ドラゴンクエストⅧ 空と大地と竜を継ぎし者   作:加賀りょう

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悔いる帰還

 その場で暫く休み、レイフェリオは座り込んで頭を冷やしていた。

 だが、アイシアたちをこれ以上放置することはできない。立ち上がり、服に付いた汚れを払うと一呼吸する。

 

(……落ち着け……、まだ終わった訳じゃない。冷静になれ……)

 

 そうしていると、空を飛び回っていたリオが降りてくる。肩に止まるのを確認すると、レイフェリオはアイシアらに聞こえない程度の声で話し掛けた。

 

「リオ……ヤンガスやククールたちは、どうなったかわかるか?」

『……連れてかれちゃったみたいだよ。その後はわからない』

「……」

 

 連れていかれた。聖堂騎士団に拘束されたということだろうか。一体何があの館で起こったのさえ、レイフェリオにはわからない。あの時感じた禍々しい気配は、間違いなくあのレオパルドのもの。消えていなかったということは、まだあの場所にいる可能性は高い。しかし、今のレイフェリオに知る術はなかった。今は、アイシアたちの安全を確保するのが先だ。

 首を横に振り、無理矢理思考を切り換えると、後ろで様子をじっと伺っていたアイシアたちの方へ振り返った。

 

「……取り乱してすまなかった」

「レイフェリオ様……いえ、お気持ちは……わかります。私も……」

「アイシア……」

 

 法皇の傍に居たかったのは、アイシアとて同じはずだった。それでも、祖父である法皇の言葉に従った。逃げてきてしまったことに対して、彼女の中で葛藤があるのかもしれない。

 

「ここにいつまでもいるわけにはいかない。まずは、城へ行く。そこならば、安全なはずだ」

「……はい。申し訳ありませんが、お願いします」

「あぁ」

 

 城までは大した距離ではないが、魔物が強くなってきていることも考慮すればルーラで移動した方が安全だ。二人の傍に寄り、呪文を唱える。

 

「ルーラ」

 

 光に包まれ、浮遊感と共に視界が奪われる。瞬時に移動したのは、サザンビーク城前だ。

 

「な……あっ、あれは王太子殿下っ!」

「アイシア様も居られるぞ!」

 

 城下町の警護をしていた兵がレイフェリオだとわかり、近づいてくる。

 

「……警護ご苦労だな」

「いえ、殿下こそご無事で何よりでございます。早く中へ」

「助かる……アイシア、行こう」

「……はい」

 

 久しぶりに戻ってきたサザンビーク。城下町の様子は特に変わらない。その事に安堵しながら、レイフェリオは真っ直ぐに城へと向かう。

 城の警護をしている兵もその姿に気がつき、門を開けて頭を下げた。

 

「お帰りなさいませ、レイフェリオ様」

「よく、ご無事で……」

「……そう、だな」

 

 帰って来たことを喜んでくれる兵たち。レイフェリオを案じてくれていたことを感謝すべきなのだろうが、素直に受けとることができなかった。

 そのままレイフェリオは謁見の間に向かう。そこには、クラビウスと大臣の二人がいた。

 

「叔父上……」

「!? レイ……? レイかっ! よく戻った」

「ご無事で何よりでございます、レイフェリオ殿下」

 

 足早にレイフェリオに駆け寄る二人に、レイフェリオは苦笑する。左手を胸に当て、頭を下げた。

 

「只今、戻りました……ですが」

「まだ終わったわけではない、か?」

「はい……」

 

 顔を上げずにそのまま返事をする。まだ終わっていない。その通りだ。それどころか状況は悪くなっている。

 スッと顔をあげれば、厳しい表情のクラビウスがいた。

 

「話を、聞こう……大臣、アイシア嬢らを客室に案内するよう指示を」

「かしこまりました」

「えっと、その……私は……」

「アイシアは休んでいてくれ。リリーナ、頼んだ」

「承知しております」

 

 クラビウスとレイフェリオの二人に言われてしまえば、アイシアも従うしかない。付き従うリリーナに促されるように、アイシアは謁見の間を出ていった。

 二人きりとなったところで、クラビウスが動く。そのままバルコニーまで移動した。空を見上げるクラビウスの隣にレイフェリオは立つ。クラビウスとは対照的に、顔を俯かせたまま。

 

「……何があった? お前をそこまで落ち込ませることなど、これまでにはなかったことだ。何がそうさせている?」

「……」

 

 クラビウスの問いに、レイフェリオはすぐに答えることが出来なかった。何から話せばいいというのだろう。

 言葉に詰まっている様子に、クラビウスは重ねて問う。

 

「ククールらが居ないことにも、関係があるのか? 彼らはどうした?」

「……わかりません」

「レイ?」

 

 拳を握りしめ、レイフェリオは漸く言葉を吐き出した。ここに至るまでに合った出来事を。法皇によって、逃がされたことも。レイフェリオたちが戦いを挑んでいる相手が、暗黒神ラプソーンという存在だということも全て。

 

「……そうか。そのようなことが起きているとはな……」

「俺は……止められませんでした。手が届くところまでいたというのに……結局守られるばかりで」

「……レイ」

「わかっています。わかっているんです。けど、俺は……っ」

 

 クラビウスはレイフェリオを労るように、その震えていた肩に手を置いた。ビクッとレイフェリオが止まる。

 

「レイフェリオ、お前には私やチャゴスにはない戦う力がある。だが、本来ならばお前が戦うことはない。王族として戦う場所は、戦場ではないのだ。守られて、責められることはない。一番に守られるべきは、お前だった。それだけだ」

「……」

「……今、お前に必要なのは休息だな。今日はもう休め。いいな」

「……はい……」

 

 レイフェリオはクラビウスを見ることなく、そのままバルコニーから出ていった。その様子をクラビウスは、じっと見つめる。

 

「普段冷静だからか……あんなレイを見ることになるとはな。兄上、私はレイに何と声をかけてやればいいのだろうか……」

 

 闇色に染まってきた空を仰いでも、答えは返ってこなかった。

 




次回の投稿は来週になります。

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