最後の賢者
闇の世界で手に入れたという神鳥の魂の力を使い、レイフェリオらは最後の賢者が住まう場所であろうサヴェッラ大聖堂へとやって来た。
露店などが常時開かれており一般人も多いが、どこか物々しい連中もそこにはいた。
「……あいつら、マイエラの聖堂騎士団だ」
「そうなの?」
「知っている顔もいる。ちっ、いやな予感がするぜ」
青を基調とした制服に身を包んだ聖堂騎士団。ここサヴェッラ大聖堂でも普段から聖堂騎士が聖堂を巡回している。ククールが見知った顔がいるということはマイエラ修道院から異動となったのか、もしくは聖堂騎士団長のマルチェロがいるかだ。
「それはともかく、大聖堂まで来たはいいが、ここからどうするんだ?」
「大聖堂より上空の方に、法皇の住まう場所として大岩がある。そこに向かう。こっちだ」
何度もこの場所には足を運んでいるレイフェリオだ。正面に見える聖堂から横道に逸れると、そこには建物がある。上空にある大岩とつながっている管も見えていた。ここが、大岩へと向かうことが出来る唯一の道だ。
建物に近づくレイフェリオらを、警護している聖堂騎士団が引き留める。
「待て……この先は許可なく通ることはできん」
「警護、ご苦労だな……俺は、レイフェリオ・サザンビークだ。通る許可はある」
「なっ……サザンビーク!? まさかっ……いや、それは」
「通してもらうがいいか?」
レイフェリオの額当てには、サザンビーク王家の紋章がある。聖堂騎士団に所属しているのならば、当然知っているはずの者だ。
明らかに動揺をしている騎士に追い打ちをかけるように、レイフェリオは前に出る。
「わ、わかっ……いえ、申し訳ありません。ですが、許可があるのは殿下おひとりのはずです。他の皆さまはご遠慮願います」
「……それは誰の指示だ?」
「法皇様の館を警護しておられるマルチェロ様からの指示です」
予想は外れることなく、その名は告げられた。マルチェロが警護の責任者ということだ。ならば、ククールらがこのまま乗り込むことは止めた方がいいだろう。強制的に行動することが出来ないわけではないが、ただ迎えればいいということでもない。
「行ってこい、レイフェリオ」
「ククール?」
「俺たちは俺たちで何とかする。お前は先に行ってろ」
「……わかった。あまり無理はするなよ」
「お前もな」
神鳥の力の源となる魂はククールが保持している。反則になるが空から向かえばいいだけの話だ。
去り行くククールたちの背中を見送り、レイフェリオは中に入った。移動用の岩に乗れば、そのまま上へと運ばれる。
『この上に、賢者の人がいるね』
「リオ?」
もぞもぞとレイフェリオの服から姿を見せたのはリオだった。移動中ではあるが人がいなくなったので、姿を出したらしい。そのまま飛び立ち、レイフェリオの肩に止まる。
「わかるのか?」
『よくわからないけど、そんな気がする。レイはわかる?』
「いや……俺は賢者であろう人を知っているから」
だから、リオが感じるなら確信となる。そう思っただけだ。勘のようなものだが、神鳥の子であるリオが賢者がいると言うのなら、やはり法皇が賢者の可能性が高い。事情を話せばわかってもらえるのか。もしくは、荒唐無稽だと信じてもらえないか。普通であれば、後者だろう。だが、レイフェリオは孫であるアイシアの婚約者だ。その可能性にかけるしかない。
目的の大岩まで到着すると、そこにあるのは法皇の館だ。警護をしている騎士団の中にはレイフェリオが知らない者もいるようだが、見知った者たちもいた。
「レイフェリオ殿下っ」
「……突然すまない。法皇猊下は?」
「はっ、中にいらっしゃいます。巫女様も自室に」
「わかった。ありがとう」
「ご案内します」
「頼む」
知らない聖堂騎士団に遭遇することを考えれば、案内してもらった方がすんなりと事が進む。無論、何度も来ている場所でもあるため、館内の構造は知っているため、案内されなくとも行くことは出来る。あくまで法皇に会うまでの時間短縮のためだ。
階段を上がり中央に位置する扉を開く。
「失礼します。法皇様、レイフェリオ殿下がお越しです」
「……レイフェリオ殿下が?」
レイフェリオが後ろから姿を見せると、法皇は座っていた机から身を乗りだし驚いていた。いつもなら事前に伝えてから訪問するので、前触れもなく訪れたことが意外だったのかもしれない。
「……ご無沙汰しております、猊下」
「レイフェリオ殿下……いえ、壮健そうで何よりです。どうぞ、こちらへ」
「ありがとうございます」
「そちは下がってよい。ご苦労じゃったな」
「はっ」
案内した騎士を下がらせると、室内にはレイフェリオと法皇の二人だけとなる。
法皇に促され、レイフェリオは机の前に立った。応接室ではないため、客を招くようなテーブルなどはない。
「お忙しいところ、突然申し訳ありません」
「いえ、構いませぬ。貴方様のことです。何やら事情をお持ちのご様子。この爺に出来ることならば、何なりと仰られませ」
好好爺といった風に法皇は微笑む。レイフェリオがここに来たことに、法皇自身も何かを感じたのかもしれない。レイフェリオは邪魔が入らない内に本題を伝えることにした。
「……単刀直入にお伝えします。猊下、貴方の命が狙われています。暗黒神の化身に」
「っ!? ……暗黒神、まさか貴方様は……いや、そんな……まさか、関わっておられるのですか? あれに……」
隠すことなく、レイフェリオは暗黒神の名を告げた。この狼狽ぶりから、法皇は暗黒神のことを知っている。それも、おそらく真実に近い形で。
レイフェリオの手を取った法皇の手は震えていた。
「はい。ですから──―」
「なりませんっ! なりませんぞ、殿下! あれに関わってはなりません! 貴方様は、ご自分のお立場を理解しておいでのはず。あれは、人の手に負えるものではないのです!」
「……それでも、俺は……王族の一人としてあれを放置することは出来ません。猊下もそれはお分かりですよね」
「……確かに。その責務があることは理解できます。されど……我が孫から、殿下までもを奪うことは出来ません」
肩を落とす法皇に、レイフェリオは声をかけられなかった。アイシアには両親から引き離された過去がある。力が発現し、普通の娘としての生活を奪ったという自責の念が法皇にはあった。全てを知って傍にいる肉親は祖父である法皇のみ。そして、レイフェリオもアイシアの力を知りながらも、傍にいる一人だ。だからこそ、法皇は引き留めたいのだ。何よりも孫娘のために。その想いを理解しているからこそ、言う言葉が見つからなかった。
ゆっくりと掴まれた手を離して、次の言葉を探していると法皇は、俯いた顔を上げる。
「最早、この老いぼれに出来ることは限られておるのですな。……殿下……申し訳ありません」
「猊下?」
諦めにも似た言葉が聞こえたその時だった。
「古よりたまわいし力よ、彼の者を誘いたまえ……」
「なっ、それは……ち……」
目の前で紡がれた言霊が呪文の類いだとは理解したが、既に遅かった。抗おうとするもレイフェリオは呪文の力により、その場に倒れ込んでしまうのだった。
「……我が先祖が残した負の遺産を背負わせること、申し訳なく思います。ですが……どうか、我が孫を守って下され……」
この辺りはどうすべきか色々迷ったところです。他のメンバーはゲーム通りに向かっています。