ドラゴンクエストⅧ 空と大地と竜を継ぎし者   作:加賀りょう

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原作で言うチャゴスが儀式へ向かうイベントまでです。
ここまでの流れからオリジナルも満載です。


チャゴスの出陣?

 その日の夜、レイフェリオの自室に集まっていた。

 

「……ククール」

「ん? 何か問題でもあったか? お前は堂々と俺たちと行けるし、俺たちも助かる手としては最善だぜ?」

「……確かにあのままでは、叔父上を黙らせることは難しかった。……だが、その結果皆に王家の面倒事を引き受けてもらうことになってしまった」

「……兄貴……」

「すまない、皆」

 

 レイフェリオは頭を下げる。

 本来、王家の儀式に部外者の手を借りるなど言語道断だ。ましてや旅人に頼るなど、あり得ないことだった。

 クラビウスは、チャゴスに甘い。自覚しているのかはわからないが、王妃を亡くしてからは特にその傾向が強かった。甘やかされたお坊ちゃんだからか、勉強も訓練もよく逃げ回っていたことを覚えている。

 そんなチャゴスが一人で挑めるはずはなかったのだろう。

 

「……面倒をかける」

「まぁただ後ろにいてもらえればいいさ。だが、チャゴス王子ってのはどれくらい戦えるんだ?」

「全く、だ。どうやらセンスが皆無らしい。それもあって逃げていたようだな」

 

 加えて運動不足も否めないという。

 一体何ができるのかと逆に問いたくなるほど、いいところが出てこなかった。

 唯一上げるとすれば……。

 

「おそらく戦闘になれば、誰よりも早く逃げる。逃げ足は速いようだから、戦闘には集中できるはずだ」

「逃げ足の速い王子、ね……まぁ逃げてくれればこちらは楽かもしれないけれど」

「いいだろ? とりあえず、目的を果たせばいいだけだ。最悪おねんねしててもらうさ」

「……お手柔らかに頼むよ」

「わかってるさ」

 

 ククールはよく周囲を見ている。前衛もできるが、サポートがメインの僧侶だ。戦闘時に指示をだすのはレイフェリオが多かったが、レイフェリオが抜けた場合は間違いなくククールが司令塔となるのだろう。

 

 レイフェリオから王家の山についての情報をあらかた教えを受けたところで、解散となりヤンガスたちは部屋へと戻っていった。

 果たしておとなしくあのチャゴスが儀式へと赴いてくれるかどうか。チャゴスに知らされるのは恐らく直前。でなければ、逃げ出すのは確実だ。城の中であれば探し出すことに造作もないが、外に逃げられては厄介なことになる。

 

「……ふぅ。今日は休むか……」

 

 今日一日で色々なことがあった。流石に疲労を感じていたレイフェリオは、ベッドへと横になるのだった。

 

 

 ★ ☆ ★ ☆

 

 一方、レイフェリオの部屋を後にした一行は、回廊を歩いていた。

 用意された客室は、王族であるレイフェリオの部屋とは離れていたからだ。玉座から登る階段の上にあり、王の居室の近くという位置からも、レイフェリオの身分がわかる。チャゴスの部屋も玉座と通らなければいけない場所にあり、レイフェリオの部屋からもそう離れてはいなかった。必ず玉座を通らなければいけないというつくりは、王族を護るという意味合いも持っているのだろう。

 

 ようやく客室に着けば、各々がベッドに腰を下ろし一息を入れる。

 

「にしても、旅人の服から変わっただけで随分と印象が違うな、レイフェリオは」

「そうね……けど、どちらかと言えば騎士に近い感じかしら」

「……そうだけどよ、オレは普段の兄貴の方がいいぜ……」

 

 ククールとゼシカの評価に、ポツリとヤンガスが本音を漏らす。

 王族の服装をしているレイフェリオは、身分の違い、住む世界が違うことを意識させられ遠く感じてしまうのだろう。だがそれも仕方がないことだ。

 

「普段のアイツの方が、変装だヤンガス。今の姿がレイフェリオって奴の本当の姿なんだよ。確かに、しっくりこないのはわかるが、そういうことはアイツの前では言うなよ」

「ん? なんでだよ……」

「……グランさんが言っていただろ。生まれについて誰よりも納得していないのは、レイフェリオ自身だ。それを俺たちが違うと言えば、あいつも傷つくだろうぜ」

「ククール……あんたって結構考えているのね。意外だったわ」

「ちっ……俺はいつでも考えているんだよ。デリケートな生まれなんでね」

「はいはい、おかげで助かったのは事実だから、感謝はしておいてあげるわよ」

「つれないねぇ、ゼシカは」

 

 最後には他愛ない会話に変化している。普段はこの中にレイフェリオも混ざっていたので、どこか足りない気もするが、それだけ日常になっていたのだろう。四人でいることが。

 

 そのためには、明日を何としても乗り切る必要がある。

 三人は早々に夢の世界へと旅立った。

 

 

 ★ ☆ ★ ☆

 

 

 翌朝、謁見の間に全員が揃っていた。

 玉座に座るクラビウスの横に、レイフェリオが立っている。

 だが、肝心のチャゴスの姿は見えていなかった。

 

「大臣、チャゴスはまだか?」

「は、はい。急ぎ文官に呼びに行かせているので、そろそろ来ると思うのですが……」

 

 その時、話に上がっていた文官が息を切らせて駆け込んできた。

 

「どうしたのだ?」

「も、申し訳ありません。その……途中で逃げられてしまいました」

「何っ!?」

「……あいつは子どもか」

 

 クラビウスは声を荒げ、レイフェリオは呆れていた。

 話によれば、部屋からここまで逃げられないように手を引いてきたらしいのだが、途中で手を振り払って逃げ出したというのだ。

 当人がいなければ話もなにもない。仕方なく、チャゴスを探すこととなった。

 

「情けない息子だ……」

「叔父上、俺も探してきます」

「……すまんな、頼む」

「はい」

 

 レイフェリオはヤンガスたちに駆け寄る。

 

「兄貴もですかい?」

「あぁ。とにかく、チャゴスの部屋へと行ってみよう」

「わかったわ」

「あいよ」

 

 ここからチャゴスの部屋はさほど距離がない。階段を上り、部屋の前へ行くとそこには兵士がいた。

 話を聞けば、部屋にはおらず西の城館へと向かったという。運動は苦手だというのに、逃げ足だけは本当に早い。

 

 兵士の言う通りに西の城館へと行けば、ここにも兵士が立っていた。

 レイフェリオに気が付くと、こちらへ寄ってくる。

 

「殿下!」

「チャゴスはここか?」

「はい……ですが、カギをかけてしまっていて入れないのです」

「……そうか。わかった、ここはいい。反対の入り口に回っていてくれ。俺が何とかする」

「は、はいっ! お願いします」

 

 兵士は敬礼をし、その場を後にする。

 

「どうするんでがす、兄貴?」

「まずはチャゴスがいるかを確かめる」

 

 隠れているだろう扉の前に行き、ノックをした。すると、扉から声が返ってきた。

 

「ん? 誰かいるのか?」

「チャゴス、俺だ」

「なっ! 兄上っ……じゃない、レイフェリオ!! 何でお前がここに来るんだよ」

「……王者の儀式は、成人王族の務めだ。王家の人間に生まれた以上は行うことが義務だと知っているよな。それを放棄するのか?」

「う、うるさいっ!! 僕はお前とは違うんだ!! あんなトカゲ相手にできるわけないだろう!!」

「……」

「なっ……」

「えっ……」

「……そうか……」

 

 チャゴスの言葉に驚き、動けずにいたヤンガスたち。

 一方のレイフェリオはそれだけいうと、踵を返す。スタスタと歩いていくレイフェリオをヤンガスたちは茫然と見ていたが、姿が見えなくなると我に返り慌てて後を追う。

 そのままレイフェリオは先ほどの兵士に指示をした反対側へと向かうと、更に階段を上り真上の部屋へと入った。

 

「トーポ、行け」

「キュッキュ!」

 

 肩の上に乗っていたトーポを降ろし、どこかへ向かわせたのだ。一体何をしているのかわからないヤンガスたちは、黙ってみているだけだった。

 

「あ、兄貴?」

「……」

「ギャーッ!!!」

 

 突然、悲鳴が響き渡った。と同時にチャゴスが籠っていた部屋の扉が開けられた。

 そうして前で構えていた兵士たちに呆気なく捕まってしまった。

 

「な、何が起こったの?」

「……レイフェリオ、何をしたんだ?」

「……チャゴスが籠っていた部屋ってのは、真上にトカゲがいることがあるんだ。それをトーポに落としてもらったんだよ。部屋にトカゲがいれば、流石に出てくるだろ」

 

 トコトコとトーポが戻り、再びレイフェリオの肩に乗った。一仕事してきた、という感じに顔を洗っている。

 

「さて、戻ろうか」

「……」

 

 なんでもない風に装って入るが、ククールとゼシカには違和感を感じ得なかった。

 先ほどチャゴスが放った言葉は確実にレイフェリオを傷つけたはずだ。だが、今話をしていたレイフェリオはいつも通りのものだ。

 普通にしているレイフェリオに、敢えて掘り出すこともできず、二人も後をついていった。

 

 一瞬だけ、チャゴスに言われた瞬間だけは悲し気に瞳が揺れていたことに、気が付いていたのはトーポだけだった。

 

 

 謁見の間に戻ると、大臣に監視されたチャゴスが不満そうに立っていた。

 レイフェリオはその横を通り過ぎ、クラビウスの横に立つ。ヤンガスたちもクラビウスの元へ近づき、止まった。

 

「皆、ご苦労だったな。チャゴス、お前はこれより儀式へと赴いてもらう」

「ち、父上!! そんなこと聞いておりません。何度も言ったではありませんか、トカゲが居るところは嫌だと。それに僕は次代の王ではありません! 僕には必要ありません!」

 

 この期に及んでもなお儀式を避けようと必死に言い訳をしている。本当に嫌なのはよく伝わってくるのだが、クラビウスの表情を見る限り、それが受け入れられることはないだろう。

 

「……チャゴスよ。お前はトロデ―ン国の姫と結婚し、トロデ―ンの王となる。なれば次代の王といっても変わらないはずだ」

「そ、それは……」

「強き王となれることを示すのがこの儀式。サザンビークの王家の者として、強き王の心を持たねば、ミーティア姫と結婚できん」

「ぐぅ……」

「ミーティア姫はそれはそれは美しい姫と聞いておる」

「ぐぐ……」

 

 チャゴスが懸念していることはミーティアとの結婚らしい。何とも安直な、邪な理由だ。

 それでも儀式へと赴いてくれることの方が優先なのか、クラビウスは揺らぐことはなかった。

 

「それに、城の者がお前のことを何と言っているか、言わなくともわかるだろう。少しは悔しいとは思わんのか?」

「それは……」

 

 ちらりとチャゴスはレイフェリオを見た。レイフェリオはただ見返すだけだ。

 城の者、いや国の皆が言っていることがチャゴスの耳に入らないはずはなかった。比較されているのは、優秀な従兄。魔法も剣も、そして公務すら着実にこなす優秀な王太子。幼き頃からチャゴスにとってコンプレックスの一つだ。

 

「チャゴス、ここにいるゼシカ嬢たちが力を貸してくれる。表向きはお前ひとりで行ったことにするがな。それならば心強いだろう?」

「一人じゃない……それに、もし、僕がレイフェリオよりも大きなものを手に入れれば、見返すこともできる……僕の方が上に……でもな」

「……はぁ」

 

 同行者がいる、それを聞きチャゴスは俯きぶつぶつとぼやいていた。耳が良いレイフェリオには丸聞こえだったのだが、他の人には聞こえていないようだ。行くとは断言していないが、気持ちが傾いているのだからそう捉えてもいいだろう。

 

「叔父上、チャゴスは行く気になったようですよ」

「へ?」

「ん? おぉ、そうかそうか。行く気になったか! それでは、お前は一足先に馬車に隠れておるがいいぞ」

「えっ、父上!?」

「よし、大臣! さっそくチャゴスを送り出せ! さも一人で行ったように見せかけるためにも、兵士を連れていき派手に門の前で見送らせろ」

「ははっ。仰せの通りに」

 

 指示を受けた大臣は、チャゴスを問答無用で引っ張っていく。

 

「えっ、ちょっと、僕はまだ……」

 

 行くとは公言していないと言い訳をするが止まることはなく、チャゴスはそのまま連行されていった。

 チャゴスの姿が見えなくなると、クラビウスは重い息を吐く。

 

「ふぅ、やっと行きおったか……」

「えっと……レイフェリオ、あれでいいの?」

「大丈夫。あいつは見栄だけは張る奴だ。一度盛大に見送られれば、嫌でもいくだろうさ。それより……あとは頼んだ」

「……任せとけよ」

「合点でがす」

「ええ。それじゃあ、行ってくるわね」

「皆、チャゴスを頼んだぞ」

 

 最後にクラビウスに見送られ、ヤンガスたち三人もチャゴスの後を追っていった。

 

「しかし、強引すぎたのではないかレイ?」

「あいつが行くと言い出すのを待っていてはいつになるかわかりません。俺は立ち止まっている場合ではありませんから」

「レイ……まだ許可を出したわけではないぞ?」

「大丈夫です。彼らは……俺の仲間ですから」

「……そうか。それにしても、儀式に護衛をつけるなどと愚かな決断をしたのは、歴代王の中でわし一人かもしれんな」

「……叔父上はチャゴスに甘いのですよ」

「そうかもしれん。兄が逝き、妻が逝き……だからお前とチャゴスだけが、わしの肉親なのだ。無事に戻ってきてほしいのだよ。王としては失格かもしれんな」

「叔父上……」

 

 身内に甘い王。それは確かに歴代の王と比較すれば失格ともいえる。身内だからこそ厳しくしなければいけないこともあるはずだ。それがチャゴスには見られなかった。

 チャゴスは、既にレイフェリオという存在がいたおかげで、王位を継ぐ可能性は低くなり帝王学の教育も熱心にはしていなかった。剣にも才能を発揮せず、魔力も低いチャゴスには、期待を寄せられることもなく、望まれることもなかった。

 誰にも望まれない存在。だからこそひねくれてしまったのかもしれない、とレイフェリオは考えていた。

 

「チャゴスは認められたいのですよ。叔父上に……そして皆に」

「レイ?」

「……あいつは、俺が憎いのかもしれませんね……」

 

 ポツリとつぶやくように言うと、レイフェリオは玉座の後ろの階段を上り自室へと向かっていった。

 

 

 




本日より再び更新です!
楽しんでいただけたら幸いです。

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