ドラゴンクエストⅧ 空と大地と竜を継ぎし者   作:加賀りょう

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遅くなりました。
タイトル通りです。原作として接触がある末裔としては、この方が最後ですね。



メディばあさんとの出会い

 暖かいものに包まれたような感覚だった。

 ふと、目を覚ますとその目の前には大きな犬がレイフェリオへと顔を向けていた。

 

「い、ぬ?」

「バウゥ……」

 

 暖かかったのは、犬が乗っていたせいだったようだ。慌てて飛び起きると、犬はベッドから降り離れていく。

 そして器用に扉を開けたかと思うと、部屋の外へと出ていった。

 

「……ここは?」

 

 改めて周りを見回せば、暖炉がありどこかの民家のようだった。

 耳を澄ませば話声も聞こえる。聞き覚えのある声だ。恐らく、部屋の外にいるのだろう。

 雪崩に巻き込まれたこともあり、手足に微かに震えは残っているが、動けないほどではない。

 簡単な柔軟をすると、レイフェリオは部屋の外へと向かった。

 

 外には階段があり、声がするのは上の方からのようだ。

 階段を上がると、すぐそこに彼らはいた。

 

「あ、兄貴。目が覚めたんでげすか」

「あぁ。俺が一番最後だったのか」

 

 レイフェリオ以外の全員が揃っていることから間違いないだろう。

 

「大丈夫か、レイフェリオ? どうやら、そこにいる犬が俺らを掘り出してくれたみたいだぜ?」

「この犬が?」

「バフっていうらしいわ」

「全く大した犬だよ。どこかの自称王様とは大違いだ」

「こうら! そこ! そのバフを呼んできたのは誰だと思っとるんじゃ!」

 

 声を荒げるトロデに、ククールは肩をすくめる。本来の姿を見たことがあるのはレイフェリオだけだ。今の姿では確かに王族には見えないだろう。

 

「トロデ王、ありがとうございました」

「ま、まぁ。……近くに山小屋があったんでな。わし一人ではどうにもできん。助けを呼びに行ったんじゃ」

「そこの方が飛び込んできたときは驚いたものじゃ」

 

 一人の老齢の女性がその手に湯呑をもって近寄ってきていた。

 

「貴方は?」

「わしはメディ。この山小屋で暮らすしがない薬師のばあさんですじゃ。さぁ座りなされ。この薬湯を飲めば、温まりますじゃ」

「ありがとうございます。メディさん」

 

 促されレイフェリオも席につく。渡された薬湯に口をつけると、少しばかり辛味があるが身体がポカポカしてくるように感じる。

 

「これはヌーク草の薬湯ですじゃ。これを飲めば雪国の寒さも気にならなくなりますぞ」

「雪崩から助けてもらい、一夜の宿を貸してもらい……何から何までお世話になりますのう」

 

 素直に礼を述べるトロデに、ゼシカとククールは目を見開いた。自分たちに対する態度とは雲泥の差だ。

 

「それにしてもバアさんもこんな怪しいのが助けを求めてきたのに、よく信用する気になったもんだよな」

「この山賊崩れが! お前にだけは言われたくないわい!」

「まぁ、王落ち着いてください」

「くっ……」

「ほほほ、このトシになると人の容姿など気にならなくなりますなぁ。確かに変わった姿をした人だとは思いましたがねぇ。まぁ。こんな人のいない雪山で、困っている人がいれば相手が誰でも助けますわい」

 

 ほんわかとした雰囲気でトロデの姿を気にしないと言ったメディは、今までの旅での反応を見てきたレイフェリオたちからしてみれば、意外な存在だった。ほんのり、トロデが嬉しそうにしていたのは決して見間違いではないだろう。見た目で判断する者が多い中、こういった反応をしてくれる人は貴重だ。

 

「ところで、おばあさんはどうして山奥に一人で暮らしているんですか?」

「この家の裏手には古い遺跡がありましてな。先祖代々、わしの家系はそれをお守りしてきたのじゃ」

「遺跡、ですか?」

「しかし、その役目もわしの代で終わることになるでしょうな。跡を継ぐものもおりませんでのう」

 

 先祖代々守り続けてきたものが、自身の代で終わりを迎える。それはとても寂しいものではないだろうか。悲しい表情をしているわけではないが、その声色には若干の寂しさを感じる。

 跡を継ぐものがいることは、とても恵まれているのかもしれないと。

 そんなことをレイフェリオが考えているうちにも、ゼシカは会話を続けていた。

 

「そうなんですか。でも役目とは言え、一人暮らしは苦労も多いでしょう」

「いやいや、気楽なもんですわい。子どもの時から慣れ親しんだ土地だし、苦労など感じたことはないですじゃい。それに……こうして雪山に迷った人が訪れてくれるのでさみしくもありませんしな」

 

 雪崩に巻き込まれるのはそうないとしても、こうして小屋を訪れる人は多いらしい。周りが雪山に囲まれていては、小屋を見つけたら尋ねたくなるのは当然かもしれない。

 

「ところで、メディさん。実はそのことで聞きたいことがあるんだよ」

 

 ククールが口火を切る。聞きたいこと、それは一つしかない。

 

「何ですかな?」

「俺たちは、大きな黒犬がこの雪国の方へ逃げていったという噂を聞きつけて追ってきたんだ。もしかしたら奴はこの近くを通ったかもしれない。心当たりはないもんかな?」

「はて……大きい犬と言えばうちのバフくらいしか思い当たりませんのう」

「そっか……」

 

 ということは、メディがレオパルドを目撃した可能性はない。この道を通ったのは間違いないと思うのだが、地道に探すとなると、骨が折れる。

 

「お役に立てず申し訳ない。しかし、探し物なら人の多いところで聞き込みをされるのがよいでしょうな」

「人の多いところ……この先に街があるの?」

「この山を下って北へ向かうと、オークニスなる町がありますのじゃ。犬探しはそこでしてはどうですかな?」

「なるほど、道理じゃな。よし、次はそこへ向かうぞ!」

「おっさん、気が早いんじゃねぇか……」

「何じゃと! 善は急げじゃろうが!」

 

 睨み合うトロデとヤンガスのやり取りは、いつものことだ。既に誰も気に留めていなかった。

 メディもじゃれ合いのように受け取っているようで、にこにこと薬湯をすすっている。

 

「ほっほっほ。お気の早いことで。いずれにしてもまず吹雪が止みませんとな」

 

 窓から外を見れば、天候が悪いことは一目瞭然だった。

 吹雪いている中を歩けば、再び雪崩に巻き込まれるか遭難するかのどちらかだろう。急いでいる旅とはいえ、それは得策ではない。

 

 今宵はここで休むことにして、明日オーニクスへ旅立つことになった。

 

 

 

 




明日の更新はお休みします。
次回は、水曜日の予定です。

宜しくお願いします。

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