ドラゴンクエストⅧ 空と大地と竜を継ぎし者   作:加賀りょう

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オリジナルルートです。
色々と作者の創造と想いが入っています。
影の主役はククールです。


クラビウスの想い

 城へ戻ると、すぐに夕食の時間となっていた。アイシアと別れ、レイフェリオは自室へと戻ると、さほど時間もしないうちに侍女が呼びに来る。

 

「殿下、晩餐の用意が出来ました」

「わかった」

 

 服装は変える必要はないが、クラビウスやチャゴスもいる場になるのて、道具袋より額当てを取りだし身につけた。

 

「準備は宜しいでしょうか? では、参りましょう」

「頼む」

 

 侍女の後について行き、食卓の間にはいる。そこには既にヤンガス、ゼシカ、ククールがいた。そして、不満顔で座っていたのが……チャゴスだった。

 緑を基調とした王族の服に身を包んでいるその姿は、レイフェリオとは従兄弟と言っても全然似ていなかった。

 レイフェリオが来たことに気がつくと、チャゴスは立ち上がり正面までくる。

 

「……帰ってきたのか、レイ。俺に一言の挨拶もなく出ていった割には随分と早いお帰りのようだ。まさか、逃げ帰ってきたとか?」

「なっ!!?」

 

 思わず声をあげたのはヤンガスだった。今にも立ち上がりそうになっているヤンガスをククールとゼシカが抑え込んでいる。

 

「こんな平民たちと馴れ合いをしてたんだって? 相変わらず平民贔屓だ。まぁ女の趣味は悪くないようだけどな」

 

 横目でゼシカを見ながら言う言葉は、この場にいる全員を不快にさせるものだった。レイフェリオをここまで案内した侍女も思わず顔色を変えてしまっていた。

 侍女に声を掛け、レイフェリオは下がらせると扉を閉めさせた。

 

「おいっ、聞いているのかっ!?」

「……聞こえている」

「なら何とか言ったらどうなんだよ!」

「……直に叔父上も来られる。黙って座っているのがマナーじゃないか?」

「なにっ!!?」

 

 憤慨しているチャゴスをよそに、レイフェリオは用意された指定席、王の左隣へと座る。相手にされないチャゴスは、わざとらしく音を立てながらその向かい側へと座った。

 チャゴスの視線はレイフェリオへと向けられるが、対するレイフェリオは目を閉じたまま黙っている。

 

「チッ」

 

 チャゴスは舌打ちをして煽っているようだが、全く気にする様子もなく微動だにしないレイフェリオ。

 黙ったまま二人の様子をみていると、再び扉が開く。

 

「失礼致します……」

 

 姿を現したのは、アイシアだ。一歩中に入ると頭を下げる。流石のチャゴスも目を見張っている。

 静かに頭をあげると、アイシアはそのままレイフェリオの元へと歩いていく。

 

「レイ様、先程はありがとうございました」

「……いや、礼を言うのは俺の方だ」

 

 アイシアが声をかけたことで、レイフェリオは目を開きアイシアを見た。後ろに控えているリリーナに目配せをすると、アイシアは席へと座る。

 前を見ればチャゴスがいたためが、アイシアは再び頭を下げた。

 

「チャゴス王子もお久しぶりでございます」

「そうですね。いや、貴女も運が良かったです。レイも丁度戻られたということで、お互い婚約者に会えて嬉しいでしょう。今宵はゆっくりと語られるといいですね」

「お気遣いありがとうございます。私もとても嬉しく思っております。ですが、既にレイフェリオ様にもお心を砕いていただいておりますゆえ、これ以上の我が儘は言えません」

「なに、貴女の気が休まるならば喜ばしいことですから、我が儘何てものではありませんよ。望むことをおねだりしてはどうですか?」

 

 アイシアに対する態度と口調がまるっきり変わっていることに、ヤンガスたちは驚きを隠せないでいた。

 

「……この王子、何なんだ」

「黙ってなさいよ、聞こえるわよ」

「……」

 

 思わず声を呟いたヤンガスの声は、仲間にしか聞こえていないようだった。あまりの変わりっぷりに呆れも含んでいる。対してククールは黙ったまま様子を伺っている。

 

「私の望みはレイフェリオ様のお側にいることですので、今これ以上の望みはありません。既に十分なのです」

「全く……流石は巫女姫ですね。でも────―」

「いい加減にしろ、チャゴス。アイシアに無礼だろ」

 

 まだ何かを告げようとしたチャゴスをレイフェリオが止めた。

 特に表情を変えることなく淡々と告げた言葉は、一瞬で周囲を沈黙させる。横槍が入るとは思っていなかったようで、チャゴスも目を見開いていた。

 更に募ることもなく、レイフェリオは目の前に用意された紅茶に口をつける。アイシアでさえも、その行動にじっとレイフェリオを見ているだけだった。

 

 沈黙を破ったのはゼシカだ。

 

「ねぇ、レイフェリオ。私たちには紹介してくれないの?」

「……そうだったな」

 

 レイフェリオを立ち上がりアイシアの隣に立つ。アイシアは促されるままゼシカたちの方へと向き直った。

 本来ならばゼシカたちから催促するのは好ましくない。しかし、状況的にそうなったことに異論は出なかった。

 

「彼女がアイシア・クリフォート。現法皇の孫に当たり、俺の婚約者でもある。アイシア、彼らは旅の途中で

 会った仲間たち。ゼシカ・アルバート、ククール、ヤンガスだ」

 

 視線を移動しながら各々を紹介すると、アイシアが裾を持ち上げ頭を下げた。

 

「アイシアと申します。皆様、どうか宜しくお願いしますね」

 

 

 その後、クラビウスが合流し、晩餐が始まった。

 

 食事中ではクラビウスが話を振り、アイシアと和やかに話をしている他、旅の話をゼシカやククール達としていた。ヤンガスはボロが出そうなので、極力黙っていた。

 主にククールの指図である。普段の食事と違い静かにする食事は、元盗賊であったヤンガスにとって苦行以外の何物でもなく、満足に食べることも出来ないでいたのだが、それも兄貴と慕うレイフェリオのためとなれば、ヤンガスには従う他なかった。

 一方のレイフェリオは、たまに相づちを打つ程度であまり会話をしていなかった。

 

 そんな食事も終わりを迎え、チャゴス、そしてアイシアは先に席を立ち、残されたのはレイフェリオたちとクラビウスとなった。

 

「さて……それではレイフェリオ、お前の話を聞こうか」

「?」

 

 突然クラビウスから切り出されたことに、レイフェリオは驚いた。

 確かに話があるとは言っていたが、ここで出されるとは思っていなかったのだ。ヤンガス、ゼシカ、ククールがいるこの空間で。

 

「不思議か?」

「……いえ。やはり俺が話す内容に検討がついていたんですね」

「アイシア嬢の話を聞いていたからな。それがなければ……いや、お前が旅の仲間と共に戻ってきたことを考えればそれ以外にはないだろう。だが、お前の口から直接聞かねば、私も答えようがない」

 

 クラビウスが既にレイフェリオから話される内容について、答えを用意しているということなのだろう。それでも、レイフェリオが言わなければ話は進まない。

 アイシアの名を出した時点で、何が答えとして返ってくるのかがわかっていても、だ。

 

「……叔父上が考えている通りです。俺は……まだ旅を続けたいと思っています。それも、世界を周る旅ではなく、ある男を倒すために。そして、世界の秩序を取り戻すためにです」

「大きく出たな……そのある男とは、ギャリングを襲った者のことか?」

「……はい。ギャリングさんは……亡くなりました。俺の……目の前で」

「そうか……」

 

 クラビウス自身は、ギャリングのことをよく思ってはいなかった。生前のエルトリオは親しかったが、チャゴスがカジノに出入りするようになってからは、ベルガラックについて話をすることさえ嫌がったほどだ。

 それでもギャリングとレイフェリオが親しかったことはわかっている。ギャリングの死に、レイフェリオが己を責めているだろうことにも気が付いているだろう。

 だが、クラビウスが下したものは、やはり王としての決断だった。

 

「ギャリングを倒すほどの手練れ、その男を追うか。それが世界に何か影響をもたらすというのか?」

「……魔物が狂暴化していることはご存じでしょう。ギャリングさんが狙われたのも、オディロ院長や他の方々が狙われたのも、何か意図的なものを感じます。その人物でなければいけなかった何かがあったはずです。俺はそれが知りたい。……知らなければいけないと思うのです」

「知りたいのなら、調査団を派遣すればいい。お前自身が行動を起こす必要はない」

「調査団では、返り討ちに遭うだけです」

「……お前はこの国の王太子。世継ぎだ。それを理解して言っているのだろうな?」

「……わかっています」

「チャゴスがいることに、可能性を預けているわけではない、と断言できるか?」

「それは……」

 

 レイフェリオが世継ぎの王子なのは周知の事実だ。だが、サザンビークにはチャゴスがいる。万が一、レイフェリオに何かがあっても、王家が途絶えることはない。そのことを全く考えていないと断言できるレイフェリオではなかった。

 押し付けようと思っているわけではないが、レイフェリオには即座に否定できるほどの確固たるものはない。

 

「だろうな。……いつもどこかでお前は考えている。代わりはいると……。だから旅に出るなどと戯言を言うことができるのだ」

「叔父上、俺は──────」

「私に、これ以上家族を失わせるな、レイ。世界に何かが起り始めているのは私も感じている。だが、それを行うのはお前である必要はないのだ。よく考えろ」

「……王家であるからこそ、俺が行くべきだと思います」

「……レイフェリオ」

「いずれ気が付く時が来ます。人々がそれを知った時、それを護るべく王家の者たちがただ人任せにしているというのは、無責任ではないですか?」

「レイっ」

 

 クラビウスも声を荒げるが、レイフェリオは止めない。ここでやめるわけにはいかないのだ。

 そうすれば、ドルマゲスを追うことも、仇を討つこともできない。

 

「各国の王家で、戦えるのは俺だけです。俺は世界を見てきました。アスカンタ王国、トロデ―ン国、共に率先して動くことは難しいです。王家の人間で王子がおり、尚且つ戦闘経験があるのは俺しかいません」

「……」

「何かが起っている。それを人々に知られてからでは遅いのです。あの男が何をするつもりなのか。どんな理由でギャリングさんたちを襲っていたのかを知る必要があります。これ以上犠牲が増えてしまう前に」

 

 レイフェリオが言っていることは正論だ。間違ってはいない。

 実際問題、何かが起きているとまでわかってはいないが、魔物は狂暴化し、船の定期船は滞り商品の流通にも影響が出始めている。

 トロデ―ン国との使者のやり取りも止まっていることは、クラビウスも知っていた。

 それが呪いの所為だとは無論知らないが、やり取りが滞っているならばその原因を突き止め、排除しなければいけない。

 人々が外を歩くことも困難となってきている中、サザンビークの王子が動いていると知れば、称賛されるだろう。

 クラビウスもわからないわけではない。しかし、それでも……。

 

「私は認めるわけにはいかないのだよ、レイ」

「叔父上……」

「兄上を失った時に誓ったのだ。お前は私が護ると。確かにお前の力は認めている。その強さも国では唯一だと。ならばと旅をすることは認めた。しかし……これ以上は、危険すぎる」

「……」

 

 家族愛が強い王。一部始終を聞いていたヤンガスたちは、口を挟むことはできなかった。

 このままでは押し通されてしまう。ヤンガスは勿論、ゼシカも俯いてしまっていた。

 そんな中、ククールは一人静かに立ち上がった。

 

「? ククール?」

「クラビウス王、一言言わせていただきます。貴方はレイフェリオを護ってはいませんよ。レイフェリオを護っているのは、レイフェリオ自身です。貴方の言っていることは護るではなく、籠に囲っているだけです」

「ちょっ、ククール!? 何を言っているのよ!!?」

「そ、そうだぜ!!」

 

 慌てて止めようとするゼシカとヤンガスだが、ククールは構わずに続ける。

 

「俺は親は死んでいるし、そのあとはオディロ院長が護ってくれていた。知識、武道、色々なことを教えてくれた。悪意を受けたことも多かった。善意に甘えることもあった。だが、あの人は最後の最後まで俺が助けを求めるまでは見守っていることが多かったよ。まぁお節介も多かったんだがな」

「ククール……」

「あんたはレイフェリオの親代わりみたいなもんなんだろ? ならどうして見守るってことをしないんだ? それは同時に信用していないってことじゃないか?」

 

 ククールの口調が普段通りに戻っていた。王に対する態度ではない。だが、そうせざるを得ないほどにククールは憤っていた。

 

 

 

 ククールとてあの両親が親でなければどんなに良かったかと、何度思ったかしれない。親のせいで、陰口をたたかれ、マルチェロにも否定された。

 生まれは誰にも選べない。どんなに理不尽なものでも、受け入れて進まなければいけない。

 ククールは半ば諦めていた。オディロ院長がいれば、わかってくれる人がそばにいてくれるならばそれだけでよかった。

 

 オディロ院長は亡くなったが、幸か不幸かいまのククールにはレイフェリオたちがいた。

 己をそのまま見てくれる仲間が。

 修道院では誰もがククールを両親のフィルターを通してしか見ていなかった。だから、ククール自身を見てくれる彼らの存在はククールにとって初めてできた居場所でもある。

 

 生まれたときから重責を担い、型にはめられた人生を過ごさなければいけない王族というものは面倒で、関わりたくない相手だった。

 レイフェリオと出会うまでは。

 城に戻ってからというもの、どこか不安定でいるその様は歪に見えている。王子という誰もが羨む地位に居ながらも、どこかでそれを否定しているようにククールには映っていた。

 そうして今までの会話でわかったことがある。クラビウスもレイフェリオを兄の息子としてしか見ていなかったのだ。

 

 レイフェリオの意志よりも、兄の息子という形を選んだクラビウスに腹が立った。望んで息子に生まれたわけじゃない。いつまで親の影に居させるつもりなんだと。

 

 

 

「大切なら信用しろよ。子どもは親の影じゃないぜ」

「……なかなか言うな」

 

 痛いところを突かれたのか、クラビウスも苦笑している。

 

「だが、何と言われようとも私は認めない」

「頑固な王だな」

「レイフェリオを信頼している。だからこそ、世継ぎとしたのだ」

「跡を継ぐだけが信頼の証じゃないと思うぜ?」

「本当に口が回る男だ……」

「お褒め頂きどうも」

「……そこまで言うのなら、お前たちの力を見せてもらおうか」

「へぇ、どうやって?」

「お前たちもレイと共にいくつもりなのだろう? なれば、その力を示してもらおうと言っている」

「叔父上!?」

 

 話が別な方向に行ってしまったことに、レイフェリオは思わず立ち上がる。ククールたちが無関係でないのは確かだが、許可が必要なのはレイフェリオなのだ。

 

「……明日、王家の山に行け」

「王家の山?」

「叔父上、まさかチャゴスの儀式、を?」

「そのまさかだ」

「形式を破るつもりですか?」

「……お前も知っているだろう? あれが一人でできると思うか?」

「……」

 

 黙るレイフェリオが肯定を示している。

 サザンビーク王家が所有する山。そこは古くから王族の成人への試練として使われている場所だった。

 王族の男児は、己の力のみをもって、アルゴリザードというドラゴンを倒し、アルゴンハートを手に入れてくるというものだ。

 

「レイフェリオは儀式を終えているの?」

「俺は、五年前に終えている。早ければ15歳前後で儀式に挑むはずだが、チャゴスはまだ終えることができていないんだ」

「……この前は何とか王家の山まで行かせることに成功したんだがな、逃げ帰ってしまったんだ。このままだと王族として示しが付かない。何とか今年中にやらなければ、トロデ―ンとの婚約話にも影響がでる」

「あー……」

 

 正直、流れてもいいのではと一瞬思ってしまった一同だったが、誰も口にはしなかった。

 大のトカゲ嫌いであるチャゴスを山に連れていくだけでも大変で、本来ならば一人で行くべきところを兵士をつけて行っているらしい。でなければ、部屋からも出てこないというのだ。

 この話には、レイフェリオも呆れてしまった。

 

「……姫のためにはここで失敗したほうがいい気がしてきた。本気で……」

「ん? レイフェリオ、何か言ったか?」

「……いえ、何も」

 

 後々、ミーティアが絶対に苦労する未来が見えた。この問題は、いずれ考える必要がありそうだ。

 そこはひとまず置いておき、クラビウスは話を進める。

 

「表向きチャゴスは一人で行ったことにして、外で合流してもらおう。そのまま護衛として王家の山へ行き、アルゴンハートを手に入れてきてほしいのだ。無論、チャゴスに傷一つつけんようにな」

「傷一つ、か」

「それができないのならば、旅は許可できない」

「逆に言えば、それができれば許可するってことかい?」

「……認めよう。お主らにそれだけの力量があるのならば、な」

「そうかよ。ゼシカ、ヤンガス、それでいいか?」

「構わないわ」

「当然だぜ!」

 

 三人がチャゴスと共に王家の山に行っている間は、レイフェリオは城で待機ということになった。

 あのチャゴスと三人、そしてトロデと姫が一緒になることで何が起きるのか、レイフェリオは頭を抱えた。

 

 

 




沢山の感想と評価、ブックマークありがとうございます。とても励みになっております。
次回はいよいよチャゴスの出番です。
なのですが、諸事情のため次回の更新は来週とさせてください。
楽しみにしていただいている中申し訳ありません。また5月28日に更新を再開しますので、どうぞ宜しくお願いします。


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