オリジナル要素多数でお送りします。
グルーノに連れてこられたのは、家から程近い場所にあり、一際大きな建物だった。郷の長老たちが集う場所らしい。
「ここが、会議場じゃ。入っても良いな」
「はっ、グルーノ様。話は聞いております故」
「うむ。ほれ、行くぞ」
入り口に立っている青年が場所を譲ると、中へと入っていく。レイフェリオもグルーノに続いた。
室内は、円卓があり数人が深刻な顔で話し合いをしている。グルーノが入った気配を感じたのか、全員が入り口へと顔を向けてきた。
「グルーノ、来たか……もしや、そこにおるのが」
「そうじゃ……ほれ」
「あ……はい。……会議中に失礼します。レイフェリオ・サザンビークです。その……」
グルーノに促されるまま名乗る。
初めましてではないのだろうが、何と挨拶をするのか分からずレイフェリオは言葉を濁した。だが、そんなレイフェリオの戸惑いを気にすることなく、長老たちは頷いている。
「やはり、レイフェリオか。あの子がよう大きくなったものじゃ」
「そうじゃな……人間たちに何かされてないかと心配じゃったが。人というものは、異質な者を排除するものじゃからな」
「……再び、このように会う日が来るとは感慨深いのぅ」
その口から出てくるのは、レイフェリオの成長と再会したことを喜ぶ言葉たち。幼き頃のレイフェリオを知っているからだろうが、本人には記憶がないためどう反応して良いのかわからない。
「ゴホン、レイフェリオには当時の記憶がない、そのように言っても困惑させるだけじゃ。感動の再会はまたゆっくりとすれば良い。まずは、竜神王さまのことじゃ」
「しかし、グルーノ。まさか、本当にレイフェリオに任せるというのか? 我らでも敵わなかったのだぞ?」
「竜神族でありながら、人でもある。それならば、其方らと同じように力を奪われることはないはずじゃ」
「それは、そうかもしれぬが……」
「確かに……だがなぁ……」
交わされている内容から、ただ事ではない雰囲気を感じ取った。敵う敵わない。それは戦闘の話なのだろうか。とすれば、その相手は……。
「トー……じゃなくてその……お爺様、話している内容がいまいち腑に落ちないのですが、俺に任せるとは一体何のことですか?」
慣れない呼び方はまだぎこちなさが抜けない。しかし、己の名前が出てきている以上は話の中身をきちんと知りたい。彼らの名前もわからないので、側にいるグルーノに聞くしかないのだ。
「うむ、そうじゃな。そこからちゃんと話をしなくてはな……」
「何がこの郷に起こっているのですか?」
「どこから話すのが良いのか……」
顔を見合わせ、考え込むようにした長老たち。その間、口を挟むことなくレイフェリオは待っていた。言いにくい理由は、恐らく竜神王が関わる事柄であり、レイフェリオが郷の外から来た立場であることだろう。血筋としては竜神族に連なるが、人間の世界で育ったに等しい。郷のことなど何一つ知らないのだから。
「……致し方ない。わしから説明しよう」
「バダッグ……」
グルーノがバダッグと呼んだのは、奥に座っている長老だ。彼が、この場のリーダーらしい。
事の発端は、竜神王のある決断だった。竜神族は、人と竜の2つの姿を持つ種族。もう一つの姿である人を封印し、その姿を捨てることを竜神王は決定した。簡単には言っているが、姿を捨てるということは容易ではない。そのための儀式が記されている書物はあったが、古い記録のもの。成功するかどうかもわからなかった。そのため、竜神王自ら儀式を行い、術式が正しいかを試すことになった。儀式は成功し、竜神王は人の姿を封じられ竜となる。だが、そこから郷の異変が始まったのだ。
バダッグは話を続けた。
「竜神族は確かに竜と人、両方の姿を持ちどちらの姿を取ることも出来る。しかし、竜の姿を保つには多大な魔力を消耗するのだ。我らが普段、人の姿をとっているのもそれが理由でもある。ゆえに、竜の姿となった竜神王さまは常に魔力を必要とする状態なのじゃ……」
竜の姿となった竜神王。膨大な魔力を有する竜神王だが、それでも必要とする魔力は竜神王自身が持つそれを越えてしまったようだ。自身の魔力が足りなくなると、補うために竜神族の民からそれを吸収するようになったという。
「我々は竜神王さまの元へ行き、その姿を解いてもらうように願おうと思った。しかし、既に竜神王さまには我らの言葉は届かず、近づけは近づくほど力を奪われてしまい……もう、近づくことさえも出来なくなってしまった……」
「……民の魔力を奪う……そんなことが……」
「今なお、民の魔力は奪われ続けておる。既に力尽き、立ち上がることさえできぬ者も多い。これ以上続けば、死者が出るもの時間の問題……じゃが、我らにはどうすることも出来ぬのだ」
「「……」」
バダックの悲痛な声に、長老らは俯き黙った。
状況は切迫しており、手も足も出ない状態のようだ。入口の方へレイフェリオは視線を向け、魔力を感じ取ってみる。しかし、弱々しい魔力が多数あることがわかるだけだった。どうやら、時間がないという以上に、一刻を争う状況だろう。
レイフェリオは一つ呼吸をして、己を落ち着かせる。
「それで……俺に、竜神王を宥めてきてほしい、ということですか? もしくは……」
「……」
竜神王をこの手にかけることまでは望んでいないはずではあるが、民の命がかかっている以上可能性として排除できることではない。レイフェリオは言葉を濁したが、長老たちは意図をくみ取ってくれたようだ。
「……どういう結果をもたらしたとしても、我らはそれが最善だったと納得するじゃろう。このまま終焉を迎えることになっても、それが運命として受け入れる覚悟も出来ておる」
「……」
「レイフェリオ、本来ならばこのようなことを頼むのはお門違いじゃ。其方は人の世界で生きていくことを選んだ。郷のことに巻き込むなど……。じゃが……今ここに其方がいるのもまた事実。恥を忍んでお願いする。どうか……竜神王さまを止めてくれ」
頭を下げるバダッグに合わせるように、他の長老たちも頭を下げた。ここまでされては、無下にすることはできないだろう。既に去ったとはいえ、レイフェリオにとっても無関係ではない場所でもある郷の危機を捨て置くことはできない。
「……わかりました。俺が行きます」
「レイフェリオよ、竜神王さまがいる祭壇までは魔物たちが蔓延っておる。簡単にたどり着ける場所ではない。それでも、向かう覚悟はあるのか?」
「はい……ここで立ち止まれば、暗黒神を倒すことなどできません。俺には守るべき人たちがいます。放置をしておけば、郷だけでなく俺が守りたい世界へも影響が出てくるかもしれない。それだけは、阻止しなければならなりません。それに……母上の故郷を失わせることは出来ませんから」
グルーノは険しい表情をレイフェリオへと向けていたが、レイフェリオの最後の言葉に目を見開いた。
「……そうか。そうじゃな……ここには、ウィニアが……お前の母が眠っておる場所じゃ」
「それに……トーポもついてきてくれるだろ?」
「……無論じゃ。お前ひとりに行かせるつもりは毛頭ない」
「なら、俺は一人じゃない。トーポも、リオも一緒だからな……」
「……わかった。バダッグ、明日わしらは祭壇へ向かう。いいな」
「グルーノ……。わかった」
今から向かうことも出来るが、レイフェリオは病み上がりだ。万全の状態に体調を整えてから向かった方がいい。
グルーノから祭壇までの道のりや、魔物たちのことを聞きながらレイフェリオはグルーノの家で休むことになった。