ドラゴンクエストⅧ 空と大地と竜を継ぎし者   作:加賀りょう

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理由

 宿屋の中に戻ると、既に起きていたのかククールが支度をしていた。

 

「ククール……」

「どこ行ってたのかと思えば、あのエルフの姫さんと話をしてたみたいだからな、遠慮させてもらった」

「そうか。気を遣わせたみたいだな」

「お前のベッドが空だったんで、ちらっと覗いただけだ。話は聞こえてないぜ。起きたのはついさっきだしな」

 

 ラジュとの会話は聞こえていない。ククールはわざわざそれを伝えてくれたようだ。

 聞かれていてもそれほど問題があるわけではないが、知られていないと聞くと少し安堵している自分がいた。

 

「そうか……」

「それより、体調はどうなんだ?」

「あ、あぁ……万全とは言えないが多少は回復した。怪我をした訳じゃないからな」

「……今さらだが、そもそも何でレイフェリオはここに倒れてたんだ?」

 

 ククールたちがここに来たのは、レイフェリオがいたからだ。では、レイフェリオはどうしてこの場所を選んだのか。レティシアではなく、何故三角谷なのか。気を失っていたレイフェリオにはわからない。

 そこへパタパタとリオが近寄り、レイフェリオの肩に止まった。

 

『この郷は魔力が満ちているから、僕が連れてきたんだよ!』

「えっ?」

『レイ一人なら、僕の力でも連れていけるから。ゲモンから僕を守ってレイは疲れてた。だから、僕はここに連れてきたんだ』

「リオ……そうか、ありがとう」

『うん!』

 

 どういう理屈かはわからないが、リオがこの場所を選んで連れてきたということらしい。この小さな体でレイフェリオを運ぶことは出来なさそうだが、何か別の力があるのだろう。

 

『これからも、空を飛びたかったらいつでも飛んであげるよ! レイとなら僕も飛べるから』

「俺となら?」

『うん、僕はまだ小さいからレイ一人だけしかダメだけどね』

「……何故、俺となんだ?」

『ん? レイの傍がいいからだよ』

 

 答えになっていない。思わず額に手を当てるが、ふとククールを見れば何とも言えないような顔をしていた。

 

「ククール?」

「その鳥、何て言っているのかわかるのか?」

「……まぁ」

「俺にはピイピイとしか聞こえない……レイフェリオが一人で話しているようにしか見えないぜ」

 

 確かにトーポにもきこえなかったのだから、ククールにも聞こえないことは不思議ではない。

 

「……そうだな。気を付ける。すまない」

「俺は別にいいが……で、何の話をしていたんだ?」

「ここに来た理由を聞いていた。俺は意識がなかったが、リオがここに連れてきたらしい。ここは、魔力が満ちているから回復にはいいと判断してのことのようだ」

「なるほどな……それでここってわけか。確かに、心地いい風に感じる」

 

 普段から呪文を扱うククールにもわかるようだ。恐らくゼシカも感じているはずだ。

 ククールと話し込んでいるうちに、全員が起きた。レイフェリオも支度を終えて、宿屋の外に出る。

 

「それで、これからどうするんだい? その、賢者ってやつに会いに行くんだろ?」

「ゲルダ?」

「何だい、事情は全部聞いているさ。あんたが寝ている間にね」

「……」

 

 それを聞いて思わず眉を寄せてしまったのは仕方ないだろう。元々、ゲルダ自身には関りのないことだ。更に、ゲルダから切り出したということは、彼女はこのまま同行するということに他ならない。

 

「君はわかっているのか? 共に行くことの意味を」

「ふん、危険なことなんて今までも経験済みってことさ。程度の違いはあれ、命のやり取りだってしたことはある。それに……これでもこの世界を気に入っているんだ。暗黒神だが魔王だか、そんな得体のしれない奴に渡すなんて、それこそ盗賊の名折れさ」

「……それはちょっと違う気がするんだけど」

「うるさいね。いいったらいいんだよ!」

 

 ゼシカの突っ込みに、ゲルダはプイッと顔を背けた。

 覚悟としては足りない、とレイフェリオは思う。気に入らないとか盗賊のプライドというだけで、挑めるほど安易な相手ではない。だが、この様子を見るにレイフェリオ以外はゲルダの同行を認めているようだ。

 

「レイフェリオ、お前からみたらゲルダが戦う理由は軽いと思う。俺もそれには同感だ。だが、理由が軽いからといって、その想いが軽いとは限らない。違うか?」

「ククール……」

「私も兄さんの仇っていうのが、ラプソーンと戦う理由。賢者の末裔ということをからも決して無関係じゃない。でも、やっぱり一番の理由は自分が納得したいから、だと思う。だから私は戦う。他でもない、私自身のために」

「アッシは、この中で一番理由が弱いでがすよ……けど、知っちまったからには放ってはおけねぇ。兄貴が戦うなら、アッシも力になりたいでげすから」

 

 言われてみれば、ヤンガスも直接的な関りはなかった。ゼシカ、ククールは関係者が犠牲になった背景がある。最初から共に旅をしていて、いることが当然だと思っていたためだ。

 

「……理由と想いは、必ずしも同じじゃない、か。そうだな。その通りだ」

「兄貴……」

「わかった。……行こう。次の目的地、サヴェッラ大聖堂に」

「「あぁ」」

「えぇ」

「ふん」

 

 

 

 


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