ドラゴンクエストⅧ 空と大地と竜を継ぎし者   作:加賀りょう

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リーザス塔攻略完了までです。


リーザスの塔

 暫くするとトーポは背中に何やら紙のような物を背負って戻ってきた。

 

「トーポこれは?」

「きゅきゅっ」

「机の上に手紙があったのか……っと、これは彼女の手紙みたいだな」

 

 その言葉に目を見開いたポルクは、すかさずレイフェリオの手から手紙をもぎ取った。

 

「見せろ!」

 

 ゼシカの手紙を読んでいくうち、ポルクの手が震えていく。

 

「ゼシカ姉ちゃんの字だ!」

「ポルク?」

 

 ポルクは後ろにあったゼシカの部屋の扉を勢いよく開けた。その衝撃が隣にいたマルクに当たったが、ポルクは気がつかないまま部屋の中に入る。

 

「マジでいねぇじゃん! やばい、ヤバイぞ。一人で東の塔に行ったなら、サーベルト兄ちゃんだけでなくゼシカ姉ちゃんも……ヤバイヤバイ」

「ど、どうしようポルク……」

「と、とにかくこうしちゃいられない。ゼシカ姉ちゃんを東の塔から連れ戻さないと!!」

 

 何をすべきか思い付いたのか、ポルクは顔をあげてレイフェリオを見上げると、レイフェリオに指を突きつける。

 

「おい! お前もこうなった原因の一つなんだからな」

「何をいってるんだ、兄貴は関係ねえだろうが」

「う、うるさいっ! 東の塔はおいらが開けてやるから、ゼシカ姉ちゃんを連れ戻してこい!」

 

 東の塔、リーザスの塔のことだろう。

 いずれにしてもまだ年端もいかない少年に行かせるわけにはいかないし、不本意だがサザンビークの者が世話になっていることもあり見過ごすことはできなかった。

 

「わかったよ。行こうか、その塔に」

「兄貴!?」

「その塔にも興味があるし、どのみちこのままこの子達が塔に乗り込んでも困るしね」

「そりゃそうでがすが……」

「よし、そうと決まればさっさといくぞ! おい、マルク! お前は奥さまにゼシカ姉ちゃんがいないことを気づかれないようにな!」

「うん、がってん!」

 

 ローザ夫人には内緒、という意図らしいので出会わないように屋敷を出る。

 村を出る前に、装備を整えるためまず武器屋に寄った。

 

「いらっしゃい」

「武器を見せてもらえますか?」

「あいよ。おすすめはこの石の斧だ。切れ味はよくないが、打撃という面では結構強いぜ」

「打撃、か。ヤンガスならそれでもダメージは与えられるかもな」

「アッシでがすか?」

「俺の腕じゃ、たかが知れているからね」

 

 ヤンガスは武器を手にとって振ってみる。

 

「今の武器よりは重いでがすが、まぁ確かにその分ダメージはあがるでげすね」

「では、これを一つ」

「毎度!」

 

 次は防具屋だ。

 武器屋の隣にあるが、装備品以外にも薬草などの道具が売られていた。

 

「いらっしゃい! 何をお探しで?」

「そうだね……薬草も持っておこうか」

「そうでがすね。兄貴の呪文に頼り切りになってしまうでがすから」

「それ以上に、魔力が尽きてしまえば回復する手段がなくなる。それは避けたい」

「言われてみればそうでがすね」

「あとは……防具だけど」

「盾なら、このうろこの盾がおすすめだよ。ここいらじゃ防御力が高い方だ。セットで鎧もあるしな」

「盾と鎧か……」

 

 現在の装備でいえば、ヤンガスは皮の盾、帽子、こしみのだ。対してレイフェリオは旅人の服に鉄の盾、バンダナだった。

 戦闘において素早さを重視しているレイフェリオは鎧を身に着けるつもりはないのでどちらかと言えばヤンガスに渡すべきだろう。

 

「それじゃあうろこの盾を。鎧は、ヤンガスには装備できないかな……」

「無理でがすね。アッシの体格じゃ入らねぇでがす」

「なら、あんたにはこの腰巻はどうかね?」

 

 店主が見せたのは、皮でできた腰巻。今の装備品よりは守備力はあがりそうだ。

 

「アッシが装備できるのはこういうのばっかりな気がするぜ……」

「ヤンガス?」

「いえ、何でもないでがす」

 

 結局、ヤンガスの防具と薬草、毒消し草を購入し、村を出発することになった。

 外に出るとトロデ王が待っていたので、事情を説明することしばし。

 

「……なるほどのう」

「まだわかりませんが、そのリーザス塔にヤツが現れたかどうかも含め、確認をしてきたいと思います」

「なぜそう思うのじゃ? ドルマゲスの姿を見たわけではなかろう?」

「そうでがすよ兄貴。そのサーベルトって奴と関係はないでがす」

「……俺の勘、だと思う」

 

 それ以上の説明は恐らくできない。しかし、あの関所を見るにこのリーザスに用があった可能性は高い。そしてライラスに続き殺されたというサーベルト。無関係ならばそれにこしたことはないが、関係がないとも言い切れない。

 ゼシカを連れ戻すついでに、リーザス塔の状況を確認するだけでもしておかなければいけない気がするのだ。

 

「……まぁよい。そもそもお主はこちらから協力してもらっている形じゃ。そのお主がそう思うのなら構わんじゃろう。その娘さんのことも気になるというのはわかるしの」

「王……」

「ミーティアもそう思うじゃろう」

 

 トロデ王に応えるように、ミーティア姫は声を鳴らした。

 

「では、向かいましょう。ポルク、案内頼むよ」

「……なんかよくわかんないけど、わかった! 塔はこっちの道をまっすぐだ! ちゃんとついて来いよ!」

 

 ポルクの後についていくと、リーザス村から出て左手の奥の方に塔の頂きが見える。あれがおそらくリーザスの塔なのだろう。

 近くまで来るとさほど高い塔ではないようだ。だが、外観をみるだけで入り組んだ構造であることは見て取れる。

 

「着いた着いた! ゼシカ姉ちゃんはこの中だぞ」

「なんでぇ普通の扉じゃねぇか」

「ふん、この扉は村の人間にしか開けることはできないんだ」

「簡単に開けれそうだっ……ん?」

 

 馬鹿にしたようにヤンガスが扉に手をかける。だが、押しても引いても扉はびくともしなかった。

 

「鍵がかかっているだけじゃねぇか」

「そんなものないぞ! こうやって開けるんだよっと」

 

 ヤンガスを避けて、ポルクが扉の下を持ち、ゆっくりと持ち上げた。

 

「なっ!!」

「なるほどな……確かに見た目には開く扉にしか見えない」

「だろっ! こういう時だからお前らの前でやったけど、これは絶対に秘密だからな!」

 

 盗賊対策というべきか、見かけから持ち上げる扉だとは想像しにくい。古人の知恵というものなのだろう。

 

「おいらに手伝えるのはここまでだ! おいらは村に戻るから、ゼシカ姉ちゃんのこと頼んだぞ!」

「あぁ、わかってるよ」

 

 ポルクは役目は終わったとばかりに、足早に村へと帰っていった。

 トロデ王とミーティアもここまでで、中には入らない。レイフェリオは洞窟の時と同じく、ヤンガスと共に塔の内部へと入っていった。

 

「外苑と内部とで入り組んでいるのか」

「複雑な塔でなければいいんですがね。あと、道が狭いでがすよ」

「……あぁ。魔物と遭遇すれば戦闘は避けられないだろうな」

 

 洞窟は道幅が広かったが、ここはそういうわけにはいかないようだ。

 魔物の気配もする。気を引き締めて進んだ方がいいと、レイフェリオは手に力が入った。

 

「行こう」

 

 まずは先へ進める道、階段を上り円形の塔の内部へとはいる。案の定、そこには魔物の姿。

 スライム状の緑色の物体、バブルスライムとカエルの魔物がこちらを視界にとらえていた。

 

 武器を手に持ち、様子をうかがっているとカエルの魔物が高く跳ねあがった。

 

「ちっ!」

 

 爪の攻撃を躱す。だが、躱したところへ今度はバブルスライムの液状攻撃が放たれた。

 バブルスライムの攻撃には毒性がある。

 レイフェリオは躱す余裕はなかった。咄嗟に剣を振り、攻撃を払いのける。

 

「連携してくるのか。厄介な……火炎斬りっ!」

「ギャシャァ」

 

 バブルスライムをまずは一体消滅させると、カエルの魔物へとそのまま斬りかかった。

 

「グェ……ヘヘヘ」

「なっ!! うわっ」

 

 攻撃を受けたカエルは、反転し長い舌を巻きながらこちらに襲い掛かってきた。そのスピードは先ほどの比ではない。

 

「痛っ。させるかっ!」

「ギャァァ」

 

 炎を纏ったまま、再び剣を振り下ろすと、魔物は消滅した。正面にいた魔物は倒した。

 ヤンガスの姿を探すと、無事に魔物を消滅させたようだ。息をついてはいるが、怪我はなさそうだった。

 

「無事か?」

「へ、へい。兄貴は……って兄貴怪我してるでげすよ!」

 

 ヤンガスはレイフェリオの肩口を指した。反転し狂暴化した魔物に不意打ちを受けた時に掠ったのだろう。

 

「掠っただけだ。回復するほどのものでもない」

「けど──―」

「それより気になることがあった。どうやら、攻撃をすると狂暴化する魔物がいるらしい。あれは早めに対処しないとまずいかもしれない」

「……先に倒すのがいいってことでげすね」

「あぁ」

 

 その後も何度か戦闘を行い、先ほどの魔物についてわかったのは、こちらが攻撃をするたびに反転を繰り返す魔物のようだ。カエルの姿の方はおとなしいが、人面の方は狂暴という変化をする。奇数の攻撃をせず、必ず偶数で攻撃すれば対応できる。

 ヤンガスが攻撃をし、そのすぐあとにレイフェリオが攻撃をする。あの魔物については、同時に攻撃をすることで対処できるようになった。

 

 その後も魔物と遭遇しては戦い、傷を癒すを繰り返す。

 仕掛けもなかなかのものだった。何回か階段を上がった先に、最上階と思われる場所へたどり着いた。

 白い女性の像が置いてあったのだ。

 

「ここが、最上階か……」

「でげすかね……」

 

 像へと近づいてみると、その両目に輝く石がはまっているのが見える。

 その像に触れようとすると、背後から足音が聞こえてきた。

 振り返り確認すると、そこには一人の少女がいた。その手には花束を持っている。

 

「君は……」

「あんたたち……とうとう現れたわね。リーザスの瞳を狙って絶対にまた来ると思っていたわ。兄さんを殺した盗賊め! 兄さんと同じ目にあわせてやる!」

「ちょっ、待つでがす!!」

 

 ヤンガスが止めるも少女は聞く耳を持たず、その指先に魔力を溜めると火の玉をこちらへ向かって投げつけた。

 

「っ!」

「うわっ!」

 

 レイフェリオ、ヤンガス共に避けるがその炎はリーザス像へと当たってしまった。

 しかし少女は避けられたことに気を取られ過ぎて、そのことには気が付いていない。再びその手に、今度は先ほどより大きな炎を溜め始めた。

 

「覚悟……し、な、さい!!!」

「……」

 

 目の前の炎を浴びれば、あの像はただではすまないだろう。レイフェリオが避ければそれが現実になる。かといって、あの炎を止めるほどの魔法はレイフェリオには使えない。ヤンガスも対処できないだろう。

 

 当たることを覚悟し、息を止め両腕を目の前で交差させた。その時だった。

 

『待て!』

「!?」

 

 ここにいるはずのない第三者の声が響いたのだ。

 

『私だ、ゼシカ。私の声が……わからないか……』

 

 声の主は、リーザス像。像が話すわけがないが、確かに像から声が聞こえてくる。

 驚愕しているのはゼシカだ。

 

「サ、サーベルト兄さん……」

『その呪文を止めるんだ……私を殺したのはこの方たちではない……』

「止めろったって……もう止まんないわよ!!」

 

 そこまで言うと、ゼシカの手に溜まっていた呪文が放たれ、レイフェリオへと向かってきた。

 

「くっ!!!」

 

 レイフェリオは手に魔力を込めるが、威力をなくすほどのものではなかった。両腕で庇うことはできたものの、まともに炎を浴びてしまう。

 

「兄貴っ!!!」

「あっ……」

 

 壁までとばされることはなかったが、それでもダメージは弱くない。

 

「……痛っ……ベ、ベホイミ……」

 

 意識が痛みに覆われてしまう前に、レイフェリオはなんとか回復呪文を唱えた。

 青色の光に包まれ、レイフェリオの傷が癒されていく。

 だが、傷が治ったとしても痛みがすぐに引くわけではない。

 

 顔をあげると、駆け寄ってきたヤンガスの顔があった。その後ろには青白い顔をしたゼシカの姿も。

 

「だい……じょうぶだ。俺はいい。それより、ゼシカは像へ」

「……ありがと……」

 

 その言葉に安堵すると、ゼシカはリーザス像へと駆け寄った。

 

「本当にサーベルト兄さんなの……?」

『あぁ、本当だとも。聞いてくれ、ゼシカ。それに……旅の方よ……死の間際、リーザス像は我が魂の欠片を預かってくださった。この声も、その欠片の力で……もう時間がない……像の瞳を……覗いてくれ。そこに、真実が刻まれている……さぁ急ぐんだ』

 

 ヤンガスの方にもたれ掛かりながら、レイフェリオもリーザス像へと近づく。

 

『そう、あの日……塔の扉が開いていたことを不審に思った私は……この塔の様子を見に来た……そして……』

 

 リーザス像の瞳を介して、レイフェリオたちにその日の記憶が映し出された。

 サーベルトはなすすべもないまま、その身をドルマゲスに貫かれてしまった。

 勘が当たってしまった。レイフェリオは唇をかむ。

 

『旅の御方よ、リーザス像の記憶……見届けてくれたか……』

「あぁ……」

『私にもなぜかはわからぬ……だが、リーザス像は……あなたがくるのを待っていたのだ……』

「……」

『願わくば……この記憶が……あなたの旅の……助けとなれば……私も報われる……』

「……あぁ、わかった」

『ゼシカ……これで我が魂のチカラも役目を終えた……。お別れだ……』

「いやぁ! どうすればいいの! お願い、いかないでよ……兄さん!!!」

『ゼシカ……最期にこれだけは伝えたかった。……この先も母さんは、お前に手を焼くだろう。……だが、それでいい……お前は、自分の信じた道をすすめ……さよならだ、ゼシカ……』

 

 その言葉を最後に、リーザス像から火の光が消えた。

 恐らくはそれがサーベルトの魂の光だったのだろう。

 リーザス像を前に泣き崩れるゼシカにかける言葉はない。

 

「ふーむ、何たることじゃ。あのサーベルトとやらを殺したのがドルマゲスじゃとは!!」

「おっさん!!! いつの間に!!!」

 

 いきなり現れた風のトロデ王にヤンガスも驚きを隠せない。

 レイフェリオも驚いたが、反応を示せる状態ではなかった。

 

「なぜかはわからんが、サーベルトとやらもわしらにドルマゲスを倒せと言っておるようじゃ。彼の想い、決して無駄にはできぬな。これでまた一つ、奴を追う理由が増えたというわけじゃ」

「トロデ王……」

「では、わしは馬車で待っておるぞ」

 

 言うだけ言って、トロデ王は戻って行った。

 一体どうやってここまできたのか……あえて突っ込みはしまい。

 

「兄貴……」

「とりあえず戻ろう……彼女は、今は一人にしてあげたほうがいい」

「でがすね……」

 

 ヤンガスの肩を借りながら、最上階を後にしようと歩き出す。

 

「あ、ねぇ……その、誤解しちゃってごめん。あとでちゃんと謝るから……だからもう少しだけここにひとりでいさせて……少ししたら村に戻るから……」

「……わかった。行こう、ヤンガス」

 

 サーベルトはゼシカにとって大切な家族だったのだろう。それを目の前で失い、その間際の映像も見させられたのだ。気持ちの整理をつける時間が必要であることは、レイフェリオにもわかっている。

 

 ここにきた目的は、果たした。

 

「……村に戻ろう」

「でがすが、このままじゃ戦闘は無理でがすよ?」

「また塔の中を戻るのは、きついからね。ルーラで戻るさ」

「えっ?」

「……ルーラ!」

 

 レイフェリオが唱えると、周囲を光が取り囲み、身体が空へと浮いていった。

 

 

 

 

 

 

 




度々の誤字報告、ありがとうございます。
何度か見直しているつもりなのですが・・・まだまだ未熟ですみません。

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