闇の遺跡へ
舵を切って闇の遺跡がある方角の西へと向かう。
海の魔物が狂暴化しているというのは真実のようで、向かっている途中にも魔物が襲ってくる。このように襲われては、民間の定期船の巡行は難しいだろう。
この辺りの魔物であれば、今のレイフェリオたちには苦戦する相手ではなく、難なく退けることができた。
東の大陸を離れ、西の大陸が見えてきた。陸伝いに航行し、更に進む。
目的地は、地図で言うところの北西のはずれにある島がその場所だそうだ。無論、ここにいる誰もが行ったことがない。未知の領域ではあるため、目的地が近づくにつれ緊張感が増してくる。
「ねぇもしかして、あれがそうなの?」
ゼシカが指で示す。岩肌が見えた大地の奥に、雨雲とは違った暗い闇色の雲が視界に映った。
「……だろうね」
「ようやく、ここまで来たってわけだ」
「こっちは準備万端でがすよ」
大地にはちらほらと魔物の姿も見える。遺跡に行くまでの間も戦闘は避けられないだろう。
船を陸地に寄せて、レイフェリオたちは船を下りた。
「王はここで姫と待っていてください」
「うーむ、仕方ないのう。気をつけるのじゃぞ」
「はい」
非戦闘要員でもあるトロデとミーティアは船の中で留守番だ。町があるわけでもなく、戦闘のみが行われるだろう場所だ。何が起こるかわからない。一緒に行動するよりは、待っていてもらった方が安全だろう。
遺跡へと向かって歩いていたところに、早速魔物が現れる。
「変な頭の魔物ね……気持ち悪いわ」
「同感だね。だが、嫌な気配を持っているぜ……」
「わかってるわよ。先手必勝ね。くらいなさいっ! イオラ」
魔力を溜めると、ゼシカが呪文を放った。三体の魔物は爆発に巻き込まれる。爆発の煙が収まり再び魔物の姿が見えたが、ダメージを受けている気配はなかった。
「えっ?」
「ケッケッケッケ」
「呪文が効かねぇ?」
「皆、伏せろ!!」
レイフェリオが叫ぶと同時に、魔物の両手から光が放たれた。眩しいほどの輝きが視力を奪う。
「キキッ」
「きゃっ」
視力を奪われたゼシカへと容赦なく魔物は爪を立ててきた。ククールとヤンガスはどうにか防御が間に合ったようで、武器を構えている。
「レイフェリオ、あれを知っているのか?」
「あぁ……レッサーデーモン。本で見たことがある程度だが……物理攻撃で戦った方がいいようだ。俺とヤンガスが前に出るから、ククールはゼシカを頼む」
「わかった」
「ヤンガス!」
「合点でがすよ」
傷を負ったゼシカをククールに任せ、レイフェリオとヤンガスがレッサーデーモンへと攻撃を繰り出す。長い手足を持つため、攻撃のリーチが長い。避けるならば、紙一重ではなく距離を取って躱さなければいけなかった。
身のこなしが素早いレイフェリオはともかく、ヤンガスにそれは難しい。
結局、多少のかすり傷を負ったものの魔物を退けることができた。
「……呪文が効かない敵なんて、初めてだったわ」
「ゼシカ」
呪文が基本攻撃パターンであったゼシカからすれば、通用しない敵と出会った場合、強力な攻撃手段がなくなってしまう。ムチでの物理攻撃がないわけではないが、やはり呪文と比較すれば劣るのは当然だった。
「攻撃だけが呪文じゃないだろ?」
「わかってるわ……けど全く効かないとなると、支援するくらいしか私にはできることないのよね」
「支援でも十分だろ? 今後はそっちを優先しないといけない場面も出てきそうだしな」
真面目に切り返したのはククールだ。
ここにいる魔物は周辺を見る限り、一筋縄ではいかない魔物が多いようだ。遺跡の闇に関連しているのだと思われるが、闇の眷属に属する魔物なのかもしれない。
戦ったことがないタイプの魔物もいる。だからこそ、支援系の呪文を唱える機会が増えてくるだとうとククールは予想しているのだろう。
「それには賛成だな。……注意するのはドルマゲスだけではなさそうだ」
「レイフェリオ、ククール……わかったわ」
ゼシカも納得したに頷いた。
その後も魔物との戦闘を繰り返し、ようやく遺跡へと辿りついた。
「これは……」
だが入り口をみてレイフェリオは眉を寄せる。闇の力だろうが、唯一の入り口である場所に結界が施されていたのだ。これでは先へと進むことができない。
「なんでがすかこれ? 黒っぽい霧みたいでがすね……」
「この先にドルマゲスがいるのでしょうね」
「行ってみるでがすよ!」
「あっ、ヤンガス待て!」
レイフェリオの制止も及ばず、ヤンガスは闇が覆う霧の中へと入っていった。と思ったのだが、すぐに戻ってくる。
「あんた、行ったんじゃなかったの?」
「……何も見えなかったんだよ」
「見えなかった、か。やはり結界があるみたいだな……」
「結界? それを破らないと進めないってことか、おいどうする?」
結界を破る。容易なことではないだろう。
杖の力を使って闇の力を増幅させることで、ドルマゲスは結界を張った。ならば、その闇を払う光の力があればいい。
「兄貴、どうするんでげすか?」
「……闇を払うには、反対の力が必要だ」
「確かに理屈ではそうだぜ? だが当てがあるのか?」
「……闇、は暗闇。夜か。ならば反対は朝。太陽……あっ」
暫く考え込んでいたレイフェリオが顔をあげる。
「兄貴?」
「……いったん国に戻ろう。もしかしたらどうにかできるかもしれない」
「サザンビークに戻るの?」
「……叔父上に頼まなければいけないだろうからな」
アスカンタに王家の宝といわれる古くから伝わる月影のハープがあったように、サザンビークにも同じく古くから伝えられる宝がある。
それが太陽の鏡だ。
王家の物であるため、持ち出すには王の許可が必要である。レイフェリオは急ぎ、サザンビークへとルーラを唱えた。
短くてすみません・・・。