リンネ「この声は……燕尾服仮面様!」   作:ルシエド

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 これがアニメだったらEDでライ君もリンネちゃんもいじめっ子達も全員参加してフィンガー5の学園天国を大声熱唱してますよ、アニメだったら


じゃぽにかじゃんけんじゃぽにかほいで不敗を目指す者達へ

 時が流れ、季節も流れ、リンネ・ベルリネッタが中等部に進む時が来た。

 そう、今日は卒業式なのだ。

 本来ならば、この日は晴れやかな気持ちで迎えられ、誇らしい気持ちでこの日は終わる。

 だが今日この日、友人に挨拶回りしている途中でリンネは、かのいじめっ子三人に空き教室に連れ込まれていた。

 

「……こうしてあなた達に囲まれるのも、随分懐かしい気がしますね」

 

 ここは三階の空き教室。

 窓から外を見下ろせば、しょっちゅうおはスタを見逃してそうな顔の子供、おっはーでマヨチュッチュしてそうな顔の親など、多種多様な子供と親が暖かに触れ合っている。

 リンネも外で他の親と談笑しているダンやローリーの下に行きたかったが、それ以上に強い気持ちを胸に、いじめっ子達と向き合っていた。

 

「レクやクラスの団体行動で一緒になることはあっても、最後まで友達ではなくて……」

 

 結局、リンネが許したことでいじめは終局を迎えたが、だからといっていじめっ子達とリンネが友達になったというわけではなかった。

 元いじめっ子と元いじめられっ子という距離感。

 学校行事で一緒になれば会話一つなく協力する関係。

 クラスが分かれて顔を合わせる機会が減ったら、それっきり。

 リンネの周りに普通の友達が増え、リンネが学校に再度溶け込み始めてからも、いじめっ子達は何のアクションも起こさなかった。

 

 そして、このタイミングでの呼び出し。

 リンネは嫌な予感しかしていなかった。

 

「卒業前に最後に……ということでしょうか」

 

「何か勘違いしてない? ベルリネッタさん」

 

「?」

 

「私達はね、別にサラのお兄ちゃんが怖くてあなたに絡むのをやめたわけじゃないの。

 ……いや、あのゲンコツは怖いけど。いやそうじゃなくて。

 私達はあなたに思い知らせてやろうとずっと機会を窺ってて……途中で心折れたのよ」

 

「心が折れた?」

 

 だが、いじめっ子達の様子がおかしい。

 

「私達が止まったのは、彼があまりにも哀れだったから……」

「お前……お前……卒業直前まで色んな奴に絡まれて、そのたび助けてもらってたくせして……」

「結局一度も正体に気付かないし……私達、彼があんまりにも哀れで……」

 

「気付く?」

 

「ベルリネッタさんが鈍いのも、絡まれやすいのも知ってたけど……えぐっ……!」

「でも、絡まれるたびああいう流れになって、だいたい解決して……ひくっ、ひくっ……!」

「なのに気付かないのが……頑張りが気付かれてないのが……哀れで……えうっ……!」

 

「え、ガチ泣き!? ちょっと待ってください、三人揃って何故ガチ泣きしてるんですか!?」

 

 いじめっ子三人は、巨人の星のような泣き方をしている。

 ガチ泣きだ。

 そのせいでリンネの方がオロオロしてしまっている。

 

 リンネは異性にモテる上に鈍感で、そういった理由もあって卒業まで結構な人数の同性とトラブルを起こしていたが、そのたびに燕尾服仮面が表れ、時に燕尾服仮面主導で、時にリンネ主導で、それらのトラブルを解決してきた。

 それは分かる。リンネにも分かる。だが彼女らが泣いている理由は分からない。

 

「鈍感……!」

「鈍感……!」

「鈍感……!」

 

「合唱みたいにハモらせて言わないでください!」

 

 コロコロホビー界などを中心に、ホビー界は主人公の年齢を低年齢に設定することが多い。

 共感と感情移入は別のものだが、ホビー界においてこれは共感から感情移入に繋げるものだ。

 共感とは読者・視聴者と作中キャラに共通点を見つけさせるもの。感情移入とは大なり小なり作中のキャラを読者・視聴者の分身とさせるもの。

 低年齢のキャラは低年齢のファンに共感を呼び、主人公や人気の脇キャラは大なり小なりファンの分身となり、友情と努力と勝利を重ねていく。

 

 感情移入。現実においてそれは、"情が湧く"とも表現される。

 いじめっ子達は、情を持ってしまった。

 リンネに復讐する機会を探し、影から見ている内に燕尾服仮面の中身に気付き、いつの間にか燕尾服仮面を応援するようになっていた。

 鈍感主人公・リンネのために頑張るも、ある一定のラインを越えた関係になれずにいる、サブヒロイン・ライに、感情移入してしまったのだ。

 

 鈍感主人公がヒロインを落とすのは簡単だが、その逆は難しい。

 パワポケを始めとするゲームに存在した『惚れたヒロインを攻略できないバグ』。

 いじめっ子達はそれを乗算化させたようなダメージを受け―――心折れたのだ。

 

「ベルリネッタさん、本当にやめてよ……!」

「あいつ顔を隠してないと話したいように話せないシャイガイなのに……

 あいつが勇気出して下駄箱に呼び出しの手紙入れてて……!

 とうとう全てを打ち明けるのか! って私達、喜んで陰ながら応援してたのに……!」

「あなた午前中に熱出して、下駄箱通らずに帰っちゃうって何……!?

 放課後に、誰も居ない放課後に……あいつ一人寂しく手紙回収してたのよ……?」

 

「え、え、断片的で代名詞が多くて話が見えないです」

 

 いじめっ子達の中でリンネは『生意気で調子に乗っている女』だった。

 ゆえに、痛めつけようとした。

 だが途中から、『鈍感という名の難攻不落で鉄の城』になっていた。

 ゆえに、痛めつけるのではなく攻略の道筋を探さなければならなかった。

 

 この違いは大きい。

 サンドバッグと難攻不落の要塞ならば、向き合うのに必要な心構えの質が違う。

 さながらリンネは風雲たけし城。大半の挑戦者にとってのSASUKEステージに匹敵する強大な壁。最初にヒトカゲを選んだ幼い子供にとってのタケシとカスミのような存在であった。

 

 みのもんたにファイナルアンサーと言った後の、無駄に引き伸ばす時間の緊張、それに等しい心に負荷がかかる日々。心も折れるというものだ。

 

「……まあ、あれよ。中等部でもドローン君と仲良くねって話」

 

「? 言われなくても。仲がいいお友達ですから」

 

「いいお友達か」

「いいお友達かぁ」

「いいお友達ねぇ」

 

「な、なんですかもう!

 そうやってからかう人時々居ますけど、そういうのじゃないですから!

 ライ君に失礼ですよ!」

 

「チッ」

 

「舌打ち!?」

 

 あいのりがヤラセでないと信じている子供のような、純粋さと天然さ。こういうところは彼女の美点でもあり、いじめの原因となる欠点でもある。

 

「本題に入るわ。私達は勇気が足りないあいつの後押しを―――」

 

「余計な口出しは止めてもらおう」

 

「!」

 

 と、その瞬間。リンネ・ベルリネッタのためではなく、ライ・ドローンのためにいじめっ子の言葉を遮る、仮面と燕尾服の男が現れた。

 

「この声とバラは……燕尾服仮面様!」

 

「シャイな少年を恥ずか死させようとする外道ども。その行動、私が許さん」

 

「……」

「……」

「……ごめんね、余計なことしたね……」

 

 燕尾服仮面を見た途端、いじめっ子達は目を覆う。

 彼は意図的にいじめっ子達のそのモーションを無視し、リンネといじめっ子合わせた四人に、ちょっと格式張った包装に包まれたペンを一本づつ渡した。

 

「卒業祝いだ、受け取りたまえ」

 

「あ、シャーペンだ。ありがとう」

 

「これは……『ドクターグリップ』!」

 

「説明お願いサラ!」

 

「1991年に生まれ、その後じわじわ時間をかけ学生の人気を勝ち取ったベリーエース!

 『ロケットペンシル』『いい匂いのねりけし』等と同じ一世を風靡した文房具!

 かつ、それらとは違い現在でも根強い支持を受ける長寿ヒットシリーズ!

 当時、手に持つ所が柔らかければ=でドクターグリップだという風潮があったほどのもの!

 後に同種の物が増え! 持つ所が柔らかいペン類の一つでしかなくなったものの!

 遠い昔から今に至るまで多くの子供達が求める、世間話になった神話! 即ち生ける伝説!」

 

「サラ! 今日も気持ち悪い!」

「キレッキレに気持ち悪い!」

 

 要するにちょっとハイカラなペンのプレゼントでしかないのだが、受け取って礼を言ってから、いじめっ子の一人は不思議そうに問いかけた。

 

「でも、いいの? 私達のこと、てっきり嫌ってると思ってた」

 

「誰にでも悔いる機会はあり、誰にでもやり直す機会はある。

 それは許された人間も、許されていない人間も変わらない。子供であるなら、尚更に」

 

「……」

 

「同じホビーで幾度となく遊んだ仲だ。情も湧くさ」

 

 許すとも、許さないとも言わない。情が湧いただけ。それが、燕尾服仮面の距離感だった。

 いじめっ子達も中等部に進学するため、永遠の別れとはならない。

 だが今日は卒業式だ。シチュと相まってちょっとしんみりしてしまう。

 

「そうだ、ベルリネッタ嬢。ライ・ドローンからの伝言だ。校舎外れの桜の木の下で待つ、と」

 

「なんだろう……ありがとうございます。伝えてくれて」

 

「十分後くらいに行く、だそうだ」

 

 リンネが教室を出て行く。いじめっ子も燕尾服仮面も放り出していく辺り、彼女の中の『友達』の重さが分かるというものだ。

 これで昔からの友達なんて出て来たら、それこそとんでもない思い入れが見れそうである。

 リンネを桜の木の下に向かわせ、燕尾服仮面は無造作に、顔を隠していた仮面を外した。

 

 仮面の下から現れたのは、なんと驚くべきことに―――変身魔法で大人の姿になった、ライ・ドローンの顔があった。

 

「僕も正体を明かす勇気を、振り絞らないと」

 

「まさか……ドローン君、あなたは……」

 

 藤崎詩織という「○崎で○織とか零崎一賊の女性名か何かかな?」と言われた伝説のラスボスヒロインが、数多くのプレイヤーを殺してきたイベント……!

 全てを打ち明けてからの、『桜の樹の下で告白』である。

 この学園には、桜の木の下で告白することで、"メールで告白する"というクソチキンメンタル行動で彼女が出来る確率を告白成功率の最低値保証として得られる、という伝説があった。

 固定値を神聖視する学生に、この桜の木は特に評価されている。

 

「彼女はちょっと人の気持ちが分からないとこあるし、それで問題起こすこともあるけど……」

「まあ、その、なんだ」

「あなたが一番フラグ立ってると思うよ、どっちの姿でも。他の人よりマシではあるはず」

 

「0%より1%の方が可能性はあるよ、みたいな言い方はやめていただきたい」

 

 付け直した仮面越しに彼がツッコむ。彼はこれからこの姿でリンネに会いに行き、彼女の目の前で魔法を解除して、正体と正直な気持ちを諸共に明かすのだろう。

 

 大切なのは、自分の心に正直であること。

 この学校で一番大切な友人に、隠し事をするのをやめること。

 そして……『素顔で勇気を出すこと』だ。

 ライにとって、これはただ恋心を告げるだけのイベントではないのである。

 

 いじめっ子達は既に、『学校へ行こう』の屋上での叫びに挑もうとしている友人を見守るようなドキドキ感で、ライ=燕尾服仮面を見守っている。

 

「行くの、ライ・ドローン君……!」

「気持ちは分かるけど、死ににいくようなものじゃない!」

「可能性はゼロじゃない……ゼロじゃないけど……! 漢だよ、ドローン君……!」

 

「人を爆弾抱えた自爆特攻者みたいに言うのはやめていただきたい」

 

 絶対成功しねえだろうなあ、と思いつつ、いじめっ子達は彼の成功を祈っている。

 

 あいのりがヤラセだったとしても、彼のその気持ちは、ヤラセなんかじゃないのだから。

 

「待って。そういえば今日使おうと、今日の遊び道具は私が持ってきたんだったわ」

 

「なんと、珍しい。今日は雨が降るのかな?」

 

「残念ながら快晴よ。今日一日くらい、あんたの流儀に合わせてあげる」

 

 こんな格言を知っているだろうか?

 

 ―――リリカルなのはの物語の締めくくりは、リボンで終わる。

 

「りぼん(ミッド版)の付録に付いてた、恋愛相性判断心理テストよ!」

 

「それは! ミッドの恥知らずな出版社がパクったと評判の少女漫画雑誌の付録!」

 

 『心理テスト』。

 それは学生が大好きで、大人になるとバカらしくなってやらなくなってしまうもの。

 「血液型性格診断って日本発祥で日本周囲くらいしか定着してないよ」と言われ、「血液型占いって何の根拠も無いよ」と言われ、「むしろ血液型を理由に何の根拠もなく他人の性格を決めちゃうのが最近問題になってるんだよ」と言われ、子供は大人になっていく。

 ちなみに血液型性格を判断する風潮は昨今廃れているので、最近の子供達は血液型で性格を判断するという考え方そのものを知らないことも多いのだとか。

 

 子供が好む心理テストは簡単で、かつ根拠がない。

 なのにそれっぽいので子供は騙される。しかも集団でワイワイやってると楽しいのだ。

 手軽で楽しい、教室でもできる、男子と女子が混ざってやれる。ゆえに子供に好まれた。

 その後脳内メーカーや診断メーカーなどに形を変え、とりあえず根拠なく何かしらの答えを生み出すという類の娯楽は、社会の中に浸透していった。

 

 そしてその一角が、今机の上に叩きつけられている。

 

「まずここに本名を書きなさい、燕尾服仮面様」

 

「はいはいライ・ドローンっと……」

 

「ここに名前、血液型、誕生日を書いて」

 

「はいはい、っと」

 

「え、あんた早生まれだったの? 通りで背が小さ……まあいいか。

 じゃあもう一枚の紙に前に調べた時見たベルリネッタさんのを書き込んで……」

 

 学者が「それのどこに根拠があるんだよ」と散々言ってきた過程。

 学生が「これで相性が分かるんだ!」と散々言ってきた過程。

 "今日の占いカウントダウン"を超える確かな実績と信憑性。

 それが、ライとリンネの相性を導き出す。

 

「出たわ! あなた達二人の相性はバッチリよ!」

 

「わー嬉しいなー……とでも言うとでも思ったか」

 

「いいじゃない、信じなさい。占いなんていい結果だけ信じてればいいのよ!」

 

 いじめっ子は無理やり占いの結果を燕尾服仮面のポッケにねじ込んだ。

 

「……前、ライ・ドローンに対しても。

 燕尾服仮面に対しても。

 同じことを思ったことがあるわ。

 なんでこんな女の味方するんだろうって。弱みでも握られてるんじゃないかって」

 

 いじめっ子は顎に手を当て、うんうんと頷いている。

 

「でも、本当にそうだとは思わなかったわ。あなた、惚れた弱みを握られてたのね」

 

 仮面を付けたままなのに。その瞬間から、仮面の裏でライは普段の自分に戻ってしまう。

 

「……少なくとも、最初に助けた時は。

 リンネさんを女の子として好きだったからじゃなく、人間として好きだったのが理由だった」

 

「本質的におんなじじゃない、そんなの」

 

「……」

 

「愛よ、愛!

 恋も友情も信頼も、親近感も共感も尊敬も、行くとこまで行けば全部愛! おんなじよ!」

 

「……雑な人」

 

「じゃああなたはきっと、繊細すぎるのよ。大丈夫大丈夫!

 上手く行かなかったとしても、ベルリネッタさんが意識してくれるかもしれないでしょ!」

「頑張って頑張って!」

「フラれたらパフェの一個くらいは奢ってあげるからさ!」

 

 友達じゃない。友達じゃないから無責任なことが言える。

 情が湧いた相手。だから成功と失敗なら、成功であって欲しいと思っている。

 彼女らはリンネが嫌いだが、彼は彼女らにとって、嫌いな女の味方をした少年でしかなくて。

 

 奇妙な応援と、奇妙な縁と、奇妙な後押しがあった。

 

 彼が全てを打ち明け、告白した後、どうなったか……それは、この物語では語らない。

 それは『燕尾服仮面』がリンネの前から消えた後のことであり、語る必要のないことだ。

 

「好きな子のために立ち上がれるなら、好きな子に立ち向かうくらい簡単でしょ! ほら早く!」

 

「……この人ら、今でもいじめっ子だ」

 

 この物語は、燕尾服仮面の物語なのだから。

 

 

 




 告白成功率は多めに見積もって色違いのポケモンくらい……ですね

 これにて終了です。続編は未定。
 続編を作れる造りと設定にはしていますが、するかどうかは神のみぞ知る。
 やるとしたら今回は遊戯編だったので、次はフーカちゃんメインでゲーム編ですね。
 時のオカリナとかその辺りの時期になる……?

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