サザンビークから鏡をもらいます。
サザンビークに到着すると、レイフェリオは急ぎクラビウスの元へと向かった。その後ろに続くようにヤンガス、ククール、ゼシカが走る。
目的の人物は謁見の間におり、大臣と話をしているところだった。
「叔父上!」
「? ……レイ? どうしたのだ?」
「レイフェリオ殿下?」
走ってきたことに驚いたのか、クラビウスは思わずといった風に立ち上がる。
「お願いがあります」
「願いだと?」
「……王家の宝でもある魔法の鏡を貸していただきたいのです」
「事情を話せ」
レイフェリオは闇の遺跡において、闇を払うために王家の鏡が必要であることを説明する。しかし、クラビウスは更に眉を寄せ険しい表情を作った。
「叔父上?」
「……タイミングが良すぎると思ってな」
「どういうことですか?」
「実はですな、先日宝物庫に侵入された形跡があるという報告が上がってきたのです」
答えたのは大臣だった。
「侵入された?」
「はい。殿下がここを出たその日の夜のことだと思われます。翌日、宝物庫で見張りをしていた兵が倒れているのが見つかったのです。宝物庫も鍵がこじ開けられた形跡があり、中を確かめたのですが特に盗まれたものはありませんでした」
「……何も取らずに出ていったというのか?」
「左様でございます」
「おかしなことだとは思うが、実際見張りの兵も影を見ただけで、何も覚えていなかった。盗まれたものがないのであれば、大事にする必要もないが……と困り果てていたところに、お前が来たのだよ」
「まさか……」
クラビウスは頷く。
考えられることは、一つしかない。レイフェリオたちは、そのまま宝物庫へと急ぐ。
見張りの兵士に頼み、鍵を開け中にはいる。
奥の中央の台座に置かれているのが、王家の宝である鏡だ。
鏡をレイフェリオが手に取る。
「これがその鏡なんでがすか?」
「本当に何も取られていないのね……」
「……タイミングといい、何も起こっていないのは不自然すぎないか? なぁレイフェリオ」
「……」
ククールの問いかけにレイフェリオは答えない。その代り、何かを考え込むようにじっと鏡を見据えている。
「兄貴? どうかしたんでがすか?」
「まさか偽物とかじゃないわよね?」
「……いいや、これは本物だ。幼い頃から見ていたものを間違えるはずがない……だが、魔力が感じられないんだ」
「魔力?」
ククールもレイフェリオの後ろから鏡を覗き込む。元々の状態を知らないククールには、ただの鏡にしか見えないだろう。
「この鏡には、闇を払う力があると言われていた。それだけの魔力があったんだ。それがなくなっている」
「まさか!?」
「ドルマゲスでげすか?」
「……闇の結界を張った後か前かはわからないが、うち破られないように魔力を奪ったんだろう」
「なるほどな……納得がいくぜ」
「とりあえず、叔父上に報告しよう」
魔力を失った鏡を持ち、再びクラビウスの元へ行く。
推理を踏まえた報告を伝えると、クラビウスは頭を抱えた。
「我が国の警護すら潜り抜ける輩だ。只者ではないと思っていたが、よもやレイたちが追っている者だとはな」
「兵に犠牲がなかっただけよかったと思うべきなのでしょうが……」
「けど、これじゃ闇を払うことは出来ないぜ? どうするんだ?」
「……魔法の鏡か。レイ、グランを尋ねてみるといいのではないか?」
「爺、ですか。確かに、魔法の研究をしていた爺ならば何か知っているかもしれませんね」
「それじゃあ、あの泉に行きましょう」
「急ぐぜ、レイフェリオ」
「あぁ。それでは、すみませんが先を急ぎますので」
「気をつけるのだぞ。どうやら、わしらが考えている以上の手練れのようだ。必ず生きて戻ってくるのだ」
「……わかっています。それではいってきます」
それだけ言うと、レイフェリオは既に出ていったヤンガスらを追って王座の間を後にする。
残されたクラビウスは、悲痛な表情をしていた。
「……大臣。何かよからぬことが起きる気がしてならん」
「陛下……」
「あれを、行かせて良かったのだろうか。やはり引き留めるべきではないのか……」
「……相手は我が国の兵をも上回る力量。陛下の心配ももっともだと思います。ですが、ここは殿下を信じるしかありません。私も、そして兵たちもあの方の強さはよくわかっております。力だけでなく、その心も。多少のことで折れるような方ではございません」
「大臣……そうじゃな」
★ ☆ ★ ☆
ルーラで泉へとやってきた一行は、グランが暮らしている小屋に着いていた。
「レイ様、久しぶりだっち。待ってただっち」
「して、御用とはなんですかな?」
「これを見てほしいんだ」
そういってレイフェリオは、王家の鏡を取り出した。目の見えないグランにもわかるように、その手に鏡を渡す。
「これは確かに太陽の鏡。ですが、魔力をすっかりなくしてしまっているようですな」
「爺、これに魔力を戻す方法を知らないか?」
「魔力を戻す方法ですか……うーむ。しかし、なぜこの鏡に魔力が必要なのですかな?」
「……闇の遺跡に張られた結界を破るためだ。そのためには、この鏡の力が必要なんだ」
「闇の結界、ですか……なるほど。確かにこの鏡が魔力を取り戻せば、結界を破ることが可能でしょうな」
「それで、方法はあるんでがすか?」
「……その昔、太陽の鏡は強い光を放つ呪文を受けて、その輝きを増したと聞いたことがあります」
「太陽の鏡? 魔法の鏡じゃないの?」
グランの言う太陽の鏡が、目の前の魔法の鏡を指していることはわかるのだが、なぜ名称が違うのかゼシカが首を傾げると、グランは笑みを浮かべる。
「ほっほっほ。魔法の鏡は太陽の鏡というのが真名なのじゃよ。今の状態では、魔法の鏡とすら言えぬかもしれんじゃろうがの」
「なるほどね。で、強い光の呪文ってのはどうすればいいんだ?」
「……海竜が放つ呪文ならば魔力を復活させることができるかもしれん」
「海竜か……爺、そいつはどこに行けば出会える?」
「北にある岩のアーチがかかった海峡ですな。そこに行けば会えると以前船乗りに聞いたことがあります。ですが、お気を付けください。船乗りは、その呪文を受けてあまりのまばゆさに、眩しくて眼が開けられなかったと言っておりました。下手をすれば視界を奪われてしまいます」
「……わかった。爺、助かったよ。ありがとう」
「この爺の知識がお役に立ったのなら、本望ですじゃ」
海竜に会うためには、船に乗る必要がある。
トロデと合流し、その後岩のアーチの下にある海峡を目指す。日没が近くなっているため、レイフェリオのルーラで船へと戻り、すぐに海へと繰り出した。
ここで終わり?と思った方すみません。
少し忙しくなったこともあり、字数を稼げませんでした。
今後、毎日更新を止め一日置きへと変更することも考えています。その場合はここでお知らせします。
毎日楽しみにしていただいている方には申し訳ありません。