翌朝、目が覚めたレイフェリオは顔にかかる毛並みを感じ、横を見る。そこには、トーポがジッとレイフェリオを見ていた。どこか不安そうにしている。
レイフェリオは体を起こすと、トーポを両手に抱えた。
「……大丈夫だ。心配かけてすまないな」
「キュ……キュウ?」
「ありがとう、トーポ」
「キッ」
小走りでレイフェリオの肩に移動するトーポを見て、レイフェリオも笑みを漏らす。左右を見ても既に全員が起きているようだ。直ぐに立ち上がり、支度を整えた。
「よし、行くか」
「キュ」
応えるようにトーポが飛び跳ねる。体調にも問題ないことを確認し、レイフェリオも家の外に出た。
長老の家の前には既に皆が集合している。やはり、レイフェリオを待っていたようだった。
「おはよう、皆。遅くなってすまない」
「おはようごぜえます、兄貴」
「疲れてたんだろ、別にいいさ」
「そうね。私も起きたばっかりだし、そう変わらないわよ」
「へっ、あんたが遅いなら柄にもなく早く起きるんじゃなかったよ」
ゲルダは文句を言いながらも出発の準備をしていたようだ。このメンバーに慣れてきたということなのかもしれない。
「で、止まり木ってやつのところに行くんだろ?」
「あぁ……何が起こるかわからない。気を引き締めて行こう」
「あぁ」
「合点でがすよ」
「そうね」
目指すはレティスの止まり木という大岩だ。レイフェリオたちは、村を出発した。
☆★☆★☆★☆
大岩までは直ぐにたどり着いた。光の世界と同じ位置にあるのだ。迷うこともない。
「……ここまできたけど、レティスは来るの?」
「さぁな……あのじいさんが話していただけだ。ここで待つしかないんじゃないか?」
辺りを見回してもそれらしいものはいない。レイフェリオは集中して気配を探ろうとする。その時だった。
ドクン。レイフェリオの中にある何かが反応した。
(……な、んだ!?)
と同時に、レイフェリオに空からの気配が届く。思わず胸に手を当てるが、頭を振って切り替えた。レイフェリオは剣を構え戦闘態勢に入る。影の気配と似ているが、それよりも強いもの。間違いない。レティスだ。
「皆、避けろ! 上だっ」
「えっ?」
「兄貴? ……なっ!?」
刹那、稲光がレイフェリオたち目掛けて放たれた。戸惑いながらも動いたことで、全員致命傷は避けられたようだ。この光は呪文、ライデインの光。ということは、レティスは戦いを仕掛けてきているということになる。
「おい、これは!?」
「レティスだ……あれを見ろ」
レイフェリオが指さす方向には、紫色を纏った鳥が羽ばたいていた。この色の失われた世界において、色を纏っているということは、あれがレティスということだ。尤も、肉眼で確認する前にレイフェリオにはわかっていたことだが。
「問答無用ってわけかい……どうするんだい?」
「簡単には話し合いの場を設けないってことだろうな……なら、やるしかないだろう」
「ええっと、わかんないけど戦うのよね?」
「面倒だが、そうするしかないみてぇだな」
覚悟を決める。相手は神鳥レティスだ。向こうにもこちらの意志が伝わったのか、羽ばたきながら近づいてくる。間合いの中に入ったということは、こちらのフィールドで戦ってくれるということなのか。
態勢が整ったところで、合図の代わりにレイフェリオが手を空に掲げる。
「……ライデイン!」
戦闘開始だ。
攻撃が来ることはわかっていたのだろう。レティスは翼で体を覆うことで身を守る。雷撃はあくまで合図のようなものだ。ダメージを与えることは目的としていない。躱されるかと思ったが、予想に反してレティスは身を固くすることでダメージを軽減したようだ。
空に飛ばれてはこちらが不利。しかし、恐らくレティスはそのような真似はしないだろう。レイフェリオには確信に近いものがあった。ならば、近距離での攻撃も可能なはずである。
「ヤンガスっ!」
「はぁぁ!! おりゃあ」
呼ばれると走り出していたヤンガスが斧を振り上げレティスに斬りかかる。だが、レティスに届く直前に翼によって振り払われてしまった。
「うがっ!」
「なら、バギマっ」
「いくわよ……マヒャドっ!」
ククールとゼシカの呪文が間髪を入れずにレティスへ襲いかかる。バギマを翼で仰ぐことでダメージを和らげるが、続くマヒャドは直撃した。
「っ!?」
チャンスだとレイフェリオも続こうとしたが、何故かレティスに斬りかかることに抵抗を覚える。目の前で立ち止まってしまった。
「おいっ、レイフェリオ! 何をしているんだっ!」
ククールの怒号が飛んで来るが、剣を構えることもなくただ立っているだけだ。しかも、レティスの翼も届く危険な位置で。
頭ではわかっているものの、レティスに剣を向けられなかった。
(どう、して……これは……くっ!)
突如、レティスが嘴を大きく開けて叫ぶ。まるで超音波の様だ。直近で聞いたレイフェリオは両手で耳を防ぎ、その場に膝をつく。常人よりも耳が良いレイフェリオにとってそれは、単なる耳鳴り程度では済まない。
レティスはレイフェリオが戦線離脱と踏んだのか、ばさりと翼をはためかすと無防備なレイフェリオではなく、呪文で応戦しているククールとゼシカへと飛びかかった。
レティスが動くのはわかったが、それどころではないレイフェリオには、どうすることもできなかった。
「くそっ……痛っ」
何とかして立ち上がろうにも、衝撃はかなりのダメージを負わせてくれた。片目を辛うじて開き、状況を見る。
傷だらけのヤンガスとククールの姿が映る。ゲルダは素早さを駆使してレティスの攻撃の隙を窺っているようだ。ゼシカは呪文の詠唱中だった。
今この時、レイフェリオだけがレティスの死角にいることになる。隙を作れば、あとは猛攻すればいけるのではないか。レイフェリオは、ククールと視線を合わせる。
痛みを堪えながら、レイフェリオは魔力を込めた。
「っ……集え!」
呪文ならばいけるだろう。手をレティスへと向けて魔力を放つ。叫びに呼応するように、炎が渦巻きながらレティスへと向かっていった。
不意をつかれたレティスは、これに対応するしかなくククールたちに背を向ける。レイフェリオの意図を組んだククールが、声を張り上げて指示を出していた。
一気に動き出す。一斉攻撃を受けたレティスは、雄叫びを上げながら空高く舞い上がった。
そして、ゆっくりと止まり木に降り立つ。そこには先程までの鋭い気配はない。どうやら、戦闘は終わったようだ。