主人公の設定はオリジナルです。ラグサットもちょっと性格変わっています。
リーザス村へ入った二人は周りを見回した。
夕暮れにしては、人が少なく静かな雰囲気だ。
「……人が少ないな」
「そうでがすか?」
ヤンガスは特に気にしてもいないようだ。レイフェリオが気にし過ぎなのかもしれない。
そう思ってふと前をみると、二人の少年がこっちをみて驚くように目を見開いた。
「待てっ! お前たち何者だ!?」
「君たちは?」
「いーや、わかっているぞ! こんな時に村に来るってことは盗賊団の一味だな!」
「はぁ! 何言ってやがる?」
盛大に勘違いをしている少年だが、こちらの話には聞く耳を持っていない。
「マルク! こいつらサーベルト兄ちゃんの仇だ成敗するぞ!」
「がってん、ポルク!」
その間に、少年たちは何らかの答えにたどり着いたらしく、木で作られた剣を振りかざし殴りかかろうと構えた。
「いざ、じんじょうに勝負っ!」
声を上げるとともにとびかかってきた少年、ポルクをレイフェリオは軽くかわす。
まさか躱されるとは思わなかったのか、勢い余ってポルクは躓き、転んでしまった。
「ポ、ポルクっ! よくもっ」
「こ、これお前たち! ちょっと待たんかい!!」
もう一人の少年がとびかかろうとしたところへ、村人の一人であろう老齢の女性が怒鳴った。
声色におどおどしながら、少年たちは女性の元へといく。
「ば、ばっちゃん……」
「よく見んかい、この馬鹿者! この方たちは旅のお方じゃろが!」
女性は手に拳を作り、ポルク、そしてマルクの頭へと落とした。
「いってぇ!」
「ふぇーん!!」
その結果、痛みをこらえるポルクと、泣きわめくマルクがいた。
「お前たち、ゼシカお嬢様から頼まれごとをしとったんじゃろ? 全くフラフラしよってからに」
「あっ、いけね。そうだった」
「ほれほれ、ゼシカお嬢様からおしかりをもらう前にさっさといかんか!」
「はーい」
先ほどまでの痛みはどこへやら、ポルクとマルクは走って村の奥へと言ってしまった。
レイフェリオたちはただ状況を見守るしかなかったが、二人がいなくなると女性が申し訳なさそうに頭を下げてきた。
「申し訳ありませんね。あの子たちも悪い子じゃないんだけど……」
「いえ、気にしてません」
「ガキのすることでがすからね」
「そういってもらえると……最近、この村で不幸なことがあって……まぁでもこの村は良い村じゃよ。ゆっくりしていってくだされ」
そうれだけ言うと、女性も奥へと歩いていってしまった。
残されたレイフェリオたちは、怪訝そうに顔を見合わせる。
「不幸ってなんでがしょう? 気になるでがすね」
「あぁ……けど村の人に聞くにももう遅い。宿に泊まって、明日の朝にでも聞いてみよう」
「でがすね」
店も閉まっているし、外に人はいない。
情報収集は明日の方がいいだろうと、二人は宿屋へと向かった。
川の側にある宿屋で一泊し、翌朝になった。
情報収集のため村人に話を聞こうと、まずは宿の側にいた恰幅のよい女性に声を掛ける。
「あの、ちょっとお聞きしたいのですが」
「ん? なんだい? あら、珍しく格好のいいお兄さんじゃないの? なんでも聞いてくんな」
「……アッシは無視ですかい……」
「ははは……」
ちらっとヤンガスに視線を映したものの、あとはレイフェリオのみを視界に入れて女性は上機嫌に話を聞いてくれた。
「この村に不幸があったって聞いたのですが、一体何があったのですか?」
「……あぁ。そのことかい。……この村は代々アルバート家が治めているんだけどね。その跡取りであったサーベルトぼっちゃんが殺されてしまったんだよ」
「殺された?」
「ぼっちゃんは家柄を気にしたりもせず、村の用心棒を買ってくれたりね。優しい子だったんだよ。それが……本当世も末だよ」
「……そうだったんですか」
昨夜の少年たちの言葉。サーベルトの仇と言っていたのはそういうことだったのだろう。誰かに殺された。その相手が盗賊だと。
「そういえば、盗賊がどうと聞いたのですが、どういうことかご存知ですか?」
「盗賊? あぁ、それはぼっちゃんが殺された場所がリーザスの塔という場所なんだ。その最上階にはリーザス像があってとってもきれいな宝石がついているんだよ。その場所で殺されたからそういう噂になっているのさ」
「リーザス像、リーザスの塔ですか……」
「でも不思議なのさ。あの塔の扉は村の人にしか開け方がわからないはずなんだ。一体どうやって犯人は入っていったのか……」
結局リーザスの像は無事らしい。盗賊は一体何を取りに行ったのかもわからないと女性は話す。
考えをまとめながら歩いていると、教会の横にある墓地に昨日の女性が祈りを捧げているのが見えた。
「あのおばあさん、昨日の人でがすね」
「……祈っているのか」
「ん? あぁ昨日の旅のお方、昨日はすまなかったね」
話声が聞こえたのか、顔を上げてこちらを見た。
「いえ、事情は聞きましたから」
「そうかい……アルバート家はこの高台の屋敷なんだが、サーベルトぼっちゃんがなくなってから、ゼシカお嬢様も奥さまも塞ぎこんで、気の毒でならんよ。興味があるのなら行ってみるといい」
「……はい、ありがとうございます」
女性は静かに墓地を離れていった。
その後ろ姿はどこか寂しさを感じさせるものだった。
「兄貴?」
「いや、なんでもないよ」
「屋敷へ行ってみるでがすか?」
「……念のため、行ってみよう」
高台の上と言っていた。確かに一段と高い場所に屋敷があるのが見える。あればアルバート家の屋敷なのだろう。
屋敷の前までいくと一人のメイド姿の少女が立っていた。レイフェリオたちの姿を認めると、頭を垂れる。
「おはようございます。アルバート家へご用ですか?」
「あぁ、入っても大丈夫かな?」
「……奥さまもお嬢様もお元気がありませんので、何もお構いできませんが……」
「構わないよ」
「畏まりました。それではこちらへ」
少女に案内をされ、屋敷へとはいる。
そこは名家と称されるにふさわしいものだった。
「お屋敷の中はご自由になさっていただいて構いません」
「わかった」
「それでは失礼します」
再び少女は外へと出ていった。
二人が話をしている間、ヤンガスはただ黙っているだけだったので、レイフェリオがヤンガスに視線を向けると、何とも言い難い顔をしていた。
「どうかした、ヤンガス?」
「……兄貴、こういった場所にも慣れているでがすね」
「こういった場所?」
「なんかこう、お貴族っぽいところでがすよ。やり取りが手馴れてたがす」
「……よく見てるね」
今度はこっちが驚く番だった。
確かになれているのは事実だったが、レイフェリオは意識していたわけではない。それは育った環境がもたらすものだろう。
「まぁいい、とりあえず何か話を聞いてみよう」
「はいでげす」
屋敷の中は、村の中と同様にどこか悲しい雰囲気だった。話し声もあまり聞こえず、使用人たちもひっそりとしていえるように見受けられる。
使用人たちに話を聞けば、ゼシカというお嬢様と母親は口を開くと喧嘩ばかりしていたらしい。間にサーベルトが入ることで保たれていたらしいが、そのサーベルトがいなくなりどうなることかと思っている人も多かった。
二階に上がら、様子を伺えば一人の女性がいた。容貌からして先代当主の奥方だろう。
と、ふと後ろに気配を感じて、レイフェリオは振り返った。
「っ!?」
「ん? あ、貴方はレ──―」
そこにいたのはレイフェリオの知己の人物。慌てて彼の口をふさいだ。
ヤンガスは怪訝そうな顔をしてみているが、それどころではなかったのだ。
小声で彼に話しかける。
「どうしてお前がここにいるっ!」
「それは僕のセリフですよ。殿下ともあろう人が何をなさっているのです?」
「……お前こそ、大臣家の跡継ぎだろう。なぜ、リーザスに」
「ここの令嬢は婚約者なのですよ。それで兄を亡くした彼女を慰めようと──ー」
「婚約者?」
「アルバート家の奥方から打診がありましてね。殿下のお相手ほどではありませんよ。確か、かの法皇様の孫娘らしいじゃないですか」
「俺の話はいい。ったく……ラグサット、俺と会ったことは誰にも言うな」
「……わかりましたよ。でも、僕はまだここにいるつもりですから」
「お前の言葉ほど信用出来ないものはない……」
あまり放っておけばヤンガスにも事情を話さなければならないだろう。
ひとまずは、ラグサットを放置してヤンガスの元へと戻る。
「兄貴、あいつは誰でげす?」
「あぁ……知り合い、かな」
「知り合い?」
「それよりも、奥方へ話を聞きに行こうか」
「えっ兄貴! 待ってくだせぇ!」
足早に女性に近づくと、相手もこちらを見上げた。
「貴方は?」
「……失礼します。俺はレイフェリオです。少しお話を聞いても宜しいですか?」
「レイ、フェリオ? あっ、まさか──」
「……やはり、ご存知でしたか。ラグサットがいたので、可能性はありましたが。でも今は一介の旅人なので、それ以上はつぐんでくださると助かります」
レイフェリオは小さく口を開けて驚く女性に、笑みを向ける。
話についていけないヤンガスは、少し距離を取りながら見ていた。
「……何か事情がおありなのですね。わかりました。ご挨拶が遅れてしまいましたが、アルバート家のアローザと申します。で、レイフェリオ様は何をお聞きになりたいのでしょうか?」
「……アルバート家の当主の話は聞きました。お悔やみ申し上げます。それで、その時の状況を教えていただきたいのです」
「状況、ですか……」
アローザから聞いた内容は村の人々の話と同じだった。どうやらそれ以上の状況は行ってみなければわからないようだ。
「……本来なら我が娘にも挨拶をさせなければいけないのですが、あの子は部屋に立て籠ってしまいまして」
「ゼシカ嬢がですか?」
「はい。我がアルバート家の家訓では喪に服している間は、家人は家を出ることはなりません。それをあの子は聞き入れず、おまけに子供たちを見張りにつけたりして。本当に申し訳ありません」
「いえ、こちらが突然伺ったのです。兄上のことを思えば無理強いは出来ないでしょうし」
そんなのは必要ないとは言えなかった。
相手は曲がりながりにも名家であるし、レイフェリオの素性も知っているほどサザンビークという国を知っている。
やんわりと断りを入れると、レイフェリオはヤンガスを目で促し、ゼシカの部屋の前にいるという子供たちのところへ行くように促した。
「何もお構いできずに申し訳ありません。何もない村ではありますが、ゆっくりしていってください」
「ええ。それでは失礼します」
アローザは立ち上がり、レイフェリオに礼を取った。
ここでそんな態度を取られるのは勘弁してほしいのだが、顔には出さずにレイフェリオはヤンガスの所へと向かった。
「兄貴! どうやら、こいつらはただの見張りのようでがす」
「見張り? ……だが」
レイフェリオは集中して、中の気配を探る。
そこに人の気配は感じられない。
「中に人はいない。気配がないからね」
「いつも思うでがすが、よく気配とか感じるでがすね」
「そう、かな? 昔から気配には敏感だったから、癖でね」
「う、嘘だい! おいらたち、ちゃんとゼシカ姉ちゃんが中に入ったのを見たんだ! 外になんて出てないぞ!」
ポルクはレイフェリオの言葉を真っ向から否定する。確かに子供相手に気配がどうのいっても信用はないだろう。
だが、ゼシカは中にいない。それは間違いなかった。
「仕方ない……」
レイフェリオはポケットからネズミのトーポを出した。
「トーポ、部屋の中に入れる場所があるはずだ、中を見てきてくれ」
「きゅっ!」
掌から飛び降りると、トーポはその小さな身体を駆使して、小さな穴を見つけると、部屋の中へと侵入した。