ここからはオリジナルストーリーに近いものになると思います。
新たな仲間
真っ暗な闇の中。浮遊感をレイフェリオは感じていた。
「俺は……確か……」
ぼんやりと思い出すのは、ゲモンとの戦いでのことだ。断末魔の叫びと共に放たれた魔力の光が卵へ向かっていく。レイフェリオは必死に卵の前へと駆けたはずだ。
「間に合わなかったのか……もしかして俺は……」
『……ううん。大丈夫だよ』
「えっ?」
幼い声が聞こえてレイフェリオは闇の中を見回す。何も見えないはずが、徐々に目の前が照らされていくのを感じた。暖かな光だ。変化していく光は、やがて鳥の姿に変わった。
「あ……」
『ありがとう……僕を助けてくれて……』
「……無事、だったのか?」
『君が……守ってくれたから……けど、君は力を使い過ぎたみたいだ……だから、僕がここに連れてきた。もう一人の僕も、君の仲間を連れてここにくるよ』
「え?」
『だから、安心して眠って……目覚めたら、今度は一緒に空を飛ぼう』
光が霧散し、姿が消えていく。導かれるように、レイフェリオは意識が遠くなっていった。
☆★☆★☆★☆
「っ……」
瞼を開けると、そこは知らない場所だった。ベッドに寝かされている身体を起こせば、近くにいたトーポが駆け寄ってくる。
「キュキュッっ!」
「トーポ……心配かけたみたいだな」
「キュウ」
「ありがとう。……他の皆は?」
『賢者クーパスについて聴きに行っているよ』
「っ!?」
突然頭に響いた声。チラリとベッドの横にある棚を見れば、白い鳥がレイフェリオを見ていた。小さなその姿はトーポと同じくらいの大きさしかない。まるで生まれたばかりの小鳥ほどの。
「その声……まさか……」
暗闇の中で聞こえていた声と同じものだ。レイフェリオへ語りかけていたのは、この小鳥だというのか。
『そうだよ……君に話しかけていたのは僕。君に助けられたんだ。だから、今度は僕が君を助ける番だよ』
「俺を、助ける?」
『うん。お母さんにも伝えてあるから大丈夫。これから宜しくね』
「あ、あぁ……まぁいいが、それより母親ってのは?」
『レティスって呼ばれてるよ』
まさかの神鳥レティスの子どもだった。ということは、あの卵から孵ったのが目の前の小鳥ということなのだろう。ならば、レイフェリオは間に合ったのだ。安堵の息を吐くが、次の言葉で直ぐに覆された。
『でも、もう一人の兄弟が出来るはずだったんだ。僕は卵の外でも平気だけど、その子はまだダメだったから魂だけになっちゃって』
「もう一人? 卵は一つだったと思うが?」
『うん。双子だったの僕たちは。もう一人の僕は、君の仲間たちと一緒にいるよ!』
双子。卵に二つの命があったということなのだろうが、レイフェリオには直ぐに理解することは出来なかった。そのレティスの子どもたちが、何故ここにいるのか。レティスは闇の世界にいるはずで、だがレイフェリオの目の前にはきちんとした色がある。ということは、ここは闇の世界ではなく元の世界だ。
「……君は」
『名前は君がつけてよ』
「名前がないのか?」
『生まれたばかりだからね』
なら母親であるレティスが名付けるのが普通のはずだ。何故、レイフェリオに頼むのか。
「レティスにつけてもらわないのか?」
『お母さんも人間につけてもらった。だから、僕も付けてほしい』
「……名前、か」
確かに名前がなければ不便だ。だがいきなり言われても直ぐに思い浮かぶものではない。黙ってしまったレイフェリオに、小鳥はその足元に移動してきた。
『君はレイフェリオだよね? ねぇ、レイって呼んでいい?』
「……構わない。そうだな……ならお前はリオでいいか?」
『リオ? 君の名前からくれるの?』
「あぁ、どうだ?」
『嬉しい! ありがとう、僕はリオ! リオだよ』
喜びを全身で表すように羽をパタパタする様子は微笑ましいものだ。今後、レイフェリオと共にいるというリオは新しい仲間となるだろう。隣にいるトーポはよく分からないようで、首をかしげていた。
「トーポ?」
「キュイ……キュウ」
「わからない? リオの声が聞こえてないのか?」
「キュ!」
その通りだと、何度も首肯していた。双方では意志疎通が出来ないらしい。
『うーん、僕の声はレイにしか聞こえないのかも』
「俺にだけ?」
『どうしてかな……僕にもよく分からないや』
「……まぁその辺りは追々でいい。ところで、どうして俺はここに──―」
「兄貴っ!」
レイフェリオが寝ている部屋に飛び込んできたのは、ヤンガスとゲルダ、更にはククールとゼシカ、トロデだった。誰もがレイフェリオを見て安堵の顔をしている。
「目が覚めたのね、レイフェリオ。良かった……」
「ゼシカ、皆も……心配をかけたみたいだな、すまない」
「本当に心配したでがすよ……突然、兄貴は消えて卵は割れたんでがすから」
「?? どういう事だ? というか、ここはどこなんだ?」
この場所が光の世界であることはわかるが、そもそも闇の世界にいたはずだ。それがどうして光の世界にいるのか。ベッドの上で寝ているということは、レティシアの村ではない。今まで見たことのない場所だ。そして、リオから聞いた賢者クーパスの名。この中で理解していないのは、レイフェリオだけだろう。
「……俺たちにもよく分からない。だが、レティスから聞いたことも合わせて無理やり理解させられたという程度だ」
「本当に、アンタがここにいるとは思わなかったよ……本来にどうやってここに来たんだい?」
「俺が、ここに来た?」
ゲルダの言い方はまるでレイフェリオだけがここに来て、彼らが探しに来たというように聞こえる。しかし、レイフェリオにはあの瞬間から記憶はない。自ら移動したのではないことはたしかだ。
混乱するレイフェリオを見て、ククールはとなりのベッドに腰を下ろし視線を合わせた。
「ククール?」
「わかる範囲で説明する。まずは、この場所についてだな。ここは三角谷というらしい。人が立ち入ることは滅多にない秘境だな」
三角谷は人とエルフと魔物が共存する場所。そこにレイフェリオがいると、レティスの子どもが教えてくれたらしい。
あの時、ゲモンの断末魔の攻撃から卵を守ろうと飛び込んだレイフェリオだが、攻撃の光が消えた時には既に姿が消えていた。衝撃で卵も割れておりレティスも落ち込んだが、割れた卵から魂の形でレティスの子どもが現れた。力を貸してくれるという魂の力は、空を飛ぶものだった。
更にレティスに対し、消えたレイフェリオについても問いただした。レイフェリオは魔力を以て衝撃を和らげようとしたが、何らかの力がレイフェリオを闇の世界から飛ばしたのではないかというのが、レティスの見解だった。闇の世界に、レイフェリオの力を感じないと。
急ぎ、光の世界に戻ったククールたちは、レティスの子である魂の力が、ここにレイフェリオがいると教えてくれたらしい。その理由は、リオがいたからだった。同じくレティスの子であるリオと魂だけとなったとはいえ繋がりがあったのだろう。それで、倒れていたレイフェリオを見つけ運んだのだという。
「……」
「身におぼえはないのか?」
「……無意識だったからな、覚えてない」
「だが、レイフェリオが無事で何よりじゃ。そのままだと、クラビウス王に何と言えばよいかわからん」
「王……ご心配をおかけして、申し訳ありませんでした」
「お主が無事だったのだ。今はそれが一番じゃな。姫も安心しておる」
魔物が住んでいる土地とはいえ、馬の姿であるミーティアは流石に入ってこれない。入り口の近くで待っているらしい。起き上がったなら心配をかけたことを謝りに行くべきだろうが、今はまだそこまで回復しているわけではない。闇の遺跡での戦い程ではないが、まだ完全に魔力が戻ってきた感覚はなかった。
レイフェリオの体調を考慮して、ここで一晩休むことになり今後について明日改めて話し合うことになった。