戦闘が終わったことで、傷を回復したククールらがレイフェリオに駆け寄ってきた。
「レイフェリオっ!」
「大丈夫でがすか、兄貴!」
「……怪我は、ないのか……どうしたんだ一体?」
レイフェリオの怪我を探す風に見るククールだが、目立った怪我はしていないことが不思議なようだ。それはそうだろう。物理的な攻撃はされていないのだから。
「……レイフェリオ、立てる?」
「あ、あぁ……痛っ」
伸ばされたゼシカの手を取ろうとするが、動いた瞬間に痛みがそれを邪魔する。回復呪文で癒されるものではないため、治まるのを待つしかない。
「あんた……」
「悪い……な。少し休めば治まるはずだ」
『……やはり、貴方は』
その様子をじっと見つめていたレティスから、声が届いた。ククール、ヤンガス、ゼシカは驚いたように顔をあげ、ゲルダは眉を寄せる。
『どこか懐かしい気配だと思いましたが、貴方は彼の……いえ、竜神族の子ですね?』
「「……」」
誰もがレイフェリオに視線を向けて黙る。しかし、この中で初めてその名前を耳にするゲルダだけは、レティスに素朴な疑問を上げた。
「竜神族? なんだい、それは」
「おいっ、ゲルダ」
「何んだよ、ヤンガス。あんたは知ってるのかい?」
「い、いや……知らねぇが」
そう、知らないのだ。名前だけは知っているし、それがレイフェリオの母の一族なのだということも知っている。だが、それだけだ。詳しいことは、レイフェリオでさえ知らないのだから当然のことだった。
『……竜神族は龍の力と人の知恵を持ち合わせている人でもあり竜でもある存在です。古来に神より遣わされた者が地上に根付き、世界の行く末を見守る役目を担っています』
「神? 何をいってるんだい? そんなおとぎ話……そんな連中の話なんて聞いたことないね」
『人との関わりは禁忌とされていたはず。俗世に出ることはないでしょう。ですが……私にとってはとても懐かしい戦友です。そう、かの暗黒神ラプソーンを共に封印した仲間として』
レティスはフワリと止まり木から降り、レイフェリオの側に来る。すると、その身を慈しむように包み込んだ。
「あ……」
『痛みは治まりましたか?』
「……あぁ」
温かなものが流れてきたと同時に痛みがなくなっていった。包まれているからか、レティスの鼓動が聞こえてくる。
『……強い力を持っていますね。彼と同じ』
「えっ?」
困惑しているレイフェリオを余所に、レティスは翼を広げてレイフェリオを解放すると、再び止まり木へと降り立った。
何事かとレイフェリオは囲まれる。
「おい、レイフェリオ?」
「……大丈夫だ。もう問題ない」
「もしかして、レティスが治してくれたの?」
「みたいだな……」
レティスとの会話は聞こえていないようだ。レイフェリオも混乱しているので、説明することはできそうにない。とりあえずは、痛みはなくなった。立ち上がると、改めてレティスを見上げる。
「……一応、礼は言っておく」
『いえ、元はと言えば私が行ったことなのですから、必要ありません』
「そうか」
「……ったく、話の途中でなにしてんだい! んで、あんた」
ピシッとでもいうように真っ直ぐとゲルダはレイフェリオを指差す。いつでも不機嫌そうな顔をしているが、更に不機嫌さが増しているようだ。
「……竜神族ってのはあんたなのかい」
「……」
「どこぞの貴族様だとは思ったが、神の使い? あんた、一体何者なんだい」
誤魔化しは許さない。鋭い目付きがそう語っていた。隠すことではないが、巻き込むことになるので伝えなかっただけだ。しかし、盗賊でもあるゲルダにとって謎のままというのは許せないのだろう。レイフェリオは困ったように笑った。
「あんた……」
「話せば引き返せなくなるし、事情に巻き込む」
「今さら何をいってんだい。ここまできてしらをきろうってんのは許さないよ」
それでも、ゲルダのプライドよりも優先すべきことがある。レイフェリオは首を横に振った。
「……それでも、君にはまだ背負わせられない」
「あんたっ」
「今はそれよりも、レティスの事情を聞くのが先だ。違うか?」
「……ちっ」
冷静ではなくてもここにきた目的を忘れるほどではなかったらしい。不満全開だが、一先ずは引くことにしたようだ。
「助かる、ゲルダ」
「状況がわからないほど、分別がない訳じゃないよ」
素直ではない様子にレイフェリオは苦笑し、改めてレティスを見上げた。
「悪かった。そっちの事情を聞かせてくれ」
『……』
「レティス?」
『いつの時代でも変わらないのですね。貴方は……』
「……?」
『今は控えましょう。そうですね、私が貴方方をここへ呼び、力を試したのは……私の子を助け出してほしかったからです』
そうしてレティスは事情を説明した。
村を襲ったことは本意ではないこと。卵を人質に取られていること。人質に取っている魔物が、暗黒神ラプソーンの配下だった魔物だということ。
『力だけならば私の敵ではありません。ですが、私一人ではあの子を守ることも助けることも出来ないのです』
「なるほどな……要するに、そいつを倒せばいいのか」
「でも、戦闘をしていて卵が割れたらどうするの?」
レティスの頼みとはククールの言うとおり、魔物を倒すこと。しかし、そこに卵を助けることも加わる。万が一、卵を持ったまま戦闘をするなどの状況となれば、割れてしまうことはあり得る話だ。卵の安全を確保した上で、相手を倒さなければならない。
「兄貴、どうするんでげすか?」
「……まずは見てみないことにはなんとも言えないな」
「そもそも卵はどこにあるんだい?」
『神鳥の巣の頂上です。人が立ち入れない場所ですが、私ならば貴方方を運んで行けるでしょう。尤も、気づかれないように麓までになりますが』
この世界ではレティスは目立つ。同じく色をもつレイフェリオたちもだ。ならば、相手が警戒をしていない麓から向かうしかないということだ。
「わかった。なら、俺たちを運んでくれ。王は、出来れば集落で待っていてほしいですが」
「……そうじゃな。わかった」
トロデは了承すると、魔物から逃げるようにさっさと馬車でかけていった。相変わらず逃げ足は早い。
『では、行きましょう。乗ってください』
レイフェリオたちの側に降りると、順番にレティスの背に乗った。
『しっかり捕まっていてください。行きますよ』
「あぁ、頼む」
翼をはためかせ、レティスが飛び立った。