翌朝、吹雪は止んでいた。この状態ならば、外を歩くことに問題はないだろう。
出発するというと、外までバフと共にメディが見送りに来てくれた。
「オークニスは山を下って北へ向かったところですからな。道中お気をつけなされ」
「はい、お世話になりました。メディさん」
「いえいえ。それと一つ頼まれてくれませんかな?」
「頼み、ですか?」
レイフェリオは首を傾げると、メディは小さな袋を差し出した。
「これは?」
「グラットという男に会ったならば、これを渡してほしいのですじゃ」
「オークニスにいるのですか?」
「おそらくじゃがな。わしと同じく薬師をしているはずじゃ」
「わかりました。確かにお預かりします」
「頼みましたぞ」
袋を受け取ると、レイフェリオは大切にしまう。
いつの間にか消えていたトロデは、ミーティアを迎えに行っていたようだ。出発の準備は整った。
「それでは、オークニスへ出発じゃ」
トロデが先陣を切って出ていく中、見送るメディにそれぞれが礼を言ってそれを追った。
吹雪はないものの、雪道を歩くのは通常の道よりも体力を使う。魔物がうろついているのだが、逃げるよりも倒していった方が早い。逃げようとしても、相手は雪道に慣れた魔物だ。不慣れな道を歩くレイフェリオたちよりも、数段早く動けている。下手に後ろを見せれば、不意打ちをくらい倒されるのはこちらの方だろう。
いつも以上に疲れを抱えながら、北へと向かうと不思議なアーチが目に入った。奥には扉がある。
「あれって……」
「おぉ、ようやくオークニスに到着じゃな」
氷で作られたアーチは、オークニスの町の目印のようなものなのだろう。雪国ということもあり、中で生活しているということは、事前にメディに聞かされていた。
「それにしてもヌーク草の効能は大したものじゃな。雪道を歩いてもちっとも寒くならんわい」
「王?」
「これならば外にいても苦にはならんわい。いつも通り、わしと姫は外で待っておる」
「大丈夫ですか?」
「心配無用じゃ。レイフェリオらは早く用事を済ませてくるのじゃぞ」
「……わかりました」
「兄貴ー、早くはいりやしょう!」
寒さの中残して行くのは心配というのはあるが、寒さを感じないのはレイフェリオも同じだった。だからトロデが偽りを言っていることではないのはわかっている。
空を見る限りでは、天候が荒れることも暫くはないだろう。
大きく手をふるヤンガスに苦笑しながら、レイフェリオも扉の先の町へと入っていった。
中に入れば、温かい空気が身体を包む。
雪国というだけあり、店や教会なども一つの家屋に密集させているようだ。それも見る限りは、廊下が長く数軒の家が繋がっているような作りだった。
町の人の中には、外では考えられないほどの薄着の人もいる。確かに、この中の温度であれば沢山着込む必要はなさそうだった。
「さて、とりあえずどうするよ」
「……まずは聞き込みだな。グラッドを探すのと、レオパルドの目撃情報を探す」
「別れて聞きまわるの?」
「それほど広くはないみたいだし、それがいいんじゃないか?」
二手に別れて聞き込みをすることにし、レイフェリオはククールと。ゼシカとヤンガスが一緒に聞き込みを開始することになった。
酒場では昼間にも関わらず、酒を飲んでいる人が多い。その様子にククールとレイフェリオも思わず苦笑するしかなかった。
それでも酒場で聞き込みをするのは常套手段だ。とりあえず目の前でお酒を飲んでいる男に声を掛けることにした。
「なぁ、おい。グラッドって男のこと知っているか?」
「グラッド? あぁ、知ってるよ。何年か前に来た薬師の男だろ? ありゃかなりの腕前だね。以前、俺が二日酔いで苦しんでいたんだけどよ。あいつの薬湯を飲んだらすっかり治っちまって」
「へぇ、そりゃすごいな」
「……おいククール」
酒が好きなのはククールも同じだ。まさか酒を飲む気ではないだろうと、釘をさすが当の本人はにやりと笑っているだけだ。レイフェリオは、ため息をはいた。
「だけどよ、これで安心してつぶれるまで酒が飲めるぜっていったら、流石に怒られたけどな」
「まっ、そりゃそうだよな」
「全く……それでそのグラッドに会いたいんですが、どこにいるか知っていますか?」
「ん? あぁ、地下に住居があったはずだぜ」
この町では、地下に人が住めるように住居を作っているらしい。そこにグラッドが住んでいるようだ。重要なことが聞けたので、次はレオパルドの目撃情報を探す。
これについては、酒場のマスターからオオカミの群れのことを聞くことができた。
レオパルドは犬だ。オオカミと間違えられる可能性がゼロではない体躯をしているとはいえ、見た目ではオオカミに見えることはないだろう。
無関係とは言い難いところではあるが、気に留めておく必要はありそうだ。
一通り聞き込みを終えると、ククールと共に待ち合わせの教会へとやってきた。
「……そういえば、レイフェリオ。お前体調は大丈夫なのか?」
「あぁ。……もう痛みも倦怠感もない。魔力も回復しているしな。心配かけてすまなかった」
「平気ならいいさ。……だが、あの時お前は一体何をした?」
「……」
うやむやになっていたドルマゲスでの戦い。
レイフェリオは力を放った時点で記憶はない。何をしたのかと問われても、答えられるような情報はレイフェリオも持っていなかった。実際、自身に起こったことさえわかっていないのだから。
「すまない……俺にも良くわかってないんだ」
「わからないって……お前のことだろ?」
「……時々、俺にも自分がわからないことがある。昔もそうだったんだけどな。おそらく、母上の血が関係しているのだとは思うが……」
「……レイフェリオ」
「俺自身も知りたいとは思っている。だが、知る術もわからない。実際、郷に行けばわかるのかもしれないが、そこへどうやって行けばいいのかさえ、今の俺にはわからないんだ」
幼い頃、育ったはずの郷。だというのに、どうやってサザンビークへ来たのか。
父に連れられるがまま、気が付いたらいたというのがレイフェリオの認識だった。だから、郷へ行きたくともいけない。
書物にも残されていないのだから、手かがりはないに等しいのだ。
「わかったよ……なら、あの力は使わない方がいいだろうな」
「……ククール?」
「またあの状態になったとして、無事でいられる保証もないってことだろ? なら、使わない方がいい」
「そう、だな……」
「結局のところ、俺たち自身の力が足りなかった所為なんだろうが……暗黒神を倒すにはもっと強くならないといけないんだろうな」
「あぁ。そうだな」
暗黒神という存在は、未知の領域だ。
その姿も力もわからない。それでも戦わなければいけない存在だ。ドルマゲス程度で苦戦していた状態では、敵わないことは皆がわかっている。だからこそ、強くなる必要がある。今よりももっと……。
すみません、章の名前が間違っていました。ご指摘いただき修正しました。
また、次回以降の更新についてです。
月曜、水曜、金曜を中心に投稿していくことにしました。
土日は、申し訳ありませんがお休みさせてください。
今後もお楽しみいただければ幸いです。
どうぞ、よろしくお願いします。