピソードが近くに転がっていた事に少し驚く。サーヴァントとして召喚されるとすればセイバーかライダーだろうか。知名度補正が入るなら強力なサーヴァントになりそうだ。
「更に、歩いてすぐの距離に本能寺もあるよ。当時と場所は少しずれてるけど」
「そっか……1582年の織田信長も、暗殺の一種か」
本能寺の変といえば日本史でかなり有名な事件だ。あんな派手で暗殺と言って良いのか疑問が残るが、不意打ちという意味では確かに暗殺と言えるだろう。明智光秀には確かアサシンの適性があった筈だし。
ちなみに織田信長は月の聖杯戦争に参加していたらしい。レオが二回戦で戦ったそうだ。数々の逸話が宝具や固有スキルとして昇華された強力な英霊だったらしいが、ガウェインの『聖者の数字』には成す術が無かったらしい。「神でもないのに無敵とかチート、チートすぎんかお主!? 顕如のヤツでもそこまで鬱陶しくなかったぞ!?」とか何とか言ってたらしい。そして高い声の可愛い少女だったとか。ドレイクも女だったし、そう言う事もあるんだろう。
「ずっと日本の中心だったこの町は……暗殺の聖地でもあるんだ」
「成る程……言われてみれば、こりゃ立派な暗殺旅行だ」
見る物も見たという事でコースに戻り、観光と休憩を合間合間に挟みながら、最終的な決行場所を絞り込んでいく。一か所ではなく当日現場を見て決めようという事で、私達はいくつかの作戦を考えて、それら全てを烏間先生に渡している。最終的に決めた作戦場所をスナイパーに伝えるという事で話が通っているので、一か所と決めた他の班とは少々違う形になっていた。
「へー……祇園って奥に入るとこんなに人気無いんだ」
幾つかの場所を周った後、やってきたのは祇園の奥。神崎さんの希望コースだ。
「一見さんお断りの店ばかりだから……目的も無くフラッと来る人もいないし、見通しが良い必要も無い。
だから私の希望コースにしてみたの。暗殺にピッタリじゃないかって」
成る程。周囲を見渡すと、確かにここは暗殺向きだというのがわかる。人気が無く見通しが悪い、そして多少騒いだ所で問題にはならない……隠れて荒事を行うには丁度良い場所だ。他の皆も異論はないらしく、決行場所は此処に決まりそうだった。
……そして、丁度良いと思ったのは、私達だけではなかったらしい。
「ホントうってつけだ。なーんでこんな拉致りやすい場所歩くかねぇ?」
そんな言葉と共に、どう見ても不良といった風貌の男達が、私達がやって来た方向から姿を現した。ニマニマと不快な笑みを浮かべており、その視線はこちらへと向いている。どう見ても観光目的じゃないのは明らかだ。
せめて神崎さんたちは逃がさなければと思い、庇うようにして一歩前に出る。
「何お兄さん等? 観光が目的っぽくないんだけど?」
「男に用はねー、女置いてお家帰んな」
そんな下卑た欲求に、はいそうですかと頷ける訳が無い。カルマもそう思ったのだろう、行動が速かった。迷いなく踏み出して掌底で顎を一撃。そしてそのまま顔面を掴んで、近くの電柱に叩きつけた。停学の理由で喧嘩慣れしているという事は知っていたが、見ると聞くでは大違いだ。人を傷つける事に躊躇いが無い。そりゃあ体育の成績も良い訳だ。
周囲にそれなりに大きい音が響いたが、少し見回した限りだと人がやって来るという事も無い。暗殺場所をここに選んで正解だったな。残り二人もカルマの戦闘力に腰が引けている。さっさと片付けて暗殺を続行しなければ……そう思っていたのだが。
「――――――」
―――まだ終わってない。
私の勘がそう告げていた。
聖杯戦争という命の奪い合いを経験し、ギルガメッシュと行動を共にしていて自然と身に着いた危機察知能力はそれなりであると自負している。確かに敵はまだ二人、脅威は過ぎ去っていないが、
さっき見回した限りではそれらしい人影は見当たらなかった。なら何処に―――
「……ッ!」
一人潰したカルマが得意げに振り返る。そしてその背後で開く扉。
それを見た瞬間、体が動いていた。間違いない、あそこだ。
「ほらね渚君。目撃者いないとこならケンカしても―――」
「―――カルマッ!!」
饒舌に語っているカルマを胸倉を掴んでこちら側に引き寄せる。突然の事で理解が追い付いていないのか、すんなりと体は移動してくれた。そして入れ替わる様にして私が前に出る。
「そーだねぇ」
「――――――」
場違いな程暢気な声が聞こえた後、頭に強い衝撃を感じて視界が揺れる。
「岸波さんっ!」
神崎さんの声がやけに遠くで聞こえ、私の意識はそこで途切れた。
◆
「ッ……」
痺れる様な痛みで目を覚ます。痛みが引いてから目を開けると、さっきまでいた祇園とは全く違う光景が広がっていた。
薄暗いコンクリートの壁。ボロボロになった備え付けの家具。タバコや酒を片手に下品な笑い声を響かせる男達。その中には私達を襲ってきた奴の顔もあった。
これだけ判断材料が揃っていれば嫌でもわかる。気絶した後連れ去られたのだろう。
「あ……っ! 岸波さん!」
「良かった……」
「……え」
聞こえた声に、まさかと思って隣を見た。
「神崎さん……茅野さん」
……二人も、捕まってしまったのか。カルマ達が健在な状況でこうなるとは思えない。あの後やられてしまったんだろう。ここにいるのは二人だけのようだ。奥田さんは逃げきれたのだろうか。
「……あの後、どうなった?」
「それが……」
二人の話を聞いた所によると、あの後男子はやられてしまい、私たち三人は車でここ……廃墟の地下まで運ばれたらしい。奥田さんは最初から隠れていたお陰で難を逃れたとの事だ。
「何か……車の中で言ってたけど、台無しを楽しもうとか、あと――」
「おー、起きたか」
私の意識が戻った事に気付いたのか、一人の不良が近寄って来た。声の感じからして間違いない、あの時私を殴った奴だ。
「いやー良かった良かった。目ェ覚まさなかったらどうしようかと思ってたんだわ。なんせ
「……ッ」
舐めまわすような視線。相手というのが何を示しているのかなんてわかり切っている。腕を縛られて動きにくい体で少し後ろに下がる。そのぎこちない様子が可笑しいのか、ヒヒヒと気持ちの悪い笑みが、目の前の顔から零れていた。
「……こんな事して、何のつもりだ?」
気付けば、自然と口が動いていた。
「あ? ……別に? ただのアソビだよ」
「……は?」
「何てーの? エリートぶってる奴等を台無しにしてよ……自然体に戻してやる? みたいな」
意味が分からない。
そんな思いが顔に出ていたんだろう。目の前の不良は次々と言葉を吐いていく。
「良いスーツ着てるサラリーマンには女使って痴漢の罪を着せてやったし、勝ち組みてーな強そうな女には……こんな風に攫って、心と体に二度と消えない傷を刻んだり?
俺等そーいう
「――――――」
……理解が、出来ない。
この男が発している言葉の意味が本気で分からない。一瞬、そう聞こえるだけで別の言語を喋り出したのかと錯覚しかけたくらいだ。
コイツが今さも武勇伝の様に語った事は全て犯罪。それも自分自身の勝手な考えに基づく外道極まりないものだ。
「さいってー……」
思わずといった風に、茅野さんが呟く。それを受けて一瞬だけ真顔になったソイツは、ごく自然な動きで茅野さんを締め上げた。
「……いいか? 今から夜まで俺等10人ちょいを相手にしてもらうがな。宿舎に戻ったら涼しい顔してこう言え。『楽しくカラオケしてただけです』ってな。そうすりゃだ~れも傷つかねぇ。
東京に戻ったらまた皆で遊ぼうぜ。楽しい修学旅行の記念写真でも見ながら……なァ?」
茅野さんを解放した後、ソイツはそんな事を口にした。10人弱の相手、記念写真、『こんな風に攫って』。つまりはそういう事だ。
何が誰も傷つかないだ? ふざけるな。自分たちがやろうとしている事を理解していてそんな言葉が出てくるのだから本当に気持ち悪い。吐き気がする。
「リュウキー、おっまたせェー」
「おー来たか。ウチの撮影スタッフのご到着だ」
重そうな金属製の扉を軋ませながら、屈強な男たちがぞろぞろと入って来た。元からいた奴らと合わせて10人以上……いや、20に届くか? それら全員が、一斉に下卑た視線をこっちに向けてくる。
「ッ!」
「嫌……」
二人がそれに怯えて、視線から少しでも逃れようと俯いて小さくなる。それすらも面白いのか、あちこちでゲタゲタと品の無い笑い声が響いた。
「……ハァ」
――――仕方ない。覚悟を決めるか。
「――神崎さん、茅野さん」
ソファにもたれ掛り、足だけでどうにか立ち上がりながら二人に声を掛ける。
「今から私がやる事、誰にも言わないって約束出来るか?」
「―――え?」
「何、言って……」
「―――出来るなら、この状況はどうにか出来る」
私がそう言うと、二人は目を見開いてこっちを見た。まさかそんな言葉が聞けるとは思ってもいなかったのだろう。
「お? 何だ一人は乗り気かァ?」
「大人しそうな顔して、実は遊んでたってクチか!?」
周囲がうるさいが、こいつらの零す意味の無い雑音に付き合っている暇は無い。
「――出来る?」
「……うん」
「分かった……」
再度確認すると、訳が分からないといった表情を浮かべながらも了承してくれた。
それを受けて、一度目を閉じる。
「――――――」
意識を自分の中に集中させる。
……今からやろうとしている事は、そう難しい事でも何でもない。聖杯戦争では日常的に行っていた事だ。自己の中に整然と並ぶ膨大なデータの中から、必要な物だけを選択する。やり過ぎても事後処理が面倒で、そこまでやる余裕はない。必要最低限だ。
私が
「――――
――――コードキャストだ。
白野が持ち込んだものその②:コードキャスト
コメント返信でも言っているのですが、コードキャストは全部使えるとチートにも程があるのでそれなりに制限をかけるつもりです。
あと、
次回、魔法少女☆はくのんによるマジカル八極拳無双の予定。
・
メルトは引けなかったよ
評価・感想等お待ちしております。