オリジナルルートです。オリキャラ、オリジナル設定も沢山でます。
ヤンガスたちと別れ、人に会わないように注意しながらレイフェリオは城へと近づく。
兵士もその姿に気がついたのだろう、慌てて走り寄ってくる。
「で、殿下!!! お戻りになられたのですか!?」
「よくご無事で……お帰りを待っておりました」
「……ありがとう。息災のようで何よりだ」
「殿下……あ、あの、殿下がお戻りならちょうどよかったということなのでしょうが……」
「どうかしたのか?」
妙に歯切れの悪い言い方に、レイフェリオも首を傾げる。隣の兵士がその疑問に答えてくれた。
「……アイシア様がお見えになられているのです」
「!? ……そうか。わかった。知らせてくれてありがとう」
「い、いえ!!」
簡単に礼と告げると、レイフェリオは城内へと入っていった。道すがら出会う人たちに歓迎の言葉を無事を安心する気持ちを告げられ、流石に疲れてきたレイフェリオだったが、そのまままっすぐに謁見室へと向かった。
「レ、レイフェリオ様っ!!」
「ご苦労様。叔父上は?」
「は、はい! 中にいらっしゃいます!」
許可を得て、レイフェリオは重厚な扉に手を掛ける。扉が開くと玉座の間に、グラビウス王が座っていた。
音に気が付き、こちらを向くと目を見開き立ち上がる。
「レイ? レイなのか?」
「……ただいま戻りました、叔父上」
中に一歩を踏み出し、礼を取る。玉座からレイフェリオへと近づいてくるクラビウスに、レイフェリオも前へと進む。
中央で視線が絡むと、クラビウスはレイフェリオの頭に手を乗せた。
「叔父上?」
「よく……よく無事で戻った」
「……ご心配をおかけして申し訳ありません」
「無事で戻ってきてくれたのだ。それだけで満足だ。今夜は祝いだな。大臣、宴の準備を!」
「かしこまりました」
「そうだ、レイ。アイシア嬢がみえている。今はテラスにいるはずだ。無事な姿を見せてあげなさい。大層心配をしていた」
「……わかりました。……叔父上、実はお話があるのです」
「……話はあとで聞こう。だが、今は休む時だ。わかったな」
「はい……」
クラビウスという人間は王としての責務を果たしている時は、滅多に笑みを見せない。だが、家族と関わっているときだけは、表情が崩れるという人物だった。
そんなクラビウスがレイフェリオを見ながら微笑むのを、家臣たちは暖かな目で見守っているだけだった。
大臣たちと言葉を交わすと、レイフェリオはテラスへと向かった。
外から吹く風がレイフェリオの頬を撫でる。
「……アイシア」
「えっ? ……」
風に深い蒼色の長い髪を長引かせながら女性が立っていた。レイフェリオに気が付くと、目を見開き涙を浮かべる。
「レ……レイさま、なのですか?」
「……久しぶり、だな。アイシア」
「レイ様!!!」
そのままレイフェリオへと抱き付く少女。彼女こそ、レイフェリオの婚約者であり法皇の孫娘、アイシア嬢だった。
飛び込んでくるその身体を抱きとめる。旅の服装であり、きれいな身ではないため、レイフェリオは肩を抱き優しくアイシアを引き離す。
「いつ戻ってこられたのですか?」
「さっきだ。叔父上から、君がここにいると聞いたからな。君はどうしてサザンビークに?」
「……夢を見ました」
「夢?」
「……レイ様が……お倒れになる夢です」
「……そうか」
「居ても立っても居られず、押しかけてしまったのです。勿論、旅に出ておられることは承知しておりました。会えないとわかっていても、どうにかお近くに居たかったのです」
「……心配をかけたんだな。すまなかった」
「い、いえ! 私が勝手に……勝手に心配をしてしまっただけです」
涙を浮かべながら必死に話をするその姿は、美しいものだった。ミーティア姫に勝るとも劣らない気品も持っている。
そして、幼き頃よりまっすぐにレイフェリオを慕ってくれている。
しかし未だ、レイフェリオ自身はその想いに応えることはできてはいなかった。
レイフェリオの想いを知らないアイシアは、まるで城へ引き留めるように服の袖を掴む。
「あの……レイ様はもうどこにも行かれないのですよね?」
「アイシア……?」
「あの夢が忘れられないのです。闇が深い場所で、強い怨嗟の念を感じました。私は巫女でもあります。ですから……」
「巫女の見る夢はお告げでもある、か」
「はい……」
「その事を知っているのは?」
「お祖父様と、クラビウス陛下です」
「……叔父上もか」
思わず額に手を当てる。巫女の夢見の力は、クラビウスもよく知っている。恐らく再び旅に出ると言えば、止められるのは必至だ。
どう切り出すべきか。言葉を間違えば、説得は難しくなる。
「ここにいらしたのですか、殿下」
「ナン? 何か用でもあったか?」
「用ですか……ええありますよ、殿下。まさか、その格好のままでいるおつもりではないですよね?」
振り替えるとそこには腰に手を当てているメイド姿の女性。笑みを浮かべてはいるようだが、随分とご立腹のようだ。
「あ、ああ。それは勿論」
「では、直ぐに自室へお戻りください。侍女たちが首を長くして待っております」
「……」
「で・ん・か」
「わかった……すまない、アイシア」
「い、いえ、私はもう大丈夫でございます。私こそお引き留めをして申し訳ありませんでした」
掴んでいた袖を離し丁寧に頭を下げるアイシアに苦笑しながら、レイフェリオは城内へと戻っていった。
「アイシア様、それでは私も失礼しますね。ご夕食は殿下もご一緒されるかと思いますので、楽しみにしていてください」
「ありがとうございます、ナンシーさん」
「いえ。それでは」
ナンシーと呼ばれた侍女もレイフェリオの後を追い城内へと入っていった。
残されたアイシアは、再びテラスの端から空を見上げた。
「……ご無事で本当に良かった」
法皇の希望とアイシアの事情を含めて、サザンビーク国と法皇が互いの利益を考慮して決められた政略婚約だが、アイシアは純粋に喜んでいた。レイフェリオが同じ想いでないことは、アイシアもわかっている。
レイフェリオはいつもどこか一歩引いたように接するからだ。
何かに悩んでいるのか、それとも……。
「……何か私もお力になれることがあればいいのですが……」
アイシアの呟きは誰にも聞かれることはなかった。
★ ☆ ★ ☆
自室に着くと当たり前だがノックもせずに入る。
「「お帰りなさいませ、殿下」」
「……た、ただいま」
そこにはナンシーが言っていた通り二人の侍女が中で待っていた。その手にはタオルと服が用意されている。
若干その威圧感に足が引いてしまったのは、本能だろう。
「えーと、イアンにベルネラも、その手に持っているのは……」
「お察しの通りです。しっかりと汗を流して差し上げます!」
「さぁ、行きましょう」
「俺は別に拭くだけでも──―」
構わないという言葉は、無言の圧力のもとに粉砕された。
女官長であるナンシー、そしてレイフェリオ付きの侍女であるイアンとベルネラは、レイフェリオが幼少の頃から世話をしていた。
戻ってきたことを兵士より聞き、クラビウスの命令により再びレイフェリオの世話をするために、準備をしていたのだ。
旅の間の汚れを落とし、城内での服へと着替えると、漸くレイフェリオは自室で一人になることができた。
久しく腕を通してなかった服は、それでも体に馴染む。鍛錬などで動くことの多いレイフェリオの服は、クラビウスや従弟のチャゴスのものとは違い、騎士服に近いものとなっている。
トレードマークのように着けていたバンダナが外され、代わりに銀色の金属を束にするように創られた額当てをしていた。その中央にはサザンビークの紋章が彫られている。
「……久しぶりに着けると重く感じるな」
「キュー?」
「トーポ……お前も洗われたのか?」
「キュッ!」
「……良かったな」
「キュッキュッ」
嬉しいそうに鳴くトーポに、レイフェリオも漸く笑みを浮かべた。
「……皆はどうしているだろうか」
「キュッ?」
「少し出てくる。お前はどうする?」
「キュッキュー」
行くというように、レイフェリオの肩に乗る。定位置でもあったマントの肩飾りに座った。
旅に出る前はこうして歩くのが当たり前だった。入り込むポケットがあるにはあるが、この位置の方がトーポは周りが見えるのでお気に入りのようだ。
部屋を出て城内の回廊を歩いていると、兵士とすれ違う。頭を下げる前にレイフェリオを見たその表情には、畏れがあり、微かだが震えているのがわかる。レイフェリオは何も言わず、そのまま通り過ぎた。
サザンピークには魔法と剣の双方の部隊がある。その中の一部ではあるが、レイフェリオを畏れ恐怖している者たちがいた。慣れたものだと思っていたが、久方ぶりの反応に思わず身構えてしまったのは仕方ないだろう。
「キュ」
「……平気だ。いつものことだしな」
「何がいつものことなんですか、殿下」
柱の陰からひょいと現れたのは、青を基調とした騎士服に身を包んだ青年だった。
青は剣を主流とした部隊に所属している幹部が身に着けるものだ。それだけで、青年がかなりの地位にいることがわかる。
「シェルト」
「また、あいつらですか? 全く、仮にも殿下に対する態度ではないでしょうに」
「……それが本能だ。仕方ないだろう」
「それでもですよ。で、どこに行かれるんで? まさか、外に行くとかではないでしょうね?」
「町にここまで共に来た仲間がいる。探しに行くだけだ」
「なら俺も一緒に行きますよ。貴方一人じゃ、目立ちますからね」
「……勝手にしろ」
シェルトはレイフェリオよりも二つ年上の幼馴染のような存在だ。旅に出ると言った時も同行すると言って聞かず、最後まで反対をしていたのもシェルトだった。
「んじゃ、勝手にします」
恐らくレイフェリオが何を言おうともついてくることに変わりはなかったのだと思う。実際、一人よりも誰かがいたほうが助かることもある。それが城下町であってもだ。
「最近は、物騒になってきたんで、門も閉じたままなんですよ」
「あぁ。来るときもそうだったな」
「盗賊が出るって噂もありますしね。陛下も警戒をしているようです」
盗賊の噂は恐らくベルガラックのものだろう。ギャリングが手練れだということはクラビウスも知っている。警戒するのも無理はない。
「そういえば、あのバカ王子には会いました?」
「……お前」
「俺だけが言っている訳じゃないですよ。別に陛下に聞かれるわけじゃありませんからね」
「……チャゴスには会ってない。あいつも会いたがらないだろう」
「ひねくれているだけだと思いますがね」
「さあな……」
階段をおり、入り口を兵士に開けてもらうと、二人は町へと出た。
まだチャゴスは出てきませんでしたね。
服もお着換えしたので、旅人の服の主人公の姿ではなくなりました。
騎士服にマントです。想像しにくかったらすみません。
そして、オリキャラのヒロインも登場しました。