ドラゴンクエストⅧ 空と大地と竜を継ぎし者   作:加賀りょう

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オリジナルストーリーです。ちょっとしたフラグです。


賢者の友人

 翌日、レイフェリオが目覚めると他の皆はまだ寝ていた。軽く腕を動かせば多少違和感を感じるものの、動くことは出来そうだ。ベッドから静かに身を起こす。周りを見ても誰も起きていないことを確認して、レイフェリオはベッドから降りた。

 外に出てみれば、町とは違った自然が目の前に広がっていた。滝から流れてくる水の音が届く。滝が望める場所に立つと、心地よい風が頬を撫でた。

 

「……ここが、三角谷。人が立ち入らない秘境か……」

「綺麗な眺めでしょう」

「……貴女は……」

 

 誰かが近づいてきていることは気配でわかっていた。それが仲間たちではないことも。振り返ると、そこには人とよく似た姿ではあるが尖った耳を持った少女らしき者が歩いてきていた。

 

「うふふ。初めまして、ですね。私はラジュ。エルフの一人です」

「エルフの民……ですか」

「貴方はレイフェリオさん、でしたね。かの竜神族と縁を持つ」

「っ……どうしてそれを?」

「貴方の傍にいたレティスの子よりお聞きしました」

 

 微笑みながらレイフェリオの隣に立つラジュ。困惑をしながらレイフェリオはラジュを見ていた。

 

「お加減はどうですか? そのご様子だと、まだ本調子ではなさそうですが」

「……いえ、大分回復しました。わざわざありがとうございます」

「隠さなくともいいですよ。魔力が完全ではないのでしょう? 我らエルフの民は魔力には敏感ですから。未だ、本来の貴方の魔力には及ばないのでしょう?」

「……何故?」

「貴方の中にある魔力の器を感じます。流れてはいるものの満ちてはいません。それが私にはわかります」

 

 エルフは魔力に長けた一族。その中でも古株であるというラジュにとって、他者の魔力の流れを読み取ることなど容易なことのようだ。

 そこまで分かっているのならば、誤魔化す必要もないだろう。レイフェリオも認めるしかない。胸に手を当てて、力を確認する様に目を閉じる。

 

「確かに……まだ魔力が回復しているわけではありません。使いきったわけでもないので、少し動く分には問題はないですが」

「魔力操作もエルフ程ではないですが、お上手な様子……ですが貴方の中にはもう一つ、別の力を感じます」

「……別の力」

 

 思い返されるのは、ドルマゲスとの戦い。いや、その前から聞いていた声だ。あの声が何なのか、レイフェリオにもわかっていない。説明することもできなかった。

 だが、答えることのないレイフェリオにラジュはそれが答えだと感じ取ったようだ。

 

「心当たりはあるようですね。恐らく、その力は竜に関わるものでしょう。魔力にも似ていますが、感じたことがないものです」

「竜……やはり竜神族に関係があるということですか」

「竜神族は人里に現れることは滅多にありません。私も一度だけ垣間見たことはありますが、それきり見たことはありません。だからこそ、不思議ではあります。貴方が、何故ここに、人と共にいるのかが」

 

 レイフェリオはラジュへと向き直ると、彼女もレイフェリオを真っ直ぐに見つめていた。

 ラジュの指摘は正しいのかもしれない。レイフェリオは人と竜神族との間に生まれた。人と同じ外見を持っているが、その魔力は人ならざるモノを持つ。人でも竜神族でもない。完全なる人ではないレイフェリオは、人の世界では異質である。

 ラジュはレイフェリオを人として見てはいないのだろう。その言葉が物語っている。人とレイフェリオ、というようにを分けているのだから。

 

「……俺のことは竜神族ということだけ聞いたのですか?」

「竜神族に連なるもの、とお聞きしました」

「間違ってはいませんが、俺は人間の父と竜神族の母の間に生まれました。混血児なんです、俺は」

「ハーフ……? まさか、竜神族が人と交わると?」

「事実です。生まれてから暫くは郷で暮らしたみたいですが、俺には記憶がありません。人と生きてきた記憶しかない……だから、貴女の問いには答えられません。俺にも理由など分からないんですから……」

 

 父がレイフェリオを迎えに来たのは、恐らく母が亡くなってからだろう。それまでは郷で暮らしていた。もし母が生きていれば郷でずっと過ごしていたのだろうか。だとしたら、何故父といられなかったのか。両親が揃って過ごすことは出来なかったのか。年齢からして少しは覚えていてもいいはずの記憶がないのは何故か。どれも答えなどわからない。

 ラジュの問いに敢えて答えるとすれば、一つだけある。それは、レイフェリオはサザンビークの王太子であるからだ。人の世界において、国をまとめる立場の一人だからである。逆に言えば、王太子でなければレイフェリオはどこにも属すことはないのかもしれない。

 

「……申し訳ありません。辛いことを聞いてしまいました。まさか、竜神族が人と関わるとは思いませんでしたから」

「……いえ、他の種族の方々からすれば不思議なのでしょうから」

「……」

 

 苦笑するレイフェリオに、ラジュは悲しげに目を伏せた。彼女は知らなかったから聞いただけであり、特にレイフェリオが傷ついた訳ではない。

 

「本当に気にする必要はありません。事実は事実ですから」

「……レイフェリオさん」

「そろそろ皆も起きてくる頃ですから、俺は戻ります。ラジュさんも──―」

「人は決して入れぬ高台にある小さな神殿があります。そこから竜神族の郷に行けると、聞いたことがあります」

「えっ?」

「大きな門と竜の紋章があるだけで、何もない場所ですが……もしかしたら、貴方なら道が開けるかもしれません」

 

 立ち去ろうとしたレイフェリオの背中に向かって、ラジュは告げる。

 空を飛ぶことが出来なければ、行くことは難しいとされる高台に、郷への道があると。普通に行くだけでは、何の意味もなく歴史的な価値さえも見いだされていない不思議な場所。

 

「もし、貴方が己を知りたいと仰るなら、行ってみるといいでしょう。かの竜神族が住まう場所へ。かつて私が彼……クーパスの友であり竜神族の一人であったフェイから聞いた話です」

「ラジュさん……」

「私が貴方に出来るのはこの程度のようですから。お時間を頂いてありがとうございました。私も失礼しますね」

「……はい、ありがとうございます」

 

 最後には笑みを見せて去っていくラジュを見送って、レイフェリオも宿屋へと戻っていった。

 


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