ここも主人公がいないので、オリジナル要素あります。
ヤンガスたちが城をでると、城門の方へ人々が集まっていた。チャゴスの見送りだろう。
既にチャゴスの姿はないようだが、あまりの出来事に興奮をしているのか人々はまだ残っていた。
「なんか大騒ぎね」
「だな。たかだが儀式へ向かうだけにここまで騒ぐもんなのか?」
「そりゃそうだよ!」
「うぉっいつの間に!?」
歩きながら城門へ向かっていると突然町の人が声を掛けてくる。会話が聞こえていたのだろう。
「あのチャゴス王子が一人で向かうなんて、驚きを通り越して興奮ものだ」
「そうよそうよ。護衛をつけるって話だったけれど、一人でいっちまって、いやー見直したね」
「って本来は一人で行くもんだけどな。わっはっはっは」
ここに護衛がいるとは言えないため、三人は取り合えず苦笑いをするだけだ。
「レイフェリオ殿下は結構前に終わらせたってのに、同い年のチャゴス王子が儀式を嫌がっているっていうから、てっきりもう行わないんだと思ってたんだけどな」
「そういや、5年前に終わらせたって言ってたか」
「えぇ、レイフェリオは13才で行ったことになるわね」
「そうなんだよ! 嬢ちゃん! 最年少記録でね、当時はもうお祭り騒ぎだったよ」
恰幅のいい女性が勢いよくゼシカへと話しかけてきた。
王族が儀式を終えた後は、城下町でバザーが開かれるらしくとても賑やかだそうだ。同じくチャゴスが戻ってくれば、大騒ぎになるだろうということだった。
王者の儀式というのは、王族だけでなく、町の人にとっても楽しみの一つのようだ。
人々の波をかき分け、ようやく門の外にでるとチャゴスが仁王立ちした状態で待っていた。先日門の前で見張りをしていた兵士はいないためか、荷台には隠れずにいたようだ。
近くにはトロデとミーティアもいる。
「遅いっ! お前たち、遅いぞ」
「……偉そうでげす」
「偉いのよ……」
「俺たちはこれでも急いできたんだ。それより馬車に隠れてなくていいのか?」
「狭すぎるんだ! せめてあの釜がなければもうちょっとマシなものを……」
口をとがらせ文句を放つチャゴス。トロデを見ると更に続けた。
「それにしても何なんだ、コイツは? こんな化け物みたいなおっさんを連れてよく旅をしていたな……」
「……」
トロデは黙ったまま御史台へ座っていた。常ならば、ここで文句のひとつも出てきそうだが、何も言わない。不思議に思ったヤンガスが小さく声をかける。
「どうたんでがすか、おっさん。いつもなら食って掛かるのに」
「……今はわしも姫もこんな姿じゃ。チャゴス王子に婚約者が馬になってしまったとは言えんじゃろ」
「まぁそうでげすが……」
「だが一体どうして王子が来ることになったのか、説明はしてほしいがの? レイフェリオはどうしたのじゃ?」
「兄貴は城でげすよ。旅を続けるためにも、あの王子を王家の山まで護衛することになったんでね」
「……よくわからんが」
「王者の儀式ってやつが王家の山で行うらしいんだよ。東の方角にあるってレイフェリオが言っていた」
ククールが二人の会話に介入する。
「あとレイフェリオからこれを受け取っているから、山に入る前に体に振り掛けておかないとな」
「それはなんじゃ?」
「トカゲのエキスだとよ。アルゴリザードは人間の匂いに敏感らしい。だから人間の匂いを消して近づかないと逃げられるそうだぜ」
「おいっ、何をこそこそとやっているんだ」
チャゴスが不満そうに近づいてきた。ククールが持っていたトカゲのエキスの袋を見るなり、眉を寄せる。
「……レイフェリオから聞いていたのか」
「あらかた説明は受けてきた」
「ふん、まぁいい。僕は普段荷台に隠れている。一人で出発していることになっているからな」
「へいへい」
「そんじゃ、出発するでがすよ」
荷台へと隠れるチャゴスを見送り、一行は東へと歩き出した。
一人抜けたことにより、戦闘は苦戦を強いられることとなった。常に状況を見て、指示を出し戦闘を勝利に導いてきたのはレイフェリオだったからということもあるだろう。
今三人の前に現れているのは剣を持ち飛行する魔物、ガーゴイル。それが3匹だ。
前衛がヤンガスのみである。ゼシカが呪文で先制攻撃をし、命中した時を見計らってヤンガスが斧を振り下ろす。
打たれ強いヤンガスだが、敵に囲まれてしまえばおしまいだ。攻撃後は、すぐに距離を取り追撃される可能性を少しでも下げるようにしていた。
追撃しようとする動きを見せればククールが弓で牽制する。相手が飛行しているため、狙うのはその翼だ。
翼を撃ち抜かれ、地に落ちた魔物に最期の一撃を与えるのはヤンガスの役割。
ようやく魔物が消えると、3人は緊張が解けたのか息を整えるために立ち止まった。
「……一筋縄ではいかない、みたいだな」
「そう、ね……」
「けどよ、あのすばしっこいスライムよりは、マシだぜ……」
ヤンガスが言うスライムとは、メタルスライムだ。
攻撃しても躱されることが多く、当たっても鋼鉄のように固いため大したダメージを与えられない。
さっさと逃げるスライムも多いが、向かってくるスライムもいる。攻撃を躱されるというのは、思った以上に精神的にも体力的にも疲れてくるものだ。
「逃げるなら、さっさと逃げやがれよ……」
「まぁ、あれだけ攻撃した後に逃げられれば、疲れもするわね……」
弱り切った状態で、あと一撃を与えればというところで、危険を感じたのか逃げるスライムというのもおり、そのたびに肩を落としてきた。
余計な体力と時間を費やした気分だ。
「おっ、なんか小屋が見えるぜ? あそこが例の王家の山じゃないのか?」
深呼吸をしてククールが周囲を見回し、ある方向を示した。
確かに小屋が見える。更に奥には、続く道があるようだ。
そして、小屋の前には見覚えのある人物が立っていた。
「よぉ、遅かったな」
「あんたは確か……」
手をあげてこちらへと向かって歩いてくるその人物。それは、シェルトだった。
「何でここにいるんだ? チャゴス王子の護衛は俺たちだけだったはずだぜ?」
ククールは不機嫌を隠さない。クラビウスから護衛として頼まれたのは、三人のみ。レイフェリオは含まないメンバーで、チャゴスに傷一つつけずに帰還することが、旅を認める条件だったはずだ。
それを覆されるのは約束が違う。
だが、シェルトは不敵に笑った。
「知っているさ。俺も手を出すつもりはない。だが、見極めさせてもらうために来ただけだからな」
「見極める? どういうことなの?」
「……魔物の狂暴化の影響で、この辺りの魔物も強くなっている。殿下がぬけたんだ、戦力低下は当然だろう。それに加えて、以前よりも山は危険度が上がっている。陛下は多分ご存知ないだろうがな。俺は万が一のための保険だよ。殿下と同じ前衛だ。呪文は使えないが、もし強敵がいたとしてもこれならなんとかなるだろ?」
「……それは、兄貴との旅を認める条件とは違うじゃねぇかよ」
「陛下は三人だけで、とは仰っていなかったんだろ? なら、俺が通りがかっても問題ないさ。人助け、だからな
。それに、だからこその見極めなんだよ」
飄々と言ってのけるシェルトに、三人は二の句を告げなかった。
要するに、危険だと判断したならば助太刀をするということだろう。
確かに三人だけで、とは一言も言っていない。力を見る、チャゴスを傷つけるな、それだけが条件だ。それにシェルトはサザンビークの兵士ではあるが、護衛としてではなく、通りかかりとして手を貸してくれるというのだから護衛は三人ということにも変わりない。
屁理屈のようなものではあるが。
「モノは言いようだな」
「けど、あんたらは助かるはずだ。アルゴリザードを舐めない方がいい」
アルゴリザードを知らない三人には、シェルトが示しているのが何か分からない。王族の男子が一人で討伐するのだから、旅に慣れた三人がいれば問題ないとどこかで思っていたということもある。
しかし、先日レイフェリオも魔物が強くなっていると言っていたのだ。その影響が王家の山まで及んでいないという保証はどこにもなかった。
「……わかった。あんたの言葉に甘えるさ」
「ククール!?」
「……ククールがそう言うなら、私もいいわ」
「ゼシカまで……ちっ、わかったでがすよ」
「決まり、だな」
こうして、一時的にシェルトが合流することになった。
通りがかりとして、という名目のもとで。
すみません、あまり長くないです。