ドルマゲスの一体が、杖を掲げると同時に地面に落ちていたがれきが宙を舞った。
「くらいなさいっ!」
レイフェリオたちへとがれきを放つ。細かいものと大きいものとが入り混じって襲ってくるため、盾で防ぐのがやっとだ。レイフェリオとヤンガスは盾を掲げる。
その隙を見逃さないもう一体のドルマゲスが杖から無数のムチを飛ばしてきた。
「なっ!! ぐぅ」
「兄貴っ!?」
「おやおや、よそ見はいけませんよ」
一瞬レイフェリオへと注意をそらしたヤンガスが声に振り向くと、すぐそばにドルマゲスの姿があった。
「何っ!?」
「ふっ!」
杖でヤンガスを殴る。その勢いにヤンガスはククールの足元へと飛ばされてしまう。一方のレイフェリオも、ムチを受け所々に傷を受けていた。距離的にククールとは離れているため、すぐに治癒はできない。
ククールはすぐさま呪文を唱え、支援する。
「スクルト!」
「……バイキルト」
ゼシカもレイフェリオとヤンガスに呪文を唱える。
力が倍増した二人は、立ち上がるとそのまま攻撃に転じる。笑みを崩さないドルマゲス。格下の相手を見るような態度だった。
レイフェリオは剣を構え、集中すると空中へと飛び跳ねる。すべてのドルマゲスが同じ力量であるとは限らない。まずは増えたほうから攻撃を繰り出す。
デイン系の呪文を唱え、剣に纏わせるとそのままドルマゲスへと斬撃を加える。
「なっ!!」
「はぁっ」
呪文の光が一瞬空中のレイフェリオの姿をくらませた。ドルマゲスはその姿を見失い、隙ができたところへ攻撃が命中する。
「ゼシカっ!」
「えぇ! メラミ!」
「アッシもでがすよ」
一体へ向けて集中的に攻撃を加える。だが、そうすると残りの二体への構えが手薄になる。ククールが弓で援護してくれるが、手数が少なくなるのは道理だ。
「ライデイン」
「ぐぅ」
「……はぁイオラ」
レイフェリオがすかさず全体へ雷を飛ばすと、呼応するようにゼシカも連続で呪文を放った。爆発系呪文は、視界もくらましてくれる。
更に剣を持ち追撃しようとドルマゲスへと剣を向けた。
キン。
「くっ」
「……なかなかやりますねぇ。連携というのでしょうか。弱者は集わなければ強者には敵いませんからねぇっ」
杖で剣を受け止めると、魔力を籠めた力で押し返される。
「ふんっ」
「くっそ!」
押し返され、態勢を崩されたところに、ドルマゲスの杖が光る。攻撃が来るとわかったが、今の態勢から躱すのは困難だ。腕を交差し、防御姿勢を取った。
まるで生きているかのように、再びムチがレイフェリオを襲う。
この間も、他のドルマゲスに対し攻撃を仕掛けている仲間の姿が映る。
「ちっ……」
吹き飛ばされるわけにはいかないと、攻撃を受け地面に着いたところで両足で踏ん張り、ムチが消え去るところでレイフェリオは、そのムチを掴んだ。
「ん? どういうつもりです?」
「こういうつもりだ」
掴んだ手から炎が溢れだし、ムチへと流れていく。初めてドルマゲスの表情に変化が出た。ムチは杖から出ており、そのまま炎がドルマゲスを包み込んだ。
「ギャァァ」
「はぁはぁ……」
炎に包まれ、やがて姿が消えていくのを見ながらレイフェリオは、呼吸を整える。まだ、二体残っている。
剣を握りしめ、残った二体へと駆けだした。
「くらえっ!!」
二体のうち、一体へと弓を強く引いたククールの渾身の一撃が辺り、一体も姿を消す。これで残りは一体だ。
「くっくっくっく……やりますねぇ。貴方がたがここまで戦えるとは、ちょっと意外でしたよ」
「……」
面白そうに話すドルマゲス。だが、レイフェリオたちは構えを解くことはない。何かを企んでいるだろう。ただでさえ闇の力が濃くなっている場所が、更に力が強まっているようにも感じられる。
戦闘の長期化は避けるべきだと、頭が警報を鳴らしていた。
「さぁもう終わりにしましょう……悲しい……悲しいなぁ……これでお別れです」
「あっ……」
思わず声を上げたが、既に遅かった。ドルマゲスは杖を掲げ、魔力を注いでいる。おぞましい力が迸り、何をするつもりなのかを感じ取った。あの時と同じ……トロデ―ンがイバラに包まれた時と。
「皆、俺の後ろにっ!!」
「えっ!?」
「いいから早くっ」
声を荒げたレイフェリオに、三人が焦って従う。杖からあふれた禍々しい光が、四人の周りを包みだした。
「これでもくらえぇ」
「くっ」
杖からはイバラが放たれる。呪いのイバラだ。
レイフェリオは魔力を解放し、庇うように腕を前にだした。
「いーひっひっひ、未来永劫イバラの中で悶え苦しむがいい」
「ぐっ」
イバラはレイフェリオの前で弾かれ、外へと押し出されていく。簡単にイバラに閉じ込められないことに憤慨しているのか、ドルマゲスは力を更に込めた。
太く長いイバラがレイフェリオたちへと向かってくる。やがて大きな幹のようになったイバラが、レイフェリオたちがいた場所を包み込むと、ドルマゲスは安堵したように笑う。だが、それも一瞬のこと。
「な……なんだと……?」
イバラはそのままレイフェリオたちを抜け姿を消していく。
呪いはレイフェリオには通じない。だからこそ、先頭にたち盾となったのだから。それでも杖の魔力により与えられた衝撃は軽いものではなかった。
「痛っ……」
「あ、兄貴!?」
「……じっとしてろ。ベホイミ」
正面からその勢いを受けたレイフェリオの腕は袖が破れ出血していた。呪い自体は効果がないもの、闇の力によりドルマゲスの力が増しているのだろうか。
一方で呪いが効かないことにドルマゲスは、声を荒げる。
「何故だ? 何故効かない!? お前は一体……あの時殺しておくべきだった。いや、今からでも遅くはない。私の全力を見せてくれるっ!」
魔力を再び籠め杖を掲げると、ドルマゲスは闇の力に包まれた。黒い霧が纏う中、再び現れたドルマゲスの姿は魔族のもの。人という理を曲げた存在となって現れた。
「ぐぉぉぉぉ……」
「な、なにあれ……」
「おい……ありゃ……」
バサッという音と共に、ドルマゲスの背中から翼が生える。赤い翼。闇の化身のようにも見える。
「この虫けらどもめ! 二度とうろちょろできないよう、バラバラに引き裂いてくれるわっ!」
荒ぶる声に応じるように頭上にあった水の球体から、力がドルマゲスに注がれる。手を翳し、翼をはためかせるとその衝撃を利用してか羽が嵐のようにレイフェリオたちへと降り注いだ。
「ちっ」
「きゃあっ」
「いってぇ!!」
「ぐっ……」
羽は刃物のように服を切り裂き、遠慮なく襲い掛かる。致命傷となる傷がないことを確認すると、レイフェリオはヤンガスの腕をとり、倒れている身体を起こす。
「固まっているのは危険だ。散らばるぞ」
「わ、わかったでがす」
全体への攻撃がある以上、固まれば一網打尽にされてしまう。さらに言えば、あの攻撃が腕や足へ致命傷を与える可能性も高い。足を奪われては勝機もなくなってしまう。ククールに目をやれば、頷く姿が見える。
先の攻撃で一番ダメージを受けたのはゼシカだ。ゼシカの側により、治療をするのを横目にレイフェリオは剣に炎を纏わせる。
「ひっひっひ、貴様は炎を操るか。忌々しい、ちんけな炎など消し去ってくれるわっ」
長くなった両腕を大きく振り払い風を起こすドルマゲス。レイフェリオの炎は魔力の塊でもある。その程度の風では消えることはない。風を避け、厄介な腕を斬りつける。
「かゆい……かゆいぞぉ!」
「くっ……」
腕を切りつけても、大したダメージは与えられていない。直ぐに腕を振り払いレイフェリオを吹き飛ばす。
「兄貴!? この野郎ー!」
追い打ちをかけるように力をこめたヤンガスが斧を振り上げた。レイフェリオとは反対側の腕を目がけて振り下ろすと、腕へと刃が食い込んだ。
「ふん、ハエがちょろちょろとっ! ふんっ」
「うぉっ」
食い込んだ斧を掴んでいたヤンガスごと、ドルマゲスが振り落とした。勢いのままヤンガスは床へとたたきつけられる。
「ヤンガスっ!」
「なら……これはどう!!! はぁぁぁメラゾーマ!!」
「ぐぬぅ」
渾身の魔力を籠めたゼシカの呪文。以前使用した時には、その威力に耐えられなかったのか火傷をしていた。それ故使用を控えていたのだが、この期に及んで出し惜しみをする必要はない。負ければその先には死。絶対に勝たなければいけないのだから。
流石に高熱の呪文にはダメージは避けられず、ドルマゲスがもがく。
「スカラ」
その間、ククールは仕切りに支援呪文を唱えていた。ドルマゲスの攻撃に対して防御力をあげるためだ。
雄叫びをあげながら、ドルマゲスは羽のシャワーを繰り出す。攻撃を避けることに集中力を切らされながら、詠唱を続けるククールの額には汗がにじんでいる。
あの姿になってからというもの、闇の力が徐々にこちらの力を奪って言っているようにも見える。
傷を負うたびにククールに治療をしてもらっているが、ククールの魔法力もそろそろ限界が近づいてきている。
と、そこへヤンガスの声が響いた。
「くらいやがれっ!!!」
「ギャァァァ」
ヤンガスは上からドルマゲスの目を目がけて斧を振り下ろしたのだ。皮膚が硬いドルマゲスには、致命傷ともなるダメージだろう。
深く切りつけられた目からは血が流れでている。
「畳みかけろ!」
「えぇ」
「わかった」
好機だと、一気に攻撃を繰りだす。戦いを長引かせないために、一気に決着をつける。
羽を切り裂いたところで、ドルマゲスがついに足をつく。
「ぐふ……ははは。あーはっはっはっは。虫けらどもめぇ!!!! はぁぁ」
怒りをあらわにし両手を前に出したかと思うと、ドルマゲスから氷の塊が放たれる。
「これって!? マヒャドっ!」
「ぐわぁぁ」
「ちっ」
「ぐっ……」
ここにきての最高クラスの呪文に、皆が膝をついた。
ドルマゲスももう限界だろう。だが、それは満身創痍ともいえるレイフェリオたちにとっても同じことだった。
思い通りにならない身体に、レイフェリオは思わず舌打ちをする。
「くっそ……」
『……解放を望みますか?』
何か案はないかと考えあぐねていたところに、声が届く。あの声だ。
「……解放、だと?」
『ラプソーンの領域では、不利ですが……力を解放すれば、勝利することができるでしょう。既に疲労困憊です。あと一撃でも与えれば恐らく……』
その一撃がいまのレイフェリオたちには難しいということだろう。ククールもゼシカも肩で息をしている。呼吸を整えなければ、集中も詠唱もできない。ヤンガスは、自身で回復呪文を唱えているところだ。所々傷だらけだが、やらないよりましということだろう。
皆、最後まであきらめずに攻撃の準備をしている。見ればドルマゲスもゆっくりとこちらへと向かってきていた。
迷っている場合ではない。
「俺はどうすればいい?」
『……胸に魔力を集中させてください。あとは私がやります……今の貴方では無理でしょうから』
「……わかった」
気に障ることはあるが、声の導くままレイフェリオは残っている魔力を集中させる。気配が近づいてきていることはわかっているが、集中することをやめるわけにはいかない。目を閉じることで視界をふさいだ。
「……」
『行きますよ……我が力を、ここにっ!』
レイフェリオの頭に力強い声が響くと、全身から力があふれだした。
「なにぃぃぃぃ!!」
「レイフェリオっ!?」
辺りを眩しく包み込んだと思うと、光はそのままドルマゲスへと向かっていった。いくつもの虹色にも見える閃光が、ドルマゲスの胸を貫く。
「な……ぐふっ……ばか、な……まだこんなところで……」
鋼鉄にも見えた皮膚をも貫いた光は、やがて力をなくし消えていく。同時に、ドルマゲスの身体が石となり砕け散っていった。
「な、何……今のは……?」
驚愕するゼシカ。声には出さないがククールも同じだった。
バタン。
音がしたかと思うと、そこにはレイフェリオが倒れていた。皆、慌てて駆け寄る。
「おいっ、レイフェリオ!?」
「あ、兄貴っ」
脈はある。だが、呼吸は安定しておらず顔色の悪かった。
魔力を使い果たしている状況では、回復の手段もない。
「サザンビークに戻るぞ」
「け、けどあそこは」
「叱責も受けるさ。だが、何が起こったのかわからない以上、休ませた方がいい」
「……わかったでがすよ」
「ゼシカ、戻るぞ」
「えぇ……そういえばあの杖ってどうすればいいのかしら?」
レイフェリオを背負ったククールが顔を向ければ、ドルマゲスが持っていた杖が落ちていた。元々はトロデ―ンの物らしい。ならば、トロデに返すのがいいだろう。杖はゼシカが手に取り、一行は遺跡を脱出した。
ほぼ戦闘でしたが、ドルマゲスは原作よりも強い設定です。
通常より寄り道に時間がかかっていたので、その分回復もしていると。ただ、別の要素もぶち込んでいるのでおかしなところもあるかもしれません。
勢いで書き込んだのですが、一番書きたかったのは最後のシーンでした。
やっぱり戦闘は苦手です。
次回は再びサザンビークです。