長老の家に向かいながら周囲を見回すと、壊されている家がいくつか見受けられた。このような場所で自然災害が起きるとは考えにくい。更にいえば、何かの強い力によって引き起こされたようにも見える。
「……まさか、な」
「おい、中に入るぞ」
「あ、あぁ。今行く」
いつの間にか到着していた長老の家へと、入る。中も元の世界と同じ様相になっていた。先ほど長老が言っていた光の世界。ならば、こちらは闇の世界とでもいうのだろう。色がなくなっただけで、雰囲気もガラッと変わる。どこか落ち着かないのは、レイフェリオが光の世界の住人だからか。
「ふむ。よう来なすった」
「……失礼します」
待ち構えていた長老は、入口に立っていた。レイフェリオが挨拶をすると、席を案内され囲炉裏を囲うように全員が座る。
「お招きありがとうございます」
「構わん。わしが頼んだことじゃ……ここに来るまでに村の様子を見て何か感じたかの?」
レイフェリオはククールたちに目配せをする。この場での話はレイフェリオに任せるとでもいうように、視線を受けてしまった。仕方ないと、レイフェリオは口を開く。
「いくつか家が壊されているのを目にしました。自然に起きたものではないと思いますが、何があったのですか?」
「……あれは、神鳥レティスの仕業なのじゃ」
「えっ……」
「信じられぬのも無理はない。じゃが、事実なのじゃ。そのせいで村の者たちはレティスを悪く言っておるが、わしは……レティスが望んでなしたこととは思えないのじゃよ」
「長老……」
わざわざ家の中で話をしたいといったのは、あの場でレティスのことを告げるのを避けるためだったということだ。長老はレティスを信じているようだった。
「レティスが崇められてきたのは、その姿の優美さだけではない。かの神鳥が人の味方であるがゆえなのじゃ」
「……ここでもレティスは崇められていたのですか」
「無論じゃ。だからこそ、レティスの真意を知りたいのじゃよ。何故、この村を襲ったのか……レティスに問いたいのじゃ」
「なるほど……それを我々に?」
「うむ。わしは、お主たちが光の世界から迷い込んできたことを偶然とは思うておらん。かつて、二つの世界を自由に飛び越えたというレティスの力。……それがお主たちを呼んだのではないかと思っておる」
「レティスの力……」
確かにレティスを追ってきたのだ。この地に来たのは、レティスに誘われたようにも思える。長老の言葉を否定できるだけの材料がレイフェリオにはない。それに、いずれにしてもレティスには会わなければならないのだ。断る理由はなかった。
「レティスもきっとお主たちには真実を語るじゃろう。身勝手なお願いじゃが、このままでは村人たちとレティスが争ってしまう。そうならんうちに、真意を問うてきてほしい。頼まれてくれぬか?」
「……わかりました。我々もレティスには会わなければなりませんから」
「かたじけないのう」
「いえ……それでどうすれば、レティスに会うことができるかご存知ですか?」
「レティスの姿は、草原に置かれているレティスの止まり木という大岩の辺りでよく見かけられるそうじゃ」
止まり木。恐らくは、元の世界で影を探すために向かったあの場所だろう。
目的地は決まった。ならば、あとは行動のみだ。しかし、その前に……。
「長老、申し訳ありませんが、少し休んでから向かいたいと思います。この村に宿はありますか?」
「それならば、この家に泊まるといい。婆さんに頼めば休ませてくれるじゃろう。何が起こるかわからん。体を休めるのも大事なことじゃからの」
「ありがとうございます」
「こっちじゃ」
長老に案内され、レイフェリオたちはまずは体を休めるために一晩の宿を借りることにした。
ベッドではなく雑魚寝の形で休む。
レイフェリオはふと夜中に目が覚めてしまった。世界に色がないため、時間の感覚は定かではないが長老たちも休んでいるところを見ると、今が夜なのだろう。寝ている皆を起こさないように、レイフェリオは外へと出た。
村の広場にはレティスの止まり木を似せた岩がある。この村を襲う前は、岩の上に止まることもあったのだろうか。
「レティス……か。……どこか懐かしいのは、気のせいなのか? それとも……」
ふと胸の辺りを抑える。ドルマゲスを倒す際に聞こえて以来、不思議な声は聞こえてこない。だが、何かがここにある。それだけは感じていた。感覚が以前よりも鋭くなっているのは、これのせいなのだろうか。それとも別の理由なのか。
ふと後ろに気配を感じて振り返った。
「っ!」
「……よぉ」
「ククール……起こしたか?」
目をこすっているククールが歩いてきていた。まだ眠たそうにしている。それもそのはずだ。まだ起きるのは早すぎる。
「俺が勝手に起きたんだ。……どうしたよ。また何か考え事か?」
「……」
「毎度のことだから、俺らも慣れてるが……何か気になることがあんなら吐いちまえよ」
「ククール?」
「……レティスの話が出てきてから、たまにお前はそういう顔をしている。答えは出てないが、何かがあるっていうな」
目を見開いてレイフェリオはククールを見た。素直に驚いたからだ。ククールは冷静で、良く周りを見ている。お茶らけた風をしていることもあるが、本来はそういう男だ。特に、レイフェリオがサザンビークの王子だとわかってからのククールがそうだ。本当によく見ている。レイフェリオの様子を見てククールは苦笑した。
「自覚してなかったか?」
「いや……気づかれているとは思っていなかった」
「そうかよ……安心しな。ヤンガスは気が付いていない。トロデ王もな。ゼシカは……恐らくわかっているだろ。ゲルダはわからないが……」
「……態度に出てたとはな。俺もまだまだだ」
「レイフェリオ……」
王族として、常にポーカーフェイスを心掛けていたようだが、ここにきて────否、ククールたちの前では崩れているようだ。それほどまでに、距離が近くなっているということなのだろう。
「違和感、って言ったらいいのかな……俺の中にある何かが、レティスに反応するんだ」
「お前の中?」
「……オークニスでも話したと思うが、あれから気配が強くなっている気がする。何かはわからない。もしかすると、レティスに会えば原因もはっきりするかもしれないが……」
「あの時のようになるってことか?」
「……いや、そうはならない。悪い、俺にもわかっていないんだ。だから、この感覚が何を示しているのか……説明できない」
ただ違和感がある。レティスに懐かしさを感じる。それだけは確かにレイフェリオが感じているものだった。
「悪い……変なことを言った」
「気にすんな。俺が聞いたことだ。……それに、俺はすっきりしたしな」
「ククール?」
「別にお前がお前であればそれでいい。ただ、一人で何かを抱え込むのは止めてくれってだけだ。だから、話をしてくれただけで俺はいい」
「……ククール」
「ほら、まだ寝足りないだろ? 戻るぜ」
レイフェリオの肩を叩いてククールは家へと戻る。そんなククールの後ろ姿をレイフェリオは茫然と見送っていた。
感想、誤字報告に感謝します。
未熟な文章ながらも読んでいただきありがとうございます。